家族は悲しみにはあったが、お父さんが発見された安堵感でだいぶ落ち着いていた。
少し笑顔が取り戻せた。
僕は第一発見者としての責任を果たすべく、警察署に事情徴収でかなりの時間を拘束された。
お父さんはまだ、病院に搬送されたままだった。
そんなお父さんは結局一度も家に戻れないまま、お葬式を迎えてしまった。斎場に入る時に表に立ててある
『橋本和寛』
という文字を見て、誰もが予想できないそのお父さんの生涯の短さに涙した。
お父さんを惜しんで本当にたくさんの人々が駆けつけてくれた。
陽なた家ファミリーも社員総出で参列してくれた。
お葬式にはお父さんが描いた絵が並ぶ。
みんなが涙し、
みんながお父さんは本当に素敵な方だったと言った
お父さんが生きてきた証と人生の背中を垣間見るようだった。
僕もお父さんのような愛される生き方を選んでいきたい。
純粋にそう思えた。
たくさんの思い出を残し、最後まで家族を大切にしたお父さん。
この1、2年で娘二人が結婚し、二人の孫にも出会えた。この二人が生まれる前に毎日あらゆる神社をたずね、安産祈願をしてくれた。『参拝した神社リスト』を一度見せてもらった事があるが、あまりの数にびっくりした。仏さまや神様のご加護のもと、優奈と結月はこの世に誕生した。そう考えたら、とてつもない形見をいただいた。
最後に残してくれたかけがいのないものだ。
そしてお父さんがいなくなる一週間ほど前に、たまたまラーメン屋で家族のみでの営業をした事があったらしく、その日に限ってお客さんが全然入ってこなかった。
お父さんにお母さん、息子に娘二人、そして孫二人
家族がたまたま全員揃い、ラーメン屋でまさかの最後の一家団欒を過ごした。あまりにもお客が来ないので、
「こんな日がたまにはあってもいいよね~」と笑い合ったという。
今から考えると、きっと神様からの最後のプレゼントだったのかもしれない。いや、きっとそうだ。
もともとロマンチストのお父さん。
残した詩集で本が何冊にもなりそうだった。
お母さんに数えきれないほどのラブレターも送ったらしい。
こんな幸せいっぱいの夫婦に実は少し危機が訪れたことがあった。
詳しく聞いた事は無いが些細なことがきっかけで、結婚以来最大の夫婦喧嘩をしたらしい。そのことでお互いが口も聞かない数日もあったが、仲直りしようとお父さんは少し早い結婚記念パーティーを企画した。
場所は陽なた家。その年の三月。亡くなる8ヶ月前の事。
その時にお父さんはお母さんにラブレターを贈ったらしい。
内容はお母さんが照れて秘密だった。
しかし、
その内容はお葬式の時に公表される事になる。
それがお父さんの最後のラブレターでもあり、
お父さんの遺書になってしまった。
まり子へ
君との出会いがあって、この家族がある。
そのことをつい忘れてしまっている。
嫁いで30年、よくぞわがままで、がんこな私を見捨てずに、ついてきてくれたことを感謝しています。いつも心のなかではありがとう、何もしてやれなくてすまないと思ってきました。素直に愛してるとか、ありがとうと言えない自分がほんとうは恥ずかしいんです。つい気持ちとは裏腹なことを言って後悔しています。これからは新しい家族ができるので、素直になれるように、今日から努力します。これからもよろしくおねがいします。 かずひろ
会場は涙で包まれた。
棺が閉められる時がきた。
家族はお父さんに最後のメッセージを各々が伝えていた。
明日香も涙を溜めて必死に伝えていた
「お父さん、私を生んでくれてありがとう。
育ててくれてありがとう。
お父さん、生まれて来てくれて、ありがとう。またね。」
お父さんは安心して、旅立てたと思う。
これからは天国からいつでも、いつまでも僕たちを見守っててくれると思った。
寂しさは残るし、もう少しお父さんから学びたい事もあった。欲を言えば、孫たちの記憶に残るまでは生きててほしかった。
明日香を僕に預けてくれた感謝と恩を返したかったけど、
これからは命をまたつなげて行く事とこれからの志の実践で返していくと心に誓った。
お父さんが作ったラーメンを最後に食べたのは、11月14日。
とある歴史の講演会にいくため福岡に行く道中でバサラカに寄った。店を出る時にお父さんに言われたのは、
「ありがとうございます」だった。
これが僕の聞いたお父さんの最後の声。
遺言になってしまった。
僕もしっかり、もっとしっかりあの時ありがとうと言えれば良かったのにと後悔の念がつきない。
「今」を生きるという事がどれほど難しい事かを知った。
同時に、お父さんがどうしても生きたかった今日という毎日を大切にしていきたい。そう強く思う。
お父さん、もう一度会ってお礼を言いたい。
今、千の風に伝えたい。
命をつないでくれて本当にありがとうございました。
つないでもらったこの命はしっかり次の時代へ渡して行きます。
一生懸命働きます。男として命を使い切ります。
いつかほめてもらえる日まで。
いつかそちらにいって会える日まで・・・。


