陽なた家きょうすけのブロブ -3ページ目

陽なた家きょうすけのブロブ

南部京介の「旅の途中」日記!

お父さんが見つかった夜。

家族は悲しみにはあったが、お父さんが発見された安堵感でだいぶ落ち着いていた。

少し笑顔が取り戻せた。

僕は第一発見者としての責任を果たすべく、警察署に事情徴収でかなりの時間を拘束された。

お父さんはまだ、病院に搬送されたままだった。

そんなお父さんは結局一度も家に戻れないまま、お葬式を迎えてしまった。斎場に入る時に表に立ててある

『橋本和寛』

という文字を見て、誰もが予想できないそのお父さんの生涯の短さに涙した。

お父さんを惜しんで本当にたくさんの人々が駆けつけてくれた。

陽なた家ファミリーも社員総出で参列してくれた。

お葬式にはお父さんが描いた絵が並ぶ。

みんなが涙し、
みんながお父さんは本当に素敵な方だったと言った
お父さんが生きてきた証と人生の背中を垣間見るようだった。
僕もお父さんのような愛される生き方を選んでいきたい。
純粋にそう思えた。

たくさんの思い出を残し、最後まで家族を大切にしたお父さん。

この1、2年で娘二人が結婚し、二人の孫にも出会えた。この二人が生まれる前に毎日あらゆる神社をたずね、安産祈願をしてくれた。『参拝した神社リスト』を一度見せてもらった事があるが、あまりの数にびっくりした。仏さまや神様のご加護のもと、優奈と結月はこの世に誕生した。そう考えたら、とてつもない形見をいただいた。
最後に残してくれたかけがいのないものだ。

そしてお父さんがいなくなる一週間ほど前に、たまたまラーメン屋で家族のみでの営業をした事があったらしく、その日に限ってお客さんが全然入ってこなかった。
お父さんにお母さん、息子に娘二人、そして孫二人
家族がたまたま全員揃い、ラーメン屋でまさかの最後の一家団欒を過ごした。あまりにもお客が来ないので、
「こんな日がたまにはあってもいいよね~」と笑い合ったという。
今から考えると、きっと神様からの最後のプレゼントだったのかもしれない。いや、きっとそうだ。

もともとロマンチストのお父さん。
残した詩集で本が何冊にもなりそうだった。
お母さんに数えきれないほどのラブレターも送ったらしい。

こんな幸せいっぱいの夫婦に実は少し危機が訪れたことがあった。
詳しく聞いた事は無いが些細なことがきっかけで、結婚以来最大の夫婦喧嘩をしたらしい。そのことでお互いが口も聞かない数日もあったが、仲直りしようとお父さんは少し早い結婚記念パーティーを企画した。

場所は陽なた家。その年の三月。亡くなる8ヶ月前の事。

その時にお父さんはお母さんにラブレターを贈ったらしい。

内容はお母さんが照れて秘密だった。

しかし、

その内容はお葬式の時に公表される事になる。

それがお父さんの最後のラブレターでもあり、

お父さんの遺書になってしまった。

まり子へ
君との出会いがあって、この家族がある。
そのことをつい忘れてしまっている。
嫁いで30年、よくぞわがままで、がんこな私を見捨てずに、ついてきてくれたことを感謝しています。いつも心のなかではありがとう、何もしてやれなくてすまないと思ってきました。素直に愛してるとか、ありがとうと言えない自分がほんとうは恥ずかしいんです。つい気持ちとは裏腹なことを言って後悔しています。これからは新しい家族ができるので、素直になれるように、今日から努力します。これからもよろしくおねがいします。     かずひろ


会場は涙で包まれた。


棺が閉められる時がきた。


家族はお父さんに最後のメッセージを各々が伝えていた。

明日香も涙を溜めて必死に伝えていた

「お父さん、私を生んでくれてありがとう。
 育ててくれてありがとう。
 お父さん、生まれて来てくれて、ありがとう。またね。」

お父さんは安心して、旅立てたと思う。
これからは天国からいつでも、いつまでも僕たちを見守っててくれると思った。

寂しさは残るし、もう少しお父さんから学びたい事もあった。欲を言えば、孫たちの記憶に残るまでは生きててほしかった。
明日香を僕に預けてくれた感謝と恩を返したかったけど、
これからは命をまたつなげて行く事とこれからの志の実践で返していくと心に誓った。

お父さんが作ったラーメンを最後に食べたのは、11月14日。
とある歴史の講演会にいくため福岡に行く道中でバサラカに寄った。店を出る時にお父さんに言われたのは、

「ありがとうございます」だった。

これが僕の聞いたお父さんの最後の声。

遺言になってしまった。

僕もしっかり、もっとしっかりあの時ありがとうと言えれば良かったのにと後悔の念がつきない。
「今」を生きるという事がどれほど難しい事かを知った。

同時に、お父さんがどうしても生きたかった今日という毎日を大切にしていきたい。そう強く思う。

お父さん、もう一度会ってお礼を言いたい。

今、千の風に伝えたい。


命をつないでくれて本当にありがとうございました。

つないでもらったこの命はしっかり次の時代へ渡して行きます。

一生懸命働きます。男として命を使い切ります。

いつかほめてもらえる日まで。

いつかそちらにいって会える日まで・・・。
$キョウスケのブログ
$キョウスケのブログ
「おとーさん!」


「・・・・」


もう一度呼んだ。

力一杯叫んだ

「お父さーん!!!」

声が山に
吸い取られるようだった。意識が少し飛びそうになる。

「うわーーーーーーーーーーーー」

涙が溢れた。返事がある分けなかった。最初にみた肌色は服がめくれて見えた背中だった。

「おとーーーーーさーーーーーん

うおーーーーーーーーーーーー」


今まで溜めてた何かがはじけた。

この時の感情は何となく説明がつきにくい。

いきなり目の前に突きつけられる事実と、走馬灯のように現れてくる失われた未来。

そして、恐怖。

こわかった。

僕は助けてほしかった。

山の静けさに心が押し殺されそうだった。

声を出さないと息が止まりそうだった。

一時泣き叫んだら、5メートル下にいるお父さんを救出するために、救助隊を呼ぼうと駐車場までむかった。僕一人での救出は到底無理だ。

向かいながら、また泣いていた。

「お父さん・・・、寒かったね。

 寂しかったよね。

 ごめんね。遅くなって。うわーん」

子供に戻ってしまったかのように泣いた。

「お父さん、ありがとう、ありがとう!俺を呼んでくれてありがとう」

何度もありがとうが出た。

歩きながら冷静をなんとか取り戻した。

早く家族に伝えないとという思いと、最初になんて言ったらいいのだろうという思いが交差する。

途中から走った。10分ぐらいで着いた。

最初にあったのは消防団の人だった。僕の顔をみるなり、様子が違うと思ったのか、じっと見つめて僕の第一声を待った。

僕は後ろの山を指差し、
「多分・・・、間違いないと思います」

その周辺の全員が振り返った。

「本当か!!?おったか?」

そのまま家族が待機していた車に向かった。

涙がまた溢れた。


本当は伝えたくなかった。


笑顔で伝えられる結果であってほしかった。

呼吸を整え、声を絞るようにように伝えた。

「お父さんがいた」

「え!!?お、お父さんがいたの?」

「いた」

「どうだったの?」

「・・・」

「だめだった?」

静かにうなずいた。

「お父さん!おとうさん!お父さんに会わせて!」
明日香は車から飛び出た。

そのまま消防団の方を数人連れて、お父さんの所まで案内した。明日香もついて来た。
「明日香、お前見ない方がいいかもよ」

「大丈夫、お父さんの最後をしっかり見届ける」

大丈夫なわけがなかった。絶対に後悔するのは目に見えた。それぐらい衝撃的な光景だった。でも見ない後悔の方が大きいかもしれないと思い、もう何も言わなかった。

10分くらいで現地に着いた。消防団の人から言われた。
「この場所、わしらが何回か通ったで。あんたよくここまでかき分けて進んだな~」

「お父さんはどこ?」

「落ちないように、しっかり俺に掴まっておけ」
ゆっくり進み、そっと下を見るように言った。

明日香とお父さんの再会。

五メートル下で、うつぶせに静かに浮かぶ父を見て明日香は泣き崩れる。

「お父さん・・・。なんで?なんで?うううう・・・・」

僕は明日香が砂防から落ちないように必死でコートを掴む。その後、家族が到着しお父さんの最後の姿を見届けた。

全員が泣き崩れ、何度も遠くのお父さんに叫んだ。
家族全員が三日間我慢したのだ。

「おとうさん!」と、お父さんに言うのを・・・。

それから一時間後ぐらいだろうか。すでに駐車場に僕たち家族は戻って来ており、引き上げられたお父さんが大きな袋に入って帰って来た。

そのまま救急車に入れられ、家族が続いて中に入った。僕はあえて外にいた。

お父さんがいなくなって三日目の昼。


家族とお父さんは再会した。


「うわーーーーーーーーーー」
「おとーーーさーーーーん」
「おとーーさーーーん!」

家族全員が叫んだ。

家族の声と悲しみで救急車が揺れるほどだった。
外で見守る100人の捜索隊。

全員が救急車に合掌と礼をしていた。

「お父さん!聞こえる!?返事して!」

お父さん

お父さん

何度も聞こえるこの声にみんなが涙した。

10分は経っただろうか?

家族の声はやむことはなかった。

思い出がたくさん交差する。

お父さん

ラーメンを10年間作り続けたお父さん

絵画が大好きで何枚もの景色を描いたお父さん

「鳥越玖朗(とりこしくろう)」というペンネームで詩を書き続けたお父さん

歴史が好きで、歴史クラブを作るほどのお父さん。しかも講演をするほどのすごさ。

いつも人助けをして、近所の人たちから大人気のお父さん

真面目で仕事に手を抜いた事はないお父さん

孫二人を愛してくれたお父さん

家族を最後まで愛し、守ってくれたお父さん

誰からも愛された

お父さん

救急車のなかで、最後の家族の時間を過ごした

12時を過ぎて、山は少し暖かくなってきていた。

その後、病院や警察で司法解剖をして完全に本人のみの事故だという事が判明した。足を滑らせて崖から落ちて頸椎を強打し、瞬間的に亡くなったということらしい。水も飲んでなかったので、溺れたわけでもない。
不幸中の幸いで、お父さんは苦しまずに死ねた。
崖の上で足をすべらせて土がえぐれた痕跡があり、その近くにボールペンがあったらしい。きっとそのボールペンを拾おうとしたにちがいない。

山を下りる時、僕はお父さんの軽トラを運転した。

お父さんが愛した求菩提山の景色を目に焼き付けた。


夕日が久しぶりに優しく微笑んだ
$キョウスケのブログ
【豊前警察署より撮影】
三日目の朝(2010年11月26日[土])


前日より人数が倍になり100人を超える消防団を含む捜索隊が動いていた。

前日手がかりが一つ見つかっていた。

それは、数日前にお父さんが資料館に訪れて求菩提山を調べていた事実があがった。よほどきれいな写真だったらしい。どうしても行きたいと相談したのが、その資料館の知り合いの館長さんだった。ただ、そこは素人では行けないほど危険な場所だからと、館長さんは断固止めたらしい。

「それでも行きたい」とお父さんも好奇心が止まらない性格なので、行くルートを手書きで書いていたようだ。

今日は捜索隊はその場所めがけて総動員したらしい。それは駐車場からはかなりの距離があるらしい。僕と明日香が捜索本部(駐車場)につく頃には既に出払っていた。と同時に僕がその場所へ単独で探しに行くのは無理になってしまった。

そもそも僕たちは今日、その捜索隊の方が戻って来た時の炊き出しの為に行っていた。しかし僕にとってはそれは山へ行く口実にしかなかった。捜索隊とは探す方向が違えど探す気満々だった。駐車場にはおじさんが一人、登山の準備をしていた。
「今から登山されるんですか」

「そうだよ」

「俺もついて行っていいですか」

「君のは登山用の靴じゃないから危険だからやめときなさい。山はとっても危ないよ。湿気で藻がとても滑りやすくなっているし、本当に危険だから」

「大丈夫です。俺、山は慣れているんで」
その時後ろから重たい視線を感じた。

明日香だった

「京介。早く炊き出し手伝って」

「ごめん。俺、今からおいちゃんと山登るんよ」

「いいから手伝って、話もあるから・・・」

しぶしぶ言う通りにした

(早くしないとおいちゃんが出てしまうのに・・・)


二人で歩いた。水が入ったポリタンクをもって近くにある民家風のレストランに行ってお湯を沸かしにいった。
行く道中と帰り道でかなりの言い合いになった。

「京介、今日は本当に行かないでね。お願いだから。」

僕はイライラしていた。

「あのな、今一番大事な事ってなんや。お父さんが見つかる事ちゃうんか。女は炊き出しでいいかもしれんけど、俺は男や!俺は炊き出しなんてせん。俺は探しに行く。」

「お父さんが山をすいすい行ったように、京介もすいすい行っちゃうでしょ。私本当に心配なんよ。お父さんの事だけでも心配なのに、似た人愛してしまった私も私やけど、もし京介に何かあったら、私はどうしたらいいん?これ以上の不安はもういやだ」

ここで止められたらなんか全部に負ける気がした。
そして言ってはいけない事を言ってしまった。

「そこまでいうなら今すぐ別れろ」

「・・・・」

もう僕もわけがわからなくなっていた。
言った瞬間、取り返しもないことをしたのかもしれないと、後悔した。

でも明日香や家族にとって一番の解決を考えると、するべき事は一つだった。僕の単独捜索なんて、確かに無力に等しいかもしれないけど、「ゼロ」では無いことを信じた。

明日香に諦めの表情が見えた。

「じゃあ、行ってくる。絶対大丈夫だから・・・。無理はせんようにする」

明日香を後にし、既に行ってしまった登山家のおじさんが行ったであろう登山路を追いかけるようにして一人登り始めた。



昨日に一度捜索隊の人から足止めされ、引き返した道だったが取りあえず登ってみた。

少し登って川が見えたところに山道から少しはずれた所に河川がみえて降りてみた。
岩がごつごつしていてお父さんが隙間に挟まっているかもしれないと思い
隙間を覗きながら河川を登ってみたが、いそうになかった。
それに河川は少し危なかった。
湿った草木や藻で足が滑りやすくなっており僕の履きつぶして裏がツルツルの靴ではなかなか前に進めなかった。
一旦山道にもどり少し登ってみる事にした。
途中小さなお社があったので、手を合わせた。
「山の神様、いつも山を見守っていただき本当にありがとうございます」
不思議と感謝の念が沸き、気持ちをリラックスさせてさらに山道へ進んだ。

山はとても空気が澄んでいた。天気も良く、聞こえるのは木々が揺れる音と川が流れる音。それ以外の音はほとんどなく本当に静かな空間だ。空気はとっても良かったけれど、静けさが時に恐くもあった。


  運命の時が近づいた。


歩きながら、明日香との会話を思い出していた。
僕とお父さんはやっぱりどっか似てるのだろう。行きたいと思ったら、何が何でも行くところや多少頑固なところ。山が好きなところ。道なき道を行くところ。
(それならお父さんになった気持ちで歩いてみよう)
そんな気持ちで歩いて行くと少し山道が開けた箇所があった。円になった場所で、さらに山道は上に続いて行く。
しかし、ここから河川に降りられるところがあるものかどうか、また少し山道からそれて、少し下る事にした。道なき道がどこにつながるかはわからない。草木を分けて、いばらに引っかかりながら降りた。

(さすがにお父さんはここまで来ないか)

そう思ったが草木の先に砂防が見えたので河川がある事がわかった。

(砂防をわたって向こう側へ行ってみようかな)

砂防まで来た。渡るには備え付けのはしごでおりて3メートル歩いた後、またはしごであがらなくてはならない。しかも滑り落ちたら5メートル下まで落下する事になる。砂防には藻がたくさん生えており、今回の山登りで初めて命の危険を感じた。

渡るのをやめた。

明日香の顔を思い出した。

引き返そうとして、砂防から落ちないよう木の枝に捕まりながらふと下をみた。

大きな水たまりがあった。砂防から流れた川の水のポケットみたいな所だ。

恐くてすぐ引き返そうと思ったが、残像に違和感が残ったのでもう一度見てみた。

水中に妙に目立つ肌色がある。

(ん?)

目が悪かった分、ぐーっと凝らした。

緊張感が体を走る

息をとめ、全神経を集中させた。

ゆっくり視点があってゆく。

リュックサックが隣で浮かんでいた。

耳がキーンとなり、鳥肌が全身を包んだ。



   間違いなかった



「おとーさん!」
11月26日、捜索二日目の朝が来た。

最初に向かったのは、実家だった。
お母さんと天平は既に現場に行っていた。家に居たのは、奈都子と結月だった。親戚からの連絡や訪問があるかもしれないから、家に誰かいないと行けないという事や、誰もが山では携帯電話が圏外になるので、受付役といったところだった。

少し時間が流れた。

する事がなさすぎる。
動かないのは性にあわない。
結局また山へ向かった。

理由はただ一つ。

「お父さんの近くにいたい。そして何らかのお手伝いをしたい」

長く感じる30分の山道を車でのぼった。

昨日とは少し様子が変わっていた。何台もの消防車があった。
何十人もの消防団に警察官、それに警察犬まで本部から派遣されていた。その姿に勢いづかれ、僕はまたしても単独で登山路を捜索にあたった。途中まで警察について行ったが、何となく集団捜索すると、ついて行く事に必死になったり、周りに気を使って動きづらくなりそうになり、逆に見つかりそうにない気がした。警察の方も
「これ以上の登山路は遠いし頂上までは2時間はかかるから、ここからは僕たちがみるよ」と言ってくれ、その場で引き返し、車付近の河川や山の中の道無き道をひっそりと探した。
二時間ぐらいは経過しただだろうか。
だいぶ体力を消耗し、さすがに心配されてるかもしれないと、いったん引き返した。

案の定、明日香はかなり心配していた。

「こんな時に、ダブルで心配かけないで。自分の感覚に任せてどんどん前に進むところはお父さんと京介は似ているんだからね」

「大丈夫だよ。俺小さい頃から山っ子だし、山の感覚はなれているから」

「そんなお父さんが今いなくなっちゃったんじゃない。お願いだから、本当にお願いだからこれ以上心配事を増やさないで。私どうしたらいいか・・・」

「・・・ごめん。」

「取りあえず、お父さんの携帯にGPS機能がついていたらしく、携帯電話ショップに行ったら、警察の許可で電波の最終履歴がわかるらしいから、一旦山を下りよう」

「わかった」

謝ったものの、自分がした行動には後悔はしてなかった。取りあえず、「涙負け」してしまった。

山を降りて一旦実家に戻ると親戚の方が来ていて、ある程度の事情を明日香や奈都子から話していた。
横で動きたい衝動を押さえていた僕だったが、横の会話で奈都子が涙ながらに言った一言に突き動かされた。

「早くお父さんに会いたい」

僕は立ち上がった。

「どうしたん?急に」

「茶菓子がいるやろ?コンビニに行ってくる」
そう言って山へ向かった


時間は午後二時頃。後二時間は探せる。
しかも今度は子供もいないし、もっとじっくり捜せる。
僕は山の道中見れるところ、怪しいところ、もしくは、お父さんが仮に徒歩で山を下りた時に立ち寄りそうなところを車から何度も降り、色んな箇所を寄りながら現場に向かった。
山の途中からは電波も圏外になり、いよいよ本格的に気合いが入った。この時間にかけた。

「仏さま、神様、お願いです。これでラストにしてください」

そんな気持ちであらゆるところを探した。

現場に到着してからも走るように探した。

焦っていた。
(お願いだから、家族の想いに応えてくれ!)

土を掘り、河川沿いに下り歩き、何度呼んでも応えてくれなかった。

駐車場にもどり、お母さんたちと合流。

「明日香が京ちゃんをさがしてるよ。車が無いと携帯ショップに行けないみたいだから一旦帰ってあげて」

努力は虚しく終わり、山を再度降りた。

家に着くと明日香と優奈のみだった。

明日香の表情は明らかに怒っていた。ぼくはそれをごまかすように明日香に聞いた。

「あれ?奈都子は?」

「携帯ショップに行った」

(やべ!俺、作戦的な強制送還だった)

そして静かに明日香は話し始めた

「なんで行ったん?あれだけ止めたやん」

「わりい、なんか行かずにはおれんやった」

「取りあえず車の鍵を返して」

(ハア・・・これで単独行動ができんくなってしまった・・・)


鍵を返して一息ついたら、次の瞬間とんでもない事が起きた。

車のエンジンがかかり、急に走り出した音が聞こえた。

(あいつ!もしかして!)

想像通り、明日香は現場へ向かったのだ。時間は夕暮れの16時。捜索が打ち切られる時間だ。

(死ぬきか!?)

何度も電話をしたがでない。残された僕と生後半年の優奈。お守りもろくにしたことないし、明日香に今から何ができる訳でもない。

明日香は精神が限界にきていた。


(絶対に引き返させねば!)
何度も電話したがらちがあかない。

考えたあげく、
あえてメールを打ってみた。

[俺も今から家でるから、あと優奈頼んだぞ。もう知らん]

(頼む!電話よ来い!)


そして2分後電話があった。

「京介、なんでそんなことするん?」

泣きながらの声だった。僕は理不尽にもキレて怒鳴った。

「お前、自分が何をしようとしてるのかわかってんのか?」

「だって・・・、だって・・・私だってお父さんのところに行きたい。なんでだめなん?京介だって勝手に行ったやん。なんで私はだめなん?私だって役にたちたいんよ。私だってジッとしてられないんよ。お父さんを早く見つけたいんよ。
お父さんに会いたいよ~~~~~!!」

電話の向こうで子供のように泣き叫ぶ明日香がいた。

その時、ちょうど捜索打ち切りの連絡が入った。

「取りあえず、帰ってこい」

こうして、一事をなんとか食い止めた。

明日香が帰ってくる間、さっきの電話のやり取りが聞こえたのか、隣に住む親戚のおばちゃんが心配になって駆けつけてくれた。

「どうしたの?なんかあった?」

このおばちゃんは優奈が泣くのをすぐ笑顔に変えられるプロフェッショナルだ。

「おばちゃん、すんませんが優奈を10分預かってもらえますか」

おばちゃんは快く引き受けてくれた。

そのまま僕は徒歩5分先にある、橋本家のお墓に一人で行った。

「橋本家のご先祖様。どうか力かしてください。いつか必ず、必ずお返しします。これ以上橋本家を悲しませたくない。どんな結果であろうと、取りあえず、お父さんを家族のもとへ返してください」

必死で祈った。

実家に戻ると明日香が帰って来てた。

明日香はもうぼろぼろだった。

「明日絶対見つかる。」
(ですよね?ご先祖さま)
僕は明日香をぐっと抱きしめる事しかできなかった。
夕暮れが切ない。明るいうちはまだ「希望」をなんとか握りしめる事ができるが、暗くなってしまうと、向き合うのは「悲しさ」のみになってしまう。
どうすることもできないまま、太陽をまた奪われてしまった。


また無情の夜が来た。

家族はそれぞれの家へもどり、みんな泣いていた。どうしようもない夜は恐怖のどん底だった。


お父さん 今頃どうしていますか?


お父さん 同じ夜空をみているんだろうか?


お父さん 明日は絶対みつけるからね


家族はみんなそう思ったいた。お母さんはお風呂にも入らず、布団にもはいらない数日を過ごしていた。


各々の想いを胸に、三回目の夜が過ぎた。

いつの間にか僕が捜されていた。

それもそのはず。

天平を除くその他の家族の全員の携帯の電波が届かなかったので、単独での捜索は明日香からひどく反対された。

夕方になってしまった。

僕たちは消防団に捜索してもらえるように依頼をしに市役所に向かうようお母さんから言われ、山を下りた。

依頼が済んだ頃、この日の捜索はタイムオーバーで打ち切りとなった。日が沈んでしまい、夜が来た。

一旦実家に戻り、それから天平とバサラカラーメンへ向かった。
ラーメンのスープに一度火を通しておかないと、スープが駄目になってしまうからだ。

お父さんが帰って来たら、またラーメン屋を再開させないといけない。

スープに火が通るまで約2時間。お父さんはいつも営業開始のの二時間前には来てスープを温めていた。朝から夜遅くまで働くお父さん。本当に男の鏡だ。

せっかくなので温まったスープで天平とラーメンを作って食べる事にした。
考えたくなかったが、もしかしたらこれが最後になるかもしれないと思った。
二人でラーメンをすする。

天平が泣き出した。
「お父さん、どうしていなくなっちゃったの?」

僕も泣けて来た。

(お父さん!早く出て来て、またみんなのこのラーメンを作ってください)
そんな気持ちでいっぱいになり、帰宅した。

お父さんがいなくなって二回目の夜。僕と明日香にとっては最初の夜。

「今頃,お父さんはどうしてるだろう」

そう考えるだけで、胸がはち切れそうになる。

今頃助けをどこかで求めて待っているかもしれない。

寒さに凍え、細くなった命を懸命にのばし耐えているのかもしれない。
そう考えるだけで、家にいるだけでもつらくなる。むしろ、家にいる事が逆にとんでもなく苦しい。
沈黙が続く。
こんな時に優奈が泣いてくれる事は多少気がまぎれた。

明日香の頬に涙が静かに伝う。

「とにかく明日を信じよう」と
片寄せ合って座りながら寝に努めた。
明日勝負をかけるんだ。

11月26日、捜索二日目の朝が来た。