おそらく地球上でもっとも愛情深く
さて、先日出かけた東京ステーションギャラリーで観た、スイス出身の画家 カール・ヴァルザー。弱冠17歳で絵画の才能を発揮しはじめ1899年にマックス・ルバーマンが立ち上げたベルリン分離派に参加。ウィーン分離派とか、ミュンヘン分離派とかいろいろありますが大雑把に言えば保守的なスタイルとは一線を画す革新的な表現を目指した芸術家たちの一派です。私がヴァルザーの初期の作品で特に目に留まったのは「夜の散歩」暗いトーンですが湖面に写る灯りがロマンチック。ちょっとエリザベトの世界を思わせます。そしてすこーし、やはりドイツを拠点に活動し数年前に日本でも話題になったレッサー・ユ(ウ)リィの雰囲気も個人的に感じました。こちらは「隠者」。言い換えると世捨てびと、でしょうか。弟が文筆家で、展覧会ではこの絵の横に、弟が記した散文も掲示されていました。この絵からも感じ取れると思いますが、ヴァルザーは本の装丁や挿絵も得意とし、長らく弟と組んで職業画家として活動していた時期も長かったみたい。ただ、このあまり知られていない画家のもっとも大きな特徴といえばやはり1900年代のはじめに日本を訪れ、歌舞伎やお能の舞台や役者日本の風景、風俗などの絵を数多く遺していることかなと。そのきっかけもインパクトあるもので、恋人に浮気がばれ、目の前で自死され鬱になり見かねた知人から日本旅行を勧められ……という経緯。ヨーロッパではちょうどジャポニズム全盛でしたし、実際この旅はヴァルザーにとって癒し以上の価値があったようです。「日本は豊かな国です。違いありません」「おそらく地球上もっとも愛情深く、幸福な人たちでしょう。 少なくとも彼らの道徳や教育が目指すのは、 ともにある人々にとって 気持ちよく価値ある存在であれということなのです」妹に宛てた書簡も展示されてあり、こうした訳が添えられていました。ヴァルザーは舞台美術や先述の挿絵、晩年は壁画などの大作にも取り組み、精力的な活動をしていましたが率直な感想を言えば、「器用貧乏」な感じ。どれもそつなく美しいのですが芸術家にありがちな(?)枠をはみ出したセンセーショナルさは作品群からは私は感じ取れませんでした。まあもともと、ドイツ美術って第二次世界大戦のあおりを受けてかあまり世界の美術史のメインストリームには出てこないですが。でもせっかくこうして日本との浅からぬつながりがあるので今後もっと再評価が進むといいなあと思いました。