こんにちは。警報出てる割に雨風が強くなくて雨戸締めるの悩み中です。
今月は一日遅れての月命日記事をアップです。
尾張ギャラリーで展示させて頂いたものをそのまま転載します。
タイトル通りエンド後の毘沙門堂での出来事を四季ごとに書いてみました。読んで貰えたら幸いです^^
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春
「この枝下桜はいつまでも長いとええなぁ」
毘沙門堂には沢山の桜の木があるのだが、今年は枝下桜を植え替えていたのだった。凛として可愛らしくて若い。だけど既にそこに大きな存在感もある。
・・・もしかしたらこの桜は、平成では立派に参拝者を迎えているのかな・・・そんな事を考えていると
「ここの枝下桜は『般若桜』とも呼ぶんえ」 「般若、ですか?なんだか凄い呼び名ですね」
「そう思わはる?」 「ええ・・・般若・・・ですよね?」
頭の上に両の人差し指を立てて見せると、俊太郎様は小さく笑った。『般若桜』と名付けたのがどこの誰で、その経緯も定かでは無いらしいのだけど
「般若いうんは元は仏教で使う言葉で、仏様の智恵・御仏智の事をいうんどす」 「そうだったんだ・・・私、鬼のお面の名称だとばかり思っていました。」
「それも間違いでは無いんやろうけど・・・」そう言って教えてくれたのは、
その昔・・・能面を打っていた僧侶がいたという。僧侶はなかなか納得のいく面を打つ事が出来なくなり悩み苦しんでいた。そこで新たに能面師として般若と名乗ることとし、再び面を打ち続けていくと段々に好評を得る事が出来た。中でも鬼の面は群を抜いての出来栄えだった。それ以来、鬼の能面には般若の作ったものが広く用いられるようになり、鬼の面といえば般若とまで言われる所以になったそうだ。
「知らなかったです。般若って有難い言葉なんですね」 「そうどす。毘沙門堂の枝下桜はそんな般若を宿した桜ということなんかもしれへん。わてはそう思うんや」
「それなら、きっとこの枝下桜は今までのものよりも立派に大きくなりますよ」 「なんで?」 「般若を宿している上に俊太郎様に愛でられて育つんですからっ」
至って真面目に言ったのに、面食らったような表情をしてから直ぐに大笑いを始めた貴方に 「そら、責任のえらい事や」 なんて言われてしまった。
だけど私には、穏やかな目で俊太郎様が眺めている向こうに、立派に枝を張り上げて無数の花びらを散らしながら、此処を訪れる人達を癒している般若桜が見えた気がした。
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夏
近頃、貴方が居るのは私の横でも近くでも無くて机の前。
座りっぱなしだけど朝から夕方まで忙しくしている。
扇子を使わなくてもいいくらい、今朝から十分に涼風の入ってくる自室。
そこで日を追う毎に増えるばかりの文のお返事や、何かの手配をする為に使いを呼んだりしているのだけど
・・・これでお冷を持ってくるのも何度目になるだろ・・・
「俊太郎様、少しは休んで頂かないと」
「へぇ・・・」
生返事の貴方は体の自由が利くようになったとはいえ、以前のように体力が戻ったわけでは無かった。俊太郎様の健在を何処かで知った人達は身を案じて下さったり、現在も頼ってきたりする事もある。
何方の為に自身が出来ることがあるならば、それをやり通さなければならない。
それが俊太郎様のお父様の生き様だったと聞いたな。
この涼しい部屋に居るとつい忘れそうになる季節感は、どこかの木陰で元気いっぱいに鳴いている蝉達の声が取り戻してくれる。
「美味しいなぁ」 いつの間にか。
お冷を手に取ったままの貴方はふらりと立ち上がりかける。私が支えて縁側まで行くと、その遠目に時々風に踊る竹林を映しているようだった。
「折角の繋げて貰うた命や・・・」
そう呟いた貴方をぼんやり見つめると、
「あんさんと共に、大切に使わなね」
こちらに笑顔を向けてくれた。私が何かを不安に思っていると察知したみたい。
俊太郎様なら分かっていると思うんだけどな・・・どんなに貴方が柔らかい笑顔を向けてくれても、成し遂げたい何かを強く静かに表情に映し出しているのを私はもう随分前から知っているのを。
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秋
貴方が大切に袖を通した初めての洋装。
「どないやろ、これでええんやろか?・・・似合うてる?」
身支度の手伝いをした私に、はにかみながら聞いてくれた。「勿論ですよ」そう言いながらも当然初めて目にする洋装の貴方に暫らくは見入ってしまう。
「なんやくすぐったいんやけど?」
クスクスと笑う貴方に我に返ってしっかり赤面してしまう。
だってしようが無い。本当によく似合っているんだもの。見立てがいいのもあるんだろうけど・・・俊太郎様だから何でも似合ってしまうんだけどなぁ・・・そしてそんな事をうっかり送り主の前で言ってしまったら 「全く、参っちゃうよねえ」 なんて言われるんだろうか。
今朝方は、勅使門を仰ぐ参道が見事に紅い絨毯に覆われていた。
身仕度をする前にも二人でゆっくり紅く染まったあちこちを見て回ったのだけど、改めて勅使坂の元から圧巻の景色を目に焼き付けて、私達は連れ立ってのんびりと市中へ向かう。これから長旅が始まるのだ。
互いに流れた時間の変化、些細な身の回りの事、それに毘沙門堂の今年の紅葉はあの時一緒に見たものよりも更に燃えるような紅だという事も。沢山伝えたい。これまでは話せなかった話題も尽きないはずだ。
「ようやっと旨い杯を交わせるんやろか」 「慶喜さん、きっと喜んでくださいますよ。楽しみで仕方がないって文も下さったじゃないですか」 「そうやね。先ずはこの姿をなんて言わはるやら」
まだ杖をつく貴方を助けながら少しずつ進む。今の一歩は小さいだろうけど、この先に私達が進む未来は確実に大きく切り開かれている。
二人で笑い合いながら紅くなった頬に晩秋の風が心地いい。
その風に乗って運ばれて来るしなやかな落葉は、未来に続く道標みたいに二人の前を楽しそうに舞って見せてくれた。
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冬
例年通りなら、燗をいくつも用意して日の沈む刻には部屋がフワリとした温かさになるようにしっかり火を入れている。
今年は違う。届いたばかりの文をゆっくり広げる為に熱めのお茶を淹れていた・・・
新年が明けて早々から、俊太郎様は呼び出しがかかる様になり、時には日帰りが出来ない日もあった。
「寒さの厳しい日は特にわての部屋を使うてな。足元が悪くなることもあるやろから、外出は使いの者に託しなはれ。それから・・・」 「もう大丈夫ですよ、それより手土産は十分ですか?」 「あぁ・・・そうか。何かあったら急ぎの文も寄越してな」
了解しながらも、俊太郎様の心配が温かくて不謹慎かと思いつつもつい笑顔になってしまう。寂しくなるのに変わりはないけど、こうして考えて貰える事こそが幸せだとも思う。
俊太郎様が慶喜さんのところへ行ってもうすぐ二カ月。
忙しい最中なのに文は変わらず三日か四日毎に届く。お陰様で本当に寂しくない。だけど私の体はいう事を聞いてくれなかった。厳寒を極めた夜、音もなく大量の雪が降り積もり毘沙門堂は真っ白な世界に変わってしまった。早朝に目が覚めた私は重苦しい気怠さの中にあったが、雪景色を見たいと逸る気持ちで体を動かした。やっとの思いで見えた景色。それは異世界かと見間違うような晩翠園を目前に・・・私はパタリと眠ってしまったらしい。要するに倒れてしまったわけなのでお医者様が呼ばれ、俊太郎様にも急ぎの知らせが行ってしまった・・・
「私もびっくりしたけど・・・俊太郎様・・・大丈夫かな」
そのお返事がこの文というわけなのだ。美味しく淹れられたお茶をすすると体の隅々まで染み渡ってほっこりする。貴方の机に向かい、火鉢を少しだけ引き寄せる。
さらりと広げた文からはいつも通り大好きな貴方の匂い。そしていつも通りでは無い少し焦りの見える文字。
また心配をかけてしまった・・・けど・・・もう心配なんてかけてる場合じゃない。
今度は私が、貴方の生き様を新しい命に繋げなくちゃ。
ねえ?
2017.10.21
おまけw
小さめの冊子にして展示させて貰いました。
自分の病の重さに気付いた二人の沖田総司は考え方に少しズレがあるようで、
『艶がおっきー』は、病を完全には受け入れらてれない様子。
『薄の総ちゃん』は病の事よりも何かあるでしょ。みたいな雰囲気です。
それと総ちゃんは艶のおっきーの存在を知ってるけど、おっきーは自分以外の「沖田キャラ」を知らないという事にしてますww
艶おっきーは『沖』で、薄の総ちゃんは『総』で表記
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早朝から蝉が一斉に鳴き始めた時候。
一日の休みを言い渡された。
総「大丈夫だって言ってるのに・・・近藤さんまで一緒になって・・・」
何かぶつくさ言いながらも、雲一つない空の元の市中から逃げ出すように涼を求め、木陰の多い川辺までやって来た。
すると木陰の向こうで掛け声とともに一人、真剣を振るう男を見つける。
涼風の爽やかな中だが、上半身の着物を腰に巻きつけて鍛錬する表情には必死さが見えた。
最初は暑さで幻でも見えているのかと思ったが『もう一人の自分』を思い出してしまった。
そして・・・この姿が・・・と思うとどうしようもないやり切れなさが込み上げる。
総「これも僕・・・なんだよね」
沖「っ?!・・・貴方は・・・?」
気配で気付いた沖田は、真剣を降ろさないまま体ごとこちらへ向ける。
そして二人の間のこの不思議な空気というか空間をあまり居心地がいいと思わなかった。
総「ふっ、そう尖らないでよ。僕は君と違って涼みたくてここまで来ただけなんだけど・・・」
沖「?」
総「何故だろうね、君を見てるととても他人とは思えない」
総司は軽口のつもりで言ってみた。
何故だか背筋をゾクリとするものが走った沖田は、不審にしか思えない男に切先を確実に向け直した。
沖「貴方は誰です?」
総「僕は君だよ」
あっさりと即答した内容に狐が化けているのかとも考える。
沖「可笑しな事を言う人ですね。私とはとても似ていませんし、貴方のような兄弟がいた覚えも無いのですが・・・」
総「そうだよ。違う世界にもう一人の君がいる。それが僕。
なんで今、こうして一緒に居るのかはわからないけどね」
沖「・・・とても不思議ですが、貴方がそう言うとそうなのかもしれない・・・ただ」
総「・・・・・」
沖「何故か刀を降ろす気にもなれません」
・・・ガチャリ・・・
妙な汗が一筋流れるも、そう言うと構えに入る沖田。
総「成程ね、そうすることで幾らか納得出来るかもしれないよね」
カチッ・・・・
総「じゃあ、行くよ」
ニヤリと口角を上げたと共に、鞘から抜かれた刀身はあっという間に沖田の白刃とガツンと合わさった。
そして沖田はまさかと驚く事になる。
互角と思われる力で受けているその刀を見間違えるはずもなく・・・
沖「何故ですっ?!加州・・・っ?ええ?」
総「だーかーら・・・っ」
総司は勢いで後方に退いたが、間髪を入れずに沖田の突きが来た。
しかし自身のタイミングと間合いは当然把握しているために自然と避ける。
間合いを詰めようと狙う沖田…
更に何度も合わさる刀身に薄気味が悪くなるが、吹っ掛けたのは自身だし他に引けない理由があるような気がしてならなかった。
沖「くっ・・・まだですっ」
総「いいけど?自分と手合わせなんてのも貴重だもんね」
沖「まだっ解らないっ」
再び沖田の刀が空を斬った。
ひらりとかわす総司の目は余裕がありつつも、少し悲しそうにも見えた。
刃を交わす程、自分を見透かされているようにも思える。
総「解らないって?・・・駄目だよ、自分を受け入れなきゃ」
沖「それは貴方を受け入れろという事ですか?」
総「は?なんで?」
沖「では、何を・・・」
総「君自身だよ。この病はきっと治らない。けどそれがどうしたっていうの?」
沖「!」
葛藤する自身を見抜かれていた…
と共に『もう一人の自分』を認めざるを得なくなった現実に沖田は急に力を無くした。
もしかしたら……この強い葛藤が幻を生んだのか?それならば、いっそ問うてみようと試みた。
沖「私は・・・あ、貴方は一体どうするんです?この体を・・・最後まで近藤さんの為に新選組の為に使えなかったら・・・っ」
言葉にして改めて、肩を落とし膝から崩れる沖田だったが…そこに総司の差し伸べる手があった。
総「僕達って沖田総司なんだよね」
沖「それがなんです!・・・どうして私が病なんかに・・・っ」
ザクッ!
膝まづいた沖田の真横に突き刺さったのは今しがた自分が手にしていたはずの刀だった。
沖「い、いつの間に・・・」
総「君が残りの命をどうやって使うつもりなのかは知らない。どうせなら、今ここで僕が斬ってあげてもいいんだけど?」
沖「・・・」
総「どうする・・・・」
そんな中、川辺沿いに早足で近付いてくる音と呼ぶ声が……「総司っ!」
総「あれ?」
沖「え?」
総「呼び戻しに来たんだ…よく此処が分かったよね。流石、一君。悪いけど戻るよ」
言いながら総司は沖田の前に大切そうに刀を置き、背を向けたのだった。
沖「待って!」
総「何」
沖「私には未だ、守りたいものも見たいものもあるんです!」
総「へぇ、だったらそれでいいんじゃない」
振り向きもせず言い捨てるように言うと、早々と迎えの者の方へ走り去って行ってしまった。
残された沖田は総司が見えなくなっても暫らくそのままだった。
そして優しく吹いてくる涼風はとても心地いいものだった。
(やはり幻だった・・・?)
そう思いながら触れた柄は少し温かかった。
同じ沖田総司だった。同じ刀だった。
なのに『彼』の刀の柄には彼らしさが出ていた。
沖「・・・私も・・・あんな柄巻にしようかな・・・」
おしまい♪
早朝クオリティです(*゚∀゚*)
この内容とタイトルは間違いなくウン番煎じやろなぁ・・・と思ったけど許されるよね?(^_^;)
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「道標に」
両の掌からそうっと、私の結い髪に可愛らしく添えられた櫛。
「良かった。わての見立てはいつもよう当たる。」
貴方がニッコリ微笑んでいつもくれる言葉なのに、毎回頬が熱くなってしまう。
俊太郎様からこの櫛が届いたあの時、何かを恐れる心が瞬時に溶けて無くなった。
史実通りに進む無情な時代に私は貴方を抱き締めて離さない。その為に私が居るの。
この櫛は、愛しい手からもう一度・・・。
「覚えてはるやろか?あん時の言葉を」
暫く櫛を見つめた後、私の瞳の奥まで覗きこむ温かい視線。
「今。こないに可愛らしくわてを見守ってくれはる眼が、あん時は・・・総てを見透した菩薩様の眼の様に見えたんや」
「え、えぇ・・・」
そんな大それた事を言われると思わず縮こまってしまう。
勿論。貴方に幾度か聞かされた覚悟を忘れていたのではない。
それまで常に繰り返した葛藤と、ただ貴方と生きたいのだという願望だったものが、共に生きるべきだという未来を創り出していた。
『私達の道標はまだまだ沢山あるんですよ。』
あの時・・・そう言った私に貴方は小さく、でも力強く笑顔で応えてくれた。
毘沙門堂まで何度も何度も意識を失いながら移動した道中、貴方のうわ言は同志や雲浜先生の名を呼ぶものばかりだった。
すまなかったと。堪忍やったと。
きっといつもの私なら心が折れていた。 だけど、だからこそそんな貴方に壮大な未来を確信した。
「俊太郎様の思う私の幸せってどんなですか?」
「?・・・かいらしいお嫁さんやろか」
なんだかいつもの調子の貴方だと目が垂れてしまう。だけど、
「勿論ですっ・・・でもね、私の本当の幸せは貴方が思い切り生きる為のお手伝いをする事なんですよ」
「思い切り、生きる為に」
「そうです。生きなければ思い切れないでしょ?あれ・・・でもあんまり思い切られて、またこんな事になっちゃったら・・・」
困った私を見てふふっと吹き出すと、まだ少し痛むはずの手が重なった。
少しの間をかけてきちんと体を向き合った。
「わての道標に、なってくれはりますか?」
「はい・・・」
返事をしたものの、何を言ってるのか一瞬考えてしまい。それに気付くと、もう顔を上げられない程涙が止まらなくなってしまった。
重なった貴方の手にもぼろぼろ落ちて、なんとか止めようとするのに言葉も出せない。
その間、俊太郎様は優しく手を繋いで待ってくれている。
どうにか頬の涙を拭うとやっと顔を上げられた。
「す・・・すびまぜん・・・」
「かまへんよ。返事、もっかい聞いてもええ?」
ぐしゃぐしゃになってしまったけど。
大きく何度か頷いて、温かい手を包んで、この慈しむ笑顔に限りなく笑顔を贈ることを約束した。