3人集まれば道が開ける!?「北京オペラブルース」を観た | ビバ!アジアン映画好きな日々

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新年あけて一か月近くたちますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

つい先日コロナの影響で蔓延防止が適用されましたが、こういうご時世の中ごく少数ですが関東でオフ会を開いておりました。

そんな中、今東京では「香港映画発展史探求」という催しで様々な年代の香港映画が日替わりで上映されておりまして。

 

オフの中でタイミングが合った「北京オペラブルース(刀馬旦)」を今回初めて見てまいりました。

 

監督は徐克(ツイ・ハーク)で、ジャンル的にあんまりかかわった事のない作品なのでどんなものかと思ったけど…

 

ストーリー

 

時代は1913年辛亥革命直後の中国。

 

とある街を牛耳るトゥン将軍(演:黄哈(ウォン・ハー))は妾達と共に雇った芸人の歌と踊りを楽しんでいたが、3か月も給料の支払いが滞っていたことから兵士たちがクーデターを引き起こして屋敷中大混乱になる。

 

その最中、妾達が落とした宝石箱を拾った芸人のソン(演:鍾楚紅(チェリー・チェン))はどさくさに紛れて街から脱出しようと屋敷から逃げ出す。

 

しかし、さっさとトンズラしたトゥンに代わりチョウ将軍(演:曾江)と娘であるチョウワン(演:林青霞(ブリジット・リン))、チョウ将軍の部隊が街に入り込み出られなくなったばかりか、宝石を纏めた包みを隠した貨車が運び出されてしまう。

貨車の後を追ったソンは行き先が廣和樓という劇場で、荷物はそこで京劇を披露している春和班に引き渡されるものだった。

 

その春和班は花形スターであるファ・ガムサウ(演:秦沛(チョン・プイ))を筆頭に男性達の女形が活躍する劇団であり、座長(演:午馬(ウー・マ))が切り盛りしていた。

 

そしてその娘パナウ(演:葉倩文(サリー・イップ))も京劇の舞台に出る事を夢見て努力していたが京劇は男性が演じるものと言うしきたりの為、常に雑用ばかり押し付けられていた。

 

そんな中、劇場ではスン(演:田青)とネン・パホイ(演:鄭浩南)が会合をしていた。

この二人、反政府のゲリラであり、この日はスンの仲介で新たな同志と会う約束をしていた。

 

その場に現れたのはチョウワンであり、チョウワンは政府側の人間でありながら、国の為を思いゲリラとして活動していたのだった。

チョウワンは帝政に戻そうと企む袁世凱の悪事を暴露するため、チョウ将軍が所持している袁世凱の極秘借款の書類を盗み出すことを提案、その夜実行する事になる。

 

夜になり、屋敷に戻ったチョウワンはチョウが書類を隠している場所を調べ上げ、侵入したパホイと合流し情報を伝える。

しかしそこで手違いが起こる。

先の廣和樓に包みを取りに忍び込んだソンが叩き出され、とりあえず休むためにとある箱の中に入ったのが偶然にチョウワンが運転していた車であり、屋敷に忍び込んだ形になったのだった。

それをパホイが誤認して銃を放ったため騒ぎとなり脱出する羽目に。

 

途中、偶然にも巻き込まれたトゥン将軍の兵士だったトン(演:張國強)はパホイをかばって銃弾を受けて重傷を負ったため一緒に脱出する事に。

逃げた一行は偶然にも廣和樓に入り込む形となり、パナウに頼んで一時的に身を隠すことに。

 

トンを治療したチョウワンはパホイに任せ、いったんは解散する事に。

翌日待ち合わせ場所の新聞社に集まったチョウワンとパホイは何とかして書類を手に入れられないか相談していたが、助けられたトンの一案でチョウ将軍を廣和樓へおびき出し、下剤を仕込ませた料理を食べさせてトイレに行って一人になった隙に書類を保管した倉庫のカギを奪うという段取りを組む。

 

段取り通りチョウ将軍は廣和樓に来て後は舞台が開園するのを待つだけ…だったのだが、そこでも予想外の事態が起こってしまう。

時間は少し遡り、この街でゲリラや犯罪を取り締まる秘密警察の長官(演:谷峰(クー・フェン))がファ・ガムサウを花嫁に差し出せと迫ってきたのだった。

自身が男だという事を伝えたが男色だった長官には断りが一切通じず、悩んだ結果密かに街から逃げることに。

 

パナウが脱出の手引きをして、感謝したファは後の事を託し、独断でパナウはファの代役として舞台に出てしまう。

 

更に包みが諦めきれないソンが荷物のある部屋を探しているうちに団員が入ってきてしまったためメイクと衣装で誤魔化していた所に誤って舞台に出てしまっていた。

舞台はアドリブで無茶苦茶なものになってしまったが、チョウ将軍は食い入るように観劇し、同席していた妾が下剤入りの料理を食べてしまう。

結果、作戦は失敗し、大混乱の中パホイとトンは脱出、ファが逃げた事で頭に来た長官は廣和樓に閉館を言い渡し、座長は頭に来てパナウを外に叩き出してしまう。

 

今回の一件で責任を感じて様子を見に来たチョウワンはパナウと同じく外につまみ出されたソンを自宅に招きひと時の安息を迎える。

 

その様子を見ていたチョウ将軍は二人が先の芝居に出ていた役者という事を知り、廣和樓の館長(演:梁普智)を通じてもう一度芝居を見せるように連絡を入れる。

座長の対応も180度変わって、改めて舞台の為にパナウとソンは練習をこなし、舞台に出ることに。

しかしそれはチョウワンが文書を手に入れるための策略でもあった。

果たして秘密文書奪回は今度こそ成功するのか?-

 

 

今回はワケあって関東のフォロワーさんに会いに行くついでで時間帯があったので観に行ったわけだが、当初はタイトルやストーリーからちょっとお固い歴史の一部的なお話なのかなと思ったのよね。

それが蓋を開くとアクション、コメディ、シリアス諸々が上手い事掛け合わさって久々に面白い香港映画を観たと満足感を得られた。

ここまでの満足感を得られたのは久々かなぁ。元々の情報が少なかったのもあるかもだけど。

所謂主役勢の殆どが巻き込まれ方なんだけど、それぞれ三者三様に国に対する思いがあって、林青霞は国が好きだから国を変えたい、葉倩文は今の姿の国が好き、鍾楚紅は国には失望しているから外へ飛び出たいというバックボーンをしっかりと描いているのでごちゃごちゃにならないし、ここは徐克の腕が冴えているんだなと思った。

 

特に三人がキャミソール姿で酒を飲むシーンは一種のサービスシーンでありながら世界の広さや己の心の内を曝け出す重要なシーンでもあるし、そういう描写にして見せた徐克は素直にすごいと思った。

 

ラストのケガを負った林青霞が谷峰に立ち向かっていくシーンなんて呉宇森が監督ならよくて相打ち、下手したら谷峰倒した後に横やりでハチの巣にされてるかもだが、まさかのピタゴラスイッチ&部下の誤認という文字通りの発想の斜め上で度肝を抜かれた。

 

今回は主役が女性陣三人という事でメインは林青霞、鍾楚紅、葉倩文。

 

林青霞はいわずもがな、この頃を代表するごりっごりにアクションをする女優代表な方で「ドラゴン・イン」や「スウォーズマン」が代表的な作品で、成龍の「ポリスストーリー」でもキーマンとしてラストは容赦なくボコボコにされていたくらいに身体を張ってる。

一方でその前は台湾で良く判らんB級アクション映画にも出てるのよねこの人。

 

鍾楚紅はフィルモグラフィによれば1980年から活躍している女優さん。

私からすると「霊幻師弟」での洪金寶の許嫁だったりする。

他にも「五福星」や「スターフォース」、「ファントムブライド」などにも出演している。

本作では金に汚いが動きが鈍く、怖がりという、ある意味等身大の女性を演じているけど、他の二人がアクティブに動く分アクセントと感じるかやかましいと感じるかに分かれるかなぁ。

 

葉倩文ではこのブログにおいて「狼 男たちの挽歌最終章」で紹介したかな。

狼~では視力を失いかけている薄幸の歌手だったが、本作では打って変わって舞台に出る事を夢見る京劇女優の卵として活躍する。

「鉄鋼無敵マリア」や「スペクターX」など観るに結構様々な役を演じるので演技幅はかなり広いよねこの人。

 

変わってそのサポートに入る男性陣が鄭浩南と張國強。

鄭浩南は「人体実験外科医 ドクターX」や「降頭(07年版)」でも紹介しているが、この頃は所謂イケメン枠で登場していて、後年の良く判らんキャラじゃないので安心(オイ)

 

張國強は鄭浩南と対照的に気弱だが気概はある元兵士を演じる。

元サッカー選手であり、元彪(ユン・ピョウ)と共演した「チャンピョン鷹」が有名かな。

他にも近年では「セブンアサシンズ」や「ホワイトストーム」等にも出演しているが、基本的に日本未公開作が多いかな。

この人、私としては林正英(ラム・チェンイン)と共演した「妖怪都市」や「鬼喰う鬼」の1シーンでしか知らんのよなぁ…

 

本来この手の映画ならヒロインに負けじと男性陣も梁朝偉や劉德華を投入しそうなもんだけど、そこは敢えてこの二人にしたのは女優陣を目立たせるためなのかなぁと。

張國強も鄭浩南も実力派であるけど所謂オーラはちょっと抑えめなので結果としていい塩梅になった感じ。

女性三人で男性二人なので下手したらラブロマンスも入りそうなところを必要最低限匂わせる程度&コメディのオチ位に留めているので話の邪魔になって無いんだよね。

 

後、無暗に存在感があったのが花形役者ファを演じた秦沛(チョン・プイ)。

本編中ずっとメイクしているので意識しないと見逃してしまうが、中々どうして谷峰(クー・フェン)とのやり取りは女形と言うのもあって中々に面白い。

 

わかりづらいと言えばかつらとヒゲで認識しづらいがチョウ将軍を演じた曾江もいぶし銀で渋かった。

庶民やゲリラからすれば恐れられる対象であり、逆もあるんだけどチョウワンにだけ見せる父親としての姿がカッコよかったし、最後はもしかしたらチョウワンのやっていたことを知った上で敢えて知らないふりをしていたのかも…という思わせぶりな演技はベテラン俳優だからこそと感じた。

 

そんな中で色んな意味でネタとしてかっさらって行ったのが秘密警察のトップである谷峰。

やることなすことは汚職官僚そのものであり、血も涙もなく憎まれ役でありながら男色であり臆病、ラストのオチも含めて時折ネタに走るので必要以上に重くならなかったのはその存在に寄るところが大きいかな。

 

主だった人物たちの使い方も絶妙で、シリアスなシーンからドタバタのコメディシーンまで贅沢に詰め込み、それを中だるみやしつこくない程度にきっちり仕上げた本作は香港映画のとっかかりとしてみてほしい作品だと思いました(*´ω`)