満開の桜が咲く春頃。
私は1人でフラフラ歩いていた。
なんの予定もなく、何をしたいとも思わず。
つまらない毎日。つまらない高校生活。
友達も上辺ばかり。
「ほんと、つまらへん」
小さい頃から、人生つまらないな〜とは思ってた。
気持ちが追い付かず、歳ばかりとっていく。
気づけば高校生活もあと2年をきっていた。
なんも楽しいことがない。
勉強、部活、友達関係。
とにかく全部がめんどくさい。
なんか面白いこと起こらへんかな。
そう思い、何の気なしに外に出たんだ。
「……あ。」
そんな時。
あなたが現れたんですよ。
満開の桜の下、ギター片手に路上ライブをしているあなたに。
「~♪」
聴いている人は少ない。
だけど、聴いてる人を魅了させるような歌声。
気づけば私も聴き入ってしまっていた。
「……いい声。」
忙しい人が通り抜けするような公園。
なぜ彼女はそこを選んだのかが分からない。
だけど、脚を止める人は多くいた。
時間が無いのか、すぐに去ってしまうけれど。
「〜♪…聴いてくださってありがとうございました。」
歌い終わったあとも深々とお辞儀をする。
少しキョロキョロして、聴いてくれてる人の顔を確認する彼女。
そんなあなたが不覚にも可愛いと思ってしまった。
そんな時、バッチリと目が合う。
「…あれ?初めて見る顔や」
そう言って私を見つめる。
「はじめまして。駆け出しシンガーソングライターの山本彩です。聴いてくださってありがとうございます。」
「いえ、とてもいい声だったので…」
「嬉しいなぁ……ありがとう」
そう言って微笑むあなたは、とても綺麗な顔立ちで。
背景の桜がとても似合う、素敵な人だった。
「今日はここまでとさせていただきます。また来ますので、見かけた時はぜひ聴いてやってください。」
拍手が飛び交い、その後周りの人は去っていく。
そんな彼女もせっせと片付けをし、私も帰ろうとした……はずだった。
「あ、そうや」
何かを思い出したように、私の元にやってくる。
その瞬間、手を握られる。
「へ!?」
「君、名前は?」
「わ、私ですか?」
「うん」
「太田夢莉です。」
「夢莉ちゃんか、覚えとくわな」
数回手をブンブン振って握手をした後、
じゃあね!!と言って早足で帰っていった。
「………………?」
彼女に触れられた手が熱を持っている。
この感覚は何?
放心状態から覚めた私は、初めての経験で戸惑いを隠せない。
ただ…
「暖かい」
彼女の手からは暖かみを感じた。
私が求めていたような、そんな感じのもの。
……また会いたいな
そう思い、公園を後にした。
また次に会えることを願って。