ナクモさんの楽園

ナクモさんの楽園

痛々しい小説とか書いてます

夏と言えば、世界の危機。
Amebaでブログを始めよう!
その日は僕の人生で最悪の日だったと言える。
毎日学校に行ってはいじめを耐える日々。
幸い、一番クラスで大きいグループな奴らが遊んでいるだけで少人数は味方に付いているのが幸いか。
そのせいでクラスが「現状が通常」という安定をしてしまって、僕の逃げ場がなくなりつつある気がするけれど。

まあそんな帰り道。
いつも通り鬱屈した帰り道。
まだ昼だ。
学校は終わってはいない。
これもまた最悪。家庭の事情である。親からの緊急の連絡を受け早退することになったのである。
緊急事態。
母から電話が来ている、と言われた時は何故用件を先生から聞けないんだろうと思った。
しかし職員室の電話を取って分かった。
母は電話の向こうで泣き、話は滅裂で、何を言っているのかさえよく解らなかった。
絶えず父の事を話題に出しているので、父に何かあったと解った僕は落ち着くのを待って聞いた。電話を切る直前だった。
じゃあ帰るから。と言った後だった。

「父さんね、人を殺しちゃったんだって。」

泣きながら言った言葉はクリアに僕の頭に入った。
てっきり僕は父が事故にあっただとか、急な病で倒れただとか、そんな事だと思っていた。
父は夜遅くに帰ってきては煙草と酒を嗜む人だったので…健康には悪そうだなと思っていたのだ。
それに酔うと暴力を使い出すので僕は父に労働の感謝はあれど、好きか聞かれると返答が出来ない。
そういう意味では起こるべくして起こった気もする。暴力的な人が暴力事件を起こしたって事なんだから。
「いつかやると思ってたんです」
と誰かが言うだろう。
流石に部外者にこんな事を説明しちゃいけないなと思って、「父に何かあったらしく、母は混乱してしまっていた。ともかくただ事ではなさそうなので、一度帰ることにします」と嘘をついた。
教師もあの母の様子を聞いていたから、了承をくれ早退することとあいなったわけだ。

そんな事があって帰り道に居るのだが。

今更ながら僕が帰る意味はあるのだろうか。
帰って何をするのだ。
父が人を殺したから…何だろう。
たかが中学生に何が出来るのか。書類だって書けない。警察の話でも聞けばいいのか?
警察だってこんな子供には聞かせないだろう。
自分の親が人を殺したなんて。
でも母さんは今もっと話が出来ないはずた。
とにかく母さんを落ち着けるのが僕の役目と言った所か。

と、そうやって「自分を落ち着けていた」所で視界内に見たことのないものが入った。

居酒屋の裏口で男が倒れていた。
外で横になっている男と言うのはここまで違和感を発するのか。酔いつぶれているが、目は醒めているらしく煙草を吸おうとしている。
しかしライターが上手くつかないようだ。
何度もトライしている。
じゃらじゃらとした男だった。
ネックレスをたくさんぶら下げて、腕時計の他にもアクセサリーを腕にたくさん巻いて、ピアスもしていた。
男を避けて通ろうとした時、声をかけられた。
「おいチビ。金貸してくんね?」
チンピラの定型句みたいな言葉だった。
僕は早歩きで通り抜けようとした。
何度か「おい!」だとかの声は聞こえたが、男も「まあ無理か」と大きな声で独り言を呟いて

べき、

と痛そうな音がした。
そのべき、にはゴン!だとかざっみたいな音も混じっていた。
振り返った。
そして立ち止まってしまった。

ただ制服を着て、狙って着崩しても居ない、どこにでもいる生徒。
あの制服は確か高校生だ。

そいつの前でさっきの男が倒れていた。
いやその男はさっきも倒れていたけれど。
前はだらぁと倒れていたのに今回はぐったりと倒れていた。
まるで誰かに殴られたか蹴られでもしたように。

その男の前に立っていた男が僕が語る話の主役と言っていい。
笹川優治。
これがファーストコンタクト。




Android携帯からの投稿
彼、笹川優治の人柄は単純明快のようで複雑怪奇だ。
だから彼について語るにはやはり最初に起こした事件である6歳の頃のものが最適だろう。
最初に起こした事件だからって、その事件を起こすまで彼が問題児ではなかったという事ではないし、これだけで彼の人となりが全て分かる訳じゃない。
こうして語る僕だって彼のことを分かっているわけではない。
彼自身あまり分かっていないんじゃないか、と思う。的外れな推測なのかもしれないが。

彼、笹川優治は孤児だった。
彼の元の両親に当たる人物は変に几帳面で、彼を孤児院の前に置く時に一緒に名前と誕生日を紙に書いて持たせていたらしい。
彼自身はこの時一歳。
しかし既に二足で外を立ち、それなりに言葉は喋っていた。
「何もわからない子供」ではなかった。
そんな彼に両親がどんな話をしたのかは定かではない。
どんな事を言ったのか。
何せ一歳のことだし彼も覚えてはいないそうだ。

話が逸れていた。
6歳の事件の事……の前にやはりまた話を逸らさなくちゃいけない。
僕にもっと理路整然と話す力があればいいんだけど。

この孤児院の院長さんはとても人が出来た人格者で有名ではないにしても、孤児院業界……?まあ、孤児院や病院などの福祉施設に置いては「信頼できる人」としてそれなりに名は知れていたらしい。
この孤児院を卒員した孤児にも好いているかはともかくとして、嫌っている人は人は一人も居ないとか。
優しさを間違えずに使っていた人だった、とこの話の当人である彼は語っていた。彼が人生で一番感謝し尊敬しているとも言っていた。
あの笹川優治が。 
失礼だが、彼がそんな事を言うと一瞬偽物かと思った。

僕は会ったことないので分からない…というかもう会えないんだけど。

その院長は五年前ーー笹川優治が殺している。
人生で一番感謝し、尊敬している人物をその手で。
回り道が多かったせいで話が長くなりそうだ。
まだ話が始まってすらない序章なのに。



Android携帯からの投稿
「うむ。邪魔しておるぞ神様。」
さらっと。
さらっとそいつは神様亭二階、使われない喫茶店の一席に腰掛けていた。

「帰れよ。」

二階で物音するなーと思って見に来たナクモさんは開口一番言い放った。
「何、心配するな。ここにあるのは実態のない姿よ。物語に関わる事はほとんどない。」
「よーし、じゃあ消すぞー。神様権限で消すぞー?」
とは言いながら向かいの席に座るナクモさん。口だけの男である。
「で、何の用だよ。他の四匹は会いに来ねえぞ普通。」
少女とも言うべきそいつは、神様の前にも関わらず尊大な態度を隠さない。
ていうか、見た目は普通に大人だったはずだし、姿が変わるような事も特にはなかったはずなのだが。神様が知る限り、と言うのはつまりほぼ絶対である。しかしナクモさんの知る限り、と言うと急に信憑性が薄れる。信用がない神様だった。
「神様の好きな見た目に変えてきてやったというのに、酷い接待だな。」
「ややこしい事やめろよ!?」
何で皆俺の前に幼女姿で現れるのか。
誰が俺の好みがロリだと言うことを言いふらしているのか。
ある全知全能の娘しかいないと確信したが、今はあえて考えないことにした。
「何。いつも通り意識だけ世界旅行したら、面白いものを見つけた上に神様が近くに居るではないか、と思ってな。」
別に俺はどの座標にも出れると思ったら出れるけどな…とか興醒めな事は言わない。
それよりも、見つけた面白いものというのは『彼』のことだろう。
「『あれ』は私が関わってはいけないものか?」
わざわざ聞いてくる辺り、こいつは五匹の中で唯一神様と友好的なんだと再確認した。
「俺はこの世界を見てるだけって言っただろ。好きにしても構わねえよ。」
結局はこんな答えしか用意できないのだが。
何でこいつもわざわざ聞きに来るんだか。
「相変わらず、だな。」
「世界が、変わりすぎてるのさ。」
そして少女…の姿をしたそれは寂しそうな顔をした後、階段へ向か
あいつ歩いて帰るの!?超常的存在のくせに!?
変なところでツッコミをしてしまうのを耐える神様。

「ああ、でもよ。」

笑いを答えながら、呼び止めた。
少し笑っていたかもしれない。
「多分あいつはその内お前のところに自分から行くよ。」
その答えに少女は最後だけ大人びた微笑みを浮かべて

「では待たせていただこう。」

髪が広がる。
真紅の髪。
真紅の目は神様をじっと見つめて。

この世界に生まれた最初の五匹の一匹、

人外達の母は神様とそうやって二、三回言葉交わしただけで消えていった。


からんからん。


遊び心か、ベルは鳴らしていった。


Android携帯からの投稿
がん、と自分の後ろの壁に衝撃があって。
現実に帰ってきた。
路地裏はもう真っ暗で。
光も差し込んで来てなくて。
つまり深夜だった。

「何だよ…ギン。」

冷め切った声だ。
まるで別人だ。
とギンは思った。
一瞬、あのギンが話しかけるのを躊躇った程だ。
「助けてくれたから、礼でもって思ったけどよ。」
一目見て解るほど、ボロボロだ。
フードは何故脱げていないのか、不思議なくらいだ。顔色が伺えない。
「お前もやられたみたいだな。」
「ああ、そうだな。」
まるで他人事のように返す朱也に流石にギンも不審に思った。
少なくとも朱也は、ここまでやられて諦めるような、悔しくないような奴じゃないと。
この二ヶ月近くで思っていたけれど。
勝手な思い込みだったのだろうか。
「俺は明日、やり返しに行くぜ。お前も来るか?」
「やめとけよ。」
目があった。
吸血鬼である朱也と目を合わせるのは危険行為だが、気にはしなかった。
「何だよ。また『何かのために』か?俺は怪物だ。怪物以外の何かにはなれない。」
「そんなのはもういいんだよ。」

『そんなの』。
人の役に立とうと、人を助けようと。
そうすることで人間であろうとした湯上朱也が言う台詞では、
言える台詞ではなかった。

「勝てないよ。やめとけ。」

そう言われて、ギンは湯上朱也の胸倉を掴んで無理矢理立たせた。
「どうしたお前。ぶん殴られてえのか。」
酷い暴論であったが、湯上朱也は文句どころか、何も言いはしなかった。

ぶん殴った。

どしゃあ。
と元々立ってもいなかった湯上朱也は地面へと倒れた。
「何だよ。」
流石に殴られて黙っていることは出来なかったのか、壁にもたれるようにずりずりと立とうとする。
「寝言を言ってるみたいだから、起こしてやったのさ。」
湯上朱也が壁から離れる。
「目が覚めたんだよ。『怪物』は『怪物』だって。」
そして、自嘲するように突然笑い出した。
どうやら思ったより重症らしい。
「何があったんだよ。」
笑い続ける朱也に対しギンは冷静に話しかけた。
いつもとはまるで逆だ。

「殺してたんだよ。」

路地裏に静寂が訪れる。
そもそも二人しか居はしないが、それでもいつもの静寂よりも冷たいものを感じた。

「名前も知らない、どんな奴かも知らない。
だけど俺は激情に任せて、殺したんだ。」

ギンは黙って聞いている。
朱也は何か言って欲しかったが、吐き出し始めた言葉は自分でも止められなかった。

「笑っちまうよな。何が『人間』だよ。俺はもうとっくに…『怪物』だったんだよ。」

ギンは黙っていた。
笑って欲しかった。
何だお前もか。と笑って受け入れて欲しかった。
それは甘い話だし

実際そうはならなかった。


「そうかそうか。お前もだったか。」
笑いながら、朱也の肩を叩いた。
朱也は、その反応にようやく心が休まって笑い

「オレも、久弥木の爺さんの娘を殺してるんだ。」

笑顔が凍りついた。
「あそこの孫の母親に当たるな。」
そんな事をギンは何事もないように言う。
何事もないように。
「それを喰らったんだ。味まで忘れないな。」
はっはっはっと笑うギンに、朱也も凍っていた笑みをもう一度


「笑うなよ。」

笑えなかった。
どうしても、笑えなかった。

「今俺のことを『許せない』と思ったんだろ!?だったら笑ってんじゃねえよ!」

そんなことはない。と否定しようと思うのに、口は強く閉じられて開けることすら出来なかった。
「アカヤ。お前は人間側だよ。」
諦めたように、白状するように、答えを明かすように、ギンは語る。
暗闇のせいで表情は伺えない。
「結局お前は『自分』っていう『怪物』を今まで通り許せないだけだ。何も変わっちゃいない。」
突き放された。

朱也は今度こそどうしようもなくなった。

「じゃあ俺は、どうすりゃいいんだよ。」
今まで通り人を助けろって?
人のために生きろって?
そんな事して、したって何になるんだよ。

「オレも知らない。」

ギンは背中を向けてそう言った。
何かを噛み殺したような声だった。


狼は夜の路地裏へと消えていった。

吸血鬼はまたその場に座り込んで、眠った。








Android携帯からの投稿
湯上朱也は、自分の体のどこに傷があるのかさえ解らないほど痛めつけられた。

明らかに手加減されたのだろう。

ギンほど酷いことにはなっていない。
ただ文字通りボコボコに殴られただけだ。
それでも立ち上がる事さえ出来なくなっているのが、悔しかった。
「拍子抜けだな。本当に人外か?」
男が朱也に目線を合わせるように膝を曲げる。
この目に催眠の力が宿っていると解った上で目を合わせてきた。

なめられ切っていた。

「お前こそ…何なんだよ。」
人外達を蹂躙するお前は。
人外よりも人外なお前は。
その朱也のただの妬みと皮肉な問いは、逆に朱也へと皮肉な運命を突きつけた。
男は立ち上がって言う。

「エクソシスト、ダストハンター。」

エクソシスト。
それを聞いた瞬間、思い出そうとするのを忘れていた、忘れようとしていた記憶の一部が。
最後の一ピースが埋まる。


目の前に広がる鮮血。

散っていく希望。
手を伸ばしてくれた人の命が、あっさりとなくなった。


血。血だ。
血が全てで。
『もう……』
赤い、血が。

俺が吸血鬼だから。

許さない。
殺し尽くす。

『もう嫌だ……』




吸血鬼になった瞬間の記憶。
初めて『殺した』記憶。
首筋へと牙を突き立て噛み砕いた記憶。


この時、身体が動かなくてよかったのかもしれない。

動いていれば何をしたか解らない。


湯上朱也は、
吸血鬼になったあの日。

同じ吸血鬼を、殺してしまっていた。


目の前に居るダストハンターなんてもう目には入らない。
映る風景は全てあの日だ。
あの日の鮮血の風景だ。


湯上朱也はあの日と同じく絶望してしまった。


Android携帯からの投稿