黒崎だ。



「いってぇ・・・」


そいつは頬を擦りながら、

黒崎にやり返そうとした。

でも当たるわけない。



私だってちゃんと考えて黒崎を連れてきたんだ。

顔のせいでやたらと喧嘩を売られまくった

黒崎は・・・強い。



「おい、藤本・・・帰ろうぜ」



かっこいいよ、まったく。


私は彼のために何もできなかったのに。

強いっていいな。




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藤本君は何も話さなかった。


白い肌にはうっすらと青染みができて、

唇はきれてる。



「あっの・・・藤本君?

 もしかして私達、迷惑なことした?」


静かに首をふる。


「それは・・・ない」


彼を守ってあげたい。

体は守れなくても心だけは。



薄暗い道を3人で静かに歩いた・・・


藤本君の後をついていくと、

いかにもやばそうな暗い路地裏に着いた。


「安藤、、ほっとけよ。

 これじゃストーカーだぜ?」


「ちょっと黙って!!

 なんて言ってるのか聞こえっ・・・」


「「あっ」」






殴られながら、キス。

されている。





もちろん藤本君は抵抗してるんだけど。

あの身長じゃあいつには勝てない。



見てしまった罪悪感よりも

助けてあげたかった。



「ちょっと!!何してんの!!」


思わず叫んでしまった。


隣で黒崎が驚いてる。

「馬鹿かお前!!」



「あぁーあ。見られちゃったぜ亜貴?

  知り合いか?」


亜貴?あたしと同じ名前・・・


「知らない」


藤本君の声をはじめて聞いた。

震えているけど。


「とっとにかく!!彼を離しなさいよ!!」


「めんどくさいな、、いっとくけどこれ、遊びだよ?

 俺が本気で男とキスするわけないじゃん」


最低。

こいつまじで。


あたしが言い返す前に、

誰かがそいつを殴った。



第一印象最悪な二人組は
クラスの波についていけないまま、
放課後を迎えていた。
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「安藤さん、また明日」
「あっうん」
女の子からのただの挨拶なのに無駄に緊張してしまう。
心臓がバクバクするのを抑えながら、
ちょっと戸惑って応える。
黒崎を見ると、いつのまにか男子とつるんでいる。
性格はいいんだし、溶け込まないわけないか・・・。
これで、本当に浮いてるのは、私と藤本君だけ。
藤本君は一人で帰っていた。
それでも、寂しいとか虚しさは
後姿からは感じられず、
背筋を伸ばし、前だけを見つめて歩く
彼の後を無意識のうちに追ってしまった。

彼の姿は本当に美しい。
でも気づいてしまった。
身長が!!!
もしかしたら、あたしと変わらないかも・・・
160cmある?
なんか可愛い。
でも、、女子だけでなく男子からも
モテそう・・・。




駅までの道を歩いているうちに
後ろから黒崎がやってきた。


「おお、あれ?友達は?」

「帰る方向違うし。
 藤本も電車で帰んのか?」

「そうじゃない?・・・あっ」



誰か知らないけど他校の生徒?が
藤本君に話しかけた。

茶髪で、いかにもタラシです系の人が。


「うわっ!!黒崎!!藤本君が絡まれてる」

「友達じゃねーの?
 ついていってるし・・・」

でも。
危ないって直感でそう感じた。

「黒崎!!一緒に来て。」

「あぁ!?」

嫌がる黒崎を引っ張り藤本君の後を追いかけた。




入学2日目は、みんな友達つくりに忙しい。
もちろん、私も。

「えっ!?如月中出身なの?
 原田さんって知ってる??そうそう、、」

「あたしもそのキーホルダー持ってる!!
  このキャラめっちゃ可愛いよね」

まずは共通の話題を見つけ、
そこからアピールを続ける・・・
得意な人はすぐに好印象を持たれるけれど、
私は・・・人見知りが激しい。

「安藤」

聞きなれた声に振り向くと、
同中の黒崎が私と同じように
輪の中に入れず、戸惑っていた。

まぁそれも当たり前で。

私達は、中学の頃、
見た目が怖い女子・男子
共にランキング1位だったし。
それは高校生になっても
変わらないわけで。


「あぁ・・・そういえば同じクラスだね。
 なんか・・・ついていけない」

「同じく。てか、だるい」

不機嫌そうにそう言うと、私の隣に座る。
教室の中を見渡すと、
浮いているのは私達だけではなかった・・・。



1人。

雰囲気だけで圧倒されそう。
綺麗な男子が私の反対側の席に座って
ただ窓のから空を見上げていた・・・。


「黒崎、あの男子って・・・」

ゆっくり顔を上げ黒崎は答えた。

「あぁ、、藤本?あいつがどうかした?」

藤本って言うんだ。
なんかもっと道○寺か花○かと思った。

「あれだよね。あたし達と同類?っぽくない」

「馬鹿か。あれだろ、雰囲気がちげーよ」

そうだけど。
向こうは好んで1人でいるみたい。
いつからだろう、
「何か」に渇望し、執着し続けたいと願ったのは。
「何か」がないと生きていけない
ただ「何か」を求め続けていたいだけ。


そう、それは多分
君を失ってから・・・

ぼくのココロはカラッポなまま・・・


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「あきちゃん」
 幼い頃、一度だけ出会った男の子は
  夢の中に度々現れては私の名前を呼び続ける。
「あき、ちゃん」
  もう姿なんて思い出せない。
   でも声だけは、声だけは鮮明に覚えてる。
 
彼の夢を見た日の朝は、
憂鬱さと、切なさに包まれていて。
玄関の扉は重く、空気は湿っている。
まったく。
今日から高校生だというのに。
私の新生活は、追憶から始まった・・・
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今、君は誰を見て、誰を思って泣いているのだろう。

昔、僕に囁いたあの言葉を誰に?

今なら言える。

「僕は君を守りたかった」

昔、言えなかった僕の本当の気持ち。

傷ついたのは君だけじゃないんだ。







愛してる。




たとえ、君が僕を愛していなくても。







多分これが初恋。
他人と帰るのが、
こんなに温かかったことなんて無い。
私はいつも冷めてて、
小学生のときも中学生のときも
まわりから距離を置かれてた。

「僕と絡むなら気をつけてほしいことが1つある」
「何?」
その声色は真剣なものだった。
「僕に血を見せないこと」

・・・・・・?

「なんで?」
「言いたくない」
「血なんてそう滅多に流れないでしょう?」
「だけどできるだけ気をつけて」

へんな会話。
血を見たらどうなるの?
吸血鬼になるとか?
本当に可笑しい、オカシイ・・・

「あっ梓穂ちゃん!」
校門の近くで誰かに呼ばれた。

「優樹さん・・・」
優樹さんは私が萩尾響弥と帰ってるのに
かなり驚いてるようだった。

「萩尾君と、、梓穂ちゃんって、もしかして・・・」

もしかして?

「櫻井 優樹」

萩尾響弥が優樹の名前を呼ぶ。
気のせいだろうか
一瞬、優樹の顔が赤くなり青くなる。

「はっ・・・はい」
「へんな誤解はしないこと・・・いい?」
「わかりました」

優樹は猛ダッシュで去っていく。
「誤解って例えば?」

「僕が君を殺そうとしているとか、・・・僕が君と付き合ってるとか・・・彼女は妄想壁がある」

私達、付き合っては無いんだ。
まだ・・・友達?
でも。

「私達はただの友達なのにね」
「あぁ・・・友達」


込み上げてた涙がこぼれる。

「あっ・・・ごめんなさい」
「謝らないでいい、僕が悪いんだ」

「いきなり抱きしめてごめん」

彼は私を離す。
すこしだけ寂しかった。

彼は無言で窓側にいき、ベランダに出る。
もちろん私もその後に続く。

「この花・・・」

そう言って彼は私に1つの鉢植えを渡す。
「花の名前はニゲラ。
 別名クロタネソウ、花言葉は・・・」

私はこの花を知ってる。
青と白の小ぶりな花・・・

「「戸惑い」」

「今の私にぴったりの花言葉ね」
「今の僕にもだよ」

戸惑いながらも私達はやっていける気がした。
もう私達は孤独じゃない・・・



「さぁもう下校時間だ」
「どうする?一緒に帰る?」
「いいけど。
 どうせ同じマンションだし・・・」
「じゃぁ行こうか」

私達は一緒に外に出た。




いつの間にか手を繋いで。
「ねぇちょっとコッチに来て」
「なんで?」
「一回やってみたかったことがあるんだ」
私は言われたとおりに
萩尾響弥のそばに行く。
「後向いてて」
私が後を向いた瞬間
彼は私を抱きしめた。
《《どきっ》》
頭に血が上らない・・・

「ねっ、、ちょっと・・・」
「君、いい匂いがする」

彼はそう言って抱きしめる腕に力をこめる。
でも・・・嫌じゃなかった。
彼が私を抱きしめる理由がよくわかる。

寂しい、つらい、嬉しい、悲しい、、

幼いときから
誰にも甘えず、自分ひとりで生きてきた彼は、
誰からも抱きしめられたことがないんじゃないかな。
私と同じように・・・。


気がつくと私も彼を抱きしめていた。

目の奥が熱くなっていく
誰かのぬくもりを感じている。
誰かと一緒にいたい
家族はいない、友達はすぐ裏切る
誰を信用すればいいの?
そう思っていた私が
今こうして誰かのそばにいる。
それだけで嬉しかった・・・。


放課後、
担任に園芸部の入部届けを渡す。
「じゃぁ・・・園芸部の部室に行って部長さんに挨拶してきなさい」



園芸部の部室。
私は部室に入る。
大体予想はついてた、
彼しかいない。

「ここ気に入った?」

彼は入ってきた私を見るといった。

もちろん。
こんなに美しい場所があるなんて。

「綺麗な場所だもの。
 気に入らない人はいないわ」
「僕の唯一の癒しの場所さ」


彼は彼のまわりにあるどんな花達よりも綺麗。
私がこの部屋にいるのが場違いなくらい。

「この部屋には僕以外入らせない」
「穢れた奴らはここにはいる権利なんて無い」

彼は相当、人が嫌いみたいだ。

「私はもう入ってるけど」
「君は特別」
・・・。
「ありがとう」


《《君は特別》》

本当に私達の関係は何なのだろう?
特別って何?

「で、さっきの絡むって話だけど・・・」
「私達やっていけそうな気がするわ」
「だから君を誘ったんだ」

彼に出会って
私の中の何かが変わった。
もう1人じゃない・・・