米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も 

                 2024年5月2日   Bloomberg

 米国とサウジアラビアは、サウジに安全保障を提供するとともに、イスラエルとの外交関係の

確立に道を開く歴史的な協定で合意に近づいている。内情を知る複数の関係者が明らかにした。

 合意への障害は多いが、今回の取り決めは 昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを

攻撃し、パレスチナ自治区ガザで紛争が勃発したことで、とん挫していた枠組み案の 最新版に

相当する。

   情報の部外秘を理由に 匿名を条件に語った関係者によると、ここ数週間に交渉が加速しており、

当局者の間では、米国とサウジが 数週間以内にも合意に達するとの楽観的な見方が出ている。

 

      サウジが米国との防衛協力強化に向けた協議を再開-関係者

 合意が実現すれば、中東情勢を一変させ得る。イスラエルとサウジの安全保障を増強するだけ

でなく、中東における米国の立場を強め、イランや中国の影響力が弱まるかもしれない。

 協定により、サウジは これまでアクセスできなかった米国の最新兵器の入手も可能になるかも

しれない。サウジのムハンマド皇太子は、米国の大規模な投資と引き換えに、最も機密性を要する

国内のネットワークから 中国の技術を制限することに同意し、民生用核プログラムの構築で米国の

支援を得る可能性がある。

 米国とサウジが合意に達すれば、イスラエルのネタニヤフ首相に提案を行う見通しだ。

具体的には、サウジと初めて 正式な外交関係を樹立し、投資拡大と地域統合を見据える この協定に

参加するか、取り残されるか、ネタニヤフ氏に選択を迫るとみられている。

   ネタニヤフ首相にとって重大な条件となるのは、ガザの紛争を終結させ、パレスチナ国家の樹立に

向けた道筋に合意することだろう。

 

 

中ロが進める石油取引の脱ドル、「ペトロダラー」の覇権は続くか

                                         2023.04.17      Forbes JAPAN 

 

  米ドル建てで行うのが通例だった石油の国際取引で、ドルを介さず 自国通貨などで直接決済する

動きが相次ぎ、「ペトロダラー」の支配に 疑問が投げかけられている。 西側諸国の制裁を受ける

ロシアが 石油の買い手に ルーブルでの決済を迫っていることに驚く人はいないだろうが、

中国やインドなどが 原油や石油製品を ドル以外で取引し始めたことは関心を引いている。

 

BRICSなどで ドル離れの動き

   最近の動きを少し振り返っておく。中国とブラジルは 3月28日、それぞれの自国通貨を使って
貿易や金融取引を行う仕組みを設けることで 合意した。 両国は このところ影響力を増している「BRICS」のメンバーで、中国は ブラジルにとって 最大の貿易パートナー国でもある。
   一方、同じ日には、フランスの石油大手トタルエナジーズが、中国の国有石油大手、中国海洋石油
(CNOOC)から 液化天然ガス(LNG)を 初めて人民元建てで購入したことも明らかにしている。

   サウジアラビアは 3月29日、上海協力機構(SCO)に 対話パートナー国として参加することを
承認したと発表した。SCOは 中国が主導する政治、経済、安全保障の枠組みで、西側諸国の同様の
組織に対抗する狙いでつくられたものである。サウジは これに先だって 中国の仲介で イランとの
外交関係を修復しており、SCOへの参加は サウジと中国の関係強化を示す新たな例になった。

   このほか ロイターの3月8日の報道によると、ロシアから石油を調達しているインドの顧客は、
その大半を アラブ首長国連邦(UAE)の通貨ディルハムやルーブルなど ドル以外の通貨で支払って
いる。

   こうした事例が相次いだために、石油市場が引き続き変容する( 編集部注:4月2日には
石油輸出国機構[OPEC]とロシアなどでつくる OPECプラスが追加減産も発表した )なか、
ペトロダラーは 影響力を失いつつあるのではないか という臆測を呼んでいるわけだ。
 
石油危機で確立したペトロダラー
  原油の国際取引では もともとドルによる決済比率が高かったが、ペトロダラーが世界通貨として
確立したのは、アラブ諸国による 1973年の石油禁輸(第1次石油危機)がきっかけだ。
当時 米国の リチャード・ニクソン 政権は サウジアラビアのファハド・ビン・アブドルアジズ王子(のち国王)
との間で、米国が サウジに軍事支援や兵器を提供するのと引き換えに、石油取引をドル建てで行う
ことで合意した。

   そのころ 原油の最大の輸入国だった米国と、最大の輸出国であるサウジアラビアとの間で こうした
取り決めができると、ほかの輸出国や輸入国も すぐ それに倣うことになった。以来、石油の国際取引の大部分は米国の通貨、すなわちペトロダラーで行われている。

   現在は 世界的に緊張が高まり、国際貿易体制も変化し、ルーブルや人民元で決済する取り決めも
相次いでいる。だが、エナジー・アウトルック・アドバイザーズのマネジングパートナー、アナス
・アルハジは 最近のリポートで、国際通貨基金(IMF)のデータを基に、2022年第1四半期時点で
ドルは なお公的外貨準備の60%を占めていると解説している。
  「 確かに ユーロや円、人民元の台頭で ドルの地位は いくらか後退したが、驚くべきことに、
  ドルのシェアは 1995年と同じ水準にある 」(アルハジ)

ウクライナ戦争の影響
   ロシアやほかの一部産油国は 長年、取引相手国に ドル以外の通貨で決済するよう圧力をかけて
いたが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が ウクライナに仕かけた戦争を機に、こうした圧力
が さらに強まっているのは間違いない。 S&Pグローバルのダニエル・ヤーギン副会長は フォーブス
による 2月のインタビューで、西側諸国による 対ロシア制裁に参加しているのは 世界195カ国中
37カ国にすぎず、世界に もともとあった分断に拍車がかかっていると指摘している。

   ロシアによる戦争が 解決先を見いだせず続く限り、おそらく こうした分断は深まる一方だろうし、
ドル以外の決済への圧力も強まっていくばかりだろう。中国が 米国の覇権や第二次大戦後の世界秩序
に対抗する 地政学的な大国として台頭してきていることも、間違いなく ペトロダラー体制に対する
圧力を増している。

  さらに、BRICSが影響力を強め、今後 拡大を計画していることも、ドルにとって試練になりそうだ。
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国で構成する BRICSは 昨年、新たな加盟を検討
することを決めた。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は 最近、加盟に関心を示している国が
「十数カ国」あると述べている。
   新たに加盟しそうな国として よく挙げられるのは サウジアラビアだ。このほか エジプト、
インドネシア、トルコ、タイ、UAEなども関心を示していると言われる。

   以上に挙げた要因は すべて、米国やドルの影響力低下につながる可能性がある。
それでも 前出のアルハジは「 ドルは後退しているとはいえ、支配的な地位は 揺らいでいない 」
と強調している。

現時点ではドルがなお優位、 今後は?
 米国が大戦後に引き受けた「世界の警察官」という役割から降りつつあることは、ほとんど疑いの
余地がない。バラク・オバマ、ドナルド・トランプ、ジョー・バイデンの3代の大統領は、言葉遣い
は 大きく違っても、その点では共通している。米国が 世界の警察官役を果たさなくなるようにつれて、
ペトロダラーの影響力が 下がってきたのは 偶然ではない。

   ペトロダラーの地位は やや落ちてきているとはいえ、現時点では なお原油や石油製品の取引で
支配的な通貨の座を保っている。だが、その地位は、国際取引や地政学的な国家間関係が再編されて
いくのにともなって、引き続き 変化していくことになるだろう。

 

 

 

「ペトロダラー体制」に変化あるのか-中東の米同盟国が中ロに接近

                                              2023年8月25日     Bloomberg

   世界最大の石油輸出国サウジアラビアを含む 中東における米国の同盟国が 中国とロシアに

近づきつつあり、ロシアのウクライナ侵攻で 大きな影響を受けた地政学が一段と複雑になっている。

   ブラジルロシアインド中国南アフリカ共和国から成る新興5カ国の枠組み BRICS は

24日、サウジイランエジプトアルゼンチンエチオピアアラブ首長国連邦(UAE)

2024年1月1日に BRICS に正式メンバーとして迎えると発表した。

              BRICS、サウジやイランが加盟へ-24年から11カ国体制 

 中国やロシアなど BRICSの現加盟国首脳は、BRICSを拡大することで影響力を高め、

ドルの役割を含め、世界経済と貿易における米国の力に対抗しようとしている。

 

  一方、米中の対立が 一段と強まる中で、サウジやUAE、エジプトは どちらか一方の側につくこと

を避けつつ、中規模国としての地位を強化しようと取り組んでいるとみられる。

  UAEは BRICS参加が認められたことについて、「 多国間主義の価値を支持する熱意 」を

反映するものだとコメントした。

   クウェート大学のバーダー・アルサイフ教授は「 湾岸諸国は 国益を第一に考え、より独立した道

を歩みながら、世界の舞台で より力強く自らを主張している 」との見方を示した。

  

   サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は 先に、米政府は BRICS を 新たな

地政学的ライバルとはみていない と述べていた。

米国家安全保障会議(NSC)は 24日、それ以上のコメントは控えたが、サリバン氏が フランス

とドイツ、イタリア、英国の当局者と会談した後に ホワイトハウスが出した同日の声明では、

20カ国・地域(G20)が「 経済協力のための第一のフォーラム 」との認識が示されていた。

 

ドル支配

 中国などのBRICS現加盟国は、ドル以外の通貨でエネルギーを購入したいという意向を

示しているが、長年続いてきた「ペトロダラー体制」を変革しようすれば 複雑で厄介なものとなる。

サウジも UAEも 自国通貨をドルに ペッグ(連動)しており、流動性と価値の保存という点で

ドルに匹敵する他通貨が必要になる。

 INGの市場責任者 クリス・ターナー 氏らアナリストは 24日のリポートで、現在の仕組みを変えよう

とするなら、BRICS 加盟国通貨で発行される債券への需要が高まる必要があると指摘。それまでは

「 多極化した世界へと 10年かけて進んでいくこと 」になり、「 恐らく ドルとユーロ、中国人民元

が それぞれ米州と欧州、アジアで支配的な通貨となる世界 」が到来すると予想した。

           「BRICS」の名称、「美し」過ぎて変更できない-加盟国拡大でも

 それでも BRICSに加わることで、サウジとUAEは 必要に応じて ドルへの依存度を下げる

機会と柔軟性を得ることになるだろう。

 ロシアが ウクライナで戦争を始めてから、米国は ロシアに対して輸出規制や金融制裁、原油価格

の上限を課した。サウジとUAEは 同じようなことが 将来に起こり得るのではないかとの懸念を

共に示している。

 英国を拠点とする リスクコンサルティング 会社ベリスク・メープルクロフトの中東・北アフリカ担当主席

アナリスト、トールビョルン・ソルベット氏は、サウジやUAEは「 米国との関係が著しく悪化する

ケースを警戒し、不測の事態を見据えた下準備をしている 」と語った。

 

サウジ、「原油輸出を人民元で決済」構想 

                                2022年3月16日    豊島逸夫      日本経済新聞

   ロシアが ドル決済システムの国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外されたことで、国と

友好的ではない国々は、基軸通貨ドル依存体制のリスクをかみしめている。

 そもそも 中国は、通貨覇権のドル一極集中への挑戦として 人民元を ドル、ユーロ、円、ポンド

に次ぐ国際通貨とすることを通貨戦略としてきた。

そこに ロシアも協調してきた。ロシア中央銀行は 外貨準備の一部を ドルから金に換えた。

さらに、同国の公的金準備量が 2000トンを超えたところで 買いの矛先を人民元に向けた。さすがに

ルーブルを国際通貨として認知させることは 現実的ではなく、人民元を支えることにより 中ロ協調

で ドル一極支配体制に風穴を開けるもくろみが透ける。

 

    その矢先に勃発した 対ロシア経済制裁により、中国側も ドル依存体制からの脱却を急ぐ。

そこで、ロシア以外の有力協力国として浮上してきたのが 原油供給国のサウジアラビアだ。巨額の

決済を 人民元建てにするとの構想が 原油市場では流れる。既に、2020年には 英BPが上海先物取引所

で 人民元建てにより 中東産原油を引き渡すなどの事例が出ているからだ。

背景には「 ペトロ人民元体制 」を構築する構想がある。新型コロナウイルスにより 世界的原油需要

が激減したことは、中国が 巨大な購買力に物言わせて 人民元決済を迫る機会となった。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙も書いたことで、ウォール街の話題にもなっている。

 

   サウジアラビアも 米国への不満を募らせていた。アフガニスタン撤退、核合意に関して イランに

接近、ワシントン・ポスト記者殺害疑惑などが 要因だ。

  対して 中国は 友好的で、習近平(シー・ジンピン)氏のサウジ訪問も 年内に予定されている。

原油需給面でも、米国は 原油供給の対外依存度が薄まる一方で、中国は 世界最大級の原油輸入国

となった。 今こそ、原油ドル建て決済に風穴を開け、ペトロ元決済を拡大するチャンスと見る

であろう。

 

   ただし、通貨サウジ・リヤルは ドルにペッグ(連動)している。ここは 人民元を含む

複数通貨バスケットにペッグすることが必要になろう。

   筆者は 改めて、ノーベル経済学者のマンデル教授が提唱する「最適通貨圏構想」に注目している。

世界の地域ごとに 基軸通貨を定めるという発想で、ユーロ誕生の理論的裏付けともなった。

米国大陸は ドル、欧州は ユーロ、アジアは 人民元か円か。そして 中東だが、地域共通通貨が

見当たらない。一時は、マハティール・マレーシア首相が イランとの貿易決済に金の裏付けのある

ゴールド・ディナールという新通貨を提唱したこともある。この通貨真空地帯では ドルと人民元が

競うシナリオが有力になってきた。

   日本人として 気になるのは、円が ローカル・カレンシーとして存在感が薄れることだ。

今の円安についても、円の購買力が 歴史的な低水準に落ち込んでいることが指摘される。長期的な

視点に立てば、将来の円が置かれる状況を予知するかのような円安にも映る。