「PTAは強制ではない」、それでも止まぬ「わがまま」「ズルい」の声

          …日本PTA会長の見解は 

                                    2024.06.01       佐藤佑輔            ENCOUNT

 

PTA非加入世帯の児童が 不当な不利益を被った事例が相次いで炎上

 PTA非加入世帯の児童が 不当な不利益を被る事例が相次いでいる。

   先月15日、埼玉県内のある 公立小学校のPTAが、非加入世帯の児童を 通学班に入れないこと や

進級・卒業の祝品を配布しないことなどを 保護者宛ての文書で通達。

   今月13日には 神奈川県内の公立小学校が、PTA非加入世帯の児童には 防犯ホイッスルの配布や

防災備品の用意・保管ができないと通達、いずれも ネット上で「 非加入児童への差別 」「 子どもを

人質にとった脅迫では 」と炎上する騒動となった。

   ネット上では 不要論や廃止論も根強く、大きな転換期を迎えている PTAだが、今後 どのように

変わっていくべきなのか。 日本 PTA全国協議会の後藤豊郎会長に これからのPTAのあるべき姿

について聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 

   小中学校において、任意加入の保護者と教職員が 児童生徒のために ボランティアで支援活動を

行うPTA。 結成や加入を義務付ける法的根拠はなく、自ら 加入を選択した会員が 主体的に参加する

任意団体とされているが、事実上 参加が強制となっている 学校や地域もあり、保護者の負担が 大きな

問題となっている。

   共働き世帯の増加で これまでのような運営が難しくなっている 昨今、PTA不要論や廃止論が

唱えられることも 少なくなく、実際に 解散に踏み切った学校もあるのが実情だ。

 今回 問題となった 一連の事例について、後藤会長は「 加入・非加入にかかわらず、子どもたちが

不利益を被ってはならない というのが大前提。 通学班に入れなかったり 防災備品を保管しない

といった対応は あってはなりません。そもそも 防災備品を PTA会費でまかなうこと自体がおかしい

という ご意見ももっともでしょう 」と苦言。

 

 その上で、「 祝品などの配布といったモノの提供や、団体割引で加入できる保険などは、会員が

費用を負担している以上、法律の観点からは 区別することが妥当とされる場合もあります。

ただ、間接的な形であるにせよ それが児童の不利益につながってはならない。非加入世帯にも平等に

配布したり、あるいは 公平に その都度 実費精算としたり、対応は 学校や地域ごとに判断が分かれる

ところです。それぞれ うまく機能しているものに、一律で 統一の基準を設ける必要もない。

いずれにせよ、児童が不利益を被ることがないよう、話し合いで解決することが望ましいでしょう 」

と見解を語る。

 そもそも、PTAとは どういった目的で結成される組織なのか。後藤会長は「 家庭と学校と社会で

子どもの教育の責任を分かち合うもの 」と その理念を語る。

「 PTAというと、通学路の見回りや運動会など イベントの運営補助、必要経費の寄付など、

学校運営における 雑務やお手伝いといったイメージがあるかもしれませんが、本体は 保護者と先生が

対等な関係で課題を出し合い、解決に向けて活動していくもの。子育ての過程での悩みを共有したり、

保護者同士が交流を図ったり、保護者の子ども時代とは 大きく変わった教育現場の常識をアップデート

していくなど、親にとっての学びの場でもあります 」

 

「 参加しないのはわがまま 」「 ズルい 」といった同調圧力と取れる声も

 一連の炎上では PTAの在り方を疑問視する声が多く上がった一方で、「 一人だけ参加しないのは

わがまま 」 「 親としての責務を果たさず 利益だけ得ようとするのはズルい 」といった声も

寄せられた。 任意加入でありながらも、平等負担を是とする同調圧力が加入者と非加入者の間に

軋轢(あつれき)を生む構造になっているとの見方もある。

 「 PTAは 義務ではないので、義務感を持って参加する必要はありません。ただ、一人ひとりが

当事者意識を持つことは必要。やれることをやれる範囲でやる、忙しければ会費を払うだけでもいい

ですが、何もやらずに恩恵だけ受け取るというのも違う。もしも 活動が保護者同士の負担になり、

押し付け合いとなっているのなら、活動本来の意味を問い直し、やめてしまうのも選択肢のひとつ

です 」と後藤会長。

 

   一方で、完全な形での廃止論については「 PTAによって 社会教育が支えられている一面もある。

何より、保護者同士や教員との交流の場がなくなれば、個々の親の学びにかなりの差が出てくること

が予想されます。社会の成り立ちそのものにも大きな影響があるのでは 」と否定的な受け止めを示す。

「 『子どもたちのために』という理念こそ変えるべきではないですが、活動の在り方は時代に合わせて

もっと柔軟に改善していってもいい。何より PTAによって困ったり、苦しんだりする人が出る現状は

本末転倒。我々としても、『 PTAは強制ではない 』というメッセージは あらためて 発信していく

つもりです 」

   全国的には 形式上自動加入となっている地域がほとんどだが、名古屋市では 3年前から

PTA加入そのものを立候補による エントリー制に変更。PTAの役割や目的について、事前に詳細な

説明会を行ったところ、結果的に 100%近い加入率になった という成功事例もある。

子どもたちのために、当事者意識を持った保護者が 主体性を持って参加する ――。PTAが その理念

のもと、本来の在り方を取り戻す日は来るか。