結局、世のトレンドに流されるな。
IT/AI社会に順応せよ。
――― と、筆者は言っているにすぎない。
その社会が、
人間我々にとって、
幸せな社会なのかどうか?
そんなことは、思考の埒外においている者たちが、
新たな技術を使って、
新たな産業社会を作ろうとしているだけである。
合掌
2024/04/19 PRESIDENT Online
日本が ものづくり大国として復活するには、何が必要なのか。 製造業の現場をYouTubeで
解説している ものづくり太郎さんは「 生産現場を理解していないコンサルタントを入れている
企業も少なくない。彼らは “虚無“ を売っているといってもよく、日本の技術進歩を停滞させて
きた 」という――。
低すぎる工場の生産性を高めたい
本稿では、これから私、ものづくり太郎が 何をしていくつもりなのかをまとめながら、製造業の
未来を考えていきます。
私が これからやろうとしているのは、誰かが やらなければならないことです。誰かがやったなら、
日本の製造業は ガラリと変わります。おおげさではなく 製造業の存亡がかかっていることです。
日本のメーカーが これから世界と戦っていくためには 何をしていくべきなのか? その道筋を
示していきたいと考えているのです。
実をいうと、少し前までは 自分で 工場を開設することを予定していました。どうして 工場をやろう
と考えていたかといえば、目的の1つは やはり 未来への道筋を示したかったからです。
日本の工場の生産性が低すぎることは ここまでに解説しました。しかし、的確なデジタル化が
できたなら 稼働率は まったく違ってきます。
装置設計次第で 生産性は大きく向上させられます。「 百聞は一見に如しかず 」ともいいますが、
その様子を動画にして配信していこうと考えていました。
計画していた工場経営を中止した理由
工場を開設するというのは 経営をすることです。当然ながら 利益をあげることを前提にして、
そのうえで 工場をデジタル化する見本を示していくつもりだったのです。
なぜ そこまでしようと考えていたのかといえば、ものづくり太郎は 製造業に育ててもらった人間
だからです。製造業に恩返しをするため、現場の変革をモデル化しようと考えていました。
しかし、工場経営は いったん中止しました。危機感が薄すぎる 今の状況を鑑みれば、まず
製造業界の上流を変えていくべきではないか と気がついたからです。
現場の効率を高めるのは 重要なことながら、現場を動かす上流を変えることのほうが 製造業全体には
意味があることではないかと考えました。
180度、方向転換することにしたわけなので、工場は開設しません。もしかしたら、いずれ開設する
こともあるかもしれませんが、まず、本当の意味での案内人のような役割を果たしていこうと決めた
のです。
少しおおげさに言えば、製造業界のアンバサダーのような存在になっていきたいと思っている
のです。
製造業に関わるコンサルタントの 心底驚いた一言
ものづくり太郎が 本気を示す第一歩としては、研究会のような性格を持つ コンソーシアムを
立ち上げる予定です。会員制のサロンのようなもので、基本的には、自分の会社を動かせるような
エグゼクティブに集まってもらいます。
なぜ エグゼクティブに限定するのかといえば、製造業全体の 今後に関わる規模のことをやって
いきたいからです。
コンサルタントのような存在になるつもりなのかといえば、そういう面もあるかもしれませんが、
一般的にイメージされやすいコンサルタントとは一線を画します。
企業によっては、製造業のことを まったく理解していないコンサルタントを入れてしまっている
ことも多い気がします。
最近、外資系の大手総合コンサルティング会社のマネージャークラスの人間と話してみたことで、
心底、驚く経験をしました。そのコンサルタントは「 製造業にソリューションを提供していきたい 」
と話していたのに、CAD(※)という言葉さえ知らなかったのです。
彼らが どこかの企業とコンサルタント契約を結べば、かなりの金額を受け取ることになります。
※computeraided design。「コンピュータ支援設計」と訳される。
コンピュータ上で設計を行うためのツールで、ほとんどの産業製品が CADを使って
設計されている。
“虚無を売っている”と言ってもいい
製造業ソリューションの1つの鍵を握るのが CADなのにもかかわらず、CADを知らずに 何が
できるのでしょうか? これまでにはない 新しいソリューションを提案されたとしても、実際に
そのやり方を導入すれば、現場の作業効率はあがるどころか 後退することもあるはずです。
言葉は厳しくなりますが、プラスがないどころか マイナスになりかねないアドバイスによって
お金を取る行為では、“ 虚無を売っている ”と言ってもいいのではないか と私は思います。
いつまでも こうしたことがまかり通っているようでは 日本の製造業は 本当に終わってしまいます。
無残な結末を迎えてしまわないためにも、本当にやるべきこと、できることを示していきたいと
考えています。
エグゼクティブのコンソーシアムを立ち上げて どうしようと考えているのか……。
オンラインサロン的なものにとどめるつもりはありません。
セミナーを開催したり ディスカッションの場をつくるだけではなく、自分自身が アクティブに動いて、
実のあるビジネスチャンスを提供していくつもりです。そのため、国の機関や外国の企業とつないで
いく仲介役も果たしていきたいと考えています。
私にも それなりのコネクションはあるので、今 まさにつながっておくべき 海外企業などには
積極的に視察に行きたいとも思います。
日本の幹部クラスは 海外から学ぶべき
まず つながっておきたいのは 世界のCADメーカーです。CADは これまで以上に重要な役割を
果たすことになり、現場のあり方は 抜本的に変わっていきます。
製造業では IPCに ChatGPTが実装されるようになりましたが、建築業界などでも 設計などの重要部分
において ChatGPTが利用されるようになっています。これから先、AIが活用される分野が どんどん
広がっていくのは間違いありません。
そこで 生きてくるのが、これまでに蓄積された CADデータです。大量のデータと ディープラーニング
技術によって構築された言語モデルは LLM(大規模言語モデル)と呼ばれ、ChatGPTも LLMの一種
になります。
LLMに 既存のCADデータを読み込ませれば、さまざまな応用ができます。以前に設計していたものを
現在のトレンドに合わせて 最適化することも容易になるので、設計のあり方そのものが変わるはず
です。
蓄積していたCADデータは、多ければ多いほど 意味を持ちます。CADデータは “資産” なのです。
どのように生かしていくかが これから議論されることになります。
そう考えたなら、日本のエグゼクティブは、なるべく早い段階で 3大CADベンダーなどとつながって
おく必要があるわけです。そこで交わされる議論のなかから 新しい設計の概念などが生まれていく
ことになるでしょう。
建築業界では すでにAIが導入されている
例えば 建築業界では、ChatGPTに対して、BIM(Building Information Modeling)情報を使って
チューニングを行い、その土地環境に合わせて、建物に必要な強度や配管などの基礎情報も LLMが
学習し、最適な構造物の設計やモデルの抽出が可能になっています。しかも、今まで数日かかって
いたものを、1日で 数十個のモデルを作りだすことが可能になっています。
CADの世界は、常に 建築から変化していきます。なぜかというと 建築の世界は、人間のサイズが
大きく異なることがないので、標準化しやすいのです。しかし、建築業以外の製造業では、対象物が
千差万別であり、そのため 建築業界のCADソリューショントレンドが後日、建築業界以外の製造業側
にも適用されることになります。
この建築業界が AIによって激変した事例を鑑みると、今後は、建築業界以外の製造業も AIによって
激変しますので、CAD ソリューション が AIによって どのように変わるのかを すぐそばでキャッチアップ
しなければなりません。
そして、大手CADベンダーは、日本のものづくりに対して 非常に関心を持っているはずなので、
大手CADベンダーに対して、日本のものづくりのDNAを埋め込んでおく必要があります。
なぜなら、CADは 製造業の上流なので、日本の製造業流に CADをカスタマイズできれば、日本に
有利な状況をつくりだせる可能性があるからです。
どの家にも同じような炊飯器がある時代ではない
社内システムを見直していくうえでも お手伝いできることはあると思います。
根本的な効率化を図り、新たなビジネスチャンスを掴つかんでいくためには、まず 二次元データの
運用をやめることです。CADで設計したものを わざわざ二次元データにして現場で運用しているのは、
量産時代から脱却できていないことの表れです。
昭和の高度経済成長期は、同じ製品でも、造れば造るだけ売れる時代でした。
対して 現代は「 多品種少量生産の時代 」になっています。
昭和であれば、どの家に行っても 同じような炊飯器があったものですが、今は さまざまなメーカーの
さまざまなシリーズの炊飯器が使われるようになっています。
誰かの家に行って、自分の家と同じ炊飯器が使われていることなどは稀なのではないでしょうか。流行りすたりもあるので、同じ製品を 長く造り続けるケースも ほとんどなくなっています。
そうであるなら、量産時代の手法が通用しなくなるのは当然です。
三次元データを わざわざ二次元データに変換してしまうように、時間とお金を要しながら何の
プラスも生み出さない工程を守り続けている場合ではありません。
多品種少量生産に システムも合わせる必要がある
製造業には いくつかのフェーズがあります。まず どういう製品を造ればいいかといった「構想」
を練るところから始まります。
次に「 開発・設計 」が行われ、「 生産準備 」、「 製造 」と移っていきます。製造のためには
「 調達 」や「 装置設計 」も行われます。製品ができあがれば「 販売 」、「 保守・メンテナンス 」
へと進みます。
各部門を連携させられるマスターのデータがあれば、設計から製造への流れが良くなるだけでなく、
調達や保守・メンテナンスにおいても さまざまな情報を生かせます。販売に フィードバックも
かけられるのでマーケティングのあり方も変わってきます。
多品種少量生産の時代だからこそ、正確な情報にもとづいたスピーディな動きをしていく必要が
あるのです。
そのためにも、情報を すべての部門につなげることは必須です。データの管理方法を見直すだけでも
効率化は進みます。製造業を変えるキモとなることなので、まず そこをやらなければ始まりません。
それと同時に 企業間や業界の垣根をつくらない標準化の取り組みを進めていく必要もあります。
自分たちのことだけを考えていたのでは 遅れは取り戻せないからです。
「 違った視点で見られるから… 」に騙されてはいけない
世の中のコンサルタントは、「 製造業は 専門分野ではないが、違った視点で見られるからこそ
新しい領域に導ける 」といった論法を持ちだすことが多いのだと想像されます。
ガラパゴス化しないためにも 自分たちの言葉に耳を傾けるべきだというのが彼らの言い分ですが、
単なるレトリックに過ぎない気がします。
製造業をわかっているなら、改革すべき部分は ハッキリしています。独自のソリューションを
持ち込もうというなら、必要な改革を終えてからにすべきです。いたずらに横からシステムに手を
つけても “改悪” になるだけです。
実際に そういうことをしてしまったコンサルタントが複数存在していたため、日本の製造業は
正しい進化ができなかったのだと見ることもできます。
欧米や中国が 次のステージへと進んでいくなか、日本の製造業界は 30年間、迷走を続けてしまった。
その事実には、ただただ怒りを覚えます。
繰り返しになりますが、今の製造業界に騙されている余裕などはありません。だからこそ 私は、
実のある改革を提供していきたい。役割は地味でも、製造業を下支えするような存在になりたいと
考えているのです。