「歴代首相に盆暮れに1000万円ずつ献金」「地域振興で潤うのは一世代だけ」

               原発にまつわる話

                    2024年3月28日 印南敦史   Newsweek

 

< 原子力ムラの実態、つけを払わされる国民。原発取材を重ねてきた記者による

                                                  『なぜ 日本は原発を止められないのか?』 >

 

 1月1日に起きた能登半島地震によって、原発に対する不安が さらに大きくなったという人は

少なくないだろう。事実、震度7を記録した石川県志賀町に位置する北陸電力志賀原発が 

もし稼働していたら、福島第一原発事故に匹敵する最悪の事態となっていただろう とも言われる。

 そもそも、日本には 原発が多すぎる。なにしろ 2011年の東日本大震災発生前、この狭い国には 

54基もの原発があったのだ。事故後には 21基の廃炉が決定したが、2023年9月時点で 12基が再稼働。

推進派の意見も いろいろあろうが、あれだけの事故を起こしていながら、今なお 原発を止めることが

できないというのは 明らかに不自然だと思う。

 

 しかも、処理水の海洋放出から影響を受ける漁業関係者が そうであるように、原発に関連する 

さまざまな"つけ"を払わされるのは 私たち国民。 新聞記者として 東日本大震災発生時から現場取材

を重ねてきた『なぜ日本は原発を止められないのか?』(青木美希・著、文春新書)の著者も、

そのことに言及している。

 

私たちは いつまでつけを払い続けるのか。

 

  東電と政府が一体となって 原発を推進し、" 原子力ムラ "の人々が 安全規制を杜撰にしてきたから

    こそ事故は起きた。それなのに 政府は、東電の「 汚染者負担の原則 」を蔑ろにし、事故処理

    にかかる莫大な金額を 私たち国民に押し付けている。なぜ ここまでして 東電をかばうのか。

                                                                                             (「はじめに」より)

 

   著者によれば、問題は、原子力ムラの"村長"が 歴代総理大臣であるという事実だという。村長の

意思で 原発に税金をじゃぶじゃぶと使い、国策として 推し進めることで "原発を守る仕組み" を

つくってきたわけである。

そして、電力会社が "村長ら" へ巨額献金をしてきたことも、いまや 多くの人々が知るところだ。

たとえば 本書にも、次のような記述がある。

 

    2014年7月、関電で 政界工作を長年担った、内藤千百里(チモリ)元副社長(当時91)が、

    少なくとも 1972年から18年間、在任中の歴代首相7人「 盆暮れに 1000万円ずつ献金して

    きた 」と、朝日新聞に証言したのである。

    また、自民党有力者らに 毎年2回、盆暮れのあいさつと称して 各200万〜1000万円の現金を運ぶ

    慣行があったと明かし、政界全体に配った資金は 年間 数億円に上ったと語った。 1974年に 

    電力業界が癒着の批判を受けて企業献金の廃止を宣言したのちも 続いていたことがうかがえる。
     献金の目的は、原発政策の推進や電力会社の発展であり、「 原資はすべて電気料金だった 」、

   「 許認可権を握られている電力会社にとって権力に対する一つの立ち居振る舞いだった 」という。

                                                                                                (105ページより)

 

       1972年(昭和47)から18年間1989年(平成元)までの首相は、

       田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登である。

 

個人献金、広告料、パーティー券購入

 

   あくまで これは 一例に過ぎないのだろうが(というところが恐ろしい)、電力業界は 個人献金や

広告料を含め、さまざまな手段で 政治家に金を渡してきたという。2011年7月には 電力会社9社の

役員の92.2%が 自民党の政治資金団体「国民政治協会」本部に 個人献金していた実態が判明し、

会社ぐるみの「組織献金」であると指摘された(同年7月23日「共同通信」より)。

 

    電気事業連合会(電事連)という大手電力会社で作る民間団体も、記録のある 1983年度からの

11年間で、65億5000万円を 自民党機関紙の広告費として 同党に支払っていた(1993年10月14日

付「朝日新聞」より)。

 

   さらに、「 闇で 数千万円飛び交っていたという時代から、今は 政治資金パーティー券で集める

   時代になっているのでは 」と指摘する声もある。1枚数万円のチケットを 何百枚単位で売って 

   資金を集めるパーティーは、大部分が献金となる。法律上、政治資金パーティー券を購入した者の

 うち、氏名・名称を 政治資金収支報告書に記載しなければならないのは、1つの政治資金パーティー

 につき 20万円を超えた購入者だけだ。20万円以下の購入者については、総務省が手引きで

 「 必要に応じ報告してもさしつかえありません 」としており、明かすことは義務化されていない。

                                                                                    (108ページより)

 

   今まさに 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件が問題化されているだけに、この点も 

また気になるところではある。

ちなみに 電力業界によるパーティー券購入について言えば、電事連が仕切っていたようだ。電事連の

元役員によれば、「 政治家側から 電事連にパーティー券購入の依頼があると、電力業界への貢献度や

政界での影響力によって、購入する枚数を決めていた 」というのである (2013年3月31日付

「朝日新聞」報道からの引用)。

    電事連が 団体として購入するほか、選挙区を考慮して 各電力会社に購入額を割り振ったという。

 

     現役の議員では 甘利明氏、稲田朋美氏、麻生太郎氏などが 原発推進派で知られるが、彼らが

     電力業界にパーティー券を買ってもらっていた事例が 各社の報道で 次々に明らかになっている。

                              (109ページより)

 

原発交付金は 市民のためになってきたのか

 

    もちろん これは 中央だけの話ではなく、地方では 推進派の政治家らのもと、再稼働が進んでいる。

その一例として、ここでは 同書から、東日本大震災で 津波と地震の被害を受けた宮城県の女川原発

についての事例を紹介したい。

 

   地元紙「河北新報」の2020年3月の世論調査では、再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」は 

 計61.5%だったが、原発が建つ立地自治体の女川町議会、石巻市議会ともに 再稼働を求める陳情を

 保守系議員らの賛成多数で採択した。同年9月24日の石巻市議会では 木村忠良議員が、

 「 原発に関する交付金が市民の福祉向上に寄与してきた 」と賛成の立場から述べている(同年

 9月25日付「読売新聞」より)。(112ページより)

 

   その結果、宮城県議会も 再稼働に賛成する請願を 自民党系会派などの賛成多数で採択したという。

「 原発に関する交付金が 市民の福祉向上に寄与してきた 」との主張には、地元を納得させるだけの

説得力があるだろう。事実、役場や学校、運動場が造られたりもしたようだ。とはいえ、ここには 

大きな問題が絡んでくる。新たな施設ができるのはいいとしても、立地自治体は それらの維持費が

捻出できずに苦しむことになるというのだ。

そのことについては、元福島県知事の佐藤栄佐久氏の言葉が分かりやすいだろう。

 

  「 原発の地域振興で潤うのは たった一世代だけ。40年たてば 固定資産税もなくなって、その

 自治体の財政状況は悪化の一途をたどり、最後は 町長の給料すら払えなくなって、大量の使用済み

 核燃料だけが残る 」(「アエラ」2013年2月4日号より)(113ページより)

 

   福島県大熊町と双葉町にまたがった福島第一原発も そうだったようだ。双葉町は 電源三法による

交付金の交付が終わったことなどから 財政が悪化しているというのだ。

もちろん これは、原発にまつわる話のごく一部に過ぎない。しかし それでも、原発(と原発にまつわる

さまざまな事例)が いかに不安定なものであるかが分かるのではないだろうか。

                      

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2023/10/13   (1時間25分)