ハラスメントや薬物使用、シティ株式部門で長年横行-関係者が証言

                  2024年3月25日    Bloomberg

  22人が報復を懸念して匿名を条件にインタビューに応じた

  シティ女性幹部の訴訟、女性を 「性の対象」として扱う環境を指摘

 

 ニューヨークに本店を置く米銀シティグループの行員らは 2018年5月のある夜、マンハッタンの

ダウンタウンにある人気レストラン「キャッチ」で 顧客とパーティーをしていた。

 そのうちの一人は 大卒の新入行員で、2年間のローテーションプログラムで株式部門に配属され、

ルームメートを連れて パーティーに参加していた。夜がふけてくると、上司の1人がルームメイトの

背後に近づき、股間をこすり付けて 彼女を驚かせたと、その上司を見たという2人が証言している。

 

 数カ月後、その新入行員は 男性トレーダーからスカートを短くして 高いヒールを履いて出勤する

ように言われ、彼女の恋愛について 何度も尋ねられたという。

 シティのニューヨーク株式部門は、一流のヘッジファンドなど ウォール街の顧客に助言し、取引を

執行している。だが 同部門で働いていた、あるいは 同部門と近い関係にあった22人へのインタビュー

によると、この出来事は 決して特異なことではない。

根強いハラスメント(嫌がらせ)と差別があったことを示唆している。

 

 この証言は、このような行為が 22年まで続いていたと主張するマネジングディレクターが 昨年

起こした訴訟での主張と呼応している。この訴訟の後、同行のトレーディング責任者は、不正行為を

発見した場合は報告するよう行員に注意を促した。

 

   報復を懸念して 匿名を条件にインタビューに応じた行員によれば、行内では 少なくとも10年以上

にわたって、行員らが 公然と同僚の女性を見つめ、外見で評価し、性的征服について自慢していた。

 

 同部門では、オフィス内で コカインを使用するなどの行為もあったという。上層部や人事部への

苦情は 改善につながらず、孤立した内部集団というイメージを助長し、何人かの行員を辞めさせたが、

加害者とされる一部の行員は まだ残っているという。

 

 シティでは 3年前、ジェーン・フレイザー氏が 米主要銀行初の女性最高経営責任者(CEO)に

就任。同行は 歴史に名を刻み、より公平な企業文化という多くの指標でライバルをリードした。

しかし、女性が歓迎されないと感じるような行為を抑制するために 何十年も奮闘してきた金融業界

の中でさえ、同行の株式トレーディング部門内での振る舞いは 際立っていた。

 

   シティの広報担当マーク・コスティリオ氏は、職場で 差別やハラスメントがあってはならないと

指摘。「 包摂的で 公平な職場のカルチャーを醸成する努力は 決して止まることはなく、シティの

基準を全行員に十分に理解され 順守されるようにすることは、継続的かつ積極的なプロセスだ 」

と述べた。

 シティは 行員が 行内の「 懸念を内々に提起する手段を数多く提供しており、立証された場合には、

解雇を含む 適切な措置を講じている。個々の問題についてのコメントは差し控えるが、簡単に言えば、

正当な理由がある場合、敬意を持って接するという 我々の高い基準を満たさない行員を辞めさせる 」

と同氏は説明した。

 

報復を懸念

 シティは 債券の強さで知られているが、株式トレーディング収入で ウォール街の大手5行中で

最下位となって久しい。シティは 株式部門の規模を公表していないが、24万人規模のグローバル業務

の中では、同部門は 稼げるとはいえ 小規模な部類に入るだろう。

株式部門の首脳陣は 約12年間に5回も入れ替わり、この間、同部門は 度重なる不祥事に見舞われた。

  

    デリバディブ(金融派生商品)を担当するある女性トレーダーは、10年に 本店近くのレストラン

「ロカンダヴェルデ」で行われた顧客との夕食会で、同僚が テーブルの下に手を入れ、彼女の足に

手を置いたことを思い出した。また その頃、リサーチアナリストの1人から「 なぜ もっとセクシー

な靴を履かないのか 」と聞かれたという。

 彼女は 人事部や上級管理職に その両方について話し、醜いカルチャーがまん延していることを

説明した。コスティリオ氏は「 疑惑の事件の幾つかは 明らかにシティの行動規範に違反するものだが、

そのうちの幾つかについては 苦情の提出を確認していない。他のものは 10年余り前のもので、幾つ

かの疑惑は根拠がないか、曖昧過ぎるか、シティを辞めた人物が関与している 」と述べた。

 

 他の2人の女性は、慎重さと忠誠心を重んじる この業界で、報復を恐れて 同僚からセクハラを

受けたことを黙っていたという。デリバティブトレーダーでない6人は、職場の不正行為と思われる

行為を同僚や人事部に訴えたが、シティが 十分な措置を取らなかったと感じ、その結果に失望した

と語った。

 

  3人は 北米全域でシティのトレーディング業務を統括していたダン・キーガン氏に 別々の出来事を

説明したという。そのうちの1人によると、上級行員が 若い男性バンカーに 彼が寝たと思われる女性

の下着を見せるようけしかけられたと キーガン氏は聞かされた。22年に シティを去った同氏は、

メッセージに応じなかった。その若いバンカーは 解雇された。

 

 コスティリオ氏は「 その事件に関与した人物は 調査の結果 解雇され、問題をエスカレートさせ

なかった直属マネジャーは懲戒処分を受けた 」と語った。

 

「性の対象」

 18年頃に 新しい若い同僚らが 入行する前、行員らは 入行予定者の写真を含む書類を回覧。

それを見た1人と、当時 そのことを聞いた他の2人によると、行員らは 新人たちの魅力を見定め、

お気に入りについて 公然と話し合っていた。昨年11月に マネジングディレクターのアーディス・

リンゼイ氏が起こした訴訟にも 同様の記述があった。

                       ウォール街の女性幹部でもセクハラ被害か、語られ始めた業界の暗部

 株式部門が業績不振に対応し続ける中、ファテル・ベルバシール氏が 同部門のチーフとして 20年

採用された。それでも 問題は続いた。21年は好調だったが、22年になると ロンドン支店での

入力ミスが欧州株のフラッシュクラッシュを引き起こし、フレイザーCEO と ベルバシール氏は打撃

を受けた。

 リンゼイ氏は 訴訟で、ベルバシール氏は 女性を無視し、性的な征服について話し合うことで 絆を

深めていた男性管理職グループの中にいたと主張した。コスティリオ氏は「 ベルバシール氏に関する

言及は、シティが強く争っている訴訟における根拠のない主張に基づいている 」と述べた。

 リンゼイ氏には そうした男性管理職の1人が マニ・シン氏であり、リンゼイ氏に交際を強要し、

彼女と彼女の子供たちを脅した幹部であったと訴えている。

 コスティリオ氏は「 数年前、2人の間の大きな金銭取引について質問されたとき、リンゼイ氏は

シン氏のことを ただの友人だと言っていた 」と説明。リンゼイ氏の弁護士によれば、2人の間には

権限の差があったため、そのような関係は あり得なかったという。

 コスティリオ氏によると、リンゼイ氏が 正式に訴えを申し立てた後、「 我々は 直ちにシン氏を

休職とし、調査を開始した。シン氏は 調査が完了する数日前に辞任した 」という。 シン氏は

コメント要請に応じなかった。

   リンゼイ氏の訴状には、男性が どの女性と関係を持ちたいかを語り、女性を 「性の対象」として

扱う環境が指摘されていた。

同氏の訴えが提出された後、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、同部門で働いたこと

のある5人の女性が、19年に トレーディングフロアを歩いているときに 男性からジロジロ見られた

という同じような経験を語っている。

 3人は、自分たちに対するシン氏の行動にも動揺したと述べた。 また、ある若手の男性行員は

1人の女性の前に クレジットカードを落とし、食べ物を調達してくるよう要求してきたという。

 

コカイン

 暗いエピソードが、株式部門が内輪を守っているという感覚を助長した。ある男性トップトレーダー

が子どもを車に乗せて 飲酒運転した罪を認めたとき、シティが この男性の資格を無効にしないよう

規制当局に要請したことが、業界の記録に残っている。

 資産家スティーブ・コーエン氏のヘッジファンドを含むトップ顧客の担当から、現在も シティで

働く このトレーダーが外れることはなかったと、5人の同僚が語った。

 

 ウォール街で バンカーやトレーダーが 薬物を使用することは以前からあったが、このグループ

における薬物の広がりは、他行で働いたことのある行員にとっては 目に余るものだった。

マンハッタン本店で、また シティ以外で 同僚や顧客とバンカーが コカインをやっているのを見た

ことがあると3人が証言している。

 このチームの女性メンバーの1人は、16年頃に トレーディングフロアに鼻と唇の間に白い残留物

がある同僚がいたため、それを拭き取るよう勧めたと打ち明けた。

 

 シティは 最近、不適切な行動を取り締まる措置を講じている。先月、投資銀行のディールメーカー

に対し、顧客イベントでの飲酒を控えるよう指示した。

株式資本市場グループのシニアディールメーカーの1人は、口論となった若手バンカーへの言葉遣い

を調査され、今年に入り休職に追い込まれた。

  

    新人時代に キャッチでのパーティーに参加し、スカートを短くするように言われた女性行員は、

サリマ・ハビブ氏のもとに行き、マネジャーに伝えないといけない と 同氏から言われたことを

思い出した。

 ハビブ氏はまた、人事に直接報告することも 選択肢の一つだが、それは 多大な努力を要すること

であること、あるいは その男性と直接対峙(たいじ)してみることも可能だとのアドバイスもして

くれたという。

 シティの広報担当は「 匿名の情報筋が言うところのハビブ氏が語ったとされるコメントは 誤って

表現されたものであり、キャリアを通じて 女性を支援し、女性に力を与えてきた 彼女の実績とは

一致しない 」と述べた。

 

   この女性行員は、米国での株式部門営業担当として 最近昇進したハビブ氏が、瞑想してはどうか

と彼女に勧めたことも覚えている。