消費者理解醸成への取組み  農水省 

                 2023年12月27日

  〇 AbemaTVとのタイアップ企画 

    アンバサダーのなかやまきんに君と経済学者の成田悠輔 氏を起用し、

    それぞれの視点でお話いただく動画を制作し、 AbemaTVで29日より配信予定

 

特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える : 財務省

成田 悠輔さん(経済学者)編
令和5年6月5日(月)開催(対談者の肩書は同日現在)


はじめに
 原田広報室長 皆さんよろしくお願いします。本企画では、財政や税の役割とその現状等について、

  読者のみなさまにわかりやすく伝えられるよう、様々な分野の方をお招きして未来やイマについて

  トークをしてもらいます。
   第四回として、経済学者であり、鋭すぎる的確な切り口で発信もされている成田悠輔さんを

  お招きし、財務省の主計局・松本課長、主税局・河本課長と対談をしてもらいます。
  成田さんには、財政や税制等についてズバリと切り込んだ疑問やご意見をいただければ幸いです。
 成田悠輔さん 今日は外からは見えにくい、財政政策・予算編成の制度と現場について教えて

  いただければと思い、ノコノコと出て参りました。

財政と民主主義について
 河本課長 主税局の河本です。すみません。今日は 対談を始めるに当たって 最初にはっきり

  させておきたい論点がありまして 口火を切らせていただきます。
      成田さんは、昨年「集団自決」の発言が取り上げられ炎上されていたと思います。

     「集団自決」という表現は まずいものだったと思っていますし、おそらく ご自身も適切では

      なかったと考えられていると思いますが、発言の趣旨について まず教えていただければと

      思います。
   成田悠輔さん 「集団自決」という単語はよくなかったです。21年の発言で、それ以降 面白がって

      繰り返してほしいと言ってくるメディアや人も多かったのですが、自分自身その表現はよくない

      と思ってやめたものです。
        一方で、主張の中身は シンプルで今も変わっていません。日本社会に新陳代謝を起こすべき

      というものです。政財界やメディア・芸能が典型ですが、権力を同じ組織や大御所が牛耳って

      おり、顔ぶれが数十年ほとんど同じです。この感じが「この国で頑張ってもしょうがない」

      という諦めの雰囲気を次世代に生み出してしまっているのではないでしょうか?
        この状況を変え、世代交代が どんな変化を引き起こすか検証するために、新陳代謝や世代交代

      を文化にしていく社会実験が必要だと考えています。そのために、田原総一朗さん、経済同友会

      の櫻田・前代表幹事や首相経験者の方など 大御所にお会いする度に「引退してほしい」とお願い

      して嫌がられている次第です。
        これは 社会的な引き際の問題ですが、広げれば 終末医療や死生観などの生物的引き際、

      今日の議題の一つでもある社会保障と財政の話にまでつながると思います。
   河本課長 なるほど。色々な文脈を説明される意図で 敢えて強烈な言葉で訴えたということ

      でしょうか。
   成田悠輔さん はい。この件に限らず、社会へのめざましを意図した強烈な言葉には意義が

      あります。もちろん 負の副作用もあり、ご批判は いくらでもいただければと思います。

      それで 私が打撃を受けたり 仕事を失ったりする可能性も もちろん引き受けます。
         逆に 自分も財務省の方に聞いてみたかったのですが、世間の一部で展開されるいわゆる

      「ザイム真理教」批判を どう捉えているのでしょうか。
   松本課長 主計局の松本です。1つの問題として、受益と負担の認識が分断されており、税など

       の負担の部分が強く意識されるのに対して、受益の部分の認識が薄いことが影響していると

       感じています。
         ある学者さんのアイディアですが、公的なサービスを受けるとき、負担がきちんと還元されて

       いることが認識できれば、理解が変わってくると思います。実現可能性はともかく、例えば、

       病院での支払いの際に、税金や保険料で賄われた受益の部分も明示するようなイメージです。
    成田悠輔さん 受益については、補助金などのお金に目が行きがちですが、社会生活の品質全体

       が受益の結果ですよね。日本ほど 安全できれいで、公共交通もちゃんと動く国は他にほとんど

       ありません。実際、Social Progress Indexというものがあり、経済だけでなく、環境や衛生、

       メディア、教育などの質を総合的に指数化しています。この指標で 日本は 今でも北欧に次ぐ

       世界8位です。
    松本課長 他方で、幸福度や満足度といった国民の意識で測ると、日本は 低いですよね。

       政府内でも、経済運営の成果を測る尺度のあり方について議論がありますが、成田さんの

       おっしゃった生活の質の高さに着目することも大事かもしれません。
    河本課長 負担の話になると、みんな「無駄の削減を」と言いますが、誰しも「自分以外の分野」

       に無駄が「あるはず」というだけです。そんな中で、いやいや、まだ負担なんて求めなくても

       いいんだよ、というMMTのような説について、成田さんは どういった認識でしょうか。
    成田悠輔さん 貧困化する日本が生むルサンチマンを晴らすために仮想敵を作るとすると、

       財務省か 自民党か 大企業くらいしか 候補がいません。この仮想敵路線を過激化すると

       財務省陰謀論やザイム真理教叩きになり、割合は ごく一部ですが、絶対数ではそれなりにいる

       印象です。批判側との生産的な論戦を張れなかった財務省やマクロ経済学者の側にも責任があり、

       批判する側とされる側でコミュニケーションが成立していない印象を持っています。財務省の

       業務も、財務省批判に影響を受けますか。
    松本課長 財政政策については、たしかに、様々なご意見・ご批判があります。財務省も、緊縮的

       なことばかり考えているわけではないのですが、極端に拡張的な財政運営もリスクがあると

       思います。一方的な議論の影響で スタンスが変わることはないですが、世の中の議論の状況が、

       政策決定プロセスで一定の影響を及ぼす面はあると思います。
    成田悠輔さん 財務省職員やマクロ経済学者も普通の人からは姿が見えないため、その主張が

       広がらず、結果的に メディアに出ている経済評論家的な人の声だけが過度に国民に届いて

       しまっていると思います。財務省も、少数の職員の方だけでも 顔が見える形で発信すると良い

       のではないでしょうか。
    河本課長 顔を出して説明するからこそ伝わるものもあると思います。
       そうした問題意識から、我々もインタビューを受けましたが*1、ビビりながらではあります

       が始めているところなんです。
    成田悠輔さん お二人の記事を読ませていただいて、無根拠な断言をせずに 中立的なトーンを

       保とうという涙ぐましい配慮が伺えました(笑)。実際、適切な財政規律の度合いなども よく

       分からないですよね。公債の積上げと将来の経済成長の関係について研究はありますが、

       結論は出ていません。そもそも、日本のような経済規模の国が これだけの公債を抱えた例が

       ないので、過去のデータや事例に基づいて明確なことを言うのは無理でしょう。そうした中で

       何かを発信するのはとても難しいと思います。
     松本課長 ご指摘の記事では、債務残高が膨らむことはリスクを伴うこと、そのリスクが直ちに

       顕在化しなくても、リスクを大きく膨らませて将来世代に渡すこと自体が問題であることを、

       伝えようとしました。
     成田悠輔さん 適切な財政規律のラインを定量的に引くことはできないとしても、予算や税で

       「ここはこう変えるべき」と考える点は何でしょうか。いったん政治的な難しさは無視した

       として。
     松本課長 一つ挙げるとすれば、社会保障です。今後、少子化対策にせよ、GXやデジタルにせよ、

        社会課題を解決して 経済成長にもつながるような支出を増やしていく必要があると指摘されて

        います。他方で、ただでさえ 大きくなっている社会保障予算も、高齢化に伴い、放っておくと

        更に膨らみかねません。効率化の取組が不可欠だと思いますし、負担のあり方も考えていく

        必要があると思います。
     河本課長 予算や税は本当はどうあるべきか、10人いれば10人の答えがあるような気がします。

        難しいのは やっぱり民主主義的なプロセスの中で、例えば 1000の予算を10人で割ると1人

        100の利益ですが、1億人で分けると 一人当たりはごくわずかになるため、その1000の予算を

        獲得したい10人の主張が、ほぼ利益を認識できないレベルの多数の声、つまり「 無くても

        いいじゃない 」という声よりも大きくなるところだと思います。成田さんの最近の著書では、

    そうした多くの人の無意識レベルの選好を実際の投票にどう反映するか、という視点がとても

        面白いと思いました。
     成田悠輔さん 無意識データの活用にせよ、直接民主主義的な形にせよ、今とは別のやり方で

        予算編成を決めるとどうなるか見てみたいですね。
     松本課長 ご存じだと思いますが、政策検討の一つの考え方として、フューチャーデザインが

        あります。国民の皆さんに認知いただくとともに、予算の議論などでも活用できるといいと

        思っています。
     成田悠輔さん 現在の民主主義のもう一つの限界は将来世代が声をあげられないことですね。

        子どもの代理投票権を 親に与えたらどうかとか、票を平均余命で重みづけたらどうかみたいな

        ことは 昔から言われています。私自身、票を平均余命で重みづけたら 選挙結果がどう変わるか

        計算してみたところ、Brexitや米国大統領選の結果も覆ることがわかりました。
     河本課長 実際の制度を変えるには 時間と労力がかかりますが、少なくとも意識をどう変えて

        いくかということが、今できる大切なことだと思います。

社会的な議論の必要性について
     成田悠輔さん 先ほど、受益と負担の話がありましたが、それぞれの世代の受益・負担比率を

    計算して、「 比率をすべての世代で一律にするには 予算はこう変わらなければならない 」

        といった見せ方をすることもできそうですね。先ほど松本さんから、社会保障を変えるべき

        との話がありましたが、具体的には どう変えるべきなのでしょうか。
     松本課長 医療や介護は国が値段を決めており、最近でも、医療や介護の従事者の処遇改善の

        ために値段を上げるべきとの議論がありますが、利用者にとって負担増となることは、あまり

        認識されていないと思います。保険料負担にはね返ることも、意識する必要があります。
        病院や介護施設の経営状況はどうなのか、値上げが従事者の処遇改善にきちんとつながるのか

        等々、丁寧に議論をしていかなければならないと思います。
     成田悠輔さん この手の問題は 利害対立を生まざるをえない論点なので、すぐに「 世代間対立を

        煽っている 」と騒がれて炎上します。その結果、触れないことが得になってしまっていて、

        情報や議論が尽くされなくなっているのが問題だと思います。
           ただ、目に見えないところで社会の雰囲気は変わってきているとも感じます。特別養護

        老人ホームで話を聞いていると、ここ5年くらいで ご本人やご家族の死生観や終末医療観が

        大きく変わってきたという話を聞くことがあります。メディアや政治には見えないところに

        こそ本当の変化の萌芽があるかもしれません。
        表面上の炎上で アレルギー反応を起こさず、人々の隠された声を制度や政策にどのように反映

        させていくかが課題だと思います。

国家と税・通貨のイマ
     成田悠輔さん もう一つ別の対立軸として話してみたいのが、金持ちと庶民の対立です。

        日本は「 お金持ちをいじめるのが得意な国 」とよく言われています。所得税や相続税が高い

        と指摘されていて、自分の周りでも海外へ出るお金持ちが多いです。大きな税収を生み出す人

        が海外に出てしまう状況について、どのような認識なのでしょうか。
     河本課長 お金持ちのいう「負担が大きい」という話の比較対象はシンガポールなどの税率の

        低い国だと思いますが、予算規模でみると、やはり そうした国では低い税負担に見合った

        公共サービスしかありません。他方で、「 受益が少ない 」という話の比較先は だいたい

        北欧諸国ですが、これらの国では 相応の税負担があります。それぞれ 一面しか見ていない主張

        にどう向き合っていくかは いつも考えさせられます。
          シンガポールの税負担は G7のどの国よりも低い水準で、それに日本が対抗することはない

        と思います。現在の公的サービスのレベルを維持するならば。また、シンガポールへの移住や

        進出は税以外の要因も併せて考える必要があると思っています。
          あと、日本人は、「海外で活躍する日本人」を応援することが好きな傾向がある気がしますが、

        個人的には、日本で生まれて 日本の公教育を受け、日本の安全な社会の恩恵を受けて育って

        きた人達が、その環境を次世代に引き継ぐための負担をすることなく、「 税金が安いから 」

        という理由だけで 外国に移住してしまうということを、もう少し疑問視する姿勢があっても

        いいのかなという気はしています。
     成田悠輔さん 加えて 日本の特徴として、儲けられるだけ儲けたいと思っていない企業が多い

        のではないかと勘繰っています。京都の老舗旅館など、一泊100万円にしてもお客が来ると

        思いますが、10万円に抑えています。おそらく、誰でも がんばれば手の届くような価格帯

        にすることが、正しいビジネスの在り方だ と考える日本企業が多いのだと思います。

        そもそも 日本では、すごくいいものを すごく高く売るというビジネスが大成した例がない

        ことも要因なのかもしれません。
     河本課長 「 より良いものをより安く 」という言葉が本当にそれでいいのかと 最近 指摘され

        始めていますね。似たような話をすると、東京のあるラーメン屋では開店時から閉店時まで

        常時40分くらいの行列ができていますが、経済合理的な行動をすれば、行列が 例えば 5分に

        縮まるところまで価格を引き上げることで、人的投資や設備投資を全くしなくても収益を倍増

        できるでしょうし 従業員に払う給料も引き上げられます。消費者が考える付加価値に見合った

        プライシングをするだけですが、この「 消費者余剰を取りにいかない営業 」は、とても日本的

        だなと感じます。

国家と税・通貨のミライ
     成田悠輔さん 税や価格の仕組みを、一物多価的に柔軟化していくような変革が起こるのでは

        と最近考えています。キャッシュレスが進む中で、個人の消費行動や収入等がデータとして

        蓄積され、それを踏まえて 個人ごとに異なる価格や税が設定される、みたいな時代が来ると

        考えています。現に 一部のEコマースでは実装されていて、同じ物の値段が見る人によって

        違ったりしています。
     松本課長 消費税の軽減税率導入の議論の際に、税率そのものを変えるのではなく、所得の

        低い方々に 事後的にポイントで還元する案が浮上しました。当時は 見送られましたが、

        キャッシュレス環境も進んでおり、技術的には実現できるのかもしれません。
     河本課長 シンプルに言うと、同じ財・サービスを購入するけれどもお金を持っている人は

        多く払ってね、という仕組みでしょうか。価格設定に 累進構造が盛り込まれるようなもの

        ですね。直観的には、そうなると財源調達のための税金は単一の比例税率だけでよく、税の

        持つ所得再配分機能は価格メカニズムに委ねられることになるような気がします。

        究極的には、給付を含めた政府の所得再分配政策は必要なくなり、国家は それこそ夜警国家的

        な役割に戻るのかもしれません。ほとんど SFのような話ではありますが、外国で観光客用

        メニューを出されるような感じですよね。
     成田悠輔さん 今の常識からすると難しいと思いますが、あらゆる価格や税が自由に変わること

        が当たり前になれば あまり気にならなくなるのではと思います。
        今は お金で測られる価格で動く市場があって、市場により格差などの歪みが生じ、それを正す

        ための分配を税と国家がしていますが、価格と税が融合することが 未来のマクロ経済の大きな

        方向性じゃないかと思っています。
          さらに その先には、価格と税を一体で デザインする新しい貨幣制度みたいなものがあると

        思います。現行の法定通貨では難しいですが、暗号通貨みたいな仕組みであれば、

        ベーシックインカムやベーシックアセットのような再分配機能を通貨の仕組みの中に組み込む

        ことが技術的にできます。そうすると、国家や税を使った再分配機能が、100年単位で見ると

        ちょっとずつ 消滅していく可能性さえあると考えています。
          その意味で、市場や国家の失敗みたいな話は、一物一価しか実行できないという技術的な限界

        が作り出した歴史上の一フィクションという可能性もあります。この時代が終わると、通貨

        ・価格・税の一体システムをデザインすることで、国の機能も 夜警国家的なものに縮小して

        いくかもしれません。
     河本課長 普段 我々が考えたこともなかった領域のお話ですが 非常に面白い議論ですね。
 

財務省の働き方について
     成田悠輔さん よくブラックと言われる官僚の方の働き方についても伺いたいのですが、

        財務省も含めた官庁が働き方を変えるためには、国会から変わらないと難しいでしょうか。
     河本課長 国会関係の作業については 工夫の余地はあると思いますが、最終的には、役所の仕事

        に求められるスピード感や精緻さに対する社会の許容度みたいなところが影響すると思います。

        社会的な課題が発生したときに、「 残業することになるので、それに対処する法案は来年の

        通常国会でいいですか? 」と言って 時間をいただけるのかどうかということですが、実際には

        難しいだろうと思います。
     松本課長 意思決定がトップダウンで、部下は その通り動くとすれば、業務時間は削れると

        思います。ただし、主張すべきことも控えてしまうようでよいのか、という悩みもあります。

        情報を広く共有して みんなで議論していくほうが、組織全体のモチベーションも上がりますが、

        時間がかかる可能性はあります。
        また、仕事の合理性でいうと、デジタルの活用で合理化できる余地はまだあると思います。

        昔は、職場の外ではメールの確認すらできなかったので、進歩はしていますが。
     成田悠輔さん デジタル対応がなかなか進まないのは、霞が関に専門家や専門部署がないからか、

        それとも セキュリティなどの問題からなのでしょうか。
     松本課長 両方あると思います。前者は、デジタル庁もできましたし、省内でも担当部署が

        頑張っていますが、専門人材は足りていない と思います。また、官庁の業務が民間企業と

        比べて特殊なために、既存のシステムを 丸ごと導入して解決、とはいかない点も、影響して

        いると思います。
     成田悠輔さん お二人が入省したときと比べて、今の20代の官僚のタイプは変わってきている

        と思いますか。
     河本課長 根幹の部分は 変わっていないと思います。国の制度といった大きな仕組みを通じて

        社会を良くしたいという気持ちは基本的にはあると思います。
     松本課長 一方で 働き方の部分は大きく変わっています。女性職員も増え、男性でも共働き家庭

        がほとんどになっており、それを考慮した働き方、ワークライフバランスに変わってきて

        います。改善途上であり、あり方を模索している、といったところだと思います。