「風評加害」との戦いと現状 東日本大震災から13年 

 処理水をいまだ「汚染水」と発信し続ける勢力 告発も脅威に 

          2024.03.09.    (夕刊フジ)|(NTTドコモ)

 

福島市のライター・林智裕氏が緊急寄稿

 2011年3月11日に発生した東日本大震災からまもなく13年となる。昨年8月以降、

東電福島第1原発の処理水の海洋放出も始まり、復興に向かって 一歩前進している。

処理水を「汚染水」と発信し続ける勢力も存在するが、風評被害の当事者による「加害者」の

告発も力を持つようになってきたという。 地元福島市のライター、林智裕氏が 緊急寄稿で迫る。

 

   震災から13年経ち、福島の復興は進んだ。一方、地元では 今でも「風評・偏見差別」が

問題視される。行政は 対策の主軸を「 正確な情報発信 」にしてきたが、効果は 不透明だ。

現に、昨年 海洋放出が本格化したALPS処理水をいまだ「汚染水」と呼び続ける勢力は少なくない。

これまでの「風評対策」は有効だったのか。

 

   2022年、独立系シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアチブ(API)」が公表

した事故調報告書は、行政の対策を「 風評被害の概念が曖昧 」「 有効性への視点が不足 」

「 (正確な情報発信方針は)真っ当な態度のように見えるが、実際には 風評と正面から向き合う

こと、差別や偏見を持ち その解消を阻害しようとする過激な者たちに立ち向かうことを恐れる

リスク回避、(中略)〝 事なかれ主義 〟に他ならない 」と断じた。

 

   報告書が言及した「 差別や偏見を持ち 風評解消を阻害しようとする過激な者たち 」を「風評加害」

と呼ぶ動きが SNSを中心に広まっている。

詳細は 今月28日に出版される『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』

(徳間書店)に記したが、これまで 「風評被害」という言葉は 行政・メディア・研究者が好んで

用い 社会問題化されてきた一方、「風評加害」は看過されてきた。

   被害があれば その原因の「加害」が必ずある。その告発には、風評の原因者と その実態を

衆目にさらす効果がある。

 

   告発は 風評を広めてきた側にとって 脅威となり、「風評加害」という言葉と告発者をおとしめ、

無力化させようとする抵抗も激しくなった。「性加害」や「ハラスメント加害」がそうであるように、

加害者と共犯者は、指摘された加害を認め 謙虚に向き合おうとせず、擁護・隠蔽し、時に 逆恨みや

Victim Blaming(被害者非難)を通して言論弾圧や事実隠蔽を図ろうとする傾向がある。

 

 たとえば、朝日新聞は21年、「『風評加害者』って誰? 汚染土利用に漂う不安な空気 」と

題した記事で「 福島産であることを理由に買わないと、いつか『加害者』と呼ばれてしまうのか? 

いやな空気を感じた 」と書いた。

   今年2月には「 汚染水 」呼ばわりを繰り返してきた市民団体が学者を招き、「風評加害」の告発

を「 事故の加害責任を、被害者を含む国民に転嫁する 」などと主張した。

しかし、「風評加害」を追及されているのは、事あるごとに「汚染」「不安」を不当に喧伝してきた

権力ある特定マスメディア・文化人・学者、団体、その本人たちだ。

 

   「風評加害者」側の抵抗が激しくなる 一方、同じ 2月には 東証プライム上場の「オイシックス

・ラ・大地」の会長(当時)が X(旧ツイッター)で 福島第1原発の処理水を「放射能汚染水」と

呼ぶなど非科学的・差別的な発信をしたことで「風評加害」との批判が集中し、株価急落を招き、

辞任に至った。

   当事者の告発は、次第に力を持ちつつある