航空自衛隊が封印した岐阜基地「PFAS汚染」 

県も“汚染マップ”公表封じ、防衛省“土壌調査”削除要求の現実 

                    2024.2.18   諸永裕司(フリージャーナリスト)        Merkmal(メルクマール)

 

    岐阜県南部に位置する各務原市の飲料水から、発がん性が指摘されている有機フッ素化合物PFOS

とPFOAが 高濃度で検出された。汚染は どこまで広がっているのか。

 

岐阜基地すぐ西側で高濃度検出

   2023年7月、日本で規制されている化学物質であるPFASが、岐阜県南部に位置する 各務原市の

飲料水から高濃度で検出された。PFASは 有機フッ素化合物の総称で、代表的なものにPFOSとPFOA

がある。分解・蓄積されにくく、なかなかなくならないことから「永遠の化学物質」と呼ばれている。

その種類は 1万種類以上あるとされている。

 

 汚染源ではないか と疑われたのは、市内にある航空自衛隊の岐阜基地だった。

「 航空自衛隊が封印した岐阜基地「PFAS汚染」 原因は 航空機事故で使われる泡消火剤か 」

(2024年2月12日配信)に続く記事。なお文中の「ng(ナノグラム)」は、10億分の1gを意味する。

 

                          【画像】えっ…! これが水質調査の「結果」です(計9枚)

※ ※ ※

 

 

 各務原市は 2023年8月、高濃度が検出された 三井水源地から半径500mにある井戸を調べたところ、

44か所のうち13か所で 国の定める目標値(PFOSとPFOAの合計で50ng)を超えていた。

その大半は 「 航空自衛隊・岐阜基地のすぐ西側 」にあり、最大で 450ngだった。一帯の地下水は

基地のある東から、水源地のある西へと流れている。

 

 岐阜基地には、研究開発の要であり、航空自衛隊で 唯一となる飛行開発実験団のほか、航空管制

や飛行管理業務を担う岐阜管制隊、航空機部品の保管および航空機を運用するために必要な物品を

提供する第2補給処などがある。また、航空機事故による火災に対応するため、PFOSを含んだ

泡消火剤も備えていた。

 市は さらに、市内全域の95か所で 水質調査を行うことにした。 基地内にある 2か所の井戸

(専用水道)も対象となった。その結果、5か所で目標値を超えていた。 また、基地内の井戸は

33ng と 38ngで、このときは 目標値を下回っていた。

 

封じられた汚染情報
    検査結果が発表される 前日の9月27日、岐阜基地で 渉外を担当する基地対策専門官は、
市環境室長に こんなメールを送っていた。

 

    < 濃度等高線の地図については、公表を見送る という話をお聞きしました >

 

   市は 水質調査の結果を濃度ごとの等高線で示した地図にまとめていた。

   ・30~50ng    ・51~100ng    ・101~150ng     ・151ng以上

の4段階に分け、濃度分布から 基地が汚染源だとうかがわせるものだ。公表されると基地に疑惑の目

が向けられるためか、基地側は 神経を尖らせていた。このため、

 

    < 三井水源から500m以内の井戸の調査に関し、地図上に濃度を記載した地図を作成される予定

     はありますでしょうか。また、あれば いただくことはできないでしょうか >

 

などと、見せてもらえないかと 再三、市側に求めていたものだった。

 だが、基地対策官のメールにあるように、濃度等高線図は 最終的には公表を見送られることに

なった。その背景について、関係者は こう打ち明ける。

 

   「 地図は すでに作成されていたのですが、岐阜県知事から各務原市長に、公開しないよう

   求める連絡が入ったため、公表できなくなったのです 」

 

 各務原市に地図を公開しないよう求めたのかについて、岐阜県は

 

  「 その後も 追加調査の予定があり、調査完了後に すべてのデータを整理して対応してはどうか

   と意見を伝えた 」

 

と回答した。いずれにしても、各務原市が作成した濃度等高線図はお蔵入りとなった。

                                                      知事のプロフィール - 岐阜県公式ホームページ(秘書課)

 

市の思惑と東海防衛支局の抵抗

 それだけではない。市は 汚染源を特定しようとする動きを 防衛省からも封じられていた。

2023年9月、岐阜県の古田肇知事は、

 

    「 必要があれば 市と連携し、国に対する 基地内での土壌調査の要請についても検討する 」


と県議会で答弁した。

 それから 約3週間がすぎた10月23日、知事発言の意図について、岐阜基地を管轄する防衛省

東海防衛支局は、岐阜県の担当者から聞いたとする内容を 各務原市にメールで伝えている。

 

   < 知事発言は (略)最終的には 土壌調査までも見据えるというニュアンス
   土壌調査について、県において 検討段階にもなく白紙 >

 

   知事は すぐに調査を要請するわけではない、と東海防衛支局は説明した。その翌日、今度は

市の意向をたずねた。

 

   < 「 井戸調査が終了した段階で、次の調査(土壌調査or原因地特定のための調査)に移る 」と

    お聞きしていましたが、市として(略)地質調査は既定路線という認識でよろしいでしょうか? >

 

 市の環境室長はメールを返す。

 < 原因場所(略)周辺の土壌調査をすることによって 汚染土壌を特定し、汚染土壌を除去する

    ことによって 地下水汚染が解消できる、といったイメージをお持ちの方が少なからずおみえに

    なることは間違いありません >

 

  そのうえで、東海防衛支局が関心を寄せる土壌調査については、サンプリング技法が確立されて

いないとしながらも、防衛省への要望書を作成中であると伝えた。

 

    < 調整中の「要望書」案では、土壌調査の実施に対する要望も入れるか、現在検討中です。

    従いまして、現在の所「既定路線」とはなっていないものの、暗黙の共通認識となりつつある >

 

東海防衛支局の「越権行為」
 翌10月25日17時27分、市の環境政策課は 要望書の原案を 東海防衛支局に添付ファイルで送った。
1時間半後、施設企画課長補佐から返信のメールが届く。

 

    < 要望書の「1.基地内調査等について」の「土壌」の語句について 修正・削除することは

    可能でしょうか >

 

  理由として、3点を挙げていた。

   < ・基地への土壌調査をすることにより、値の検出された周辺の民間の土壌調査も実施する必要
       ・土壌調査の評価基準が定まっていない中、落としどころが不確定(値が0になるまで何百m

       も掘るのか、土壌の入れ替えを含めて費用はどこが負担するのか等)
     ・省としても 回答困難(現時点で PFOS等の検出と自衛隊との因果関係について確たることを

       申し上げるのは困難) >

 

  1 について、仮に基地周辺の調査をする必要性があるとしても、市が 基地内の土壌調査をすべき

でない理由にはならないだろう。そもそも、市が行う調査のあり方を決めようとするのは

「 越権行為 」ともいえる。

 2 について、「 落としどころが決まっていない 」ことは、基地側が土壌調査をしたくない理由

にはなっても、市の調査を止める理由にはならないだろう。地下水汚染との関連をみきわめるのに

「何百m」も調べる必要はない。汚染対策の費用は「汚染者負担の原則」に従って払われるものだ。

 そして 3については、論外だろう。まさに 因果関係がわからないからこそ調べるのだ。

 

幻となった要望書
 

 市が作成した要望書の原案は 次のようなものだった。

 

   < 有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)については、科学的な検証等はその途上であり、土壌に

    排出されてから 地下水に移行する期間等も明らかではなく、明確に その原因を特定することは

    困難なものと考えております。しかしながら、当該物質を効果的に除去および低減するためには、

    地下水以外の公共水域や土壌等にも その調査範囲を広げ、その残留状況を把握することも肝要

    であると考えています。

       これらを踏まえ、貴省による 基地内土壌調査の実施等、市民の不安払拭や民生安定等のため

    の様々な対策をとっていただくことを切に要望します >

 

 原案を受け取った 翌10月26日、東海防衛支局の企画係長は 念押しするように「修正案」を

市に送っている。「 今後の当市の取り組みと連携し 」という表現を挿入するとともに、文面にある

「土壌調査」のうち「土壌」という文字を 横線で消したものだった。

 要望書は 8月に素案が作られ、調整を重ねて 11月にも防衛省に提出されるはずだった。

要望書についての市の決裁文書は、区分が「市長決裁」で、宛先は「防衛大臣 木原稔」、その下に

市長、副市長以下、水道部を含めた計21人の決裁印が押されている。日付は「令和5.10.25」と

手書きされていたが、要望書は いまも出されていない。

 

 関係者によると、要望書の提出には、岐阜県知事も難色を示したという。岐阜県の古田知事は

 

  「 その後も 追加調査を予定しており、調査完了後に必要なすべての要望事項をまとめて提出する

    ほうが適当ではないか、との意見を伝えた 」

 

としている。

 

全国の基地で高濃度
 

 ところで、この幻の要望書には、基地内の土壌調査と並んで、財政支援の項目も盛り込まれていた。

 

 < 非常に多額の支出が必要であり、独立採算を原則とする上水道事業においては、それらの

    経費は 市民の皆様から徴収する水道料金に影響することが考えられます。
    この度の事案は、燃料費の高騰などの 通常の経済変動によるものではないことから、この多額の

    対策経費を 市民の負担に転嫁することは、到底 理解が得られるものではありません。

       しかし、土壌調査を行えなければ、汚染源は 特定できず、汚染者負担による賠償も得られない。

    水質浄化のための費用負担は 市にのしかかったままだ。基地内に汚染された土壌があれば、

    除去されない限り 地下水の汚染も続くとみられる >

 

 しかし、各務原市によると、第2期工事の概要が定まっていないことなどを理由に、

防衛省による PFAS汚染に対する 新たな予算措置は決まっていないという。

 

   「 土壌調査を 自ら行わず、市による土壌調査も阻み、財政支援にも踏み出さずにいる理由 」

 

についてたずねたところ、防衛省から回答はなかった。

 なお、防衛省の調査では、全国21か所の航空自衛隊基地にある消火水槽から国の指針値

(PFOSとPFOAの合計で50ng)を超える PFOSとPFOAが検出された。

すでに処理されたものも含めると、

   ・那覇基地(沖縄県那覇市、160万ng)  ・小牧基地(愛知県小牧市、110万ng)
   ・小松基地(石川県小松市、90万ng)   ・美保基地(鳥取県境港市、45万ng)

 

など高濃度でみつかっており、防衛省では 泡消火剤の処分が課題となっている。