銀行ネットワークに不具合

 

全銀システム、復旧後も引きずる補償の行方 50年で初の大規模障害

                                  2023.10.12      日経ビジネス電子版 

 銀行間の振り込みや資金決済を担う全国銀行データ通信システム(全銀システム)で10日朝

に発生した障害が、丸2日たって ようやく復旧した。11金融機関は ユーザーが被った損害の

精査を本格化させる。しかし 金融システムの中核に対する信頼が失墜した影響は大きく、金融庁も

実態の把握に乗り出す構えだ。

 

 「 振り込みの遅延で 多大なご迷惑をおかけし、おわび申し上げる 」。

 

 全銀システムを運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)の辻松雄理事長は 11日夕、

オンライン記者会見の冒頭で こう謝罪した。接続する金融機関が 1000を超え、1日あたり

平均13兆円ほどの取引を処理する全銀システムで障害が発生するのは、1973年の稼働以来初めてだ。

 

 会見は 2時間近くに及んだが、影響が生じた規模を巡っての説明があやふやで 空転する時間が

長かった。そもそも トラブル自体に不慣れな上、それが 10日朝から丸2日たっても解消されない

展開に焦りを隠せない様子だった。

 

 障害が起きたのは 三菱UFJ銀行 や りそな銀行など11の金融機関だ。他行宛ての送金や他行から

の着金が遅れ、10~11日で 延べ506万件分の処理に影響が出た。受け付けた送金のうち、

10日の49万件 と 11日の38万件の 計87万件は 11日午後3時半までの日中に処理できず、

全銀ネットは 別のシステムを使う夜間取引などの対応に追われた。

 各機関は 取引制限などで対処した。11日は、中小企業の利用が多い商工組合中央金庫が他行宛て

の振り込みを終日停止。三菱UFJ銀行は午前11時~正午に振り込みの受け付けを止め、山口銀行

もみじ銀行も取引を一時制限した。

 

全国銀行協会に求償の可能性も

 東京都内に住む 40代の男性会社員は、クレジットカードの支払日を 10日に設定していたが、

三菱UFJ銀行にある引き落とし口座の残高が 5000円不足していたため、ネット銀行から 1万円を

振り込んだ。 しかし、振り込みの受け付けを知らせるメールが ネット銀行から届いたのに、

三菱UFJ銀行には着金しないまま。「 このままでは カードが止まってしまう 」と、コンビニエンス ストア

に駆け込んで ATMから 1万円を送金し、何とか事なきを得た。

  システム障害が ちょうど振り込み期日などが集中しやすい「5・10日」に起きたこともあり、

各地の銀行支店では 企業の経理担当者らが困惑している場面もあったという。

 

   全国銀行協会は11日、今回の障害で不渡りになった手形や小切手について、不渡報告への掲載

を猶予することを金融機関あてに通知した。また クレジットカード各社は 利用額の引き落としが

できない場合、いったん延滞として取り扱うが、個別の申し出によって 今回の障害が原因と把握

できれば 延滞認定を解除する方向だ。

  障害に見舞われた金融機関の一部は、公的な手当や保険金の振り込みでも遅れを確認している。

大手生命保険関係者は「 もともと保険金の支払いに 数日間の余裕を設けているが、それを過ぎた

場合、発生した利息分を受取口座の銀行へ求償する可能性はある 」と語る。

  三菱UFJ銀行りそな銀行は、今回のシステム障害期間中に 利用客が 本来より多く手数料を

支払った場合、差額を負担する方針だ。

2021~22年に システム障害が相次いだみずほ銀行も「 振込手数料の差額負担などを含め、顧客と

会話して損害を補償しているケースがある 」(広報担当者)といい、同様の対処を念頭に置いている

とみられる。

 

    全銀ネット関係者は、システムベンダーであるNTTデータについても「 これから障害の原因を

究明する中で、責任ある対応を求めるかもしれない 」と含みを持たせる。

  障害が起きたある銀行の幹部は「 補償の規模が膨らむようなら、全銀ネットや母体の全銀協に対し、

11金融機関が相応の分担を求めるだろう 」と読む。

 

    システムが復旧し、これから具体的な影響を精査する作業が始まる。前代未聞のトラブルによる

被害の全体像が見えてきた時に どう対処するのか注目される。

 

金融庁、報告徴求命令を検討

 今回の障害は、全銀システムと各金融機関を結ぶ「中継コンピューター」(RC)にある、

銀行間手数料の設定などをチェックするプログラムで起きたとみられる。 

 RCは 保守期限を迎える6年ごとに更新する必要があり、全銀ネットは 23~29年の間、24回に

分けて全金融機関で実施する予定だ。その作業の第1弾が 三菱UFJ銀行やりそな銀行などが対象の

10月7~9日だった。 

 

 全銀ネットは 手数料を参照する機能を省いて障害を収めた。ただ、あくまで応急措置である以上、

RCの更新作業そのものが遅れるのは間違いない。 25年7月には 低コストで汎用性が高い方式を

システムに採用し、PayPay や LINE Payといった スマートフォン決済事業者もつなぎやすくする

予定だ。  また 次期全銀システムの稼働を 27年と見込み、引き続き NTTデータがベンダーを務める

が、安定運用に向けた十分な検証は欠かせない。

 

  今回の障害には、金融庁もいら立っている。監督局幹部は「 銀行取引の基幹システムで、顧客に

大きな影響が生じる障害が長時間続いたのは、日本の金融業に対する信頼を著しく損ねた 」と問題視。

全銀ネットや母体の全国銀行協会に対して、近く報告徴求命令を出す方向で検討しており、その先に

立ち入り検査も視野に入れている。

                                                                                 鳴海 崇、三田 敬大