ロンドン条約 - ATOMICA -

    1972年11月ロンドンで「 海洋汚染防止に関する国際会議 」が開かれ、「 廃棄物その他の

         投棄による海洋汚染の防止に関する条約 (ロンドン条約)」が採択され、1975年8月に

   15ヶ国の批准国到達により発効した。

    その目的は、放射性廃棄物とその他の廃棄物を 海洋へ故意に投棄することを制限すること

   である。この条約では、(1)投棄禁止の廃棄物、(2)投棄のため、適当な国家機関の事前

   の特別許可を必要とする廃棄物、(3)投棄のため事前の一般許可だけを必要とする廃棄物

   と、投棄規制の違いによって3つに区分されている。

    1982年の第6回会議で、スペイン、北欧諸国等の希望により 海洋調査の結果が出るまで

   海洋投棄は 一時中止することが決定され、1982年以降は 海洋投棄は実施していない。

   1993年の第16回会議では、放射性廃棄物の海洋投棄は 全面的に禁止となった

   なお、日本は 1980年にロンドン条約を批准している

 

    ※ ロンドン条約及びロンドン議定書|外務省 

     ア 本条約は,前文,本文22か条,末文及び3つの附属書からなる。(条約テキスト:和文(PDF)

       イ 本条約は,人の健康に危険をもたらし,生物資源及び海洋生物に害を与え,海洋の快適性を損ない

        又は 他の適法な海洋の利用を妨げるおそれのある廃棄物その他の物の船舶等からの投棄による海洋汚染

                       の防止を目的として   

                    ウ 主要な規制事項は次のとおり。

                      (ア)附属書Iに掲げる廃棄物その他の物(注1)の投棄を禁止
                          (注1):有機ハロゲン化合物,水銀及び水銀化合物,産業廃棄物放射性廃棄物等を含む    

                   ・・・

        (ウ)他の全ての廃棄物その他の物の投棄には事前の一般許可を要する。

        (エ)いずれの許可も,附属書IIIに掲げる全ての事項(物の特性及び組成,投棄場所の特性及び投棄

         の方法等)について慎重な考慮が払われた後でなければ与えてはならない。

 

    Q&A | 東京電力

     Q。ALPS処理水の海洋放出は、廃棄物等の海洋投棄を規制する「ロンドン条約」に違反

      しているのではないのですか。

    A。福島第一原子力発電所を含む、国内外の原子力関連施設からの排水は、ロンドン条約違反

      にはあたりません。

   「ロンドン条約」は、海洋汚染の原因の一つである廃棄物等の海洋投棄を国際的に規制

  するための締約国がとるべき措置について定めたものです。
  同条約では、適用対象を「投棄」に限定し、「投棄」を「海洋において廃棄物等を船舶等

  から故意に処分すること及び海洋において船舶等を故意に処分すること」と定義して

  います。
   これは、「陸上からの排出は禁止していない」と解され、福島第一原子力発電所を含む、

  国内外の原子力関連施設からの排水は、ロンドン条約違反にはあたりません。

          ☟

昭和48年 原子力委員会月報18(6)廃棄物その他の物質の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(仮訳)

(a)「投棄」とは、次のことをいう。

 
  (i)船舶、航空機、海洋施設 又は他の人工海洋構築物から廃棄物その他の物質を 故意に 海洋に
      廃棄すること
  (ii)・・・
(b)「投棄」は、次のことを含まない。
 (i)船舶、航空機、海洋施設又ほ他の人工海洋構築物の通常の運行に付随して 又は その運行から生ずる
  廃棄物その他の物質を海洋に廃棄すること。
   ただし、廃棄物その他の物質であって、その廃棄のために 運行する船舶、航空機、海洋施設 若しくは
  他の人工海洋構築物により運搬され 若しくは それらに向けて運搬されるもの 又はそれらの船舶、舶空機、
      施設 若しくは 構築物において それらの廃棄物その他の物質の処理から生ずるものについては、この限り
      でない。

 

 

 

中国の露骨な反発だけではない、世界の専門家が表明した「処理水への懸念」再検証

                           China Report 中国は今       姫田小夏:ジャーナリスト

                                           2023.9.1     ダイヤモンド・オンライン

     東京電力福島第一原発から出た汚染水を処理した水の海洋放出が始まった。中国では

  常軌を逸した騒ぎぶりだが、他の国は どう捉えているのだろうか。中国の目、世界の目、

  そして 専門家の視点を追った。(ジャーナリスト 姫田小夏)

 

もう魚は食べられないのか

 8月24日、福島第一原発から出た処理水の海洋放出が始まった。タンクにある100万トン以上の

処理水は 30年程度をかけて排出する計画だ。

 その前夜、筆者のスマホに 中国・上海の友人から しばらくぶりにメッセージが入った。普段は

冷静で寡黙で、年金生活をしている張さんが切り出したのは 次のような内容だ。

 

    「 明日から 日本で汚染水の排出が始まりますが、私たち庶民は これから海の魚は 食べられ

     なくなります。上海には 日本料理店も多く、影響は避けられず、訪日客も減るのではないで

     しょうか。放射能汚染は怖いですが、私たちには どうすることもできません 」

 

 海洋放出したその日、中国当局は 日本産水産物の輸入を全面的に禁止した。この禁輸を

「 日本産の魚は危険だというサイン 」と捉えた中国人も少なくなかった。筆者が接した日本在住の

中国の友人たちも「 今後、日本のおいしい魚は食べられなくなる 」と話していた。

 実は 2011年にも 中国の住民は まったく同じ反応を示していた。同年3月14日に福島第一原発の

事故が報道されると、当時 筆者が住んでいた上海でも 市民がパニックに陥った。ネット上で

「 海水は汚染された、今後は 食塩が危険、食用できなくなる 」というデマが広がり、流言に弱い

中国の庶民は 塩の買い占めに奔走した。そして 今、再び「塩の買い占め」が繰り返されている。

 

 中国では 張さんのように海洋放出を「怖い」と捉える住民は 少なくない。しかし、筆者は

張さんを「 流言に弱い人 」だとは責められなかった。「 汚染水が安全であれば 海洋に放出する

必要はなく、安全でなければ 海洋に放出すべきではない 」という主張は、他のアジア・太平洋諸国

でも共通してあるためだ。

 

海外研究者の視点、「 今からでも遅くはない 」の意見も

 海洋放出に懸念を示しているのは “反日国”の住民だけではない。

 米誌「ナショナルジオグラフィック」は 8月24日、「 福島原発から処理水を段階的に放出する

計画は、各国と科学者の意見を分裂させている 」とし、アメリカの科学者たちの懸念を伝えた。

 

 ハワイ大学ケワロ海洋研究所所長のロバート・リッチモンド氏は「 海に放出されたものは、

1カ所にとどまることはできない 」とし、文中では「 放射性物質を運ぶ 太平洋クロマグロが

2011年の事故後6カ月以内に サンディエゴの海岸に到達した 」とする研究事例があることが指摘

されている。

   米国内の100以上の研究所が加盟する全米海洋研究所協会は、「 安全性の主張を裏付ける、

適切かつ正確な科学的データが欠如している 」とし、放出計画に反対する声明を昨年12月に発表した。

 

 海洋放出について、太平洋の島国は理解を示している と認識されているが、かつて 米国の

水爆実験で強いられた苦痛もあり、水面下では 意見が割れている。ロイターは 8月23日、

「 太平洋の首脳全員が同じ立場を取っているわけではない 」とする記事を掲載した。

24日、ニュージーランドのメディアRNZは「 データには『危険信号』があり、中には IAEAを批判

する者もいた 」とし、16カ国と2地域が加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)の一部の原子力専門家ら

の懸念を伝えた。

 PIF事務総長ヘンリー・プナ氏による「 すべての関係者が 科学的手段を通じて安全であることを

確認するまで、放出はあってはならない 」とするコメントは 米誌「サイエンス」にも掲載された。

 

 8月24日、「NIKKEI Asia」は 米ミドルベリー国際研究所のフェレンク・ダルノキ=ベレス氏の

「 今からでも遅くはない 」とする寄稿を公開した。同氏は「 東京電力と政府に その気があれば

対処できる 」とし、環境中に放出せず、コンクリートで固化させる代替案を提案している。

 ちなみに 代替案については 日本の複数の市民団体が 政府に対し再検討を迫った経緯がある。

しかしながら 都内のある団体代表は、「 当時、経済産業省には『何を言われても路線は見直せない』

という雰囲気が強かった 」と振り返っている。

 

合理的に考えて影響が出ることは考えられない

 2021年の放出決定から 2年あまり、トリチウムの安全性が問題になってきた。福島第一原発から

出た“汚れた水”は、多核種除去設備(通称ALPS)を使って浄化するが、トリチウムは それでも

除去できない放射能物質の一つである。

 日本政府や東京電力は トリチウムを「 自然界にも存在する水素の仲間 」として説明し、今回の

海洋放出に当たっては、トリチウムの濃度を国内規制基準の40分の1に薄めるので安全だとしている。

 

 もっとも、トリチウムの海洋放出は 今に始まったことではない。過去、日本の原発でも、世界の

原発でも 冷却水とともに海に流してきた。日本には「 世界の原発からも 日本を上回る量の排水を

行っている。今さら騒ぐのはおかしい 」という意見もある。

   そこで改めて 茨城大学理工学研究科の田内広教授に人体への影響を尋ねると、「 高濃度については

過去から調べられており 影響が生じるのが明らかな一方、今回のような 低濃度のトリチウム 水については

報告されている実験データを見ても 影響が見えません。科学的に100%証明するのは無理ですが、

合理的に考えて 影響が出ることは考えられません 」という回答だった。

 一方で見逃せないのは、トリチウムも含め、研究は “予算”に左右されるという一面が潜在する

ということだ。

 

タンクの中の処理水研究は手つかずのまま

 京都大学・放射線生物研究センター特任教授の小松賢志氏は トリチウムを研究した 日本の古参の

学者だ。福島第一原発の事故が起きる前の1997年、「 事故対策として いまだ不明な点が残される

放射線障害やトリチウム固有の生物的効果に関する正確な知識の確立は急務である 」と論文で指摘

している。

 このように、小松氏は「 拡散漏えいしやすいトリチウムは 取り扱いが難しい核種の一つ 」と

指摘してきたのだが、やがて トリチウムの研究を打ち切ってしまう。背景にあったのは「 予算削減

という厳しい台所事情だった 」と回想している。

 

 原発問題の政策提言を行う 原子力資料情報室の共同代表である伴英幸氏も「 トリチウム問題が

クローズアップされるまで、少なくとも この20年ほど 日本のトリチウムの研究データは ほとんど

ありません。理由は 日本に研究者が少ないためです 」と話している。

   また 福島第一原発から出た水は、炉心に触れた処理水である点が、通常の原子力発電所から

海洋放出されているトリチウムを含む水とは条件が異なる。「 炉心に触れた水 」の研究は 

どうなっているのだろうか。
 
「 タンクの中で有機結合型のトリチウムが生成されているとの指摘もあり、分析で これをチェック

する必要があると考えています。しかし、タンクの中の処理水については 基本的に持ち出せない

ことになっているので、在野の研究者は 誰も分析していないはずです 」(伴氏)

 

 海洋放出を巡っては、日本弁護士連合会が 昨年1月20日付で、他の方法の検討を促す意見書を

岸田文雄首相に提出していた。その理由の一つを こう掲げている。

「 通常の原子力発電所から海洋放出されているトリチウムを含む水は、福島第一原発とは異なり、

炉心に触れた水ではなく、トリチウム以外の放射性物質は含まれていない。規制基準以下とはいえ、

トリチウム以外の放射性物質が完全には除去されていない福島第一原発における処理水は、通常の

原子力発電所の場合とは根本的に異なるものである 」

 

処理水放出は次世代革新炉への布石か

 汚染水から 水とトリチウムを分離することは困難だと言われてきたが、今後、新たな日本の技術

が注目を集めそうだ。

 東京電力は 処理水からトリチウムを分離する実用技術を公募しているが、東洋アルミニウム

(本社・大阪市)がこれに応募したのだ。
 
 同社の技術は 処理水を加温して蒸気化して フィルターを通過させ、トリチウムを除去するという

もので、現在、実現可能性を確認している段階にある。東京電力の担当者によれば、「 もし

実現可能となった場合は、濃い トリチウム 水と薄い トリチウム 水に分けることができ、薄いトリチウム水から

流していくとともに、濃いトリチウム水は 構内で保管し続けることで、約12年という半減期を活用

し、トリチウムの量を保管の中で減らすことができる 」という。
 分離して 水を取り出した後には トリチウムが残留したフィルターが残るため、今後の取り組み課題

はフィルターの体積を いかに減らしていくかが焦点となる。

 

 一方、政府は福島第一原発の廃炉を進行させた先に、次世代革新炉の計画を描いている。

 30年後にも運転が迫るといわれる核融合炉でも、薄めたトリチウム水を海洋放出する計画で、学会誌には、「この核融合の成功のためには福島第一原発のトリチウム処理水問題の速やかな解決が不可欠」だとする文言(『Journal of Plasma and Fusion Research Vol.99』)がある。24日から始まったトリチウム水の海洋放出は、そのための布石でもあるといわれている。

 国際環境NGOのFoE Japanの満田夏花事務局長は次のように語る。

「ほとんど動かなかった高速増殖炉『もんじゅ』で税金が1兆円以上も使われたように、次世代革新炉でも国民の金が投入されようとしています。省エネ、再エネのための電力需給のしくみを構築しようというなら将来性ある話ですが、潤うのは一部の原子力産業だけであり、結果として、何万年も管理が必要な放射性廃棄物を生み出してしまいます」

「日本はパンドラの箱を開けた」

 海洋放出後、中国の人民日報WEB版は「日本はパンドラの箱を開けた」と世界に向けて報じた。一方、日本には中国から“抗議の電話”がかかるようになり、関係のない個人や民間事業者までが巻き添えになっている。

 今回の事態は、2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件とその後の事態を想起させる。そして、2011年に起きた原発事故と“塩パニック”、尖閣諸島国有化を発端にした翌年2012年の反日デモは直接の関連性はないものの、その後「日本製品の全面ボイコット」に突入するきっかけとなった。反日デモは“官製デモ”とされ、中国政府が国民を動員したといわれている。この時悪化した両国関係が“雪解け”するまでに6年かかった。

今回の海洋放出に対して、「やめろと言ったのにやっただろう」と激高した中国は、海洋放出を外交カード化し、今後、国民を動員しながら日本を追い詰めてくるかもしれない。

 ただ今回の中国や韓国の露骨な反発が、かえって日本人の私たちの気持ちを逆なですることにもなっていて、冷静な議論から目をそらせることにもなっている。

 原発問題のもっとも本質なる部分は、人間の力で制御できるというおごりが悲劇を生むところにある。その人間の愚かさは、神にしか操れない「日輪の馬車」に無理やり乗り込み暴走し、ついには地上を焼き払ったというギリシャ神話「パエトーン」に重なる。

 原子力に頼らず、再生可能エネルギーへのシフトを進める――これが日本の歩むべき道であり、福島の原発事故で多大な被害を受けた人々に報いることができる唯一の道ではないだろうか。