…「金融正常化」の第一歩で始まった「日銀債務超過」へのカウントダウン
日銀が債務超過になる?
日銀の植田和男総裁は、どうやら ‟時限爆弾”のスイッチを押したようだ。
日銀は 7月27~28日の政策決定会合で、これまで 0.5%で抑制してきた長期金利(10年物国債利回り)
の変動幅の上限を1.0%まで引き上げることを決定した。
世界的なインフレにより、日本でも 消費者物価総合指数(生鮮食品を除く)は、日銀が目標とする
前年同月比 2%を1年3ヵ月連続(22年4月〜23年6月まで)で上回っているのは、周知の事実。
植田総裁は この決定について「(これまでの)金融政策の持続性を高めるため」と説明して
「金融政策の柔軟化」という言葉を使っているが、金融緩和政策の変更が 念頭にあるのは疑いようが
ない。
少なくとも日銀は、金融政策の正常化に向けて その一歩を歩み出したわけだ。
さて、問題は 正常化に向かうと、何が起こるか ということだ。
ひとつは 金利が上昇するだろう。そして、金利が上昇すれば、日銀が債務超過に陥る可能性は
飛躍的に高まるのである。
日銀を危機に陥れる「爆弾」の数々
金利上昇による日銀の債務超過の可能性については、これまでも さまざま取り上げられているが、
最も端的な見方は、国債価格の下落で 損失が拡大するということだ。
日銀の「営業毎旬報告」によれば、現在(7月31日)、日銀は約590兆円の「国債」を保有している。長期金利が上昇すると 債券価格は下落する。 そのため損失が発生して、日銀が債務超過に陥るという
わけだが、この指摘は暴論だ。
そもそも 日銀は 国債の満期保有を前提に買い入れを行っており、この場合、国債の会計上の評価
は償却原価法で行われる。つまり、国債の価格変動は 決算には影響しないので、国債価格が下落
しても、日銀が債務超過になることはない。
もっとも、国債の満期を前提に保有しているため、決算に時価が反映されないだけで、国債価格の
下落は 実質的な含み損だ。その意味では、日銀が ‟実質的な債務超過” に陥ることはあり得るが、
それよりも心配なのは ETFのほうだ。
日銀は 日経平均など指数連動型のETFを現在(同前)、約37兆1000億円保有している。
満期まで待てば 問題のない国債とは違い、満期のないETFは 保有している以上、常に価格下落リスク
にさらされている。
株価は 金利上昇の影響を受けやすい。米FRBが 22年3月から利上げを実施したところ、3月の高値
が 3万5372ドルだったNYダウは、同年9月の安値の2万8716ドルまで下落した。下落率は18.8%
に及んだ。
当然、日銀が利上げに踏み切れば、日経平均株価も同様に下落し、それは 日銀が保有する ETFの
価格下落を通じて、日銀の財務を悪化させる。
つまり 債務超過に陥る可能性があるわけだが、それだけではない。
日銀の債務超過のトリガーを引く可能性が最も高いのは、準備預金(当座預金への付利の負担)だ。
最もヤバい‟時限爆弾”は「準備預金」
一般の銀行は 金融不安などで 資金繰りが悪化した場合に備えて、日銀の当座預金に「受け入れて
いる預金等の一定比率以上の金額を預け入れること」を義務づけられている。この準備預金は 利子が
付くのだが、義務づけられる金額以上に預けられた預金に対しても、利子が付く仕組み。
この準備預金の金額が バカにならないのだ。
現在(同前)、日銀の預けられている当座預金の残高は 約543兆円にのぼる。もし、利上げを
実施、日銀当座預金の金利を 0.5%引き上げることになれば、その金利だけで、なんと2兆5000億円
もの負担を日銀は負うことになる。
23年3月末の日銀決算によると、日銀の純資産は 約5兆5000億円でしかなく、当座預金の付利負担増
や ETFの価格下落によって、簡単に債務超過に陥ってしまうのだ。
その Xデーへのカウントダウンは、すでに始まっていると覚悟するべきだろう。
では、日銀が 債務超過に陥った場合、何が起きてしまうのか。
日本経済に どのようなネガティブインパクトが襲うのだろうか。
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