藤巻 健史  2023.8.7.

「米国の格下げなど 関係なし。日本の格下げは大事件」

   格付け会社 フィッチ の米国格付下げに先週、日本国内は 大いに沸いたが、米国の国債発行額上限問題

と同じで、米国で騒ぐ人は ほとんどいなかった。深刻な問題ではないからだ。最上級格付けにしか

投資しない機関投資家が(そういう投資家がいるのなら)投資を辞める程度の影響だ。

   日本では 何度も格下げがあったが、一度として市場が大きく動いたことはない。BBBまでなら

投資適格の範疇で 機関投資家は投資を辞めることはまずないからだ( 高い利まわりを要求される

ようにはなる )。

    一方、BB以下は ジャンクボンドと言わる投資不適格だ。国がBBになると 企業は それ以下との

原則があるから、国だけでなく 日本の企業も銀行もジャンク扱いになる。ジャンク債を扱う投資家

以外、投資家は 社債も国債も買ってくれなくなり銀行や企業は ドル資金の借り入れも難しくなる

 

   日本が 現在、財政状況が 日本よりはるかによい イタリアのBBBより良いのは、日銀が国債を

買い支えているからだ。なお格付けは デフォルトリスクであり、ハイパーインフレリスクを考量

してはいない。日銀が YCC を辞めると 日本国債がジャンク債扱いになる可能性が高い

それも 日銀が YCCを辞めない理由だと 私は言っている。このことは フィッチの幹部発言が

昨年11月に日経新聞に載ってから、何度も書いてきた。今年4月のプレジデントオンラインにも

書いたので、その部分を再掲する、

  (↓4月25日のプレジデントオンラインに書いた記事の一部)

  更に 格付けの問題もある。日本国債が シングルA +(S&Pグローバル)まで落ちてから、ずいぶん

時間がった。その間に 日本の財政事情は、さらに 格段と悪化している。それにもかかわらず、

日本国債は ジャンク債レベル(BBB 未満)まで下落しなくて済んでいる。フィッチで国債格付けを

担当するクリスヤニス・クルスティン氏は 日本経済新聞紙上で「 日銀の国債購入は格付けを支える

要因の一つ 」と明言した。

YCCがゆえに 日本の格付けが財政事情がBBBのイタリアよりも上にいるということ。格付けは

倒産確率だから、日銀が 国債の爆買いをしている限り、国の資金繰りには問題がないが、YCCを

辞めれば 倒産確率は急騰するのだから格付けが イタリア以下に陥る(すなわちBB -ジャンク債)

リスクも小さいとは言えなくなる。

    国債の格付けが ジャンク債以下に下がれば他国が 日本国債を購入してくれなくなるのは

もちろん、金融機関や企業の債務もジャンク債扱いになるから 基軸通貨のドル調達は難しくなるし、

倒産続出で 日本経済は大混乱にもなるだろう。 YCC放棄が出来ない理由のひとつである

 

「ボツアナ以下」

 日本の格付けがボツワナ以下になったと大騒ぎになったことがある。ちなみにその時でさえ、

マーケットはたいして動かなかった。当時 新聞社から感想を聞かれて「 この財政状態なら仕方がない

のでは?」と答えた。翌日、話したこともない財務省の偉い方から電話かかってきた。

「 藤巻さん、格付って知っていますか? 国の倒産確率ですよ。日本国が倒産すると思いますか? 」

と聞かれ、「 確かにそれもそうですね。日本が倒産するわけがないですね 」と答えた。

    それからの21年。まさか年ごとに財政が悪化し、ここまで悪化するとは当時、思ってもみなかった。

まともな政治家が出て 何とかすると思っていた。ところが 出てきたのは、もっと財政出動をせよ、

のポピュリズム政策を唱える政治家と評論家のみ。嘆かわしい・

    ただ あの頃と同様、相変わらず倒産確率は低い という点には同意する。財政ファイナンスという

禁じ手中の禁じ手を行い、必要ならば いくらでも 日銀が紙幣を刷って歳出を賄うからだ

資金繰り倒産は あり得ない、しかし 刷りすぎた紙幣は 価値が棄損(=ハイパーインフレ)する

 日本が原油を買うたびに 紙幣を増刷して、それを貿易相手に渡していれば、相手国は そんな紙幣

では原油を売ってくれなくなる、それと同じだ。格付けは 少ししか下がらなかったが、国民が 

ハイパーインフレで地獄を味わう確率は 格段に上がってしまった。時間は いくらでもあったはずだが

時間を浪費した。もう限界。

 

 

            2023.8.8.

   昨日、「 格下げへの恐怖が、日銀が YCCを解除できない 」理由のひとつと書いたが、

以下は 昨年11月28日のブルムバーグ記事。   いわく「 日本銀行の大規模な国債買い入れは、

日本の格付けを下支えする重要な役割 」。日本より財政の悪いイタリア(BBB)より下のBBへと

2段階格下げになれば 日本経済の危機。企業も銀行もドル調達は ほぼ不可能、外国人は 日本国債

から完全撤退だし、外資の日銀当座預金閉鎖も 現実問題となる。

    BB以下は ジャンク債と言われ 世界の投資家は投資不適と見做すのが行動の規範だからだ。

適格内での格下げ と ジャンク債への格下げでは 天と地ほどに意味が違う。YCCを解除できない以上、

日銀は 円を未来永劫にバラマキ続ける円の希薄化が加速し インフレは止まらなくなる。

日銀は もはや何もする術はない。バラマキをして 財政ファイナンスで危機先送りをして当然の報い。

 

 

     ※ アメリカ政府の債務残高    2023/05/09