全国民が厚生労働省にダマされている

    …日本の合計特殊出生率の計算に隠された「ヤバすぎる真実」

                           2023.07.28     週刊現代

 

専門家の指摘で判明した出生率の矛盾

 厚生労働省という役所は怖ろしい。今回ばかりは 経済学が専門の筆者も騙されていた。

騙されていたのは、日本の合計特殊出生率(以下「出生率」という)の値だ。この数値は、

一人の女性が 生涯で生む平均的な子どもの数を表す。

 

   真実が明らかになったきっかけは、'23年6月23日に行われた内閣府経済社会総合研究所が主催

したフォーラム「将来人口推計が映し出す日本の課題」での報告や質疑だ。

フォーラムに参加した国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆・人口動向研究部部長の説明など

から、厚労省の出生率の定義は、分母と分子の整合性がとれておらず、出生率が過大に推計されて

いるという事実がわかったのだ。

 

   出生率は、分母に女性の人口、分子に出生数を置き、その割り算から算出される。

両親が どちらも日本人なら、その子どもは 日本国籍を得るから、その母親である女性は分母、

その子どもは 分子にカウントされる。

   問題となるのは、日本人と外国人との間で生まれた子どもとその母親の扱いだ。まず、両親の

どちらかが日本人なら、その子どもは 日本国籍を得るから、生まれた子どもは 分子でカウントする。

この処理は自然だが、一方で 厚労省の出生率の定義では、分母の母親は 日本人のみに限定している。

このため、奇妙なことが起こる。

   母親が日本人で 父親が外国人の場合、その間で生まれた子どもは 分子でカウントし、母親も

分母でカウントする。だが、父親が日本人で 母親が外国人の場合、その間の子どもは 分子でカウント

するものの、母親は 分母でカウントしない。つまり、外国人女性が生んだ子ども(父親は日本人)が

増えるほど、分子のみが大きくなるため、出生率が上昇して過大となる。

 

推定値は より低くなる

   実際、岩澤部長の説明では、2070年の出生率(中位推計)は 1・36だが、これは 厚労省の定義

による数値で、日本人女性に限った出生率に修正すると、その推計値は 1・29に低下するという。

また、厚労省の定義による '20年の出生率は 1・33だが、こちらも 日本人女性に限った出生率は

1・31であることが明らかになった。同様に、過去最低の値と騒がれている '22年の出生率 1・26も

厚労省の定義に基づくもので、計算し直すと、実際は もっと低い可能性が高い。

 

   このような分母と分子の操作は、公的年金の「所得代替率」の定義でも存在する。

所得代替率は「 現役男性の平均的な手取り収入に対するモデル世帯が受け取る年金の給付金額の割合 」

をいうが、厚労省は 数値を巧みに定義して、年金額を過大に見せている。

分母の「 現役男性の平均収入 」は手取り、すなわち「ネット」で 税・社会保険料を支払った後の

金額にしているにもかかわらず、分子の「 年金の給付金額 」は額面、すなわち「グロス」で税・

社会保険料を支払う前の金額となっている。

   さらに 分母と分子の世帯人数が異なり、分母は 現役男性 1名、分子は 高齢夫妻2名の年金額と

なっている。分母を小さく、分子を大きく見せれば 所得代替率が上昇するのは当然だ。

 

   出生率や所得代替率が過大だと、将来の年金財政の見通しが楽観的になりかねない。厚労省の

分母・分子の定義には、気をつけたほうがいい。

 

     令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況|厚生労働省