コロナは風邪?5類移行後に感染した20人の本音
 ネット上で言われるほど「軽い」のか? 

    木村 隆志   2023/06/10    東洋経済オンライン 

 

 7日、松野博一官房長官が記者会見で、新型コロナウイルスの患者数が「 緩やかな増加傾向にある 」

「 重層的に感染状況を注視したい 」などとコメントしたことが大きく報じられました。      

 この日は 感染症法上の位置付けが 2類相当から季節性インフルエンザなどと同じ5類に変更された

 5月8日から ちょうど 1カ月の節目。 感染者数の集計も「全数」から「定点」に変わるなど、

 全体の動向が見えにくくなったこともあって、「気をつけよう」「また不安をあおるな」などと

 賛否の声が飛び交っています。

 

   実は 私自身も 5類以降後に 初めて夫婦で感染し、身をもって現在の状況を知ることができました。

 さらに その際、「 ネット上の記事やコメントとは違うことがいくつかあった 」という思いから、

 すぐに 独自取材を開始。 発熱外来の病院、処方箋薬局、学校施設などで、5類移行後に感染した人

 (疑いも含む)に 1~3分程度の簡易インタビューを重ねました。

 オンラインを含めると、取材対象者の数は 100人超。任意のインタビューであるにもかかわらず、

 感染者の現状がうかがえる リアルな声が 多数集まりました。

 

   あらかじめ誤解のないように書いておくと、ここでは危険をあおるようなことや、医療的なことに

 ふれるつもりはありません。

  また、簡易インタビューは 東京都の中野区と杉並区の一部地域で行ったものに過ぎず、みなさんに

 伝えたいのは「 現在の感染者が どんな状況で、何を感じているのか 」のみ。「 いくらかの参考

 になれば 」という意図のもとで、ピックアップした 20名のリアルな声を挙げていきます。

 

高熱で 病院へ行く? 検査はする?

   簡易インタビューで尋ねたのは、主に「 感染は何回目か 」「 症状と体温 」「 通院や検査の有無 」

「 会社や学校などへの影響 」「 ネット上で言われている『風邪と同じ』という印象はあるか 」

 の5点。

 

   まず 現在、感染していない人にとって 真っ先に気になるのは、「 もし高熱などの症状が出たら

 通院や検査をするのか 」でしょう。そこにまつわる 5人の声を挙げていきます

 

    「 以前かかったときに買った検査キットと解熱鎮痛剤があったので、病院は行きませんでした。

      陽性でしたが、38度台まで出た熱は 2日で下がったし、大きな問題はなく終了。もう少し

      長引いたら 薬をもらいに病院へ行こうと思っていましたが、いつかかるかはわからないので、

      常備しておいてもいいかもしれませんね 」(30代女性)

 

    「 39度まで熱が出たのは ひさびさだったので病院に行ってみたら、『検査はしなくてもいい』と

      言われました。それどころか、『薬を飲んでおけば大丈夫だから病院には来なくてもよかった』

      という感じで。結局 熱は 4日間くらい続いて、せきとのどの痛みも 1週間ちょっとはありました

      が、『これが風邪とかと同じような扱いってことなのかな』と解釈しました 」   (40代男性)

 

    「 私は発熱したら 受診して検査するように会社から言われていたので、迷わず病院へ行きました。

       結局 コロナ陽性で、その週の3日間 強制休暇になりましたが、熱があったときですら、

       カロナールを飲めば 平熱くらいまで下がったので 普通に働けたと思うんですよね。こういう

       会社側の対応が アップデートされていないところって、ウチだけじゃなくけっこうあると

       思いました 」(30代男性)

 

    「 上司に『熱が出たから 病院に行きました』と報告したら、『コロナは もう病院なんかに行か

       なくていいんだよ』と叱られました。コロナではない病気かもしれないのに、勝手に決めつけ

       られて……。ふだん決して悪い人ではない上司が こんなことを言ったのも、コロナ禍の反動

       なのかなと思います。結局 熱は 3~4日続きましたし、後味が悪いですね 」(20代男性)

 

    「 小学生の子どもに コロナのような症状が出ましたが、熱は 2日で下がりました。病院では

       溶連菌とかの検査はしてくれたけど、コロナは 検査キットを買って自分で調べさせました。

       コロナに関しては検査せずに、自覚がないまま 陽性で登校している子どもがけっこういる

       のかもしれませんね 」(30代女性)

 

基本方針は、症状が重くなければ「行かなてもいい」

   私が通院したときも「 検査はしなくてもいい 」と告げられたほか、東京都の「 発熱などの症状が

  出たら 」という案内用紙を渡されました。そこに書かれていたのは、「 医療機関に行く前にまず

  自分で検査し、陽性でも症状が軽ければ 自宅療養して、5日間は外出を控えることを推奨 」などの

  言葉。つまり、病院へは 症状が重くない限り、「 行かなくてもいい 」「 症状が軽ければ行かない

  ほうがいい 」のが基本方針なのでしょう。

   ただ 現実的には、いきなり 38~40度もの高熱が出て驚きや不安から病院へ行く。あるいは、

  家に薬が常備されていないから行く。会社に義務づけられているから行く という人が多いようです。

 

    今回、簡易インタビューを実施したことで 最も特徴的だったのは、「 初めてかかって戸惑って

  いる 」という人の多さ。

 

   「 私は 2日で熱が下がりましたが、のどがかなり痛かったので、『多分 コロナだったのかな』と

   思っています。周囲にも 初めてコロナにかかったという人がけっこういて、子どものママ友

   グループLINEにも 3人いたし、犬の散歩仲間にも 2家族いたし、夫も『会社でも初めてかかって

   休んでいる人が 3人いる』と言っていたので 」(30代女性)

 

   「 3年間、大丈夫だったので、『ウチの家族は コロナにかからない』と勝手に思い込んでいました

   が、5類になってすぐに 4人全員が感染して驚きました。夫は 自分が かかってうつしたと申し訳

   なさそうで、小学生の子どもたちは 4日間ずっと寝てましたね。一番症状が軽かった私ですら 39度

   の熱が 3日も出て、血痰も 1週間以上出ていましたし、『今でも こんなに強い症状があるもの

   なの?』というのが 正直な感想です 」(30代女性)

 

   「 感染してから 5日くらい 毎朝39度くらいまで熱が出て ヘコみました。初めてですが『以前より

   軽くなった』と聞いていたので。食欲もないし、便通もおかしくなったままだし、5類と言えども

   けっこうくるな という感じ。ただ、頓服薬を飲めば 37度くらいまでサーッと下がるので、絶望感

   とかはなかったです 」(40代男性)

 

っていたより症状が重かった人」の声

    この3人に共通していたのは、「 思っていたよりも症状が重かった 」という実感。また、過去に

  かかったことがある人から、「『私のときよりは ずっと楽だと思うよ』などと言われるのが嫌

  だった 」という声もありました。

 「 症状が思ったよりも重かった 」という声が多かったので、参考までにもう少し挙げてみましょう。

 

   「 熱は 38度8分まで出て 4日程度で下がりましたが、2週間過ぎても まだ血が混じった痰が取れず、

    倦怠感と息苦しさが残っていて 休日の外出もままなりません。後遺症とまでは言ってはいけない

    んだろうけど、これが まだまだ続くなら精神的に病んでしまいそうです」(30代女性)

 

   「 ちょっと驚いたのが 39度近い高熱が 3日続いたあと、36度台まで下がって 2日間過ぎたので

   『もう治るのかな』と思っていたら、また 38度台が 4日間も続きました。全部 初めてのこと

    なので、再び熱が上がりはじめたときは、『今度はコロナ?インフルエンザ?違う感染症?』

    とか、けっこう不安でしたね 」(40代男性)

 

   「 風邪だと言われたら 風邪ですが、二十何年かぶりに 39度台の体温計を見た僕のような人間から

    見たら、“生涯で 最もやっかいな風邪”という感じ。熱が下がらなかった1週間で、『もし このまま

    死んでしまったら……』と 何度か考えてしまいました。もう全快したので 今思えばバカなのです

    が、そう考える人もいるってことです 」(40代男性)

 

   「 夫が 病院で陽性の判定が出て、2日後に 私も熱が出たので病院に行ったら、『コロナで間違い

    ないから検査はしなくても大丈夫』と言われました。結局 私は 2週間近く熱が下がらなくて、

    3週間過ぎた今も 微熱があって せきも出るので 薬を飲んでいます。初めて感染しましたが、

    正直 もう二度とかかりたくないですね 」(30代女性)

 

     今回の簡易インタビューでは、ほとんどの人が 体温の推移を教えてくれましたが、

 「 早ければ 1~2日、普通で 3~4日、遅ければ 1週間以上、高熱が続く 」という傾向が見られ

  ました。その他の症状が もう少し長引く人は少なくないものの、「 高熱は 必ず下がるし、薬で

 

職場閉鎖、臨時出費、小児科の状況

    仕事や学校、家庭内などにおける感染の影響についても、さまざまな声が集まりました。

 

  「 今、感染2日目で 38度台まで熱が出て困っているところです。職場のチーム 7人が全員感染して

  抑えながら 仕事や家事ができる 」という実感を語る人が多かったのです。

   しまって、仕事が回らない状況で……。 1~2日のズレで 感染者がバタバタと増えていったから、

   営業先に行けないし、リモートで済ませられない現場仕事なので、ただ 回復を待つだけ。業務再開

   には あと5日間くらいかかりそう 」(50代男性)

 

  「 20代の娘が感染して、38度7分まで高熱が出ました。熱は 2日くらいで下がって 会社は2日半

   ほど休みましたが、その後も 鼻が詰まりっぱなしで かんでばかりだし、せきも けっこう出るので、

   毎日 通勤している今も 肩身が狭いようです 」(50代女性)

 

   「 夫婦で感染しましたが、病院に行っても 検査すらしないし、のどを 1秒だけ見て、風邪薬を

    たくさんもらっておしまい。症状は 3日程度で治まってよかったけど、月末に夫婦で 1万円を

    超える臨時出費という点では、『家計的に けっこう痛いな』と思いました。症状は 意外にキツ

    かったけど、次は 病院に行かないかも 」(30代男性)

 

   「 自分がかかってみてわかりましたが、この程度で 経済を止めるのはありえないし、もう

    医療現場は ひっ迫しないと思うけど、個人が『感染予防の対策や準備できることがあるなら、

    ちゃんとやったほうがいい』とは思いました。だって 自分は 会社を3日も休んで 一人暮らしの

    自宅待機になって、薬や食事の準備とか苦労したので 」(20代男性)

 

   「 親子で感染しましたが、大人の内科は空いていて選べるくらいなのですが、小児科は 診察と

    検査が終わるまで 2時間以上かかって ヘトヘトでした。もともと数が少ないのと、ほかの感染症

    とかも流行っているようで、子どもの患者も大変ですが、小児科医さんたちが 大丈夫かなと心配

    になります 」(30代女性)

 

    一時的な職場閉鎖、残る症状と職場の目、臨時の医療費、一人暮らしの対策、小児科の状況と、

  それぞれの立場が伝わってくるリアルな声でした。しばらくの間は 同じようなことを感じる人が

  多いのかもしれません。

 

    今回の簡易インタビューで、「 これは良くないことだな 」と感じたのが、感染者に対する周囲

  の対応。下記のように 感染者たちを嘆かせるような声が少なくなかったのです。

 

   「 38度台の高熱が出たとき、直感的に『もしコロナとかだったら 夫と2人の子どもにうつしたく

    ない』と思いました。上の子は 学校の試験前だし、下の子は サッカーの試合があるし、夫は仕事

    が忙しそうなときなので。だから、すぐに ネットでいろいろ調べましたが、『熱くらいで病院に

    行くな』とか、『ただの風邪なのに 検査するやつは頭がおかしい』とか酷い言葉が書かれていて、

    嫌な世の中だなと思いました 」(40代女性)

 

   「 5月以降も気をつけていたけど、かかってしまって おそらく両親と祖母にうつしてしまいました。

    私は 39度近い熱が 3日間出て治まりましたが、父と祖母は 基礎疾患があるので 心配な日々が

    続いています。上司や同僚には 『今のコロナはただの風邪だから大丈夫』と言われましたが、

    とても そうとは思えなくて…… 」(20代女性)

 

   「 熱は 3日で下がりましたが、その後も マスクをしていたら『今でもしてるの?』と 半笑いされ

    ました。こっちは 他の人にうつさないよう気をつけているのに、相手の気持ちを汲み取れない人

    が たくさんいて残念です 」(20代女性)

 

年齢も立場もメンタルも病歴も、みんなそれぞれ違う

     たとえば、「 3日間、38~39度の熱が出た 」「 2~3週間、のどの痛みがあり、せきが止まら

   なかった 」という今回のインタビューで多かった症状を「 どう思うか 」の個人差は 決して

   小さくないでしょう。「 普通の風邪と大差ない 」「 だから大したことない 」と感じる人と、

  「 普通の風邪と同じとは思えない 」「 だから辛いし 不安 」と感じる人の両方がいて、感情の差は

   大きなものがあります。

 

     また「 家庭や仕事の環境によって 不安が募りやすいかどうか、実際に支障が出やすいかどうか 」

   の個人差もあるでしょう。それぞれ、年齢も立場も メンタルも病歴なども違うのですから、

  「 自分のように思わない人がいるかもしれない 」という気持ちは 心の中に持っていてほしいところ

   です。

     実際、ネット上に コロナ感染の症状や辛さなどを書き込むと、「それは風邪の症状そのもの」

  「風邪だから ほっとけば治る」「大げさにさわぎたいだけの人」「またコロナ禍の社会に戻りたい

   のか」などと 冷たく言い放つようなコメントが多発しています。

     感染者が 症状や辛さを吐露することすら許さないようなコメントは、やはり寂しさを感じざるを

   得ません。「 風邪と同じ 」という主張の是非は さておき、目の前に感染者がいたとき、「 風邪

   は万病の元 」という言葉を思い出して 優しい言葉をかけてみてはいかがでしょうか。