日本内分泌撹乱物質学会 (旧通称 環境ホルモン学会)

ENDOCRINE DISRUPTER  NEWS LETTER

JSEDR vol 25-4_5   May 2023

 

 本号では、「農薬のリスク評価の諸問題」について、特集しました。 

1950年代初期に開発・大量使用された合成農薬・有機塩素系殺虫剤は 効果は高かったものの、

後から生態系や人体への悪影響が判明し、ほぼ使用禁止になりましたが、難分解性のため、

いまだに 環境汚染が続 いています。農薬は、何らかの生物を殺す殺生物剤で毒性がある上、

環境中に放出され、農産物には 残留農薬もあることから、農薬取締法に則り規制されていますが、

現状の規制は 十分とはいえません。

   農薬登録に必要な毒性試験は多種類実施されていますが、古典的な試験法に準じています。

一方、学術研究において、毒性研究は 常に新しい科学的知見を提供しており、内分泌撹乱作用、

高次脳機能に関わる発達神経毒性、複合影響、エピゲノム毒性などについて 科学情報が蓄積して

いますが、農薬毒性試験に含まれていません。

 

   本学会でも 多くの研究が報告されているネオニコチノイド系農薬については、昆虫や鳥類など

生態系にダメージを及ぼすだけでなく、ヒトへの発達神経毒性が懸念されており、国内の河川や

水道水までも汚染が確認されています。 

 国内では、農薬取締法改正(2018年)に伴い、農薬再評価が開始しましたが、本号の記事のように、

多くの課題があります。農業において、無農薬、有機農業の推進は重要ですが、農薬を使わざるを

得ない現状を鑑み、最新の科学的知見をもとに、公平・透明性をもって、農薬のリスク評価を行う

ことが必要です。

  適切なリスク評価には、継続的なヒト・バイオモニタリ ングの調査が必須です。また農薬取締法

に適用されない家庭用殺虫剤や防虫建材、白蟻駆除 剤、松枯れ対策などに農薬が使われており、

農薬を総合的に規制する化学物質規制法も必要とされています。農薬のリスク評価の課題について、

本号の記事が、理解の一助になるよう願っております。

 

  “最新の科学的知見”を疎んじる日本の残留農薬リスク評価について 

     遠山千春 東京大学 名誉教授 健康環境科学技術 国際コンサルティング(HESTIC) 主幹

 

  食品に潜む農薬の安全性とリスク評価:「無毒性量」という基準の脆弱性と最近の科学的知見 

     星 信彦 神戸大学大学院農学研究科 教授

 

  複数の化学物質が中枢神経系に及ぼす複合リスク評価 

     平野 哲史 富山大学 学術研究部 薬学・和漢系 助教

 

  米作が盛んな地域における水道水中ネオニコチノイド濃度 

     山室真澄 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授

 

  欠陥のある農薬再評価 ― 農薬企業が収集・選択する公表文献 ― 

     木村ー黒田純子 環境脳神経科学情報センター