「福島原発汚染水、1リットルを飲むこともできる」…本当なのか
2023-05-18 hankyoreh japan
「 福島原発汚染水1リットルを飲むこともできる 」
英国オックスフォード大学のウェード・アリソン名誉教授(82)が15日、記者団に取材に応じ、
日本の福島第一原発の汚染水放出を 積極的に擁護したことが議論になっている。
アリソン教授は 40年以上にわたり放射線分野で研究し教えてきた実験粒子物理学者で、『放射能
と理性 : なぜ「100ミリシーベルト」なのか』や『核は生命のためのものだ:文化革命』などの
著書を通じて、原子力の利用拡大を力説してきた学者だ。
アリソン教授は たびたび日本を訪問して講演し、福島原発事故の地域の指導者や住民に会ったり
もした。 この日の記者会見は、韓国原子力研究院 と 韓国原子力学会による招待で開かれた。
アリソン教授はこの日、「 低線量放射線の影響と福島原発汚染水問題ー恐怖が飲み込んだ科学 」
をテーマにした記者会見で、「 私は いま目の前に希釈されていない福島原発処理水が1リットルが
あるとすれば飲むことができる。仮に その水を飲んだと計算してみても、自然な水準の80%程度
しか放射線の数値は上がらない 」と述べた。 汚染水の中にある除去されなかった放射性物質によって
体内の放射線の数値が 80%ほど増加する程度であれば、大きな問題として気にしないということだが、
これはファクトの問題でなく、個人の信念の問題だ。
ただし、その背景にあるファクトは調べる必要がある。
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WHOが定めた飲用水基準の70倍なのに、大丈夫だ というのか
「 福島原発汚染水1リットルを飲める 」というアリソン教授の主張は、新しいものではない。
2021年初め、月城(ウォルソン)原発地下のトリチウム流出問題の際、韓国科学技術院(KAIST)
の原子力および量子工学科のチョン・ヨンフン教授も、同じような脈絡で いわゆる「バナナ・
煮干し論」を主張したことがある。
チョン教授は 当時、フェイスブックに「 月城原発の近隣の住民たちがトリチウムによって被ばく
する放射線量は、(自然状態で放射性カリウムを含有する食品である)バナナ6本、煮干し1グラム
に相当する量 」だ とする内容の投稿を掲載した。
チョン教授は 最近のメディアへの寄稿でも「(福島原発汚染水の)放出基準とまったく同じ水
1リットルを飲むとすれば、その被ばく量は バナナ8本を食べる分と同じだ 」と述べた。
では、それは 事実なのだろうか。 日本の東京電力の分析結果によると、アリソン教授が飲む
といった福島原発汚染水には、1リットルあたり平均で 70万ベクレル以上のトリチウムが含まれて
いる。 世界保健機関(WHO)が 人間の健康のために設定した飲用水基準(1リットルあたり1万
ベクレル)の70倍を超える。WHOが提示した この基準は、子どものような敏感な階層による長期間
の摂取まで考慮しているという点で、アリソン教授のように、基準値を超える水を1回飲むことは
特に問題ではないとも考えることもできる。だが、誰もが そのように言うことはできないだろう。
仮に、トイレの便器を流した水であれば、飲用水の基準に合うように浄化したとしても、その水を
飲むという人は 多くはないだろう。
特に、放射線が生物に及ぼす影響を研究する生物学者たちの考えは、アリソン教授の考えとは
大きく異なる。最近、韓国を訪問した米国サウスカロライナ大学生物学科のティモシー・ムソー教授
は、ハンギョレのインタビューで「 安全な放射線というものはない 」と言い切った。汚染水などを
通して被ばくする人工放射線量が、自然放射線による被ばくやX線撮影などを通じてやむをえず被ばく
する放射線量に比べ、ごくわずかな量だ ということもありうるが、それは 不必要な放射線の被ばくを
受け入れなければならない理由にはならないという趣旨だ。
ムソー教授は 放射線生物学の専門家で、最近、チェルノブイリ原発事故の地域に住む野生化した
イヌの遺伝子が、放射線被ばくの影響で 変形したことを明らかにした。
WHOが 飲用水にトリチウムのような放射性物質の含有量の基準を定めたのは、科学界の主流の
考えが、アリソン教授よりは ムソー教授側に近いことの傍証だ。WHO傘下の国際がん研究所(IARC)
は、トリチウムのような「ベータ 粒子を放出する放射線核種の人体内部への沈着」も 第1群の発がん源
に分類している。
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「 日本を信頼しなければならない 」というが…
アリソン教授は、この日の会見での質問の返答として、韓国が 日本と協議中の福島原発汚染水の
視察について、「 日本を信頼しなければならない 」という趣旨のことを繰り返し述べた。
だが、そうすべきだと提示する根拠は 不明であり、科学者にふさわしくなく、論理的というよりは
感性的だった。「 福島原発汚染水の試料を 直接検証できなくても異常はないと確信しているのか 」
という質問に、「 確信できない理由はない。火や自動車の危険性について、そうではないという
安全性を実証的に示したのと同じだ 」と答えたのが代表的なものだ。
「 信頼より科学が優先されると考える 」という言葉は、むしろ 記者の口から出た。
ある記者が「 日本は 汚染水関連の数値だけを提供し、直接 確認できないようにしているが、どう
思うか 」と質問すると、アリソン教授は「 日本政府を信頼して そのまま受け入れるべきであり、
判断してはならない 」と答えもした。
韓国の視察団が 多核種除去設備(ALPS)を点検しようとしていることについても、
「 確認しなければならないことは、日本の政策 」だとしたうえで、「 新たな問題ではなく、
(汚染水を)改めて測定する問題でもない 」と述べた。
「 日本を信頼しなければならない 」というアリソン教授の発言は、2020年11月3日付の朝日新聞
が報じたある場面を思い出させる。 同紙は その年の9月26日、菅義偉首相(当時)が福島第一原発
を訪問し、原発の汚染水を浄化処理した水をみて、「 飲んでもいいのか 」と質問したと報じた。
「 希釈すれば飲める 」という東京電力の関係者の説明を聞いて行った質問だったという。
では、菅首相は 汚染水浄化処理後の水を飲んだのだろうか。 汚染水を飲みはしなかったという
のが、朝日新聞の報道だ。同紙は「(菅首相が)仮に飲んだとしても、汚染水に対して 『安全だ』
とか、『だから海に流しても大丈夫』という見方が 世間に広まることはなかっただろう」と診断した。
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■ファクトと異なる発言は … 放射線分野の専門家の「ミス」?
韓国放送(KBS)が 現場の通訳を通じて報道したアリソン教授の発言の全文を読むと、
そのようにして 福島原発汚染水の放出の安全性を強調しようとする過程で、アリソン教授は
ファクトと異なる発言を何回もした。代表的なものを 2点だけ挙げると、次のとおりだ。
(1)「トリチウムも水素の一種です。水とともに洗い流され、半減期は12年といいますが、体内
からは 12~14日後にはすべて排出されます 」
→トリチウムの半減期が約12年であることは事実だ。だが、12~14日後にすべて排出される
という発言は事実でない。 国際放射線防護委員会(ICRP)発行の資料『放射性核種の摂取
による公衆の構成員の年齢依存線量』(資料番号56)によると、トリチウムの体内での半減期
は 約10日だが、そのトリチウムが体内で有機物と結合して有機結合トリチウム(OBT)になる
と、半分に減るまでに約40日かかることが示されている。
ICRPが 現時点では公認していない研究結果のなかには、一部の有機結合トリチウムの体内半減期
を500日まで長くとったものもある。ICRPは、体内に吸収されたトリチウムの約3%が有機結合
トリチウムに転換されるとみている。
放射線が 生物体に及ぼす影響を示す生物学的効果比(REB)については、トリチウムは
プルトニウムやセシウムよりも高い。ICRPが 昨年発行した『標準動植物に対する放射線加重
係数』(資料番号148)によると、トリチウムが放出する低エネルギーのベータ線の生物学的
効果比は、セシウム137などから放出される高エネルギーのガンマ線の2~2.5倍、X線の1.5
~2倍に達する。高エネルギー放射線は 透過力が強く、瞬間的に影響を与え すぐに抜け出すが、
低エネルギー放射線は透過力が弱く、体内に より長く留まり内部被ばくを起こすためだ。
(2)「あの時(ブラジルで発生したある原子力事故で)死亡した人々は、被ばくによるがんではなく、
恐怖心や副次的な要因で死亡したものだと思われます。放射線は がんを誘発する物質だとは
思えません」
→ 上記の通り、WHO傘下の国際がん研究所(IARC)は「アルファ粒子を放出する放射線核種
の内部沈着」「ベータ粒子を放出する放射線核種の内部沈着」などを第1群の発がん源に分類
している。アリソン教授は、続く質問への返答の過程で「 太陽から出る紫外線は放射線の一つ 」
だとして、「 紫外線を多く浴びるとがんが誘発される 」と述べたりもした。アリソン教授自身
が 自分の発言を否定したわけだ。
「汚染水の放出で騒ぐと水産物売れなくなる」韓国の地方自治体長の発言に非難
2023-05-17 hankyoreh japan