2023年05月12日 デイリー新潮
5月8日、新型コロナウイルスの法律上の分類が季節性インフルエンザと同等の5類に
引き下げられ、世の中は徐々に日常を取り戻しつつある。医療体制も見直され「平時」への
移行が進むなか、実は水面下で医療機関同士による“つばぜり合い”が起きているという。
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これまで 新型コロナの診療は 大学病院など「特定の医療機関」に限られてきたが、8日以降
は より幅広い医療機関で診ることになる。
「 入院患者を受けいれる医療機関は 移行前の約4900カ所から、9月末までに 約8300カ所へ
増える予定です。また 外来対応する医療機関も これまでより2000カ所増え、全国で約4万4000
機関にのぼる見通し。
しかし インフルエンザに対応する医療機関約6万4000カ所に比べると まだ開きがあるため、
厚労省は コロナ受診が可能な医療機関をさらに拡大したい意向です 」(全国紙厚労省担当記者)
大きな病院だけでなく、街のクリニックなどでも 診療が可能となれば、国民にとっては
利便性だけでなく、安心感も増す。 が、「医療の平時体制」への移行が スムーズに進むかは
予断を許さない状況にあるという。
「 外来を受け付ける医療機関約4万4000カ所のうち、かかりつけ患者以外にも対応するのは
約2万8000機関に過ぎません。インフルエンザ並みの医療体制にはほど遠く、“課題は山積みだ”
との声が厚労省内でも上がっています 」(同)
背景の一つに指摘されるのが、医療従事者側の心情に「2類相当」の名残が消えない点という。
「コロナで儲けたのは誰だ?」
会員のおよそ半数を開業医が占める日本医師会関係者が「町医者」側の“胸の内”をこう代弁する。
「 これまでコロナ診療をした経験がないため、不安に感じている開業医が多いのは事実。同じ
5類とはいえ、インフルエンザより オミクロンのほうが感染力は強いとされ、コロナ患者の
受け入れに 消極的な開業医が少なくないのも否定はしない。 実際、感染対策のノウハウも
コロナ患者を受け入れてきた大病院などと比べると 未整備な部分はあり、5類移行を機に 一気に
門戸を開放するというわけにはいかない事情がある 」
特に 医師本人が高齢だと 感染した際の重症化リスクも高いため、慎重を期す傾向にあるという。
例えば、コロナ診療を始めるにしても “かかりつけ患者だけ” にとどめたり、コロナの診療時間を
限定するケースなどだ。
都内で 内科クリニックを経営する医師に話を聞くと、匿名を条件に本音をこう語った。
「 “コロナが怖い”というよりも、これまで 大病院は病床確保料で散々儲けてきたのだから、
5類移行後も 引き続き “彼らがやるべきだ” との思いを抱えている開業医は多い。政府が バラ撒いた
カネは 大病院へ流れ、私たちには 何の恩恵もなかった。それなのに、いまさら “今後はお前たちも
コロナ患者を診ろ” と言われても困る――というのが率直な感想だ 」
「誤診」「たらい回し」のリスク
病床確保料とは、コロナの入院患者を受け入れる医療機関に対し、政府が支給する「空床補償」
とも呼ばれる補助金を指す。中等症用病床なら 1日あたり1床約7万円、最高額の集中治療室(ICU)
だと 同43万6000円に設定(8日以降は概ね半額)。
これまで 3500近くの医療機関に 計3兆円を超える額が支払われたが、会計検査院の調査で
次々と不正が発覚した経緯がある。「 受給対象となる日数のかさ増し 」や「 一般病床を単価の
高い高度治療室として申請 」するなどの過大請求事例が 多くの病院で指摘されたのだ。
もちろん、だからといって「 コロナ患者を受け入れない理由にならない 」ことは言うまでもない
が、一方で 5類移行後、大学病院などは コロナ病床を減らし、通常の診療業務へとシフト。
充実した設備やスタッフの揃う大病院が コロナ治療から手を引く分を中小の病院が カバーしない
のであれば、患者にとって 不利益となるケースが出てくる不安は拭えない。
東京歯科大学市川総合病院(呼吸器内科部長)の寺嶋毅教授が言う。
「 現在は 移行の過渡期のため、“コロナかも?”と不安を覚え、近くの医院に行っても診断に時間
がかかったり、結局、他の病院を紹介されるケースなどが出てくる恐れはあります。
実際、コロナとインフルエンザを問診だけで見分けるのは難しく、診療経験が浅いとなおさらです。
しばらくの間は中小病院において手探りの状態が続くところも出てくるでしょう。そのため患者の
側は 自分自身の症状や異変を感じてからの経緯などを整理し、医師に 正確な情報を伝えることが
最善の自己防衛策となり得ます 」
デイリー新潮編集部