2023/05/04 読売新聞
原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場選定を巡る動きが、
長崎県の離島・対馬市で活発化している。地元商工会が選定調査の議論を市議会に求める請願書
について、提出を判断する時期が近づいてきたためだ。調査を受け入れた自治体には多額の交付金
がわたる。地域浮揚への期待が高まる一方、風評被害の懸念もあり、行方が注目される。
コロナで観光打撃
4月24日、商工会理事会は 処分場選定の第1段階となる「文献調査」を巡る請願書の提出に
同意するかについて、会員らにアンケート調査を行うと決めた。調査票を総代ら約170人に配布し、
19日の臨時理事会で結論をまとめる予定だ。
対馬市で処分場誘致に向けた動きが表面化するのは、初めてではない。市議会は 2007年、
誘致に反対する決議案を賛成多数で可決し、議論は立ち消えになった。
請願書提出の検討について、商工会幹部は「 人口減と地域経済の疲弊ぶりは 深刻で立ち止まって
いる時間はない。島の将来の議論を深めるきっかけになれば 」と話す。
市の人口は 約2万7800人でピーク(1960年)の4割になり、高齢化率は40%超に。
島を支える観光も 日韓関係の悪化やコロナ禍で打撃を受けた。約50キロ先の韓国からの観光客は
18年に約41万人に上り、観光客全体の4分の3以上を占めたが急減。国際航路は 今年2月に
再開されるまで約3年間、全面運休した。
停滞ムード打開の一手
島の停滞ムードを打開する一手として浮上したのが選定調査だ。地質図や論文などを集める
文献調査、掘削で採取した試料などを分析する概要調査、地盤の安定性などを明らかにする精密調査
の3段階で、全工程で 約20年を要する。
文献調査に入った自治体には 電源立地地域対策交付金が最高20億円支給され、概要調査までなら
同90億円に上る。商工会幹部は「 文献調査の交付金が入れば、観光振興や雇用創出などに活用
できる。風評被害を懸念する人もいるが、動かないままでは島は立ちゆかなくなる。調査イコール
誘致ではない 」と本音を語る。
一方、誘致反対の動きも出始めた。労働組合員らでつくる対馬地区平和労働センターが開いた
4月25日の核のゴミに関する講演会には 約140人が参加。「 目先の何十億円のために美しい島を
売るのか 」という意見が飛び出すなど島の行く末や放射性廃棄物の安全性を不安視する声が出た。
商工会は19日に判断したうえで、6月議会への提出を目指す。最終的に 市として意思表示が
求められる比田勝尚喜市長は 活発な議論に理解を示しつつ、「島が分断されることが心配」と
話している。
北海道の2町村、調査入り
国は、2000年に成立した最終処分法に基づき、02年から最終処分場の候補先を公募している。
資源エネルギー庁は17年、火山や活断層が近くにない適地を示した「科学的特性マップ」を公表。
輸送面でも好ましい地域として 約900自治体が該当するとし、長崎県対馬市もその一つ。
ただ、文献調査に入っているのは 現時点で 北海道 寿都町と 神恵内村の2自治体だけとなる。
同庁の担当者は「 現段階で複数の自治体が関心を示している 」と話す。
政府は 4月28日の閣議で最終処分に関する基本方針の8年ぶりの改定を決定。最終処分場の
選定に向け、「政府の責任で取り組む」との文言を新たに明記した。
🔷 科学的特性マップ公表用サイト|放射性廃棄物について|資源エネルギー庁
科学性特性マップ 2017年7月に公表