なぜ日本はこれほど歪んだのか

…ヤバすぎる「9つのオキテ」が招いた「日本の悲劇」

                            2023.02.10         矢部 宏治      講談社

 

 日本には、国民はもちろん、首相や官僚でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が存在し、

社会全体の構造を歪めている。そうした「ウラの掟」のほとんどは、アメリカ政府そのものと

日本とのあいだではなく、じつは 米軍と日本のエリート官僚とのあいだで 直接結ばれた、

占領期以来の軍事上の密約を起源としている

    最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」を参照しながら、日米合同委員会の実態に迫り、

日本の権力構造を徹底解明する。

 

はじめに

 それほど しょっちゅうではないのですが、私がテレビやラジオに出演して話をすると、

すぐにネット上で、

  「また陰謀論か」
  「妄想もいいかげんにしろ」
  「どうしてそんな偏った物の見方しかできないんだ」

などと批判されることが、よくあります。

あまり いい気持ちはしませんが、だからといって 腹は立ちません。

自分が調べて 本に書いている内容について、いちばん「本当か?」と驚いているのは、じつは

私自身だからです。

       「これが自分の妄想なら、どんなに幸せだろう」

いつもそう思っているのです。

 

事実か、それとも「特大の妄想」か

   けれども 本書をお読みになればわかるとおり、残念ながら それらはすべて、複数の公文書によって

裏付けられた、疑いようのない事実ばかりなのです。

ひとつ、簡単な例をあげましょう。

 

    以前、田原総一朗さんのラジオ番組(文化放送「田原総一朗 オフレコ!」)に出演し、

米軍基地問題について話したとき、こんなことがありました。ラジオを聞いていたリスナーの一人

から、放送終了後すぐ、大手ネット書店の「読者投稿欄」に 次のような書き込みがされたのです。

 

    ★☆☆☆☆〔星1つ〕 UFO博士か?
       なんだか、UFOを見たとか言って騒いでいる妄想ですね。先ほど、ご本人が出演した

       ラジオ番組を聞きましたが(略)なぜ、米軍に〔日本から〕出て行って欲しいというのかも

       全く理解できないし、〔米軍〕基地を勝手にどこでも作れるという特大の妄想が正しいのなら、

      (略)東京のど真ん中に米軍基地がないのが不思議〔なのでは〕?

 

    もし 私の本を読まずに ラジオだけを聞いていたら、こう思われるのは、まったく当然の話だ

と思います。私自身、たった 七年前には このリスナーとほとんど同じようなことを考えていたので、

こうして文句をいいたくなる人の気持ちは とてもよくわかるのです。

 

    けれども、私が これまでに書いた本を 一冊でも読んだことのある人なら、東京のまさしく

「ど真ん中」である六本木と南麻布に、それぞれ非常に重要な米軍基地(「六本木ヘリポート」と

「ニューサンノー米軍センター」)があることを みなさんよくご存じだと思います。

   そして このあと詳しく見ていくように、日本の首都・東京が、じつは 沖縄と並ぶほど米軍支配

の激しい、世界でも例のない場所だということも。

 

  さらに もうひとつ、アメリカが 米軍基地を日本じゅう「どこにでも作れる」というのも、

残念ながら 私の脳が生みだした「特大の妄想」などではありません。

   なぜなら、外務省がつくった高級官僚向けの極秘マニュアル(「日米地位協定の考え方 増補版」

一九八三年一二月)のなかに、

 

   アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる。
  ○ 日本は合理的な理由なしに その要求を拒否することはできず、現実に提供が困難な場合以外

  アメリカの要求に同意しないケースは想定されていない。

 

という見解が、明確に書かれているからです。

 つまり、日米安全保障条約を結んでいる以上、日本政府の独自の政策判断で、アメリカ側の

基地提供要求に「NO」ということはできない

そう 日本の外務省がはっきりと認めているのです。

 

北方領土問題が解決できない理由

   さらに この話には もっとひどい続きがあって、この極秘マニュアルによれば、そうした法的権利

をアメリカが持っている以上、たとえば 日本とロシア(当時ソ連)との外交交渉には、次のような

大原則が存在するというのです。

 

     ○ だから 北方領土の交渉をするときも、返還された島に 米軍基地を置かないというような

  約束をしてはならない。*註1

 

    *註1 原文は次の通り。

     「このような考え方からすれば、例えば 北方領土の返還の条件として「返還後の北方領土には

      施設・区域〔=米軍基地〕を設けない Zとの法的義務を あらかじめ一般的に日本側が負うような

      ことを ソ連側と約することは、安保条約・地位協定上問題があるということになる」

         (「日米地位協定の考え方 増補版」一九八三年一二月

            /『日米地位協定の考え方・増補版──外務省機密文書』所収 二〇〇四年 高文研)

 

こんな条件を ロシアが呑むはずないことは、小学生でもわかるでしょう。

   そして この極秘マニュアルに こうした具体的な記述があるということは、ほぼ間違いなく

日米のあいだに、この問題について 文書で合意した非公開議事録(事実上の密約)があることを

意味しています

   したがって、現在の日米間の軍事的関係が 根本的に変化しない限り、ロシアとの領土問題が解決

する可能性は、じつはゼロ。ロシアとの平和条約が結ばれる可能性もまた、ゼロなのです。

   たとえ 日本の首相が何か大きな決断をし、担当部局が頑張って 素晴らしい条約案をつくった

としても、最終的には この日米合意を根拠として、その案が 外務省主流派の手で握り潰されてしまう

ことは確実です。

 

   2016年、安倍晋三首相による「北方領土返還交渉」は、大きな注目を集めました。

なにしろ、長年の懸案である北方領土問題が、ついに解決に向けて大きく動き出すのではないか

と報道されたのですから、人々が期待を抱いたのも 当然でしょう。

   ところが、日本での首脳会談(同年12月15日・16日)が近づくにつれ、事前交渉は停滞し、

結局 なんの成果もあげられませんでした。

その理由は、まさに先の大原則にあったのです。

 

   官邸のなかには 一時、この北方領土と米軍基地の問題について、アメリカ側と改めて交渉する道

を検討した人たちもいたようですが、やはり実現せず、結局 11月上旬、モスクワを訪れた

元外務次官の谷内正太郎国家安全保障局長から、

    「 返還された島に米軍基地を置かないという約束はできない 」

という基本方針が、ロシア側に伝えられることになったのです。

   その報告を聞いたプーチン大統領は、11月19日、ペルー・リマでの日ロ首脳会談の席上で、

安倍首相に対し、

  「君の側近が『島に米軍基地が置かれる可能性はある』と言ったそうだが、それでは交渉は終わる」

と述べたことがわかっています(「朝日新聞」2016年12月26日)。

 

  ほとんどの日本人は 知らなかったわけですが、この時点ですでに、1ヵ月後の日本での領土返還交渉

がゼロ回答に終わることは、完全に確定していたのです。

  もしも このとき、安倍首相が 従来の日米合意に逆らって、

「 いや、それは違う。私は 今回の日ロ首脳会談で、返還された島には 米軍基地を置かないと約束

するつもりだ」などと返答していたら、彼は、2010年に 普天間基地の沖縄県外移設を唱えて失脚

した鳩山由紀夫首相(当時)と同じく、すぐに政権の座を追われることになったでしょう。

 

「戦後日本」に存在する「ウラの掟」

   私たちが暮らす「戦後日本」という国には国民はもちろん、首相でさえもよくわかっていない

そうした「ウラの掟」が数多く存在し、社会全体の構造を大きく歪めてしまっています

そして 残念なことに、そういう掟のほとんどは、じつは 日米両政府のあいだではなく、米軍と日本

のエリート官僚のあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としているのです。

 

    私が 本書を執筆したのは、そうした「ウラの掟」の全体像を、

「 高校生にもわかるように、また外国の人にもわかるように、短く簡単に書いてほしい 」

という依頼を出版社から受けたからでした。

  また、『知ってはいけない』というタイトルをつけたのは、おそらく ほとんどの読者にとって、

そうした事実を知らないほうが、あと一〇年ほどは 心穏やかに暮らしていけるはずだと思った

からです。

 

  なので大変失礼ですが、もう かなりご高齢で、しかも ご自分の人生と日本の現状に ほぼ満足

しているという方は、この本を読まないほうが いいかもしれません。

  けれども 若い学生のみなさんや、現役世代の社会人の方々は、そうはいきません。みなさんが

生きている間に、日本は 必ず大きな社会変動を経験することになるからです。

 

 

 私が これから この本で明らかにするような九つのウラの掟(全九章)と、その歪みがもたらす

日本の「法治国家崩壊状態」は、いま沖縄から本土へ、そして行政の末端から政権の中枢へと、

猛烈な勢いで広がり始めています。

  今後、その被害にあう人の数が 次第に増え、国民の間に 大きな不満が蓄積された結果、

「戦後日本」という これまで長くつづいた国のかたちを、否応なく変えざるをえない日が 必ず

やってきます。

  そのとき、自分と家族を守るため、また混乱のなか、それでも 価値ある人生を生きるため、

さらには 無用な争いを避け、多くの人と協力して 新しくフェアな社会をいちからつくっていくために、

ぜひこの本を読んでみてください。

 

   そして これまで明らかにされてこなかった「日米間の隠された法的関係」についての、全体像に

触れていただければと思います。

 

    さらに<【後編】「戦後日本」のヤバすぎる現実…「東京上空」に存在する「奇妙な空域」の

「衝撃的な正体」>では、「米軍が支配する日本の上空」の問題について、詳しく解説します。

    (本書の内容をひとりでも多くの方に知っていただくため、漫画家の、ぼうごなつこさんに

  お願いして、各章のまとめを扉ページのウラに四コマ・マンガとして描いてもらいました。

  全部読んでも三分しかかかりませんので、まずはマンガから九章分通して読んでいただいても

  けっこうです。商業目的以外でのこのマンガの使用・拡散は、次のサイトから自由に行ってください。〔アドレス→ https://goo.gl/EZij2e〕)

 

 

 

    著者と語る『知ってはいけない2 

  日本の主権はこうして失われた』

    矢部宏治・ノンフィクション作家 2018.12.19 - YouTube