日本経済に待っている怖い話

  このままでは 最悪の“日銀破綻”もないわけじゃない?

                2022年7月8日    【報道1930】 | TBS NEWS DIG

 

  世界的にインフレが進んでいる。各国は 金利を上げインフレにストップをかけようと動く中、

 日本は 従来通りのゼロ金利政策を続行するという。 日銀は 金利を何故上げないのか? 

 もしかすると 上げたくても上げられないのだろうか? だとすると この先、どうなるのか?

 専門家に聞いた。

 

■「 国債の買い支え・ゼロ金利政策が 限界にきているとみています 」

   日本の財政赤字の埋め合わせとして 毎年大量に発行される国債。 これを毎月5兆円規模で

買っているのが日銀だ。 ところが 6月、突然 日銀の国債購入額が 16兆円に膨れ上がった。 

この急激 な “買い” の裏に何があったのだろうか …  実は この時期、海外の大手ヘッジファンドが

日本国債を大量に売りに出していて、国債の価値を下げないように 日銀が買い支えた結果だと

みられている。

    では ヘッジファンドは 何故 日本売りを始めたのか?  番組ではヘッジファンドのトップを取材した。

英ヘッジファンド『ブルーベイ・アセット・マネージメント』 マーク・ダウディング最高投資責任者

 「 世界中の中央銀行が 金融緩和政策を次々とやめてきています。 こんな中、ゼロ金利を続けて

いるのは日本だけです。日本銀行が実施してきた 国債の買い支え・ゼロ金利政策が限界にきている

とみています 」 

   日銀は 国債が安値で売買されると 金利が上がるため、高値で買い支えてきた。 ダウディング氏は

こうしたやり方に限界が近く来るだろう と思い 今回の “日本売り” を仕掛けたという。 

 

    マーク・ダウディング最高投資責任者 「 円安が 1ドル130円まで進んだ時から このポジションを

取り始めました。円安が進めば インフレにつながることから 日銀への政治的プレッシャーもかかって

くると考えたからです。世論調査を見ると 日本の国民の大半も 物価上昇に対する政府の対策に不満

を持っているようですし・・・。 (中略)私たちは 中央銀行と戦おうとしている訳じゃありません。 

日銀が 数か月以内に 自らの分析・判断で 金融政策を修正すると予想しているだけです 」 

    戦いを仕掛けているわけではないとしながらも、ヘッジファンドとしては、明らかに このままでは

日本はもたないので、日銀も 各国に倣って 金融政策を変更すると見越していた。

しかし 今回は、それ以上に頑なに 日銀が金利上昇を嫌がった ということだったのか。 

 

   経済評論家 藤巻健史氏   「 これ、スキームとしては 92年に 世界的投資家 ジョージ・ソロス

バンク・オブ・イングランド(イギリス中央銀行)に仕掛けて、勝ったときと同じスキームなんです。

中央銀行が いろいろ操作をすると “オデキ”が大きくなる。中央銀行がなければ マーケットが微調整

していくんですが 中央銀行が規制をしてくると “膿がたまる”。 それに 針を刺して 正常化しようとして

いるのが ヘッジファンドで、ソロスは それで イギリスの中央銀行に勝って 大儲けしたんです。

   ヘッジファンドとしては仕掛けますよね。 儲かったら大儲け。 失敗しても儲からないだけで損は

ないですから 」 

    結果、日銀は 政策変更せず 16兆円を投じて またしても買い支えてしまった。 ヘッジファンドの

目論見は 今回は外れ 儲けられなかった。ヘッジファンドの目論見を外したといえば いいことのよう

だが、ヘッジファンドも 次を狙うだけ。 その時、まだ 日本は 同じことをできるのか。日銀は 何故 

ここまでこだわるのだろうか?

 

■「 インフレにするのは 簡単だ。中央銀行が信用を失えばいいんだ 」

     金融緩和政策を変更して 金利を上げた場合、何が起こるのか見ておこう。

 住宅ローン等が引き上げられ 利用者の負担が増える。さらに 企業の借入金の返済負担も増える

…などから 経済は確実に悪化する。  ただし、円安が止まり、賃金がアップし、インフレが抑えられる

なら、乗り切れそうだ。  

   問題は、日銀、政府の側にある。日銀が持つ 500兆円を超える国債。 これは 金利が上がると

国債の価格は 目減りする。すると 実質債務超過とみなされるリスクがある。さらに 金利が上昇すると

政府にとっては 利払いが増える。金利 1%アップで、年3.7兆円増える計算だ。やはり 日銀は金利

を上げられないのだろうか?   

  経済評論家 藤巻健史氏  「 (金利は)間違いなく上げられないんだ と思う。だから 黒田総裁

いろいろ屁理屈を言っている。 というのは 去年の3月から 今年の3月の1年間で 日銀の国債の

含み益が5兆円減ったんです。 まぁ あと 4兆くらい残ってるんですが…。 これは 1年間で 0.12%、

市中金利が上がったからなんです。あと 0.12%上がっちゃったら 明らかに評価損になる。

(中略 ~ 中央銀行が債務超過とみなされるとどうなる? ) 民間のように資金繰り倒産はしません。

でも 外国人が どう評価するかですよ。 アメリカのサマーズ前財務長官が 『 インフレにするのは簡単

だ。中央銀行が信用を失えばいいんだ 』って言った。 信用を失う最たるものが債務超過なんですよ。

債務超過になったら 格付け機関の評価が下がるでしょうし、 私、外資系の金融機関にいたんで

わかりますけど 日銀に対する信用枠をなくしちゃうと思います。すると 外資は 皆な 日本から撤退 」 

 

   これに対し 金利を上げる前にやるべきことがある というのは、かつて 日銀で調査統計局長などを

歴任した早川氏だ。 早川英男 元日本銀行理事 「 私は 現状は (金利を)上げないんだと思う。ただ

これをいつまでも続けていたら 本当に上げられなくなる。問題は そもそも日銀が大規模緩和始める

前の段階で、政府と共同声明を出しているが、 その時には 日銀は 2%のインフレ目指すとし、一方で

政府は 持続可能な財政構造を作る、潜在成長率をあげる という 2つの約束をしているんです。

本当に 2%インフレを目指すんだったら 財政を立て直さなきゃだめですよって 政府に言ったんです。

日銀としては 約束が違うっていう気持ち 」

 

■「 禁じ手中の禁じ手をやった。要は 財政破綻の先送り・・・ 」

   2013年3月に 黒田総裁が就任して、翌月には 現在も続く異次元緩和』が始まった。だが思えば

これは アベノミクスの3本柱(金融政策・財政政策・成長戦略)のひとつだった しかし、あれから

5年、財政健全化は 程遠く、成長戦略も 今はいずこである。 結局、日銀の政策だけが残って

しまった。 現在 日本の借金である国債の50%は 日銀が持っている。 その日銀は 「 政府の子会社 」

だと安倍元首相は言う。

 

     早川英男 元日本銀行理事 「 元首相って人が 中央銀行は 政府の子会社だっていうのは不適切

だと思いますけど、間違ってはいません。経済学上は そういう位置づけです。いちばん問題なのは、

親会社が しっかりしていれば 大丈夫なんです。過去に債務超過になった中央銀行も いくつもあり

ます。でも 親会社である政府がしっかりしていれば、日銀が債務超過になろうと 助けてくれます。

 ところが 親会社がしっかりしてないで、2%インフレ目標だけ達成できて、金利上げますって言っても

政府は大赤字だから困ります、これじゃ どうにもならないです 」 

    経済評論家 藤巻健史氏 「 そもそも異次元の金融緩和自体が デフレ脱却っていう 大義名分は

ありましたけど、僕は 2013年4月の時点で 財政破綻していたと思うんです。 GDPに対する借金の

割合がすごくて。異次元緩和って いかにも格好いい言葉なんですが、実は 財政ファイナンスなん

です。 中央銀行が 政府に お金を貸しちゃうっていうやっちゃいけないこと、禁じ手中の禁じ手を

やったんです。 要は 財政破綻の先送り政策をやったんです。 先人が こんなことしちゃだめだよって

ことを あの時点でやったから、今 こんなに膿がたまってるんです 」 

 

   世界がやめたゼロ金利政策。 先人たちがだめだ といった財政ファイナンス。 禁じ手を続けた先

には 何が待っているのか、藤巻氏は言う 

   経済評論家 藤巻健史氏 「 日銀は やめられないと思う。インパール作戦ですよ。行くところまで

行く…。その先にあるのは、ハイパーインフレですよ。金利は上げられない。お金は ばらまく。回収

はできない。もう 中央銀行の体をなしてないですよ 」 

 

   こういった最悪のシナリオを懸念する藤巻氏は、最後に 現在の日銀をつぶして 新しい中央銀行

を作るしか道はないと言った。何らかのソフトランディングはないものなのか・・・? 

    経済評論家 加谷珪一氏  「 時間稼ぎかもしれませんが 政府は もうちょっと財政健全化と

成長戦略の方向性を はっきりさせる一方で 日銀は (金利0.25を死守するとか言わず) あいまいで

柔軟でいいのではないか。 日銀が手詰まりのため、インフレ圧力がたまっているのは間違いない

です。 皮肉なことなんですが、非常に インフレが進むと 政府債務の GDP比率が下がるんですね。

通貨の価値が下がるので 借金も目減りすると。

   でも それを狙うのは綱渡りで…。 国民の資産も目減りしてしまうこともありうるわけです。最初に

この歪みが顕在化するのは 為替だと思う。 想定外に円安が進む というのが まず考えるべきリスク

だと思います。それが 明日来るのか、来年なのか 分かりませんが そのリスクは それぞれが考えて

おかなければならないと思います 」

                                                                          (BS-TBS『報道1930』 7月4日放送より)