現代ビジネス  6月4日

 

3メガバンクに公的資金注入される…?

小野 一起

 

 

   コロナショックが 実体経済をグローバルに悪化させている中、いま 経営不安が指摘されているのが

銀行業界である。 企業が これからバタバタと倒れていった場合、不良債権が銀行経営を圧迫することは

間違いない。 そうして 「金融崩壊」が現実になった時、いったい 何が起こるのか――。

   今回は、新作小説『よこどり 小説メガバンク人事抗争』で、金融の未来 や 銀行の在り方に独自の切り口

で 迫った作家の小野一起氏が、メガバンクの現役幹部、地銀の中堅、元日銀幹部など金融の最前線を知る

銀行員たちと緊急対談を実施した。「 銀行救済で、公的資金100兆円が投入される? 」「 銀行は 政治家に

梯子を外されるかもしれない 」「 コロナで 5大銀行は 2~3行に再編される可能性もある 」 …… 銀行員たち

からは衝撃の本音が次々飛び出した。

 

銀行の損失は 「1兆円」を超える…!?

 小野  われわれは 近年、二つの経済ショックを経験してきました。  一つは、バブル崩壊に伴う1990年代

後半の日本の不良債権問題。 もう一つは、2008年のリーマンショックです。  いずれも 発信源は金融という

点で共通点がありました。

 
 一方、今回のコロナショックは 国内外の人の動きが途絶えることで起こる ビジネスの停滞が発信源です。
いったい、われわれは、この危機を どう克服すればよいのか。 そして、コロナショックが銀行の経営危機を
引き起こし、グローバルな「 金融崩壊 」が 世界恐慌を招くことがないのか。 みなさんはどう考えますか。
 
 メガバンク部長A(50代)  金融恐慌が起こるかどうかは、実体経済の痛みの深さが どの程度か に
よりますね。 メガバンクの自己資本率は、おおよそ 15%です。1990年代後半に 日本の大手銀行の不良債権
問題がクローズアップされた時は 損失の処理に追われて、当時の規制ぎりぎりの 8%前後まで自己資本比率
が下がっていましたからね。 リーマンショックの際が 10%程度でした。しかも 今は、資本の内容は 普通株が
中心で 損失を吸収する力が 当時より遥かに高い。
 2021年3月期には、コロナショックによる損失に備えて、引当金の水準を 2倍近くに引き上げて、メガバンク
を中心にした 5大銀行で 1.2兆円になる見通しです。 なので、今年度の倒産が増えて、銀行の損失が1兆円
出ても、何の問題もありません。 その程度なら、メガバンクは びくともしません。
 
 ただ グローバルな景気後退が泥沼化して、数千億円規模の融資を実行している企業が バタバタと潰れる
ような恐慌なような状態になれば、話は別 ということになります。
 
 
 
メガバンクへの「公的資金注入」も…
 元日銀幹部B(50代)  今回の危機は、リーマンショックを超えるでしょう。なんといっても、第二波、第三波
のリスクもあるし、問題が グローバルに広がり過ぎて、人やモノの往来が いつ回復するのか見通せません。
そう考えると 銀行の損失が 1.2兆円の範囲で収まるとは とても思えない。私は 大企業が、バタバタと倒れる
恐慌のような事態にも備えるべきだと思います。
  その場合に、政府が どのくらい本腰を入れて 金融支援に乗り出すかが、金融崩壊を防げるか どうかの
ポイントになるでしょう。
 
 政府系の政策投資銀行が 劣後ローンを企業向けに出して、資金支援する枠組みを強化しています。
劣後ローンは 資本に近い性格の融資なので、これは 悪くないでしょう。 また 地域金融機関向けに公的資金
を注入できる枠組みを強化するそうですね。 枠は 15兆円とか。
 ただ、90年代後半の不良債権問題の際には 金融機関への公的資金は 60兆円の枠を設定しました。
今回は メガバンクへの公的資金の注入の可能性も視野に 100兆円ぐらい用意しておいてもいいと思いますよ。
もし使わなければ、それは それでいい。 備えあれば、憂いなしです。
 
 小野 今回、救いだと感じるのは、近年経験した 2度の金融危機のレッスンが生かせることです。
例えば 90年代後半からの不良債権問題で言えば、北海道拓殖銀行の経営破綻 や 日本長期信用銀行の
一時国有化で、日本経済が凍り付くような不況に転落する犠牲があって初めて 大手銀行に 7兆5000億円の
公的資金を注入できる枠組みが整いました。  アメリカでも リーマンショックの際には、リーマンブラザーズ
という大手証券を経営破綻させて 市場に大きなショックが出なければ、中々公的支援に乗り出せなかった。
 
 「 なぜ、金融機関を 税金で救うのか 」という議論が 世論の反発を生み、公的支援への政治的な決断が
できなかった。
 生贄のように 大手金融機関を潰して、実体経済の悪化が広がらない と 本格的に政府支援に乗り出せ
なかった構図は 日米で似通っていました。
 
最後は、政府から「はしごを外される」

  小野    ただ、いったん 金融システムが揺らぐと、実体経済の悪化に歯止めがかからず、金融機関を救済

した費用を上回る 社会的、経済的なコストがかかることを、われわれは 学んできました。

 

 そのため、コロナショックでは 「大企業救済」「金融機関救済」への政治的な抵抗が少ない。政策形成を
担う官僚にも 過去のレッスンの効果が出ているように思います。ジャーナリズムも 「 税金による強者の保護 」
という安易なアジェンダ設定をして、政策批判を展開するケースが 少なくなっていると思います。
 
 メガバンク経営企画担当C(40代) 今回は 原因が 新型コロナなので、「 悪者がいない 」という点も公的支援
のハードルを下げています。日本の不良債権問題も リーマンも 明らかに、金融機関に非がありましたからね
(苦笑)。 確かに、いざ 金融崩壊を引き起こした時の経済的コストについての理解が 経験的に蓄積されている
意味は、大きいでしょう。
 
 メガバンク部長A  公的支援という意味では 確かにそうです。ただ、私は 銀行が 政治のおもちゃにされる
リスクも感じています。  例えば、メガバンクは 政策投資銀行と一緒に、ANAやJALに追加融資枠を設定し
ました。 「いざ」という局面になると 政府に梯子を外されるのではないか と心配しています。

 小野  政府に梯子を外される、というのは、どういうことですか? 
 メガバンク部長A  2010年のJALの経営破綻の時を思い出して下さい。政府が 資本支援をするのとセットで
会社更生法を申請して、銀行融資は 数千億円規模で吹っ飛ばされました。税金を守るために 銀行の融資を
踏み潰すなんて、政治家は 平気ですからね。 元々、銀行は いけすかないエリート集団だと思われています。
  「 少々、損失を押し付けてもいい 」という発想が 政治家や官僚たちの間に、確実に根付いています。税金
は 自分たちの責任の範囲だけど、銀行の損失は関係ない と思っていますよ。

 小野  JALの時は、民主党政権でしからね。意図的に 銀行に負担を被らせたというより、未熟な政権だった

ので、意思決定が迷走した結果だ と思います。 確かに、銀行が 政治的な配慮の対象外だったことが招いた

結果とも言えますが。

 

これから起きる「本当のこと」

  旧日銀幹部B  大きな意味では、銀行は 民間のビジネスというより 公的機関のような存在になりつつ

あります。 だから、国民からの目線も 厳しくなり、政治のおもちゃにもされやすい。

 だって、21世紀にはいってから、世界は 常に イベントリスクにさらされている。テロもあれば戦争もある。

アメリカの一国優先主義のような政治的な変動もあった。それに リーマンショックに、今回のコロナショック

です。わずか 20年の間に、これだけのことが起こる 不確実の世界に我々は生きている。


 何かあるたびに、公的支援が必要なら 本質的な意味で、きちんと稼げていないということです。様々な
イベントリスクを想定した リスク とその際の損失を吸収する リターンが見合っていない。最後は 政府が
出てくることが前提となっている。 これでは 民間のビジネスとして成立していない。
 『よこどり』では メガバンクが、新興国を中心にした 海外融資に傾斜した結果、不良債権が拡大する様子
が描かれています。 まさか 小野さんが コロナショックを予見していたとは思えませんが、三菱UFJフィナンシャル
グループが、保有していた海外銀行の減損処理で 多額の損失を計上しました。
 
 つまり、どこかで、最後に 公的資金で救われる という甘えがあるのではないか。だから時に、変なリスクを
取って、儲けを確保しようとするのではないか と思います。
ただ、これは 日本のメガバンクが悪いというより、グローバルに 金融ビジネスが歪んだ結果とも言えます。
まともな融資では 利ザヤが小さくてもうからない。だから 公的救済を当て込んで、無茶な博打に打って出る。
こういうインセンティブを 経営者にもたらすリスクが 常にあります。
 コロナショックが 深刻な経済危機を引き起こせば、新興国向けの融資 や 出資等が多額の損失を生み、
メガバンクの経営を揺さぶる『よこどり』のストーリーが 現実になるリスクは 十分にあると思いますよ。
 
 
 メガバンク経営企画担当C そこまで言われると、ちょっと反論もしたいです。
 
 リーマンショックの後に、グローバルに規制の網を しっかり かけられていますからね。相当に、手足は縛られて
います。その結果、少しずつ利益を貯めて、ようやく 自己資本を ここまで積み上げきたわけです。
 
 
5大銀行は「2~3行」に再編へ

 メガバンク経営企画担当C   それに、これだけ 利ザヤが縮小した上に、ソニーや楽天など異業種から

どんどん金融ビジネスに参入してきて、ますます 過当競争に拍車がかかっています。 一方で、われわれは

電機メーカーを買収するわけにはいかない。 しかも、デジタル化が進めば 情報の非対称性も小さくなる。

つまり、われわれが持っている企業の 経営情報の価値が低下していきます。

 これだけ追い込まれて、稼ぐ力が弱い と言われてもかなり厳しいですよ。

 
 個人的な意見でいえば、出資規制を緩和して、プライベートエクイティ(PE)ファンドのような ビジネスに参入
できるようにしてほしい。 PEは 成長の道筋が見えなくなった企業や経営が苦しくなった企業の株式を買い
取って、非上場化して、例えば ビジネスのグローバル化に道筋を付けたりして、経営の在り方を転換して、
再上場を目指すファンドです。
 
 ここに 銀行の持つ融資機能を付ければ、出資と融資をセットして 新たな事業再生のストーリーを描き、
株式の上場益などで儲けも確保できます。今のは ほんの一例ですが、経営に もっと自由度を与えてほしい
です。
 
 それに、確かに 銀行は 経営危機に転落すれば、公的資金で救済されるのでしょう。でも 厳しい試練は
免れません。90年代後半の時は 公的資金の注入に伴う 経営責任は不問となりましたが、政府に 厳しい
経営計画の策定を求められ、リストラや給与カットも迫られました。その上、19行あった大手銀行は、3メガ
バンク と りそな、三井住友信託の 5グループに再編されました。
 正直、合併は 本当に厳しいですよ。ポストがなくなり、意思決定も複雑になります。旧行の足の引っ張り
合いで、無駄なエネルギーを使いました。それは 『よこどり』に描かれている通りです(苦笑)。
 
 仮にコロナショックが 不良債権問題に発展して、メガバンクに公的資金が投入されれば、これは悪夢です。
今の 5グループが、きっと 2つか、3つに再編されることになるでしょう。組み合わせを想像しただけで、胸が
苦しくなります。残りの銀行員人生で、 二度と合併なんて 経験したくありません。

 

 
「破壊的な変化」に備えよ!
  大手地銀経営企画担当D(30代)   地銀の場合、メガバンクより 状況は厳しいので、地銀の間で経営力の
差が はっきり出て優勝劣敗が進むでしょう。 再編が進むのは避けられません。一方で 金融のデジタル化
や AI(人工知能)などの新たな技術を武器に 異業種からも 金融に参入してくるプレイヤーもいる。これは
「コロナ以前」から進んでいたことですが、コロナで 動きが加速するでしょう。
 
 これまでの金融ビジネスだけでは 生き残りは難しい。「○○×金融」のような発想の組み合わせが必要
です。ふくおかフィナンシャルグループは 「みんなの銀行」を設立して、ネットバンクを通じて 全国展開に挑戦
しています。人材や地域商社、農業、観光など、金融と掛け算できる 新しいビジネスの軸を作って、「金融も
やっていたんだ」 と言われるぐらいになりたい。
 
 新聞が売れなくなったので、保有不動産で生き延びるようなやり方は、情けないし、持続的ではありません。
例えば 富士フイルムのように、既存のフィルムのビジネスは シュリンクしても、そこで 蓄積した技術で様々な
分野に多角化するイメージでしょうか。 金融で蓄積したノウハウや情報が陳腐化しないうちに、新しい掛け算
を作って、ビジネスに打って出る必要があります。

 小野  歴史的に見ても、感染症が 社会や経済の在り方を違うステージに変えてきました。
 
 コロナショックは、今の3メガバンクを中心とした銀行に 再編を迫り、新たな体制へと導くかもしれない。
しかも、今の金融ビジネスの在りように起こりつつあった 破壊的な変化を加速する可能性もあります。そして
金融と実体経済は 合わせ鏡です。 金融の変化は、世界を あらたな姿に塗る変えることになるでしょう。