元知事の医師が斬る新型コロナ対策の穴

感染拡大を招いた無知な官邸と「総ヒラメ」状態の霞が関

                        米山隆一前新潟県知事・医師・弁護士
 
  新型コロナウイルスの感染が 19日午前8時現在で 61人を数え国内の感染は 新たなフェーズに
入っています。
  ここまでの政府の対応は 「後手後手」というより 「失態続き」といっていいものだったと言えます。
まずもって 昨年の12月30日に 武漢市衛生当局が「原因不明の肺炎に対する緊急通知」を出し、
1月15日には 国内初の感染者が見つかった。 27日には 武漢市が海外団体旅行を禁止していたにも
かかわらず、日本が新型コロナウイルス感染症を指定感染症に指定し、湖北省に滞在歴のある外国人
の入国拒否を決めたのは、中国の感染者数が 1万人を超え WHOが緊急事態を宣言した31日の
翌2月1日になってからでした。 1月初めとは言わないまでも 下旬には対応ができたはずで、遅きに失した
のは明らかです。
  その後の大型客船ダイヤモンド・プリンセス号については さらにひどい。乗客の感染が分かった2月5日
に 検疫のために 2週間の船内待機を命じたのはやむを得ないとして、密閉された船内に 4000人近くを
とどめ置く検疫でありながら、船内では 手洗いの徹底等以外には 特段の感染予防措置を講じることはなく、
7日には 41人、10日には 65人と新たな感染者が増え続けたにもかかわらず これを放置し、結局、きのう
までに検査を受けた 2404人のうち 542人の感染が確認されるに至っています。感染率は 22・5%という
異様な高値で、しかも この際、検疫官が防護服を着用することなく検査に臨み、自ら感染してしまうという
「とほほ」以外の何物でもないおまけまでついています
 
 政府の無策で感染を拡大してしまったのは 明らかでしょう。 きょう以降 順次下船となりますが、多くの人は
治療・待機は 日本で行うことになります。
 
 何故 これほど失態が続いたかについては、正直 合理的な説明は難しく、霞が関が完全に上ばかり見る
「総ヒラメ」状態になっているにもかかわらず、官邸幹部に 感染症対策が分かる人がおらず、誰ひとり指示を
出せずに 上下お見合い状態になったとしか考えられません
  日本国内で ここまで感染を拡大してしまったことについて、政府の責任は極めて大きいものと言わざるを
えず、その危機管理能力に 重大な疑問を呈するとともに猛省が求められます。 
 
                                                                           (つづく) 
 
 
 

「すでに感染者数千人」「終息に2年」は 大げさなのか

 毎日、新型コロナウイルス感染が 数十人規模で発覚するクルーズ船 「ダイヤモンド・プリンセス」。 17日は

新たに検査で 99人の陽性が確認された。 これで 船内の感染者数は 454人。凄まじい感染力だ。

 
しかも、99人のうち 無症状者が 70人もいたから驚く。
 
 日本各地で感染者が見つかっている以上、すでに 市中感染が広まっていて、無症状のウイルス保持者も
相当数に上る と考えた方がいい。 その証拠に、検査要件を緩和した途端、次々と新たな感染者が見つかっ
ている。
 
  国立感染症研究所が 2008年に作った感染拡大シミュレーションによれば、首都圏の鉄道に新型インフルエンザ
を発症した人が 1人乗った場合、まったく対策を取らなければ、感染者数は 10日間で 12万人に拡大する
可能性があるという。 実際に 国内の新型コロナ感染者が鉄道を利用していたことも分かっている。人口密集
の都市部を中心に、感染者数が爆発的に増えるのは 時間の問題だ。

 WHO(世界保健機関)のコンサルタントとして、フィリピンで SARS封じ込めチームを指揮した経験のある
医師の高橋央氏も 16日、日本テレビの番組でこう言っていた。
 「 SARSの経験から、すでに国内に数千人の感染者がいると思われる 」 
 「 SARSにない(無症状でも感染力を持つ)特徴を考えると、終息までに 1~2年はかかる
 「 平和の祭典であるオリンピックが感染の大舞台になるリスクがある
 
 これだけ深刻な事態になっても、政府が発表した対策は  「 人混みを避け、不要不急の集まりを自粛 」
「  37・5度以上の発熱が4日以上続いたら専用窓口に相談する 」だから話にならない。 個人に リスクを
押し付けているだけではないか。こうも 政府が無能無策では、やはり自分の身は 自分で守るしかない。 
 

防護服でも感染の衝撃

  厚労省は17日、「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で事務業務に当たった 50代の同省男性職員1人

新型コロナウイルスに感染したと発表した。

 感染した職員は 11日から連絡調整などを担当。 14日夜に発熱、16日夜に感染が確認された。
乗客乗員との濃厚接触はなく、マスクの装着など感染防止策は取っていたという。同船では 男性検疫官1人
の感染も確認されている。 短時間、船内で活動しただけで 感染が相次ぐ状況は衝撃だ。
 
 17日は、80代の女性が 新型コロナに感染して死亡した神奈川の病院でも、新たに 40代の看護師1人の

感染が判明している。 感染症に対する知識を持ち、細心の注意を払っている医療従事者ですら、容易に

感染する状況を考えると、新型コロナの感染力は想定よりもはるかに強いと考えざるを得ないだろう。

そもそも、プロの検疫官が感染するのは、通常、考えられないことだ

 

  厚労省は 感染症対策として、ホームページなどで 「手洗い」 「マスクの着用を含む咳エチケット」を呼び掛けて

いるが、果たして 「手洗い」 「マスク」で 感染を防げるのか。 医療ガバナンス研究所理事長で、内科医の

上昌広氏はこう言う。

 
  「 感染を100%防ぐのはムリです。 ウイルスというのは 粘膜から体内に入るのですが、誰でも無意識のうち
に口や鼻を触るでしょう。 防護服を着用し、感染症の知識のある厚労省職員や看護師でも 感染している
のです。今後、感染者が どんどん増えるのは間違いありません
 
 

   「手洗い」「マスク」も「念のため」という気持ちでいた方がいいのかもしれない。