日本は どこで 「ダイヤモンド・プリンセス号」の対応を間違えたのか

                                    アメリカを怒らせ、世界から非難され

                                                https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70476

 

                                    2020   02.17     松岡 久蔵

                                               Twitter: @kyuzo_matsuoka。 ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/

 

 楽しい船旅のはずが、危険なウイルスが蔓延する船内に閉じ込められると 誰が想像していただろう。

新型コロナウイルスの検査のため、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港で足止めを食らって

まもなく 2週間が経つ。 日本本土への感染拡大を防ぐため、政府は 乗客・乗務員合わせて約3500人への

検査を進めているが、待機期限の 19日までに全員の検査を完了させるには、まだほど遠い状況だ。

米国政府は 自国民の乗客をチャーター機で帰国させる方針を固め、安倍政権の対応に国際世論の批判が

強まっている。

 
強まる「人権侵害」の声

 

  「 公衆衛生の危機対応として、教科書に載るような悪い例

米有力紙 ニューヨーク・タイムズ (電子版)は 11日の記事で、日本政府の今回の対応について こう強く批判した。

政府は、検査により 感染が確認された人は 医療機関に順次搬送する方針で、非感染者、結果待ちのには 

客室などでの待機を求めている。 また、80歳以上の高齢者で持病がある人などについては、ウイルス検査で

陰性だった場合、本人の意向を確認した上で 政府が用意した宿泊施設に移ってもらうとしている。

 

 しかし 船内での感染拡大に歯止めがかからず、こうした対応に海外メディアを中心に批判の声が強まって

いる。客室での待機が基本とはいえ、食事の給仕など 乗員・乗客が接触する局面はどうしても出てくるため、

拡大を防ぐのは 不可能だ。 感染の恐怖と戦いながら生活すること自体も強いストレスとなる。 外国人乗客

から 「 人権侵害だ 」との非難の声が上がるのも 無理はないだろう。

 

  政府は、現状 1日300件の検査能力を 1日1000件以上に拡充するよう急いでいるが、14日時点で検査済

930人と、全乗員・乗客の 4分の1程度しか進んでいないのが現状だ。 15日までに感染が確認されたのは

285人。 停泊が長引いたことにより、かえって 感染が拡大した可能性は 極めて高い。

 

しびれを切らした米国

 

  日本が 検査機関を2週間と決めたのに対し、香港では 1800人を乗せたクルーズ船をわずか 4日の検査で

入国させ、対応の違いが際立った。もちろん、新型ウイルスを文字通り 「水際」で食い止めるべく慎重になる

こと自体は、悪いことではない。しかし、平常時でも クルーズ船にはつきものとされるノロウイルスなど別の

感染症が拡大する懸念もあり、長期の停泊は なるべく避けるべきであることには違いない。 

 

  ある危機管理コンサルタントは 今回の日本政府の対応について、こう解説する。

  「 一番まずいのは、一貫した方針が はっきりと示されていないことです。今回のような事態が起きた時、

  達成しないといけない目標は 3つあります。 

  (1)国内へウイルスを入れない、(2)船内での感染者を増やさない、(3)乗客の安全かつ早期の帰宅・帰国

  を支援する、です。  しかし 今回、こうした方針が政府から明確に発信されていない。定期的に感染者数など

  の数字は公開されているものの、現状報告ばかりで、いつまでに 何を目指すのか、何が どうなればひとまず

  安心できるのか、といった区切りが全く見えない。

  これでは 乗員や乗客の不信感が募るのは当たり前ですし、乗客の母国の政府から、対応に疑問を持たれ

  てもしかたない 

 

  実際、しびれを切らした米国は 16日、米国人の乗客 約380人を旅客機で帰国させる手続きに入った。

米国は 自国民ファーストの国である。 主権侵害の嫌いもないではないが、日本政府の後手後手の対応が

頼りなく見えたのは間違いないだろう。

 

日本人の「対策できない病」

 

  今回の新型コロナウイルス禍を通じて、日本人の「想定外の事態」への弱さが また顕在化していることは、

1月26日の「コロナウイルスで顕在化…安倍政権が『インバウンド・リスク』で躓く日」でも指摘した。

「 悪いことは 起こってほしくない 」「 対策をしたら 本当に悪いことが起きてしまう 」という思い込みが 勝り

すぎて、最悪の事態まで 想定した現実的な対策を考えることができない

                                         1月23日 武漢封鎖、  1月24日~30日 春節

  ダイヤモンド・プリンセス号は 今、まさに よからぬ進路を突き進んでいるように見える。そこには 前例や

マニュアルは存在せず、官僚にできる対処にも 限界がある。政治決断だけが勝負といってもよい。

  とはいえ 安倍政権にとっては、進むも退くも 地獄という状況だ。乗員・乗客を感染者を含め上陸させた場合、

「 国内感染を広げるつもりか 」との批判が巻き起こるのは必至。かといって、このまま 全員の検査が完了

するまで 船内待機を続けさせれば、状況は 悪くなる一方だ。

 

   この板挟みの中で、ゼロリスクの正解は存在しない。すでに 国内では、感染経路が不明な患者も発生する

など、「 市中感染 」の拡がる兆候も現れている。

ウイルスの完全な封じ込めは 不可能である ことを前提として、やはり 乗員・乗客の受け入れを決断し、

可能な限り 国民に理解を得られるよう訴えるしか道はないのではないか。

  政府は 「現状把握」 と 「世論への忖度」ばかりに追われ、すでに相当な時間を浪費している。いくら末端の

スタッフが真面目で優秀でも、マネジメント層が リーダーシップを発揮できず、結果として 危機対応の弱さを

露呈する ―― まるで 東日本大震災での対応の再演を見ているようですらある

 

これは「ケガレ」の思想ではないか

 

  また 今回、日本が 「ダイヤモンド・プリンセス」号の乗員・乗客の受け入れを拒んだ背景には、「ケガレ」の

思想もあるのではないだろうか。科学的根拠をないがしろにし、とにかく 「 汚れているものに触れたくない 」

という感覚は、多かれ少なかれ 私たち日本人が持っているものだ。

  新型コロナウイルスの感染拡大が騒がれ始めて 約1ヵ月半が経過し、「 感染力は強いものの、殺傷力は

インフルエンザを下回る 」との評価が定着しつつある。死亡者も高齢者や疾病患者が多く、手洗いや消毒を

励行し 咳などのエチケットを徹底すれば、感染リスクは抑えられるというのが専門家の一致した見方だ。

  実際、シンガポールのリー・シェンロン首相は 「 恐怖は ウイルスよりも殺傷力が高い 」と、国民に通常の

市民生活を営むことを呼びかけている。グローバル化が進み人の行き来が急増している現在、「ケガレ」から

逃れることはできない。 具体的なリスクの比較考量をした上で、受け入れ可能なもの、そうでないものを

見極めてゆくほかない。

 

  幸い、日本社会も 1ヵ月前のようなパニック状態からは かなり落ち着きを取り戻しつつある。政府が乗員・

乗客の受け入れを決断しても、宿泊施設などの体制さえきちんと整えれば、世論も むしろ評価するだろう。

福島第一原発事故での 旧民主党の事故対応をめぐって、「 自民党政権だったら被害は格段に少なかった」

という言説が いっとき流布し、自民党の復権につながった面があった。しかし 今回の新型コロナウイルスへの

対応を見る限り、自民党も それほど想定外の事態への対応力が強いとは言えない。

  やはり これは日本という国家そのものの問題なのだ。 事実を 虚心坦懐に受け入れ分析する 知力と、

決めるべき時に決めるリーダーシップがなければ、危機には立ち向かえない。

 

 

     ※ 高橋千鶴子(日本共産党)2020年2月17日衆議院予算委員会

          新型コロナウイルス  /  424の公的病院を統廃合して 13万床減らす

            https://www.youtube.com/watch?v=UdaLvpx7HBc   約33分