前回コラムでは、2019年8月下旬に公表された公的年金の財政検証結果を受け、全体として所得代替率*
が将来どうなるのか、「100年安心」の年金として設計されたときの公約である 50%の所得代替率を引き続き
達成できる状況になっているのかを確認しました。
前回の結論は、経済が想定通り、経済成長と労働参加が進むケース(ケースI~III)ならば 代替率50%は
達成できる との結果になりました。しかしながら、私は 出生率などの前提が楽観的だと思っており、それが
前提通りにならなければ、たとえ 経済が順調に成長したとしても 所得代替率は50%を下回る可能性がある
と指摘しました。また、そもそも 経済前提が楽観的すぎるとの意見もあり、それ基づいて計算された将来の
所得代替率も いささか楽観的ではないか、とも お伝えしました。しかし、全体論では 自分自身に どのような
影響があるのか、ピンとこない人が多いと思います。そこで 今回は全体論ではなく、世代ごとに年金額が
どうなるのかを見ていくことにします。
* 現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率。年金額は夫婦2人、妻が専業主婦の場合で計算
● オヤジたちの年金は?
では、若手の年金額は どうなるのでしょうか?
ケース I で 今 40歳の年金受給開始時の所得代替率は、 52.4%(減少率15.1%)、30歳で 51.9%(減少率
15.9%)となります。 最も良いシナリオである ケース I が実現した場合であっても、30歳の年金は目標である
50%を ギリギリで達成できる状況となります。
真ん中のシナリオである ケース IIIは、40歳で 51.7%(減少率16.2%)、30歳で 50.8%(減少率17.7%)となり、
悪いシナリオの ケース Vの場合には、40歳で 49.6%(減少率19.6%)、30歳で 45.6%(減少率26.1%)となり
ます。
したがって、若手の場合には、年金額が 今 65歳の人に比べて 20%程度は削減される可能性があることを
肝に銘じておく必要があるでしょう。
● 年金には“逃げ切り”はない
このように 世代ごとに年金額の減少率をまとめると、50代以降のオヤジたちの中には、「 やった!俺たち
は逃げ切れた!! 」と 楽観する人もいるかもしれません。 でも、それは違います。今の年金制度では受給する
年金額は 徐々に減っていきます。
例えば、今 60歳の場合、年金受給開始時には 夫婦2人で 22.1万円となっていますが、真ん中のケース III
では 90歳で 19.6万円まで下がります。 同様に、今 50歳の場合、年金受給開始時には 23.2万円となって
いますが、90歳には 21.9万円まで下がります。 つまり、受給し始めたからといって、そこで 年金額が確定
するわけではなく、年金額は 徐々に減少していくのです。
なぜ、このように 年金額が減少するのでしょうか?
それは 「 100年安心 」の年金制度には、受給者と勤労世代のバランスをとるために「 マクロ経済スライド 」
という自動年金削減システムが導入されているからです。このシステムには 保険料を払う勤労世代の減少
や平均余命の延びが 年金制度に与える悪影響を抑制する効果があるのですが、一個人の立場から見れば、
年金額の減少ということになるのです。
● 年金額は個人ごとに異なる
ここまで 平均賃金をベースに算出された将来の年金額を世代ごとに見てきましたが、サラリーマンの
オヤジたちが加入する厚生年金は、実際には 個々の給料水準に比例した制度となっています。つまり、
現役時代の給料が高いほど 多くの保険料を払っているため、年金額も高くなる制度なのです(逆も同様)。
一方、公的年金は 相互扶助の制度であるため、所得代替率の観点からは 給料が高い人ほど代替率は低く
なります。したがって、今回の平均賃金を用いた所得代替率の議論を そのまま自分自身に当てはめることは
少し短絡的かもしれません。
幸いにも、今回の財政検証を細かく見ると、賃金水準別に 所得代替率の推移も推計されています。個別性
が高くなるため、ここでは詳細には触れませんでしたが、関心のある方は それを確認してみてください。