公的年金の財政検証をひもとく | kyomutekisonzaironのブログ

     前回コラムでは、2019年8月下旬に公表された公的年金の財政検証結果を受け、全体として所得代替率

    が将来どうなるのか、「100年安心」の年金として設計されたときの公約である 50%の所得代替率を引き続き

    達成できる状況になっているのかを確認しました。

     前回の結論は、経済が想定通り、経済成長と労働参加が進むケース(ケースI~III)ならば 代替率50%は

    達成できる との結果になりました。しかしながら、私は 出生率などの前提が楽観的だと思っており、それが

    前提通りにならなければ、たとえ 経済が順調に成長したとしても 所得代替率は50%を下回る可能性がある

    と指摘しました。また、そもそも 経済前提が楽観的すぎるとの意見もあり、それ基づいて計算された将来の

    所得代替率も いささか楽観的ではないか、とも お伝えしました。しかし、全体論では 自分自身に どのような

    影響があるのか、ピンとこない人が多いと思います。そこで 今回は全体論ではなく、世代ごとに年金額が

    どうなるのかを見ていくことにします。

     
    現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率。年金額は夫婦2人、妻が専業主婦の場合で計算


    ● オヤジたちの年金は?

     

     

     まず 今、65歳の人たちは、夫婦二人(夫がサラリーマンで 妻が専業主婦)で 月額22万円の年金を受給できます。

     

     

    2019年の現役男子の平均賃金(手取り)は 35.7万円ですから、これらの比から所得代替率は 61.7%
    求まります。これが 今回の議論の基準になります。
     
     では、まだ年金を受給していない世代の将来の年金額はどうなるのでしょうか? 国が公表している年金額
    は インフレ分を現在価値に割り引いて表されていますが、賃金上昇の影響もあって、年金額が実質的に
    増えているのか減っているのか非常にわかりづらくなっています。そこで、ここでは 所得代替率に注目し、
    それの増減率を見ることで、実質的に 年金額が どうなるのかを評価することにします。
     
     最も望ましいシナリオである ケース I の場合の年金受給開始時の所得代替率は、
    60歳の方々は 60.9%61.7%に対する減少率1.3%)、50歳で 57.2%減少率7.3%)となります。
    真ん中のシナリオである ケース IIIの場合、60歳で 60.2%(減少率2.4%)、50歳で 56.6%(減少率8.3%)となり、
    悪いシナリオである ケース Vの場合は、60歳で 60.1%減少率2.6%)、50歳で 54.2%減少率12.2%)となり
    ます。 
     ここからわかるのは、今、50代以降のオヤジたちにとっては、どのケースになっても、せいぜい10%程度の
    減少であり、影響は あまり大きくありません。読者の皆さんは 比較的安泰なのです。
     
    ● 若手は 年金の減額幅が大きい
     

     では、若手の年金額は どうなるのでしょうか? 

     ケース I で 今 40歳の年金受給開始時の所得代替率は、 52.4%減少率15.1%)、30歳で 51.9%減少率

    15.9%)となります。 最も良いシナリオである ケース I が実現した場合であっても、30歳の年金は目標である

    50%を ギリギリで達成できる状況となります。

     真ん中のシナリオである ケース IIIは、40歳で 51.7%(減少率16.2%)、30歳で 50.8%(減少率17.7%となり、

     悪いシナリオの ケース Vの場合には、40歳で 49.6%減少率19.6%)、30歳で 45.6%減少率26.1%)となり

    ます。 

    したがって、若手の場合には、年金額が 今 65歳の人に比べて 20%程度は削減される可能性があることを

    肝に銘じておく必要があるでしょう。

     

    ● 年金には“逃げ切り”はない
     

     このように 世代ごとに年金額の減少率をまとめると、50代以降のオヤジたちの中には、「 やった!俺たち

    は逃げ切れた!! 」と 楽観する人もいるかもしれません。 でも、それは違います。今の年金制度では受給する

    年金額は 徐々に減っていきます。 

     例えば、今 60歳の場合、年金受給開始時には 夫婦2人で 22.1万円となっていますが、真ん中のケース III

    では 90歳で 19.6万円まで下がります。 同様に、今 50歳の場合、年金受給開始時には 23.2万円となって

    いますが、90歳には 21.9万円まで下がります。 つまり、受給し始めたからといって、そこで 年金額が確定

    するわけではなく、年金額は 徐々に減少していくのです。

     

     なぜ、このように 年金額が減少するのでしょうか? 

    それは 「 100年安心 」の年金制度には、受給者と勤労世代のバランスをとるために「 マクロ経済スライド 」

    という自動年金削減システムが導入されているからです。このシステムには 保険料を払う勤労世代の減少

    平均余命の延びが 年金制度に与える悪影響を抑制する効果があるのですが、一個人の立場から見れば、

    年金額の減少ということになるのです。

     

    ● 年金額は個人ごとに異なる
     

     ここまで 平均賃金をベースに算出された将来の年金額を世代ごとに見てきましたが、サラリーマンの

    オヤジたちが加入する厚生年金は、実際には 個々の給料水準に比例した制度となっています。つまり、

    現役時代の給料が高いほど 多くの保険料を払っているため、年金額も高くなる制度なのです(逆も同様)。

    一方、公的年金は 相互扶助の制度であるため、所得代替率の観点からは 給料が高い人ほど代替率は低く

    なります。したがって、今回の平均賃金を用いた所得代替率の議論を そのまま自分自身に当てはめることは

    少し短絡的かもしれません。

     幸いにも、今回の財政検証を細かく見ると、賃金水準別に 所得代替率の推移も推計されています。個別性

    が高くなるため、ここでは詳細には触れませんでしたが、関心のある方は それを確認してみてください。