銀座に去年12月にオープンしたばかりの隠れ家フレンチ、Le Signe(ル ・シーニュ)に昨夜お邪魔して来ました。9席というこじんまりとした作りですが、料理とペアリングに驚きが詰まっていました。世界を食べ歩いたフーディでソムリエの有馬純平さんが、「ベージュ東京」でその料理に惚れ込んだという、当時スーシェフだった上野宗士シェフを口説き落としてオープンしたお店。
ご一緒くださった中村孝則さん、上野シェフ、有馬さん
銀座のエルメスすぐそばの好立地、ビルの6階、エントランスから別世界が広がっています。
生花と、フランツ・カフカの子供時代の写真をモチーフにしたアート。
入り口にはクリムトの細密画が。
今夜用意されているワインの一部。
そして、注目すべきはメニュー。
何が出てくるんでしょう、という好奇心を掻き立てられます。
そして、今回ご一緒させていただいたのが、世界のベストレストラン50の評議委員長でコラムニストの中村孝則さん。そこで、有馬さんが選ばれたのがこちら。パイパー・エドシックの最高級ライン「Rare 2006」。中村さんがパイパー・エドシックのブランドブックを手掛けられたことから、サプライズでこちらのチョイス。
「久しぶりに飲むなあ、懐かしいなあ」と中村さん。こう言った細やかな気配り、大切なお客様も安心してお連れできるというもの。
醸造責任者のレジス・カミュ氏は、料理に合わせるには、ドサージュをしっかりした方が良いという考えの方。その言葉通り、豊かな果実感を感じるシャンパーニュ。
「ミニヨンズ現る」
小さなアミューズが次々と。この小さいものがたくさん集まっている様子が「ミニヨンズ」とのこと。
イカスミと米粉の生地を揚げた温かくクリスピーなチップの上に、生ハムのムース表面を少しだけ焦したスイートコーン。
1ミリもない薄さのサブレ生地に、磯つぶ貝とシャンパーニュ 、ヴェルモットのタルタル、ハーブパウダー、マリーゴールドの葉。
パリッとした海藻とパラチノースで作ったカップに、タコと赤玉ねぎ、トマト、きゅうりなどの野菜を。
黒い球体は、トリュフの温かいコロッケ、中身は真鯛のすり身、上にはパルミジャーノのチップ。
続いては、モダンな造り手、モーゼルのMarkus Molitorのリースリング、アウスレーゼ。選び抜いた果実で醸され、ワイン・アドヴォケイトで満点を何度も取っているドイツを代表する銘醸ワイン。ペトロールの香り、青リンゴのような酸味がありつつも、14年という時を経ての複雑味も感じられます。しっかりと残糖感があるこちらに合わせたのが
「完熟な未熟者」
表面をパリパリにキャラメリゼしたフォアグラ のフランがワインの残糖感と、青リンゴのエスプーマ、角切りにした青リンゴとオゼイユの酸味、チャービルの青い香りが、ワインの青リンゴのニュアンスと重なります。
「銀座」
ということで銀箔。
そして、その上に30gものMottora社のキャビア。スターレット種らしい癖のないクリーミーさと滑らかさ、優しい塩加減に、調味せずホイップしただけの自然な味わいのジャージー牛の脂肪分40%のクリームが絡みます。「キャビアそのものを味わってもらいたいと思った時に、この食べ方にたどり着いたんです」と上野シェフ。バターのような香りとすっきりとした酸のクリュッグとの相性も抜群です。
続いては、少し雰囲気を変えて、ギリシア・サントリーニ島の野生酵母発酵、固有品種のアシルティコ。火山灰土ということもあるのか、なんとなくニンニクと合わせたいな、と思った軽やかなワイン。
そこに現れたのが「鰯と未来を応援プロジェクト」
「未来を応援プロジェクト」の答えは、
イカスミの薄いタルト生地の中にある「パプリカ」。
表面を軽くあぶった鰯と、瑞々しい甘みのパプリカ。火の入り具合が絶妙でした。
ニンニクの入ったペストソース、バルサミコ酢の粒で一気に地中海モードに。
ワインの青草のような香りとの相性も抜群でした。
ユリス・コランのブラン・ド・ノワール。
「直線2,640キロ」
に、大好きな東沢水産の生ウニ。ナスの皮に黒アワビ の肝をまぶして揚げたものの下には、海水をイメージしたごく薄い塩分の昆布のゼリー、焼きなすのムース、黒アワビ に少しだけトリュフペーストを絡めたもの。北海道の生うにと九州の黒アワビ 、産地同士の距離を表現したもの。
しっかりとした骨格のあるブランドノワールだけに、まるで軽めのオールドヴィンテージの赤ワインのような印象に。
選べるボルディエのバター。季節限定のフランボワーズと蕎麦の実まで揃っています。フランボワーズとマダガスカルバニラを選んだら、上野シェフご自身のお気に入りというオリーブオイル&レモンもつけていただけました。
ペアリングはなだらかなピークを持ってくる、という有馬さん、このあたりから、さらに力強いペアリングになってきます。
主役は、この千葉県大原産の伊勢海老。
合わせるのは、
シャトー・スミス・オー・ラフィット。ソーヴニョン・ブランの草の香りがありつつも、樽の複雑味、甘い香りもあります。
樽まで自社生産、MOFの樽職人を抱えているのだそう。
「37.4メートル上昇」
伊勢海老にごく軽くカレーのスパイスとセロリパウダーをまぶし、パート・プリックで包んで揚げたもの。上にはベビーマーシュ、海老のビスクソース。
中はミキュイに仕上がっています。
樽の印象が伊勢海老に、清々しい緑の香りはコンディメンツに。
名前の由来は、伊勢海老は水深15メートルほどの浅いところに生息しているから。
ではなぜ15mではないか、というと、ビルの6階という立地+カウンターの高さ、なんだとか。
続いてのペアリングは、メインディッシュの魚とソースに別々に合わせたペアリング。
魚のメインディッシュは、シャプティエのド・ロレをソースに、フェブレのコルトン・シャルルマーニュを魚の身に。
「AKKARA」
立派なクエ。
まだ若々しいシャプティエは、クエのアラで取った潮汁に干し貝柱とパセるを加えたソース、ガルニチュールのナスターチウム、芽キャベツと合わせて。細かく刻んだベーコン 、フライドオニオンにイカで、ほぼ白身の肉のような骨格のクエは、ボディのある豊潤なフェブレと。
肉のメインディッシュは
「国の天然記念物」
天然記念物ってサンショウウオだったりして?と盛り上がる中、
提供されたのは貴重な見島牛のイチボ!
山口県の孤島、見島にわずか90頭しか存在しない原種の牛で、種牛にならなかった雄牛が肥育され、わずか年に12頭のみ出荷されるというまさに希少な牛肉。
上野シェフが生産者とコネクションを持っていることから、ごく稀に手に入るのだそう。運の良いことに、タイミングが合っていただくことができました。
まず驚いたのは、熟成牛ともまた違う、上品ながらもしっかりとした脂のコク。あえて薄く脂を残してカットしてあるのにも納得です。そして、筋のない赤身のきめ細かさ。大きくならないため、長期肥育が必要で、採算が取れずに幻になりかけた牛なのだそうですが、その味はまさに極上。今まで色々な牛肉をいただいてきましたが、その中でもトップクラスのお味でした。
オーブンで優しく火入れしたしっとりとした肉質に、シャトー・ラ フルール ペトリュスの、メルローならではのベルベットのような舌触りがよく合います。
マディラワインのソース、甘酢ごぼうをアレンジしたガルニチュールに、ごぼうの麩、モルトセックに混ぜ合わせたゴマとマッシュルーム。決して大きくない厨房ながら、きっちりとフォンドボーを取って作ったしっかり目のソースもとても美味しく、好みでした。こちらには、ティボー・リジェ・ベレールのクロ・ヴージョ。スパイシーでややシャープなワインとのコンビネーションでした。
プレデザートは、マイナス20度で冷凍させた黒トリュフ。上野シェフが軽井沢で仕事をしていた際に、偶然凍って届いたものをすり下ろして使ったところ、口の中の温度変化で香りが開くことに気付き、今はあえて冷凍して使っているのだとか。
さっぱりとしたホルスタイン牛のミルクソルベの上に、たっぷりと削りかけて。
「黒雪」
デザートはイチジクを使ったもの。
「映日果」
下にはコンポートにした黒イチジク、白イチジク、真ん中には自家製のカシスのシロップ、上にはヨーグルトソルベ。間のクッキーは、ひまわりの種、カボチャの種などのナッツをすりつぶした香ばしいもの。
濃厚な自然の甘みに合わせて、
蜜のような1995年のイケム。
食後にはカルヴァドスと
コーヒーはエチオピアのゲイシャ種、ふくよかな香りを楽しめます。
チョコレートの中にはパッションフルーツ、ピスタチオなどのフィリングが。
今日いただいたワインペアリング、グランヴァン揃いのこの内容で、2万円という価格は、ワインラヴァーなら狂喜乱舞するはず。それが実現するのは、ひとえに有馬さんの仕入力のなせる技。
上野シェフのお料理も、ソースがしっかりと楽しめる王道のフレンチ。
料理とワインがお互いに引き立てあう、そんなペアリングを満喫させていただきました。
ちなみに、見島牛は今の所、あと数名分余裕があるそう。今度いつ入ってくるかわからない希少な牛肉なので、興味のある方はぜひ!
<DATA>
■Le Signe(ル ・シーニュ)
営業時間:ディナー 18:30~20:00(L.O.)、日・月曜休
住所:東京都中央区銀座5-4-14 西五ビル6階
電話:03-3571-0005
URL : https://pocket-concierge.jp/ja/restaurants/244758