2006.06. 1(木)| 仲山今日子アナのblog一覧≫

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真っすぐにこちらを見つめる少女の瞳。
家(ホーム)を失った男性が、愛犬を抱いて微笑む、かなしみを秘めた穏やかな表情。

砲弾で崩れた家のフェンスで遊ぶ子供たち。

彼女の写す写真には、「写す側」 「写される側」 という緊張感をはらんだ一種の違和感がない。
柔らかな時間の中、とても素直で自然な、そのままの 「人」 がいる・・・。

0033.jpg今回は、神奈川で生まれ育った写真家、古賀千尋さんをご紹介します。

元ラグビー女子日本代表選手。現在は、世界の紛争地を駆け回って、写真を撮り続けている。

紛争地。

銃弾が飛び交う中、彼女が撮っているのは、廃墟となった家や、道を我が物顔に走り回る戦車ではない。街で普通に暮らす、「人」 の姿。

ラグビー雑誌で初めて彼女の事を知り、かっこいい女性だなあ、と思った。
子供の頃報道カメラマンになりたかった私にとって、古賀さんの仕事はまさに憧れだった。
自分と同世代の女性とは思えないほど、色々な経験をしている彼女に会ってみたい。
そう思って連絡を取った。

現れた古賀さんは、「元ラグビー選手」 というイメージを裏切って、思いのほか小柄で、何よりも、気負いのない、とても自然な雰囲気の女性だった。

アメリカで写真を学んだこと。
同時多発テロ事件で中東に興味を持ち、何も知らないままパレスチナに飛び込んで写真を撮り始めたこと。


銃撃戦の中でも、「普通にお茶をのみ、客をもてなす」 パレスチナの人々の強さに衝撃を受けたという。

「死体の写真を撮ったら、戦争の悲惨さを伝えられるかもしれない。
でも、日本の人たちはそれを身近には感じられないと思う。
むしろ、戦争の中の普通の暮らしを撮る事で、戦争で傷ついているのは、
私たちと何も変わらない普通の人たちなんだと伝えたい」

と、古賀さんは言う。

古賀さんが 「忘れられない写真がある」 と言って見せてくれた。
2004年7月。 テレビ局のクルーとして訪れたイラクでの一枚だ。

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写真の中の二人は、とても幸せそうに微笑みあっている。
どこにでもある、小さな幸せの瞬間。
ノラとラアードは、写真の2ヶ月後、結婚式をあげる。

そして、更にその2ヶ月後。警察署に給料を受け取るため並んでいたラアードは、
何者かによる爆発に巻き込まれて亡くなってしまうのだ。

あなたの知らない 「だれか」。

でも、誰かにとってかけがえのない 「だれか」。

それは、考えてみれば当たり前のことなのだけれど、ニュースの小さな 「○人死亡」 の記事からは思い至らない事実。

写っている人たちの顔を見ると、なんだか隣にその人がいるような気持ちになる。
だからこそ、古賀さんの写真は、その事実を気持ちの真ん中に突きつけてくる。

私に何かすごいことができるわけじゃないのだけれど、
ニュースを伝える側として、そういった視点を忘れてはいけないな、と思う今日この頃です。


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