2008.08.28(木)| 仲山今日子アナのblog一覧≫

趣味の海外旅行、いったい何カ国に行ったことになるのだろう?と、数えてみたら、ちょうど30カ国。
この夏行った、30カ国目は、私にとって未踏の地、中米はカリブ海に浮かぶ島、キューバです!


キューバといえばこんなイメージ♪ちょうどカーニバルの時期でもありました☆

 


ラムとミントのカクテル、モヒートが名物

ヘミングウェイゆかりの地でもあります

「老人と海」にも登場する
レストラン「ラ・テラサ」から望む景色

ここで、
老人と海が執筆されたそう


リゾートとしても素敵なところで、ホテルを一歩出ると、真っ青な海が広がっています♪


 

 


とはいっても、リゾートを満喫しに行っていたわけではありません(^^;)

《医療大国、キューバ。
今も残る、現役バリバリの社会主義国で、国民の月収はおよそ1000円だが、
乳幼児死亡率はアメリカより低く、平均寿命は先進国並みという、
手厚い医療制度が注目を集めている。》

そんなイメージのある、キューバの実情をちょっとのぞいてみようというのが、今回の旅の動機。更に、今年2月に、フィデル・カストロ議長が体調不良で、実権を弟のラウルに譲るなどの動きがあり、社会体制が変わらないうちにキューバを見ておきたいと思ったのです。

空港を出た瞬間から、のどかな景色に癒されます。乾いた中東やアフリカと違い、サトウキビをはじめとした農産物も豊富です。


 

 

産科医・小児科医不足を始め、日本の医師不足の話題がニュースをにぎわしています。そういった話題を伝えてゆく中で、自分自身も一児の母として、他人事ではないと感じています。キューバは、国民1人あたりの医者の数が世界一多いという医療大国。海外にも医師を「輸出」しているとも聞きます。そんな意味でも興味がありました。

確かに、町を歩いていると、よく、病院を見かけます。町のお医者さん的な、クリニックから、大きな病院まで。





 



 

産婦人科クリニックから、生まれたばかりの
男の子を抱いて出てきた女性

 


町のクリニック

その入り口

総合病院のロビー

手術室

院内の薬局には薬が整然と並ぶ 薬は輸入されているものも多い

49年前、革命を成功させたカストロ議長は、「国民の幸せは医療と教育にある」と、無料の医療・教育システムの整備を最優先してきました。
そのせいなのか、そこここに、カストロ万歳、とか、革命を称える言葉が、民家の庭の小石にまで書かれていて、人々から強く支持されているように見えます。





ちょうど滞在中だった7月26日は革命記念日。
カーニバルとも重なり、ポスターや横断幕がお祭りムードを盛り上げています

 

でも、本当にそうなのだろうか?実際に、住んでいる人たちの満足度は、どうなのだろう?そう思って、聞いてみると、やはり、最初は「フィデル(カストロ議長の愛称)?彼は父親のような存在。尊敬しているよ」と言っていた人も、深く話すうちに、旅行を含め、キューバの外に一歩も出られないこと、医療や教育は無料だけれども、家を新しく建てる許可が下りず、3世代が狭い家で暮らさねばならないこと、配給では食料が足りずに買おうとするけれども、価格が高すぎることなどを理由に、子どもを持つ数を制限しなくてはならないことなどを話し始めます。
驚くことに、キューバでは一般の人は牛肉は食べられません。乳製品の安定供給のため、という理由なのだそうですが、例えば、自分で牛を飼っていて、それを食べると、8年の懲役になるのだとか・・・。


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そんなキューバの人々にとってのご馳走は豚肉。カーニバルでも、
たくさんの屋台で豚の丸焼きを薄切りにしたものが売られていました

 


 
カーニバルにも革命戦士が人民を解放する、というようなストーリーが

 


そして、観光地を歩いていると、物乞いの人を見かけます。



首都ハバナの観光の中心、オビボス通り。100mくらい歩くうちに、2人の物乞いの人に出会いました

 

家も食事も配給制で、最低限の生活は保障されているはずなのに…と見ると、「ホームレス」というわけではなさそうで、比較的こざっぱりした格好をしています。観光客が恵んでくれる1ドルは、3日働いた分のお金。まじめに働くより、手っ取り早く外貨を手に入れられる方法のひとつ、と考えているのかもしれません。
歩いていると、「1ペソ(=1ドル)くれない?」と、声をかけられたり、観光スポットなどで、本当は入ってはいけないところに、「内緒で入れてあげる代わりに、1ペソちょうだい」と言われたこともあります。

こんな現実が示しているのは、外国人と接して、外貨を手に入れられる人と、そうでない人との格差。「ドルショップ」と呼ばれるお店には、物があふれていますが、価格は日本並み。シャンプーが1本およそ300円。月収1000円の普通の仕事をしている限り、手が届くものではありません。
ではどんな人が一番外貨を手に入れられるのかと言うと、チップをもらえる、タクシー運転手やガイドなど、観光関係の産業に従事している人。
医者や弁護士といった、日本では高収入というイメージがある職業でも、月収は一般の人と変わりません。
良い生活をしたいと、医者からタクシー運転手に転職する人もいるとか。



ドルショップで、普通の人の年収の4倍近くの価格の洗濯機を購入する人

 

でもその一方で、給料に関係なく、自分の仕事に誇りを持っている人たちもいます。今回、何人かのお医者さんに話を聞いたのですが、その中の一人、産婦人科の女医さんに、日本では、過酷な勤務から、多くの産婦人科医が仕事を離れていると話すと、
「私はこの仕事が好き。夜勤も多いけど、私の治療で人が治ると思うと、とてもやりがいを感じる」と、話していました。
もちろん、人口1人当たりの医者の数が世界一多いキューバと、先進国の中でも医師不足の日本を単純に比べることはできません。でも、少なくとも、志を持って医者になった人が、その思いを保ち続けられる日本であってほしい、そんな思いを強くしました。


  

 

さて、そんな二つの面を持つキューバ。これからどうなっていくのでしょう。
現在の最高指導者、ラウル・カストロは、格差を認める発言をしています。もともとは、兄のフィデル・カストロよりも、急進的な社会主義者だったというラウルがそのような発言をするということは、逆に言うと、内側で進行する格差に、歯止めがかからなくなっている証拠なのかもしれません。

「もっと子どもが欲しいけど、家が狭くてこれ以上子どもが作れない」と嘆いていたタクシー運転手の人に、ご自宅を案内してもらいました。6畳もないスペースに、2段ベッドが2つ。ここに、妻と2人の子どもとともに暮らしているのだといいます。「いつか外国に行ってみたい。でも、それはかなわぬ夢だね」と、あきらめた表情で語っていました。それがこの国の人たちの本心かもしれません。


 

 

一般的に私たちが抱いているキューバのイメージである、音楽にあふれ、魅力的な古い町並みに、人懐っこい笑顔の人たちが、光=表の顔だとするなら、
配給に頼らざるを得ない生活、外貨を持つ人と持たない人の格差、海外に行くこともままならない、不自由な生活は、キューバの影=裏の顔と言えるのかもしれません。


 

 
 

 

 

その「光」が明るければ明るいほど、そこから生まれる影は、色濃く映る。鮮やかなコントラストを織り成す光と影。それが、この国の真実の一面なのだと実感しました。