ボキューズドールで日本人初の総合3位、魚料理で世界一に輝いた浜田統之シェフの料理をいただきに、星のや東京にお邪魔してきました。
「塔の日本旅館」と言うコンセプト通り、玄関正面には季節の桜が飾られ、明るい吹き抜けの入り口からは、靴を預けて、くつろいで過ごせます。エレベーターの中まで畳敷と言うこだわりは、足の裏から感じる感覚も含めて、日本旅館の良さを徹底的に再現したいという思いが感じられます。
ダイニングを利用できるのは宿泊者限定で、最大6名の個室が6部屋とブース席が4つ温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、できたてのものを美味しく楽しむためにこういった一箇所での提供にしているものの、部屋でお食事をいただいているのと変わらないくつろぎ感。メニューは食材と、その料理を象徴する漢字が一文字。まずは、黒のチュイル。小麦粉に、竹炭や魚の骨を粉にしたものを混ぜ込み、ピパーツ(島胡椒)をかけたもの。やや甘めでバターの香りの効いたチュイルは、しっかり果実味のあるブランドブランのシャンパンによく合います。
もう一つは、ニンニクが香る、白魚とコゴミのジェノベーゼ。パリッとしたフィロペストリーで包んであります。
 

 

潮 蛤
早速に春の味の蛤。オーブンで焼いた蛤の身から出た出汁にバターとニンニク、さら

にカリッと素揚げしたアオサを入れて。出汁をアオサに吸わせていただきます。

 

シグネチャーの、人間が感じる5つの味覚「五味」を代表するアペタイザーを一つずつ提供する「石・五つの意思」。
【酸】さよりと長芋のルーロー
冷たい石に乗せた冷菜。軽く昆布締めにしたさより、紫蘇の葉、真ん中にサクサクした長芋のピクルスが入っており、尖りすぎない、まろやかな酸味が感じられる。
【塩】桜海老のスープ
温かい石に乗せられて出てきたのは、丁寧に作られたサクサクのチーズサブレと、ブイヤベースのような旨味が詰まった桜海老のスープ。
【苦】明日葉とつぶ貝のコロッケ
こちらも温かい石で、つぶ貝のコロッケ。つぶ貝の旨味、明日葉のほのかな苦味とコクが、油分のあるコロッケの仕立てとよく合います。
【辛】イカと帆立のメルゲーズ
冷たい石。メルゲーズとは、本来は北アフリカなどが由来の、スパイシーな羊の生ソーセージ。それをイメージして、スパイシーなイカと帆立のタルタルを黄色いズッキーニに包んであります。
【甘】桜餅
冷たい石。桜餅という甘味ですが、真ん中にいしるのような、海の旨味のニュアンスを感じます。お聞きしたら、あみ海老を赤ワインで煮出したものを入れているのだとか。

 

 

 

鮮・よこわ
クロマグロの稚魚、よこわ。本来は成魚で獲るべきもので、サステイナブルなアプローチも大切にする浜田シェフにとって使うべきか迷う食材でもあるそうですが、たまたま網に引っかかるなどで既に市場にあったものを使ったそう。
魚醤に漬けたあと、みりんの効いた甘めの出汁醤油のようなものに漬けてあります。カマトロのところなのか、筋は見えても、幼魚なのでとても柔らかく、肉質も滑らかでしっとり。しっかりと乗った脂の質も優しく、春らしさを感じる魚です。それに、野菜の出汁とごく少量の辛子で作ったサバイヨンソース。元々はアスパラガスにサバイヨンソース、のイメージで、アスパラガスをウドやフキなどの野菜に見立てて作られたそうですが、辛子の辛味をほんのりと纏わせたウドは、洋風酢味噌あえや、マグロとうどのぬた、を思わせるようなどこか懐かしい味わい。清流レタス、菜の花、行者ニンニク、うるい、そして辛味のアクセントにもなっっているわさびの花。

 

 

 

続いては、「融・ホタルイカ」
ここでサーブされたのは、ジョージアワインのように、少しナチュラルワインのような樽を使わないジューシーなメルロー。「土や肝の味に合わせてどうぞ」とサーブされます。
「ブーダン・ノワール」をイメージした、ホタルイカの肝とフキノトウをミキサーにかけたソースは、フキ味噌を思わせる味、ホタルイカ、ひげ根も残した、春の柔らかくみずみずしい蕪をバターで焼いたもの、その上には、フレッシュな生のフキノトウの花、素揚げにしたニワトコの花。サイドには蕪のピュレが添えられています。洋と和の味のバランスが絶妙です。

 

 

 

 

「柔・甘鯛」
パリパリ、熱々の甘鯛のウロコ焼き。サイドには、蕪、山人参、山わさびなどの野菜と、春の貝類で作ったコキヤージュソース。蒸し焼きにした春キャベツはみずみずしく甘く、上質な貝の出汁で味わう春野菜のサラダをいただいているよう。山人参の緑の香りが、より一層春らしさを引き立てます。春の食材で作る春爛漫の皿。

 

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「和・鰻と筍」
こちらに合わせたのは、サンジョベーゼを使ったワイン。樽のバニラ香も酸味もしっかり、重すぎないタンニンのバランスの良い赤です。
金沢から仕入れた鰻は、ガストリックを塗りながらオーブンで焼き上げたそうで、砂糖でキャラメリゼされた皮は一層パリッと、身はとろけるような食感の素晴らしいコントラスト。筍はえぐみを取るために米のとぎ汁と一緒に煮てあり、トウモロコシのような甘みが感じられます。黒米のおこわで作ったチップス、濃厚さと甘みを引き締める田ゼリを添えて。
 

 

 

 

 

最後は〆のご飯。

 

 

 

ガラムマサラを効かせたスープ・ド・ポワゾンは、今日使った魚のアラをメインに使ったサステイナブルなスープ。少しスープカレーのような仕立てになった、懐かしい味わいでもあります。雪若丸という米で、保水力が高くて柔らかく、でもベタベタしないおいしい米でした。

 

 

 

ここからがデザート。
「覚・生姜と文旦」
サーブする際に生姜とミルクのエスプーマの表面に生姜糖のような味の生姜のスノーをかけるのですが、そうすることによって、エスプーマの表面に薄い凍った層ができ、スプーンを入れるとシューっという音がして、食べるとわずかにその層の繊細な食感が感じられるのも、とても良かったです。下には文旦と生姜のコンフィ下には和紅茶のゼリー。紅茶の発酵の味が、生姜によく合います。考えてみたら、ミルク、生姜、柑橘、いずれも紅茶との定番のコンビネーションの食材。ただ、コンセプトだけでなく、味わいとしても、和と洋の味わいが高いレベルで共存する一皿でした。

 

 

 

「舞・桜」
舞い散る桜をイメージした姿のヴァシュラン。上からは塩気のアクセントにもなる、桜の花の塩漬けのパウダーを散らして。あまおうの極薄の飴のチュイル、桜色のメレンゲの繊細な口どけにも、高い技術を感じます。中にはイチゴのソルベ、桜のビスキュイ。
ミュスカのデザートワインは、金柑のコンフィのような微かな苦味と凝縮した味わいがあります。
 

 

 

最後の小菓子までレベルが高く、マカロンはとても小さいにも関わらず、表面サクッと、中はふんわり。ゆずとクリームチーズのフィリングが入っていました。

 

 
あかすぐりのムース、ピーナッツクリームの入ったシュークリームの皮の繊細さも特筆もの。抹茶のほうじ茶のムース、香ばしい炒りたてのきな粉を使ったブールドネージュ。
5つの意思でスタートし、5つの小菓子で終わるという流れもスムーズ。
今年1月からかつて働いていた場所でもあり、食材探しに度々訪れている長野に移住したという浜田シェフ。フランス料理のテクニックを使いながらも、日本人の心をほっと和ませる味の組み合わせ、旅館で食べるにふさわしい「Nippon キュイジーヌ」食べればきっと、納得できるはずです。

 

 


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■星のや東京 ダイニング
営業時間:ディナー 17:30~20:30(L.O.)、無休
住所:東京都千代田区大手町一丁目9番1
電話:0570-073-066(星のや総合予約)
URL :  https://hoshinoya.com/tokyo/dining/