Restaurant Andreの跡地に去年11月に開店した、モダンノルディック料理のZen。料理のみで450ドルという価格帯もあいまって、地元メディアのChannel News Asiaでは、「シンガポール1高価なレストランでは?」という見出しも踊るほど。そんな話題のレストランにお邪魔してきました!
(Tristin Farmerヘッドシェフ)
スウェーデン・ストックホルムにあるレストラン、 Frantzen。オーナーシェフのBjorn Frantzenが、Restaurant Andreと同じ、Unlisted Collectionとパートナーシップを結んで作ったレストランです。"Zen" は、レストランとシェフの苗字の最後の3文字から。
Frantzenとの大きな違いは、食材。スウェーデンよりも日本食材が手に入りやすいシンガポールは、とても魅力的、ということで、日本食材を多用したモダン・ノルディック料理です。
過去にRestaurant Andreではオリーブの木が植えられていた場所には噴水が。
店内に足を踏み入れると、以前の白を基調としたどこかクラッシック・エレガンスを感じる空間よりも、モダンでスタイリッシュな印象に改装されていました。そして、オレンジ色のライティングと相まって、温もりを感じる空間に。流れるBGMも90年代を思わせる懐かしい曲。
少しシードルのようなニュアンスの軽やかな味わいのシャンパンと共にいただいた最初のアミューズがこちら。
ジャガイモで作ったとても薄いタルト生地に、自家製マヨネーズ、蟹とイクラ、ディルとディルの花を乗せて。
そして、Franzenと唯一同じスナックを出しているのがこのRårakor。スウェーデンの伝統料理で、本来はジャガイモを荒く刻んだパンケーキにvendace roeという、モトコクチマスの卵を乗せたもの。それを、ファインダイニングの料理に昇華させています。
最初と同じように、ベースはジャガイモ。ポテトピュレを細かく絞り出して揚げたシェルの上に、モトコクチマスの卵を乗せ、レモンサワークリームとシャロットのピクルスを乗せたもの。スウェーデンでは、魚の身をフィッシュ&チップスのようにして食べるのだとか。見た目は数の子のようですが、もう少し柔らかくコクのある味わいでした。
続いては、エルサレムアーティーチョークと、トリュフのタルト。
シャキシャキとしたエルサレムアーティーチョーク、黒トリュフ、そしてベーコンの脂のようなスモーキーな豚の脂のエマルジョンを敷いて。濃厚な旨味とコクのある味わいです。
ここで、カウンターに移動してスナックを。
キッチンカウンターに並んだフレッシュな食材は、日本の魚介類や和牛、フルーツ。そして、塩を4.2%と強めにして、6ヶ月間長期エイジングしたという、Zenオリジナルのオシェトラ・インペリアルキャビアも。
ピエモンテのトリュフ。
25年エイジングしたジュニパーベリーのカスク入りのバルサミコ酢。
アスパラガスのトリムした部分のピュレとイソマルト、グルコースなどで作ったやや甘めのタルト生地に、備長炭で焼き上げて甘みを引き出したアスパラガス、ブリヤサバランチーズクリームにクローブとセップの粉をかけたもの、ラムソンケイパー(ワイルドガーリックの花の蕾を塩漬けにして、ケイパーのようにピクルスにしたもの)、シシリア産のピスタチオと共に。グーズベリーのビネグレットでいただきます。
ここで、ロンドンのゴードン・ラムゼイのレストラン、Mazeなどでキャリアを重ねた、スコットランド出身のTristin Farmerヘッドシェフがキッチンを案内してくれます。
「上質な食材を炭焼きで仕上げる、というように、自分たちが作るのは、シンプルな料理」と話すTristinシェフ。厨房では、全員が同じ日に出勤し(準備に時間が必要な料理もあるため、早番と遅番はあるそう)、休みをとるシステム。チームワークの形成にも役立っているそうです。
店のロゴの入った革のオリジナルマット、そして錫の器に入っていたのは、リコリス入りの野菜のフォーム。
ここで、2階のダイニングルームに移動。
オープンの1年前から準備していたというピクルスや発酵食品のボトルが並んでいます。
ペアリングは、アルコールペアリングとノンアルコールのジュースペアリング、コースに応じてどちらも楽しむミックスペアリングがあります。
メインダイニングの一皿目はこちら。
Crudo: Zen prestage caviar, red deer, argan oil & finger lime
涼しげなガラスの器に入った鹿のタルタル、Zenオリジナルキャビア、フレッシュクリーム、ミョウガ、オーストラリアのキャビアライム、少しヘーゼルナッツオイルのような味わいの、アルガンオイルとブールノワゼットを合わせたもの。一番上には花穂紫蘇が飾ってあります。
たっぷりの香ばしいオイルと共にいただく鹿のタルタルはとてもマイルドな味わいでした。
ジュースペアリングはロワール産の洋梨を塩で漬け込み、グーズベリー、パンダンの葉、麹と合わせたもの。
アルコールペアリングは、天狗舞の山廃純米酒。
Blue lobster, yuzu pepper, clarified butter emulsion, sansho leaf
フランスの活けのブルーロブスターはバターポーチにしてから、生姜とバターのエマルジョン、コシヒカリをライスパフにしたものと合わせて、自家製柚子胡椒、山椒の葉と共にいただきます。柔らかくて甘みのある上質なロブスターの身が楽しめます。
ジュースペアリングはフランス産のトマトにプラム、海塩を合わせたもので、ロブスターとの相性も抜群でした。
アルコールペアリングは、ブルゴーニュの著名な造り手、Lucien Le MoineのCorton Grand Cru 2007。ロブスターにぴったりのバターやナッツの香りがあるワインでした。
Akamutsu, koshihikari rice, uni, white asparagus, sprouted walnuts
発酵させた白アスパラガスを加えたブールブランソースに、ノドグロを合わせ、コシヒカリの玄米をウォールナッツミルクでリゾットのように調理してから、発芽くるみ、ポン酢、すだちを混ぜたものを敷き、仕上げに鳥の脂を。上には生のバフンウニを乗せて。
脂の乗ったノドグロにウニ、クリームソース。旨味のあるアスパラガスといい、濃厚な旨味を重ねるスタイルです。
アルコールペアリングは、日本のワイン。山梨で岡本英史さんという方が、自然農法で作っている希少なナチュラルワイン、Beau Paysage。シャルドネやピノグリで作っている、a hum 2015。しっかりマセラシオンした感じのオレンジワイン。日本でも珍しいワインを取り揃えているあたりに、日本好きのBjornシェフのこだわりが透けて見えます。クリーミーさを引き締めるコンビネーション。
ジュースペアリングはそのままトマトのジュースでした。
Chawanmushi, king crab, foie gras, hot smoked pork broth, ramson
出汁の代わりにミルクとクリームを加えた茶碗蒸しに、かつお節の製法に着想を得て、豚バラ肉をスモークして乾燥し、100日間エイジングした自家製の「豚節」で取った出汁、キングクラブ、フォワグラを入れてあります。
上の野菜、ramsonはニラのような個性のあるもの。
ジュースペアリングは林檎と烏龍茶のジュース、日本酒は天吹の向日葵酵母のもの。
ここで、好きなナイフを選んで、メインコースへ。
Miyazaki wagyu, fermented kabu, wasabi, morels
宮崎産の和牛は、備長炭で焼き上げ、さっぱりとした東京産のカブを「発酵カブ」にしてものは、浅漬けのようなピクルスのような味わいで、柚子の皮を散らしてあります。
コクを加えるのはパルメザンカスタード、サイドのモリーユ茸にはトリュフのムースを詰め、バターでポーチしてから炭火で焼いてあります。
フォワグラの脂を混ぜたオックステールのジュは、熟していないぶどうのジュース、verjusとワサビのオイルを加えてさっぱりと。仕上げに和牛の切り落とし部分の肉をローストしたものを入れて、香りを加えています。
アルコールペアリングはバローロ。Barolo Riserva Vigna Rionda DOCG 2010 Massolinoでしっかりと樽熟成されたボディの豊かなネッビオーロと脂の乗った和牛との相性もよかったです。
合わせたジュースは、ビーツをオーブンで焼いてスモークしてから、ブラックベリー、マッシュルームティーを合わせたもの。スモークと甘みが印象的で、アルコールペアリングが脂を切る印象なのに比べて、味、香りのレイヤーを加えるイメージになっているのが印象的でした。
続いては、シグネチャーの、黒トリュフを乗せたフレンチトースト。
French toast "grande tradition 2008" grilled bone broth a la truffle
同じグループのレストランでもあるBurnt Endsに独自のレシピで作ってもらったサワードゥのパンは、トリュフと卵の衣をつけてからカリッと揚げて、グリルした玉ねぎ、もっちりとしたパルメザンカスタード、25年間エイジングしたバルサミコ酢をかけてから、たっぷりと黒トリュフをスライスして。肉のメインディッシュのあと、デザートの前というこのタイミングで炭水化物が出てくるのも、日本料理の流れを汲んでいるような気がします。
アルコールのペアリングはBarbeitoの Madeira Verdelho 10 Year Old Reserva Velha、ミディアム・ドライのマデイラ酒。トリュフを使った牛肉のソースにはマデイラ酒は欠かせないもの。和牛のソース、トリュフの香りやコクとよく合います。
ジュースは紫人参とメープルシロップ。やや甘めですが、スモーキーなニュアンスは先ほどのビーツのジュースと同じ。
ここからがデザート。
Sea buckthorn sorbet, crystallized sea lettuce, blue & green tea
北欧でレモンの代わりに使われるという酸味のある黄色のベリー、シーバックトーンのソルベの下には、鉄観音のクリームと抹茶パウダーが。一番上のものはシーレタスをキャンディーのように仕上げたもの。
ブールノワゼットとシーバックトーン、黄色のビーツ、栗のはちみつのジュース
ジュースはどれも、必要な味を考えてその要素に合わせてブレンドしてあります。
アルコールペアリングはシュナンブラン、Château de la Roulerie の Côteaux du Layon 2017 1er Cru Chaume 。はっきりとした酸味とフルーティーさがあります。
Salted Hokkaido milk ice cream, wild strawberries, sasame waffles, coffee oil
ゴマの入ったワッフル、ワイルドストロベリーのシロップ漬、ルバーブをテーブルサイドで調理したもの、塩入りの北海道ミルクのアイスクリームにコーヒーオイルを合わせて。
こちらのジュースペアリングは、
白桃、フランス産の赤ぶどう、バジル、麹で作ったもの。
そして、アルコールペアリングは、しっかりとした香りと甘みのある勝山の純米大吟醸、元。
そして、3階のラウンジで食後のお茶と小菓子を。シガーを嗜む方は、テラスで楽しむことができます。ここでも、静岡産のマスクメロン、宮前の太陽マンゴーなど、日本のフルーツがたっぷり。イチゴにはロシア産の若い松ぼっくりのシロップ漬を乗せ、マンゴーには柚子の皮、メロンには松の実などを乗せて、独自のアレンジをしています。
中国茶のトローリーがあったので、そちらから龍井茶をいただきました。
ちなみにお茶を入れてくれたのは、スーシェフのNick。テーブルサイドでの料理の提供のみならず、キッチンスタッフもサービスに積極的に関わっているのが印象的です。
花のようなタルトは、日本のシナノゴールドとクラウドベリー(北欧のキイチゴの仲間、ホロムイイチゴ)のタルト、トンカ豆のクリーム・ディプロマで作ったアップルパイ。少し酸味のある本物のりんごの花びらを使い、花を再構築する、手の込んだ作りです。
その横はラズベリージャムの入ったメレンゲパイ。
塩漬けにしたセップ茸とクルミのリキッドの入ったチョコレートトリュフ、黒にんにくのミルクキャラメル、カルダモンとローストしたイーストの味のマカロン、シーバックトーンとクローブのグミなど、北欧の味がたっぷりと詰まった小菓子でした。
(3階では食後酒も楽しめます)
Bjornシェフは、日本食材を北欧の解釈で表現していて、日本人とは全く違う側面から日本食材を捉えているのがとても印象的でした。
Tristinシェフは、ゴードン・ラムゼイで8年間、最後の3年間は、Mazeのヘッドシェフをしていたそう。その後ロンドンのJason AthertonのPollen Street Socialに入り、NYのJason at The Clock Towerや香港のAberdeen Street Social、ドバイのMarina Socialなど、世界各地で経験を積んでストックホルムのFrantzenに入ったという経歴の持ち主。
年に数回シンガポールに来るというBjornシェフと共に、アジアにあるモダン北欧料理のスタイルを確立して行っています。
【DATA】
■Zén
営業時間 ディナー 19:00〜22:30、日曜・月曜休
住所 41 Bukit Pasoh Rd, Singapore 089855
電話 +65 9236 6368
アクセス MRT Outram Park駅徒歩1分