Jason Atherton シェフの下で働き、タパスバー、Esquinaのヘッドシェフを勤めていた、Andrew Walsh シェフが独立しオープンしたレストラン、Cureで、フィリピン・マニラのレストラン、GalleryのCheleシェフを招いてのコラボレーションイベントが行われました。

 

最近Andrew シェフは、自身の出身地であるアイルランドの味わいを表現する料理を多く提供しています。そして、一方の、GalleryのCheleシェフは、最近のリノベーションで、バスク料理を提供していた姉妹店を閉店、テストキッチンに改装し、Gallery Vaskから、Galleryに店名も変え、よりフィリピンの地元の料理を追求する方向に舵をとりました。2人は2年ほど前に、若手シェフを集めたイベントで会って意気投合、お互いのタイミングが合って、念願のコラボレーションとなりました。

 

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Billecart-Salmon Champagne Brut で乾杯。

 

まずはスナックからのスタート。

 

Ube Tortilla (Chele)

 

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フィリピンの食材を特別に持ってきたCheleシェフ、特にお気に入りの食材で、以前もコラボレーションの際に使っていた紫の芋、ウベを使ったトルティーヤ。

上にはフィリピンの伝統的な豚の丸焼き、Lechonをイメージした豚肉のラグー、ニンニクの効いたマッシュルームのマヨネーズ、スイートポテトのピュレ、酸味のアクセントにシャロットのピクルスを乗せてあります。コリアンダーの花が香りを添えます。

 

Rice Cracker (Chele)

 

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旨味と甘みの強い昆布のクラッカーの上に、鯛のセヴィーチェを乗せて。昆布締めにすることもある鯛、味わいとしてもあっていました。柑橘を効かせてさっぱりと。

 

Homemade Sourdough (Andrew)

 

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自家製のゴマの入ったサワードゥ。ふんわりとしたバターに、ベーコンのチップが入り、上から焦がした玉ねぎの粉をかけてあります。

 

Meringue De Sal (Chele)

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個人的に、メレンゲの食感がとても気に入ったのがこちら。コーンスターチの入った軽い食感で、甘すぎないメレンゲが口の中でふわりと溶け、間に挟んだフィリピンの「アドボ」をイメージしたという鶏肉にクリームを加えたとても柔らかいムースが挟んであります。後味も軽やかなスナックでした。

 

Singapore Laksa (Andrew)

 

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そして、シンガポールの味として忘れてはならないラクサ。長年シンガポールに住んでいるAndrewシェフだけあって、「外国人シェフが遊び心で…」というよりも、真ん中直球の味を決めてきて、どこかホッとする外さない味。定番のカフィライム、ラクサリーフ、そして炭水化物ではなく、イカを麺のように切って入れてあります。

 

ここからが前菜。

 

Pearl's (Chele)

 

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ホタテのセヴィーチェ。ホタテは36.5度、甘みとテクスチャを引き出すため、人の体温に近い温度で25分間加熱してあり、lanzonesと呼ばれるフルーツと合わせて。アクセントには大根をフィリピンの酢、Sukang sasaでマリネしてあります。カシューナッツミルクで作った少し酸味のあるクリームと、コリアンダーリーフのオイル、最後にライムの皮を削りかけて。優しいカシューナッツミルクの甘みに、Cheleシェフがフィリピンから持ってきた、脂肪分が多く、サクッとした食感で、マイルドな味わいのピリナッツがよく合います。

 

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Bana-Lu (Chele)

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フィリピンでは伝統的に、バナナの皮に包んで焼く料理が多く、そんな伝統に乗っ取って、バナナの葉に包んだラングスティーヌの表面に軽く火を入れて、茄子を重量の50%の水と共に真空パックに入れ、100度のスティームオーブンで4時間かけて加熱したもの。「リダクションもエバポレーションもせずに作った純粋さを引き出したかった」というクリアなスープに、キャビアの代わりに炙ったオクラ、そしてコリアンダーリーフのオイルとタイバジル、酸味を加えるオキザリスの花を合わせて。「西洋の高級食材を使わずに、オクラのような地元の食材でラグジュアリーを表現したい」とCheleシェフ。

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Asparagus (Andrew)

 

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Cheleシェフがオクラで「植物のキャビア」を表現した一方、Andrewシェフは、伝統的なキャビアを、はしりの白アスパラガスと合わせて。フレッシュな生の白アスパラガスの苦味、オリーブオイルの緑の味に、角切りにした洋梨の優しい甘みと酸味、ブッラータチーズのアイスクリーム、パルメザンチーズのカスタードの旨味でバランスを取ります。フォームはアスパラガスの皮などを使って作ったもの。

 

そして、メインコースはどちらのシェフも、海と山の味わいのコンビネーションで構築。

 

Fired! Pulpo (Chele)

 

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タコと鶏の漫画の書かれたランチョンマットが敷かれたと思ったら、Cheleシェフが登場。この漫画をみて、どんなイメージが浮かぶ?料理が来るまで想像しておいて、と言われます。

 

そして、登場したのは、柔らかいタコに、五香粉や生姜など、アジアの香りを纏わせた鶏のジュを合わせた一皿。

 

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さっきの漫画のテーマは、「鶏になりたかったタコ」。タコを鶏肉のように調理してみた。スペイン人だけれど、フィリピン人になりたい、と思うことがある、このタコはそんな自分の気持ちを体現しているんだ、タコは、スペイン、フィリピン、どちらでもソウルフードと呼ばれるようなもの、とCheleシェフ。

 

タコはほのかに海老の香りがする質の良いもの。スペイン風に1時間半かけて茹でてから、生姜、カラマンシー、レモングラス、ニンニク、フィリピンでも伝統的に使われている色素であるアナトーでマリネして、フィリピン風にグリルしてあります。サイドにはパパイヤのピクルスが添えてあります。

 

Pigeon-Hoisin (Andrew)

 

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一方のAndrewシェフは、フランス・ブレス産の血入りの鳩を、胸肉は骨ごとアロゼしながらフライパンで焼き上げ、寝かせてから切り分け、Hoisinソースを塗ってから、備長炭で表面をカリッと仕上げています。さらに腿肉はジャガイモのシュレッドを巻きつけて揚げ、七味唐辛子をかけて。

 

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そして、レバーなどの内臓は、クリームをたっぷりと混ぜ込んだパルフェに仕上げてあります。

 

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アクセントに使われているのは、鳩と相性の良いチェリー。中国料理でシーフードに使われるHoisinという甘味噌のようなソースを鳩に合わせます。先ほどのCheleシェフと呼応するように、逆に、鳩をシーフードのように扱ってみた、という訳です。

 

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デザートは、

 

Chocolate (Andrew)

 

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チョコレートクリームに、オレンジのアイスクリームと果肉、そして液体窒素でカリカリにしたはちみつのクランブルをかけて。

 

小菓子は、それぞれの地域の味を表現するものに。

 

Bibingka Cheesecake (Chele)

 

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フィリピンの伝統的な米粉のケーキを、ふわふわの食感に昇華させています。もち米の粉とミルク、卵などで作ったケーキは、ちょうどできたてのチーズスフレのような食感。上には、ピリナッツと塩漬け卵黄を削ったものをふりかけてあり、旨味をさらに押し上げています。

 

Ice Cream Sandwich | Irish Cream (Andrew)

 

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全粒粉のチョコレートクッキーの間に、アイスクリーム、そしてアイスクリームの真ん中に、パチンコ玉くらいの大きさの、甘みを抑えた小さなギネスビールのシャーベットが隠れています。自家製のアイリッシュクリームのカクテルと共に。

 

出身地アイルランドの味をシンガポールで。出身地ではなく、レストランのある場所である、地元の味をフィリピンで。アプローチは違えど、自分が大切にしたい料理に向き合う二人のシェフによるコラボレーション、特にメインディッシュの対比がとても面白かったです。

 

今年終わり頃には、AndrewシェフがCheleシェフを訪ねて、コラボレーションを行う予定です。

 

ディナーには、経済産業省の日本食材イベントでシンガポールにいらしていて、一緒にイベントをさせていただいた、松本圭介シェフにもいらしていただきました!

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<DATA>
■CURE x Gallery by Chele

日時:2019年2月27日、28日(終了)

■Cure
営業時間:ランチ 12:00~14:00(水~金曜のみ)、ディナー 18:00~22:00、日曜休
住所:21 Keong Saik Road Singapore 089128
電話:+65 6221 2189
アクセス:MRTアウトラムパーク駅徒歩8分