コロンビア出身の、Fernando Arevaloシェフが今月8日にオープンした、18ヶ月ごとにテーマが変わるレストラン、Preludio(スペイン語で「前奏曲」という意味)。「チャプター(章)」と呼ぶ、18ヶ月で変わるレストランのテーマを基に、料理、皿、インテリア、デコレーションなどを変えていくというコンセプト。「ストーリーがあるなら、シェフはその著者」ということで、「オーサーズ(著者の)料理」と語ります。

 

image

 

第1章、つまり最初のテーマは「モノクローム」で、全てのメニューが白とを中心に構成されています。

レストランに一歩足を踏み入れると、ファッションデザイナーの姉がデザインしたというスタッフのユニフォームも、インテリアも、テーブルの上に飾られた地元のアーティストの作品も全て白黒です。1年半後には新しいコンセプトに代わり、インテリアやデコレーション、全て一新したレストランになる予定とか。

「ずっと同じことをしていくレストランは常に挑戦していなくてはならないから、コンセプトを変えていく必要がある」というのが、Fernando シェフの考え。毎回新しいことに挑戦することで、レストラン自体が成長していくことを目指しています。

 

母がジュエリーデザイナー、姉がファッションデザイナーというだけあって、料理も雰囲気もスタイリッシュ、そしてモノクロームの盛り付けも印象的です。

 

また、ワインペアリングも、白と黒にこだわったもの。ソムリエのChip Steelさんによると、ワインの育つ土が、白い石灰土壌か、黒い火山灰土壌か、どちらかのものを選んでいるのだとか。

今回は、8コースのディナー($218、ワインペアリング+$158)をいただきました。

 

image

 

まずは、アミューズ。活け締めにしたというハマチの刺身に、甘みと酸味の効いた大根のピクルス、洋梨のゼリー、ライムと酢のキャビア、エルダーフラワーを飾って。

 

Edmunds St.John “Bone-Jolly” Gamay Rose 2017

 

image

 

ワインはカリフォルニアのガメイで作ったロゼ。「黒い」火山灰土で、ミネラル感とキャンディのようなニュアンス、フレッシュな味わいがあります。

 

Elude

 

image

 

白のビーツ、ブッラータチーズ、ウォールナッツのクランブル、ディルオイルでマリネしたきゅうり、ヨーグルトフォーム、Sturia社のシベリア種で、1ヶ月以内のエイジングだという、Primeurという種類のフレッシュなキャビアを添えた冷たい前菜。

 

Allude

 

image

 

そして、テーブルに運ばれて来た時、「いや、さっき食べたから」と断りそうになったのがこちらの皿。

見た目は同一ですが、皿に顔を近づけると、違いがわかります。ふんわりと香るボーンマローの動物性の旨味を感じる香り、キャビアも、同じSturia 社のものですが、少し瓜系の香りを感じるオシェトラキャビアになっています。発酵マッシュルームやマッシュルームとジャガイモのムースというやや濃厚さを増した味わいに、タイムの香りをまとったカリカリのクルトンが。

 

Domaine des Terres “Dorees Beaujolais Cuvee l’Ancien” Gamay 2015

 

image

 

それに合わせたのが、先ほどのワインと同じ品種のガメイ。ですが、こちらは先ほどと比べるとコクのある、ボジョレー地区の赤、「白い」ライムストーンの土壌の地域。

 

 

そして、食材を見られるのも楽しみの一つ。

 

 

image

 

左から、エルサレムアーティーチョークの仲間で、より皮が薄く繊細な味わいのheliantis、オーガニックのハネムスカリ(lampascioni)をシェリービネガーと赤ワインに漬けたピクルス、日本でも食べられている、クルンとした形のcrosnes。

 

そんな根菜を使ったのが、Autumn

 

image

 

この時期らしい秋をテーマにしています。ジャスミンライスを乾燥させてから油で揚げて作った薄いクラッカーを外すと、

 

image

 

 

中にはハネムスカリ、白バルサミコ酢でソテーしたcrosnesは少し苦く、百合根やクワイを思わせる食感、ゆずとマスタードを効かせた卵黄のエマルジョン、ニュージーランド産のスモークした鰻、ジャスパーオーブンで焼いたシャンテレール茸を合わせて。

 

こちらに合わせたのが、日本酒、勝山酒造の純米大吟醸「伝」。

 

image

 

ライスクラッカーと米の香りが重なり、しっかりとある吟醸香が、大地の香りの根菜に軽やかさと華やかさを与えます。後残りしない、キリッとした辛口なのも、こういった洋の料理に合う気がします。

 

La Cortina

 

image

 

実際にモデナまで生産者を訪ねて購入を決めたという、25年もののバルサミコをかけたアニョロッティ。料理名は、その時にFernandoシェフが泊まったホテルの部屋の名前から。

 

image

 

オリーブオイルやタイム、ローズマリー、はちみつなどで12時間マリネしたバターナッツかぼちゃをローストし、皮を取り除いたものを、かぼちゃ、アーモンド、ブラウンシュガー、レモン、はちみつとパルメザンチーズに混ぜたフィリングを詰めた手打ちパスタです。パスタ生地は、より白くするために、卵を減らし、オリーブオイルを増やしてあります。濃厚なパルメザンソースは、シャロットをソテーし、白ワインを加え、パルメザンチーズを混ぜて溶かしながら、低温で15分間ゆっくりと泡だて、漉してからクリームを加え、さらに下ろしたパルメザンチーズとブレンダーにかけたという濃厚なもの。提供する直前に、ライムジュースとカイエンペッパーをかけて。

アーモンドミルクにモルトデキストリンを混ぜて作った「雪」を振りかけて。

 

Milan Nestaree “Podfuck” Pinot Gris 2015

 

image

 

合わせたのはチェコスロバキアのピノグリ。マセラシオンしてあるので、色はしっかりと出ています、ナチュラルワイン系で、ジューシーで軽やかな果実感が、しっかりとしたソースに軽やかさを加えています。

 

 

 

White Opal

 

 

image

 

パタゴニア産のトゥースフィッシュと呼ばれる、鱈に似た肉質の脂の乗った魚は、真空にしたトムヤムクンの材料、レモングラス、カフィアライム、バジル、唐辛子、オリーブオイル、塩などで作ったブライン液に24時間漬け込み、そのあとに軽く65度で低温調理をしたあと、プランチャで皮を下にして焼き上げています。提供直前に、乾燥させたギリシア・カラマタ産のオリーブの粉をまぶしてあります。下にはカリフラワーのピュレを。フランスから直送された、未熟なアーモンドの実のシャンパンビネガーピクルスは、表面だけがやや硬く、中がゼリー状になっている面白いもの。トゥースフィッシュのしっとりとした食感が生きていて、甲殻類の香りがあり、このトムヤムクンの味付けとよく合っていました。

 

image

 

「2〜3年前に、L'AstranceのPascal Barbot シェフがシンガポールに来て行った料理の講習会に参加した。その時に、Barbotシェフが、『この種類の魚は真空低温調理をしてはダメだ、蒸さなくてはいけない。誰か真空低温調理をしている人はいるか?』と聞いたんだ。誰も手を挙げなかったけれど、自分は手を挙げた。そうしたら、当時働いていたArtemis GrillにBarbotシェフが食べにきて、この調理法で私が調理した魚を食べて、『真空調理の魚も悪くないな』と言ったんだ」とFernandoシェフ。そんな自信作を、オープニングのメニューに組み込みました。

 

Ettore Germano “Herzu” Riesling 2015

 

 

こちらには、ピエモンテ産のミネラル感のあるリースリングを。

Pata Negra

 

 

メインの肉料理は、イベリコ豚の肩肉。スペイン北西部、サラマンカの家族経営の農場から購入しているというもの。

にんにく、クミンやカイエンペッパー、パプリカ、ブラウンシュガー、レモン汁などで12時間マリネした後、マリネ部分を取り除き、新たにシェリービネガーやタイム、にんにくなどを加えてアルミホイルで巻き、80度のオーブンで2時間ゆっくりと焼き上げ、その後1時間寝かせたもの。イカ墨にパン粉を混ぜた頃をもを付けて、仕上げにフライパンで焼き上げています。

 

 

付け合わせはナポリにほど近い、ヴェスヴィオ火山のそばで作られる、Piennoloと呼ばれる、枝つきのままで少し乾燥させ、スモークされたトマト。

 

 

そのまま食べると、パセリのような緑の味わいが濃いですが、助スパーオーブンで焼いたこちらは、その後にしっかりと甘みが感じられます。

下のピュレは、梨のようなほのかな甘みを感じるパースニップ。マスタード、トマトウォーターのリダクションを添えて。

 

ペアリングは、火山灰土壌のシチリアのワイン、Tenuta di Castellaro “Nero Ossidiana” Corinto Nero 2013。

 

 

その名も、イタリア語で黒曜石という意味とか。コリント・ネロという土着品種の黒ブドウを使って、濃厚なフルーツ感がありながらも、しっかりとした酸、なめらかなタンニンで飲みやすいワインでした。

 

 

Irezumi

「刺青」という、面白いネーミングのデザートは、黒胡麻のアイスクリームに海塩を混ぜたものに、ベビーバジルの葉、ごま油のスノーを添えて。

 

 

Gorbea Mountain

 

 

ペストリーシェフのElena Pérez de Carrascoさんは、バスク地方出身ということで、特産の無殺菌の羊のチーズ、Idiazabelを使ったデザート。まず、バスクの山々をイメージし、ブルーベリーはイタリアンメレンゲとクリームと混ぜ、表面にカカオバターをスプレーすることで、ほんのり霜が降りたような雰囲気に仕上げています。ヨーグルトのアイスクリーム、ミルクを温めてブドウ糖を加え、ハンドミキサーで泡だてた後、薄くしてオーブンで焼き上げたもの。

 

Gramosa “Vi de Glass” Riesling 2011

 

 

デザートワインは、スペインのカヴァのワインメーカーが開発した、遅積みのリースリング。本来暑い地域で、遅摘みワインが作れないと言われていたのを、通常のぶどうと同じ熟したタイミングで摘み取って、液体窒素を使って20秒間凍らせて絞ったブドウから作った甘口ワイン。やや軽めの凝縮感ながら、遅摘みらしい甘みと香りを楽しめます。

 

 

小菓子は、黒色のシュー、

 

 

ゆずと酒粕、生姜のコンフィの入った生姜茶のフィリングの入ったチョコレート、

 

 

トリュフオイルの入った素朴な感じのマカロンでした。

 

 

全体的に甘すぎないデザートでした。

 

 

印象的だったのは、料理の流れ。最初のハマチのカルパッチョは、やや甘く、酸味が際立つ。油分は、ハマチの中の自然な脂だけです。塩気もやや控えめで、一瞬物足りないと思ったほどですが、後半に行くに連れて、塩のボリュームも旨味のボリュームも上がってきます。

 

同じ皿を提供するトリックは、個人的にこれまでに経験がなく、遊び心にハッとさせられました。冗長に何度も繰り返さず、この一度のサプライズのみ、コースのスタートの「つかみ」というところでしょうか。

そして、見た目が同じだけで、あとは全部が違う構成。温度の対比も印象的でした。一皿目は冷たく、二皿目は温かい皿。香りをかぐと、違いがわかる。二皿目は、ボーンマローの動物性の旨味の香りがふわりと立ち上がります。

 

そこから、徐々に油分のボリュームが上がり、それと同時に塩気のボリュームも上がっていきます。

一つの頂点を迎えるのは、パスタの皿の、パルメザンチーズと25年もののバルサミコのコンビネーションは、まさにクラッシックな味わいのバランス。そこに、オレンジの花の蜂蜜で、かぼちゃの瓜科の香りに重なる、すっきりとしたフローラルな香りをプラスするひねりも忘れない。

 

驚きに満ちた内容、そしてそれがトリックに感じないような味わいの安定感。イノベーティブの斬新さの裏に、しっかりとしたベーシックな良さが隠れているレストランです。

平日のみのランチは4コース68ドル〜、ディナーは6コース168ドル。ぜひ、Fernandoシェフの世界観を楽しみに来てみてくださいね。

 

 

<DATA>

■Preludio

営業時間:ランチ 11:30~14:30(平日)、ディナー 18:00~22:00、日曜・祝日休

住所:182 Cecil Street, Frasers Tower #03-01/02, Singapore 069547

電話: +65 6904 5686

アクセス:MRT タンジョン・パガー駅から徒歩1分ほど