シンガポール人のJason Tanシェフによる、ミシュラン一つ星レストランで、Asia's 50 Best Restaurantsで今年36位の、Corner House。
日本を含め、海外でのコラボレーションを何回か行っているJasonシェフですが、今回初めて、自らのレストランでのコラボレーションを行いました。
その相手が、デンマーク・コペンハーゲンのレストランで、世界ナンバーワンレストラン、Nomaの姉妹店、108。
韓国人の両親の元に生まれ、デンマークに養子に来てデンマーク人として育ったというKristian Baumannシェフが2年前にオープンしたレストランです。元々、日本のマンダリンオリエンタルホテル東京でのポップアップにもNomaの一員として参加したというKristianシェフ、この108もNomaの出資を受けてのものですが、スタイルを「コペンハーゲン・キッチン」と位置づけ、コペンハーゲンの「今」を映す料理を作っていきたいと言います。
料理の4つの柱は、自分たちの畑、地元の契約農場との繋がり、森林などでの採集、発酵なのだとか。
まずは、栗のような香りのあるシャンパン、Egly Ourietでスタート。
バゲット、くるみとレーズンのパン、五香粉の入ったエスカルゴ、ボルディエのバターからスタート。
アミューズは、2人のシェフの共作。数日前に到着して、シンガポールの市場を見て回ったというKristian シェフ、特にエキゾティックな食材が揃うインド系の市場、テッカマーケットにとても興味を持ったとか。
最初は、マッドクラブの身の上に、ココナッツクリームをかけて、クリスタルキャビアを飾ったもの。ココナッツクリームの甘みで蟹のの甘さを強調、キャビアの塩気で引き締めるようなバランス。
続いては、タイマンゴーにウニのソース。ウニのソースにとても濃厚な昆布の味があると思ってお聞きすると、北海道産の羅臼昆布で作った水と合わせてあるのだとか。熟したマンゴーには、袱紗切りのように丁寧に包丁を入れて。
どこか陰陽のマークを思わせるような盛り付け。
そんなテッカマーケットで見つけた食材のひとつ、バナナの花を使ったスープ。
ローストチキンを作り、身を外してじっくりと煮込んでスープを作り、細かく刻んだカフィライムの葉も加えて。ココナッツクリームを使った前の皿の印象とこのカフィライムの葉から、まるでトムカーガイのような味わいに感じられました。
印象的だったのは、とても鳥の脂を取り除かずにそのまま加えてあること。Kristianシェフにお聞きすると「その方が美味しいから」という答えが返って来ました。しっかりと脂を摂って体を温める、寒い北欧の知恵なのかもしれないな、とも感じました。
Radish
まるで花のようなプレゼンテーションのラディッシュは、生を日本のみかんの酒につけこんであり、ほのかにラディッシュの辛みが残っていて、まるで日本の漬物のような、すっきりとした味わい。
種のプチプチ感が楽しめる、グリーンストロベリーと、さっぱりとしてエルダーフラワーオイルの相性は抜群で、そこに、かぼちゃの一種、スクワッシュとトマト、フェンネルのソースをかけて、緑の味わいを重ねた一品。ラディッシュは、薄切りの長方形にしたものを半分に折って、切り目を入れて作ってありました。
Onion doux des Cevennnes
Jasonシェフのシグネチャー、セヴェンスオニオン。62度で加熱したとろりとした卵黄の卵に、トリュフクリーム、セヴェンスオニオンのピュレと蕎麦の実のパフ、サイドにはディハイドレーターで乾かしたセヴェンスオニオンのチップ。
以前よりもシンプルに、そして美味しくなった印象。
Layers of soft yellow beet
常温で提供された一品。塩釜で4時間焼き上げたビーツに、キャラメリゼしたホタテのパウダー、甘酸っぱく、フルーティな食用ホオズキのスープ。食用ホオズキは、今回はシンガポールで手に入れましたが、普段は自分たちの畑で育てているのだとか。
自然な甘みを重ねた味わいは、ナチュラルワインにも合いそう。
New Zealand blue cod
これまでも何度かCorner Houseでいただいてきたブルーコッド、今回は海老のスープがさらにスパイシーになって、カフィライムが効いているな、と思ったら、シンガポールのローカルフード、ラクサのスープをイメージして作ったそう。ラクサに欠かせないコックルと呼ばれる貝の代わりに、ムール貝を。そして、オイスターリーフとシーアスパラガスで海水のようなみずみずしさを、さらにリゾーニパスタととても甘いチェリートマトを添えて。
Brown beech mushrooms
ブラウンマッシュルームのフリッターのような一品。
どこか青海苔のような、デンマーク産の緑の海藻の粉をまぶし、塩漬け卵黄のディップをつけていただきます。小学生の頃、遠足で採ってきたマッシュルームを先生が調理してくれ、その味に感動したことから料理人を志したというKrisitian シェフ、マッシュルームを採って食べる、そんな気分を味わえるように、手づかみで食べるようになっています。周りはカリッと、そして中はみずみずしく仕上げてあり、海藻の粉が、自然の旨味調味料のような役割を果たします。
ここでワインは赤、ナパヴァレーのAltagracia、2011年のヴィンテージのものに。
カベルネ・ソーヴィニョン主体、樽の香ばしさは、ローストしたコーヒーのような、印象、熟した強いフルーツ感の豊かでしなやかなボディがあるワインでした。
これに合わせたのは、群馬県の鳥山牧場の鳥山和牛。
A4 Toriyama Beef
赤身の旨味を追求したという鳥山和牛は、脂と相まって旨味がたっぷりで噛むとジューシーな脂が弾けます。Jasonシェフが大好きだという、焼肉のような甘辛のバランスの味わい。
スイートブレットは角切りにして片栗粉をまぶして揚げてあります。ザワークラウトのような甘くて酸味がある赤キャベツのピュレ、オレンジの香りのグリルドエンダイブ、ガーリックパン粉のカリカリを添えて。
Rausu konbu ice cream
キャビアそのものの味を強調する要素を組み合わせたようなデザート。
キャビアのヨードの香りと重なる羅臼昆布のアイスクリーム、ナッティさを強調するヘーゼルナッツオイル。
ここで甘口ワイン、Chateau Suduiraut 2003を。
ほどよく甘く、15年の時を経て丸みのある味わいに。キリッとした後味も好みでした。
Kaya toast
パイナップルのソルベ、グラメラカのソース、甘くないそば粉のチュイル、レモンバームのモルトデキストリンスノー。
そして、ここからは小菓子。
セップ茸で作ったチュイルの中にはブラックカラントのジャムを挟んだヘーゼルナッツスポンジ、ヘーゼルナッツのエスプーマ。
少しえぐみのある旨味のあるセップ茸の森の香りにブラックカラント、ヘーゼルナッツ。森の恵みを凝縮したような味わいでした。
そして、シンガポールらしい塩漬け卵黄フィリングのマカロン、
ジャックフルーツのアイスクリームが入った餅、
ミロの粉末をたっぷり乗せた、「ミロダイナソー」というローカルドリングをイメージした、チョコレートコーティングしたミロを使ったアイスクリーム。
Corner House とNomaのオーナーが共通なことから生まれたというコラボレーション、Kristianシェフは初めてのシンガポールだそうですが、Jasonシェフの案内で様々なローカルカルチャーを見て回ったよう。シンガポール人のJasonシェフも、シンガポール料理の味わいをフランス料理のテクニックで表現しようとしていることと相まって、その中での発見が十分に生かされたコラボレーションでした。
「アジアの味にとても惹かれる。韓国人の血を引きながらも、デンマーク人として育った自分は、アイデンティティが中途半端な気がして、それが自分の弱みだと思ってきた。だけれども、Nomaの東京でのポップアップに参加したり、2年前に韓国に行き、様々な生産者と関わってくる中で、それが自分の強みであると気付き始めた。ピュアでクリーンなアジアの味のバランスの表現は得意とするところ。将来的には、もしかしたら自分のスタイルの豆板醤を店で出すことになるかもしれない。もちろん、オリジナルと違う形になるだろうけれど。」
料理の国境がなくなりつつある今、「人と違う」個性は強み。誰でもない自分自身、を表現していい。今は、そんな時代になりつつあるのかもしれない、と感じたコラボレーションでした。
(左がKristianシェフ、右がJasonシェフ)
<DATA>
■Corner House x 108 A Four Hands Collaboration
日時:2018年10月23日、24日(終了)
■Corner House(コーナーハウス)
営業時間:ランチ 12:00〜15:00(日曜は11:30〜) 、ディナー 18:30〜23:00、(月曜休)
住所:1 Cluny Road, Nassim Gate, Singapore Botanic Gardens E J H Corner House Singapore 259569
TEL:+65 6469 1000
URL: http://www.cornerhouse.com.sg/
アクセス:MRTボタニック・ガーデンズ駅からタクシーで5分程