シンガポールに、新しいスタイルの日本料理、ESORAがオープンしました。

 

 

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厨房を率いるのは、ホテルオークラの山里や、東京の日本料理龍吟、シンガポールの二つ星フレンチOdetteなどを経て、初めて自らのレストランをオープンした小泉茂オーナーシェフ。空に絵を描くように、自由に自分らしさを表現していきたいと言います。

 

 

Odetteと同じ、Lo & Behold Group系列のレストランで、上品でくつろいだ、ベジュを基調としたインテリアも、Odetteと重なるところがあります。

 

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「上質なものを提供して行きたい」ということで、器や道具も、高級でも大量生産のものでなく、一つ一つ丁寧に作られたものを揃えています。

 

カウンターの奥には、さりげなく、シンプルなデザインの茶釜も。奥様でホテルオークラ東京やパークハイアット東京の日本料理でキャリアを重ねた、サービス担当の真麻(まあさ)さんとお二人で裏千家を学んでいるということで、食後のお茶には二人が点てる抹茶もいただけます。

 

現代的な割烹スタイルで、オープンカウンターで全て見せるのが割烹、と考えているといいます。

 

料理のスタイルは、「1度の温度の違いにこだわる料理」科学的なアプローチを追求する龍吟で育ったシェフらしい印象です。

 

 

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全体的に、いくつかの料理に、龍吟の影響は感じましたが、かといって、同じ料理を出しているのか、というとそれは違います。

 

例えば、食事の前に出てくる出汁。

私も以前東京の龍吟でお椀をいただいたことがありますが、もっとほわりと優しく、昆布の旨味に、削りたてにこだわった鰹節の香りを軽く乗せたようなお椀、「山本シェフは、1番出汁ではなく、0.9番出汁と呼んでいるほど」(小泉シェフ)の、味を抽出しすぎないのが特徴です。

 

 

そんな龍吟のスタイルとは全く違う。カウンターの席でも、その香りに思わず会話を止めてしまったほど。昆布の丸みよりも、濃厚な鰹節の味わいを感じます。使っている枯れ節は、材料のカツオ自体を、良いカツオを入れてくれる漁船からのみ仕入れているという、鵜飼商店のもの。あえて血合いの部分を混ぜたものを使い、濃厚な味わいを生み出すように工夫してあります。「普通の出汁は、沈んで10秒待ちます。ですがあえて沈んで30秒待つことで、濃厚な味を抽出するようにしています。シンガポールの人たちに、これが鰹節のうまみだ、というのを知ってもらいたいのです」

 

 

シンガポールの人はお酒が飲めない人も多いので、と茶葉やグラスも自ら選んだティーペアリングを提供しています。

そして、このティーペアリングも、決して高価ではありません。7杯で38ドルという価格は、カフェで提供されるお茶位の感覚の値段です。水出しではなく、茶葉にもよりますが、60度ほどの湯で抽出してから氷温で一日水出ししています。「中にはキロ10万ほどする貴重な茶葉もありますが、この温度なら苦味を出さずに、きっちりと味わいを出せる、という温度にこだわることで、効率的に茶葉を使えますし、手頃な価格でティーペアリングを楽しんでいただけます」と語ります。

 

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最初は、シャンパングラスに入った東方美人とハイビスカスのスパークリングティー。すっきりとした酸味、そして東方美人の収斂性から来る、甘い印象があります。

 

 

 

スタートは、子どもの頃の思い出から。「自分は那須出身なので、夏の雨の日にはカエルがいるのをよく見かけました」と、水滴を模したクリアなトマトコンソメの球体の中に、カエルの形に切ったきゅうりを閉じ込めて。

 

同じく、焼きトウモロコシの思い出から、カリッとしたコーンのチップの中にトウモロコシのエスプーマを詰め、北海道産の甘みの強いトウモロコシ、ゴールドラッシュの炭焼きを乗せて。

 

 

かぼちゃの煮物をコロッケ仕立てにしたのは、母の得意料理から。上に青柚子の皮を削りかけて、さっぱりと仕上げます。

 

 

続いては、最中。

せとかのジャムに、和三盆で作ったフォワグラのテリーヌ、みょうが、炒ったピーナッツ、生姜のピュレ、みかんのピュレを乗せて。

 

 

南国らしさを表現するカフィライムは、柑橘と木の芽の間のような香りがすることから。全体的に、柑橘の香りで繋がります。酸味を加えるオキザリスの花を飾り、いただきます。最中の中から、ジューシーな果肉で知られる「せとか」の水分が弾け、フォワグラの濃厚さにジューシーさとフルーティーさを加えます。

 

 

「みかんと生姜、みかんとピーナッツの相性がいいから」と考えたコンビネーション、良いバランスでした。

 

 

枝豆すり流し 山形

 

 

枝豆と出汁だけでできている、というすり流しは、濃厚でクリーミーな豆の味。下には、牡丹海老、上にはスナップエンドウの実、カルーガキャビアが。

豆類の自然な甘さが感じられる一皿です。

 

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ミルクティーのような香りの、台湾の萱烏龍茶。

 

鮎春巻き 長野

 

 

龍吟や奥田でも使っているという、半分天然の天竜川の鮎。シンガポール人は苦味を嫌う人が多いことから、わたは抜いて、シソを入れた春巻きに仕立ててあります。臭みのないさっぱりとした肉質の鮎、そして骨と頭は黄金色に素揚げして、梅のペーストを飾ってあります。

 

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京都の玄米茶。

 

ESORA 刺身盛り合わせ

 

 

龍吟を思わせる、小皿に盛り付けて銘々に味付けをした刺身、あとで醤油をつけるのは、秋刀魚とミニオクラの小皿のみ、醤油自体も出汁で割ってあり、塩気はかなり抑えめ。たっぷりつけてしまっても、塩辛過ぎずいただけそうです。

手前中心から、五島列島の出口水産から来た10キロのクエ、神経締めしてから8日間寝かしてあります。フグのような独特の食感は残しつつ、噛み締めると筋の部分から旨味と脂が出て来ます。もみじおろしを乗せて。

 

 

通常の鰹、真鰹よりさっぱりして繊細な食感、みずみずしい羽鰹は、表面を軽く炙ってから藁でスモークをかけ、醤油漬けのニンニクのスライスと黄ニラで、真鰹では定番の生のにんにくよりも穏やかな香りを加えます。

 

 

この日は根室産だというムラサキウニは、焼きなすと合わせて。佐賀の三福海苔の「香味干し海苔」という、成形しない海苔を散らしてあります。

 

 

走りの秋刀魚は、夏の名残のオクラと合わせて、季節の移り変わりを表現。

 

 

 

鱧出汁 兵庫

 

 

鱧専用の骨切り包丁で丁寧に骨切りした鱧はしっかりと味のしみた冬瓜と共にお椀に。真昆布をベースに少しだけ利尻昆布を加え、その出汁で鱧の骨から出汁を取っています。しっかりと旨味とまろやかさのある出汁で、塩気も最初の出汁よりもしっかりとあります。

 

 

金目鯛炭火焼 静岡

 

 

6日間寝かせたという金目鯛を炭火で焼き上げて。表面に塩をふっているだけなのに、特に皮目の旨味がしっかりあります。表面はカリカリ、中は金目鯛の水分を生かして、とてもジューシーに仕上げてあります。「今は普通の炭ですが、将来的には土佐備長炭を入れたい」と考えているそうです。下にはシャキシャキしたおかひじき、素揚げにした銀杏、九条ネギのピュレを添えて。

 

旨味の強い玉露に、さっぱりと柚子を加えたお茶のペアリングで、脂の乗った金目鯛をすっきりといただきます。このペアリングが特に気に入りました。

 

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近江牛 滋賀

 

 

近江和牛のサーロインも、炭火で。

 

 

 

牛乳と玉ねぎ、ほんの少しだけバターを加えた白舞茸のピュレ、神戸の熟成赤酢と醤油、砂糖を使ったソース、揚げたネギ、わさびを添えて。

 

 

しっかり脂の乗った和牛は、噛み締めると染み出した脂とこのソースが加わると、和牛の脂が溶け込んだソースを食べているような洋の味わいに、白舞茸のピュレがその印象を強めます。そして、わさびを合わせるとすっきりとした和の味わいに。小泉シェフのイメージとしては、舞茸のピュレは「舞茸バター醤油炒め」、赤酢のソースはわさびと合わさることで、寿司のような味のバランスを狙っているのだとか。

 

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こちらに合わせたのは、炒り番茶にシナモン。牛肉と相性の良いシナモンと、炭の香りに合わせたロースト香。初めて、温かいお茶の提供です。

 

毛蟹 筋子 土鍋ご飯 北海道

 

 

「甘みが強く、水分量が多いのが好みで選びました」という、北海道産のゆめぴりかを使った土鍋ご飯に毛蟹の身をたっぷりと乗せた炊き込みご飯に。少し生姜とたっぷりのチャイブを散らしたところに、お好みで今日届いたばかりという筋子をたっぷりとかけて。

 

 

鰹節をかけた水ナスの漬物、毛蟹の出汁が効いた赤だし。ほんの少し隠し味に白味噌を入れているのだとか。

 

 

プレデザートは、白桃。

 

 

程よい水分量と温度の柔らかいソルベに、桃のリキュール、クレーム・ド・ペッシュで香りを加え、切っただけの白桃を乗せ、最後に日本酒で作った桃のお酒のジェルをかけて。後味にふんわりと日本酒の米の香りが残るので、日本料理の締めくくりとしても丁度よくいただけました。

 

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焙じ茶プリン 京都

 

 

スモーキーな香りの焙じ茶のプリンに、ヴァローナの70%カカオのチョコレート、オーストラリア・マンジャニップの黒トリュフを削りかけ、最後にラム酒のフォームを盛り付けます。

 

「和菓子は、洋酒との相性が良いと思うのです」と小泉シェフ。

確かに、日本人以外の人たちにとっては、和菓子は「ただ甘いだけ」に感じられるという話もよく聞きます。洋酒が加わることで、香りのボリュームも上がり、親しみやすくなるような気がしました。

 

 

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蜂蜜のような香りの、宮崎県産の焙煎紅茶をペアリング。

 

味は、「同系色のグラデーションの味わい」でまとめた、構成要素を盛り込み過ぎない、シンプルさが特徴。「料理は一番に、シンプルに食材の味を味わってもらいたい」と小泉シェフ。

 

 

シンプルをモットーとするものの、今の時代の料理は、こういったプレゼンテーションを含めて盛り上がることも大切、オープンしたてでまだ認知されていないから、しっかりと華やかな印象をつけたいと語る小泉シェフ、「特にインスタ映えを狙った」というのがインパクトのある土鍋ご飯や、器にもこだわった小菓子。

 

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さらに、上質なインテリア、人の手の温もりを感じる器、くつろいだ雰囲気の落ち着ける椅子、シェフやキッチンスタッフとのダイレクトな交流ができるオープンカウンター、肩肘張らないサービスなど、今人気のレストランに欠かせない要素が細かく織り込まれていて、これからますます注目したいお店です!

 

料理の価格は7コース$188、9コース$248となっています。

 

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お土産に、貴重な和三盆のカステラと、名前入りのメープル材のお箸をいただきました!

 

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■ ESORA(エソラ)

営業時間 : 19:00~21:00、月曜、祝日休

住所:15 Mohamed Sultan Rd, Singapore 238964

電話: +65 6365 1266

アクセス:MRTフォート・カニング駅徒歩8分ほど