ミシュラン一ツ星、Asia's 50 Best Restaurants 2018 で44位の絶景のファインダイニング、Jaan。ミシュランシンガポールの授賞式の翌日、7月26日から、Kirk Westawayシェフが、イギリス人として自らのアイデンティティに立ち返る、”Reinventing British” と銘打って、イギリス料理の歴史を書き換える、新しいコンセプトの料理に舵を切りました。

 

その最初のメニューである、夏のメニューを味わいにお邪魔しました。

 

 

 

まずは、最近の温暖化で良質なスパークリングワインが作られるようになったイギリス南西部。私も最近、International Wine Challengeの取材でいくつかのワイナリーにお邪魔して来ましたが、ここ数年、イギリスではワイナリーの数が劇的に増えているのだとか。

 

たくさんのイギリスのスパークリングを試飲した中で、Kirk シェフが選んだのは、Wiston cuvee brut。「イギリス南西部は土の質がシャンパーニュ地方とそっくりで、ミネラルがあり、清々しいシトラスのような味わいがあり、特に貝や甲殻類との相性が良い。すっきりとした繊細な味わいを表現する自分のスタイルに向いている」と語ります。

 

 

こちらは、シャンパンと同じ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3品種を使い、シャンパンと同じ瓶内二次発酵をして作られています。

 

寒い地域のスパークリングとは思えない、しっかりとしたボディがあり、酸だけが際立つのではなく、豊かなフルーツ、ヨーグルトのような乳製品の印象も。

 

 

まずは、食事の前のスナック。

シェフの生まれ育ったDevonからわずか5マイルほどの地域で作っているというチェダーチーズを入れたそば粉のパンケーキ。こちらは、以前からの定番のメニュー。

 

 

それ以外は、すべて新しいもの、ヨークシャー地方からの有機ビーツを使ったとても繊細なメレンゲは、オーガニックの卵白を使って作ったもの、スモークした鰻、鰻のクリームを乗せて。

 

 

フィッシュ&チップスをイメージした小さなタルトは、大西洋で獲れた鱈を塩とフェンネルで48時間マリネしてからミルクでゆででブランダードを作り、茹でた時に使ったミルクとジャガイモで作ったタルト生地に入れ、ケイパーやパセリ、塩漬けのレモンやスペイン産の酢などと共に入れてあります。すっきりとした酸味とレモンの味わいで、どこかセビーチェを思わせるような味のバランスです。

 

 

イギリスでは広く愛されているカレー。

 

 

オーガニックのフランス産の鶏モモ肉を使い、皮は165度のオーブンで20分焼いてクラッカーに、そして身は細かく刻んでメース、チャイブ、クローブ、ターメリック、シナモン、クミン、唐辛子などでできたガラムマサラと混ぜ合わせてカレーに。そして、日本米で作ったクラッカーに乗せて、卵黄のピュレとマンゴーチャツネを加えたもの。

 

Kirkシェフが作り続けているスープは、後から加える出汁に変化が。

 

 

スコットランド産の昆布を浄水に12時間漬けて、74度で4時間煮出したものに、これまで同様、マッシュルームとトリュフのジュースを加えています。

 

 

続いてのワインは、南オーストラリアのワイナリー、Ministry of Cloudsのミネラル感のあるリースリング

 

 

Irish Oyster

 

 

オリジナルのキャビア缶の中で作った菊芋のフラン、クリスタルキャビア、出汁のフォーム、アイルランド産のマジェスティック・オイスター。

 

 

アーティーチョークの大地の香りと、キャビアのヨード感がよく合います。

 

 

続いてのワインは、イタリア・ヴェネト州のPieropanのソアヴェ・クラシコ。

しっかり酸のある、きりりとしたワインです、

 

 

それに合わせるのは、ヨーロッパ産の野菜を中心に、イギリスの庭園をイメージしたEnglish Garden。

 

 

この日は11種類の火を通した野菜と、20種類の生の野菜やハーブなど、そしてアンチョビのソースとビーツのピュレ。そこに、ジョウロに入ったスコットランド産の昆布の出汁に野菜とローズマリーなどのハーブを抽出した出汁を混ぜたピュアな印象の出汁をかけて。

 

 

それぞれの野菜の旨みや香りを強く感じる一皿でした。

 

続いては、澱とともに寝かせる、シュールリー製法で作ったロワールのミュスカデ。

 

 

Muscadet de Sèvre et Maine Sur Lie 2015 石灰のミネラル感をしっかり感じるワインでした。

 

Alaskan Langoustine

 

 

クールブイヨンで軽く湯がいたラングスティーヌは、表面をバターで軽く焼き上げて、イタリア産のヴァイオリン・ズッキーニと、角切りのズッキーニでは、パルメザン、バターや野菜のストックと合わせてリゾット風に、イギリスのニールズヤードからの山羊のミルクの凝乳とエスペレット唐辛子で、コクとスパイシーさをプラスして。甘いセミドライトマト、スイートレッドペッパーのチャツネ、とともに、チャービルなどのハーブをたっぷりと盛り付けて。南仏を思わせる味わいです。

 

ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが所有しているワイナリーとして有名になったMiraval のロゼ、2016年のヴィンテージ。

 

 

色は淡めで、実際の味わいも清々しい印象のキリッとした味わいです。

 

こちらには、Irish Turbot with Garden Vegetables

 

 

Kirkシェフが個人的にも大好きな魚だという、Turbotを季節の野菜のソースで仕上げたもの。65度で10分間低温調理したTurbotは、少しゼラチン質を感じるまったりとした味わい。Joselitoハムの出汁、バターやオリーブオイルで味付けした後、スナップエンドウやそら豆、旨味を加えるマテ貝などとともに盛り付けられています。グリーンピースなどの甘みを感じる泡のソースに、マテ貝とハムのうまみが加わり皿の下に、こちらにも少しエスペレット唐辛子、そしてナスターチウムが程よい辛味のアクセントになっています。

 

肉のメインに合わせたのは、Couvent des Jacobins 2006サンテミリオンのワインで、メルローを中心に、カベルネフラン、カベルネソーヴィニョン、マルヴェック、プティヴェルデなどのブドウを使ったもの。フレンチオークの樽を使ったしっかりとした味わい。

 

 

子羊は、Welsh Saalt Marsh Lamb

 

 

ウェールズ北部の塩気のある土地で育った子羊で、ミネラル感のある味わいが特徴なのだとか。

あんずとレモンコンフィのピュレを敷いた上に、フィレ肉やもも肉を包むように成形して65度で1時間火入れしたあと、250度のオーブンで香ばしく仕上げた子羊のローストをのせ、ジュとトマト、バジルのソースをかけて。

イタリア・フローレンスからのナスに甘い味噌を塗って焼いたもの、同じくナスのピュレにキャットウィスクルを添えたもの、表面をキャラメリゼさせたジャガイモ、コーヒーと蜂蜜のドット。

 

Pimms in the Park

 

 

これまでも、Kirkシェフのデザートに登場してきた、イギリスを代表するフレーバージン、Pimms。キュウリやいちご、ミントやオレンジ、レモネードなどを入れてカクテルにしますが、ピクニックなどで飲む、イギリスの夏の風物詩なのだとか。

 

細かく刻んだオレンジとキュウリ、Pimmsに漬けたポメロ、レモンのグラニテ、レモネードの泡と、レモンバーベナの粉を添えて。面白かったのは、器自体が「芝生」をイメージした、小麦の若芽の上に乗って出てきたこと。

 

 

デザートワインは、ちょうどイチゴジャムや蜂蜜のようなニュアンスのある2016年のアイスワイン。

 

 

Strawberry Cheesecake

 

 

とても香りの良いフランス産のイチゴ、パイナップルのような味がするという白イチゴ、パインベリー、レモンバーベナのメレンゲ、その下のバターをたっぷり使った「チーズケーキベース」にはシンガポールで愛されているパームシュガー、グラメラカが。マスカルポーネソルベ、フレッシュアーモンド、そして最後にいちごのシロップを注ぎます。緑のパウダーは、レモンバーベナ。

 

最後の小菓子も、リキッドのキャラメルが入ったアーモンドチョコレート、Caramel Rocherとクロテッドクリームとラズベリージャムを挟んだDavon Cream Teaに加えて、レモンメレンゲタルト、コーヒーとチョコレートのケーキ、バニラカスタードを包んだチョコレートにアールグレイの粉をまぶしたボンボン。器も白に、イメージチェンジ。

 

 

イギリスの食材はフランス食材と比べて、まだまだ輸出量が少ないが、これから更に地元の食材を使っていきたい、とKirkシェフ。

 

イギリスで食べたイギリス料理に比べても、ピュアでエレガントな味のバランスなのが特徴的。アジアでまだまだ少ない、モダンイギリス料理のレストランの旗手として、シンガポールでどんな風に新しい味を作っていくのか、また楽しみです。

 

 

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■ Jaan (ジャーン)

営業時間:ランチ 12:00~13:45(L.O)、ディナー 19:00~21:45(L.O)、無休

住所:Level 70, Equinox Complex Swissôtel The Stamford, 2 Stamford Road, Singapore 178882

電話: +65 6837 3322

アクセス:MRTシティーホール駅直結