シンガポールを拠点にフードジャーナリストとして活躍するDavid Yipさんが5月にオープンした新しいレストラン、Circa1912。

 

 

インドネシア・ジャカルタ出身で、祖母がロンドンで中国料理店を経営していたという関係で、お抱えのシェフがいる裕福な家庭で生まれ育ったDavidさんは、自分が子どもの頃に食べていた料理を再現して提供したいと始めたレストラン。

 

清の時代に初めてレストランがオープンした年にあやかって、店名はCirca1912(1912年頃)。

とても若々しく見えるのですが、実は今58歳というDavidさん、今現代化の波で消えかけている、自分の記憶に残る本物の広東料理の味を提供しようとオープンしたのがこちらです。

 

シンガポールで好まれている、油を高温で熱することで生まれるスモーキーな味わい、Wokも、元々は大衆的なレストランで生まれた味。

 

「シンガポールのレストランでは、大衆的な味の作りになっているところが多く、そうではなく、良質な食材の味そのものを引き出す、本物の広東料理を提供したい」と言います。

 

後ろがDavidさん

 

まずは、焼き物の三点盛り合わせ。

Caramelised charsiew in preserved bean paste

Roast Silverhill duck in homemade plum sauce

Roast pork belly in preserved bean curd

 

 

チャーシューは、豚の首の肉を使い、昔ながらの豆のペーストでマリネ、柔らかくするために、ほんの少し薔薇の酒を使っているので、旨味とともに、フローラルな香りが残ります。ジャリっとした砂糖が表面にコーティングされているのも、心地よいアクセントです。

ローストダックは、醤油の味がしっかり染みていて、これに甘い自家製のプラムソースを添えていただきます。カリカリのクリスピーポークは、豆腐ようでマリネしてあります。どれも伝統的なマリネの方法で、シンガポールではここでしかこの方法で作っていないのだとか。

 

サイドディッシュは、子どもの頃のお気に入りのスナックだったという、オレンジジュースを沸騰させた中に生の冬瓜を入れて、ジュースを染み込ませたもの。ほのかな苦味がアクセントです。

 

Seafood broth

 

 

中華ハム、豚肉、鶏肉などで取った上湯に地元のフラワークラブ、しいたけ、細かくした鶏肉を使ったスープ。キュウリを入れて。

「中国料理のスープには大きく二種類あって、最初にサーブされるスープは濃厚な味わいで、ジャガイモ澱粉を使ってとろみを出す。後にサーブされるスープは、通常炭水化物と一緒に出されるもので、透明で鏡のような仕上がりになるクワイの澱粉を使う」とDavidさん。

そして、この上湯の作り方にもこだわりが。通常は10時間ほどかけて煮出すことが多いのですが、Davidさんは、フレッシュでピュアな味わいを引き出すため、材料を2倍使って、2時間だけ、沸かさずに静かに抽出するのだとか。そうして出した「一番出汁」はスープに、その出汁ガラを使って、同じく2時間出した二番出汁は、あんかけなどのスープに使うそう。

フカヒレなどに使う出汁で、濃厚な味を出したい時は、鴨の出汁を使うこともある、のだそうですが、西洋の出汁と違い、野菜などを入れることはないのが中国の出汁の特徴なのだとか。

 

 

Deep-fried superior stock topped with Russian caviar

 

 

上湯を冷蔵庫で冷やして、周りにジャガイモの澱粉を厚めにまぶしてから揚げたもの。熱々のゼラチン質のスープが楽しめる一皿で、スープが液体にならないように揚げるのはとても技術がいるのだとか。上には、最近モンゴルから帰ってきたばかりのDavidさんのお土産、ロシア産のキャビアを乗せて。

 

 

Quick-fried chicken wing stuffed with mushroom, bamboo shoot and Chinese ham

 

 

「カンポンチキン」と呼ばれる放し飼いの鶏の手羽の骨を外して、中に中華ハムやキノコなどを詰めて、中火で炒めたもの。中華ハムは塩気を抜くために、洗ってからシロップに一週間つけてあるので、とてもまろやかな味わい。青ネギの根元の白い部分、人参、生姜などと、鶏の二番出汁でシンプルに味付けしてあります。

 

そして、鶏の出汁を使ったおかゆ。

 

 

まるで水飴のような、独特の米の甘みを感じる仕上がりで、とても好みでした。

スターチ感を出すために、新潟産の日本米が半分ほど、もち米5%、残りはローカルのジャスミンライスの古米をブレンドしているそう。高温で2〜3時間かけて加熱することで、米が鍋の中で踊ってぶつかり、割れることで、内側のスターチが出てくるようにするのがポイントなのだとか。シンプルですが、米の味が感じられるとても美味しいおかゆでした。

 

 

Deep-fried red grouper in vinaigrette sauce

 

 

舌に残る気がする、と上白糖は極力使わないというDavidこちらは、鯛に衣をつけて揚げて、シンプルに酢と砂糖のソースで食べる料理。シンガポールの方からすると「80年代を思い出す」懐かしい味わいなのだとか。こちらも、砂糖を使わずに、サトウキビから絞ったジュースを濃縮して作っているそう。赤肉のメロンが入って自然な甘みをプラスしています。

 

 

Lychee stuffed with prawn paste served in spinach superior broth

 

 

フレッシュなライチの中に海老をいれたものを、ブレンダーで回したほうれん草を加えて翡翠色にした鶏の一番出汁のスープに入れて。自然なライチの甘みが加わり、とても優しい味わいのスープに仕上がっていました。

 

 

Traditional sweet & sour pork

 

 

季節の果物を使った酢豚。トライディショナル、とあえてつけたのは、今のトマトを使う酢豚ができる前は、実は山査子の実を使って味をつけていたのだとか。「本物の酢豚は、グレービーが下にたまらず、全部具材に絡んでいるべき」なのだとか。80年前に出版された料理本に書いてあった、「口の中でとろける酢豚」を実現するために、脂身を蒸してから揚げて、内側は柔らかく、周りはカリッと仕上げています。今回はいちごでしたが、季節が変われば桃になる時もあるのだとか。

 

Crispy egg noodle topped with Whampoa omelette and prawn

 

 

とても印象的だったのが、こちらの麺。

黄色い布、という意味のあるこの卵料理は、食材がなかった時代に、卵だけでも高いスキルの料理を提供したい、という料理人の思いから生まれた料理なのだとか。しっかりとした旨味は、塩漬け卵の卵白を卵に混ぜ込んで焼き上げているから。しっとりとした食感のエビの火入れも抜群で、卵と鶏の二番出汁が揚げた麺にからむとても魅力的な麺でした。

 

Almond bean curd in orange juice

 

 

デザートは、アーモンド入りの豆花を菊の花の形に切り、少しだけ煮て味を濃縮させた、フレッシュオレンジジュースに入れて。

 

化学調味料無添加、スッキリした食後感の中国料理。強い味わいを与える、ニンニクや玉ねぎなどもほとんど使いません。今はなかなか味わえない、古典的で上質な「広東料理」を味わってみてはいかがでしょうか?

 

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■ Circa 1912

営業時間:ランチ 11:30〜14:30、ディナー17:30〜22:00、月曜休

住所:03-07/11 Shaw Centre, 1 Scotts Rd, Singapore 228208

電話:+65 6836 3070
アクセス:MRTオーチャード駅から徒歩3分ほど