Asia’s 50 Best Restaurants で18位、ミシュラン一ツ星の台湾のMUMEのRichie LinシェフがシンガポールのNouriで2日限定のコラボレーションイベントを行なっています。

 

 

「クロスカルチャー・キュイジーヌ」をテーマに、世界を料理でつなぐ、をコンセプトとしているIvan Brehmシェフ率いるNouri 。Ivanシェフは2016年のミシュランシンガポールでも一つ星を獲得しており、去年はNouriを6月にオープンしたため、時間的には間に合わなか たものの、今年は星獲得間違いなし、との呼び声の高いレストランです。

 

 

毎回コラボレーションの度に、綿密に打ち合わせを行うIvanシェフ、今回は台湾が誇る「中国茶」。アミューズを除くコースの全てに中国茶が使われています。

 

 

スタートは、Nouriの定番のライ麦パンとスープ、ナツメグとオリーブオイル、25年もののバルサミコをかけたパンナコッタ。

 

 

続いては、アミューズ。

グリーンリップと呼ばれる種類のアワビ、梨のグラニテ、大根のキムチ。ほのかな苦みのある大根の花、シャキシャキした梨のスライスが添えられています。はっきりとした酸が、アワビの甘みを引き立てます。今回、全ての皿が、二人で話し合ったメニューということで、特にどちらの皿ということはないのですが、こちらは最近韓国料理を追求したいと考えているIvanシェフが主導で作った皿。

 

 

中国茶でスモークした、オーストラリア和牛のランプキャップで作ったタルタルを、台湾の原生品種で、赤いキヌアのような穀物で作った小さなトルティーヤのようなトスターダに乗せて。

 

 

以前もいただいたことのあるMUMEの定番料理ですが、今回は台湾の牛肉ではなく、オーストラリア和牛を。そして、トスターダが以前よりも更に香ばしく仕上げてあり、ほんのりキャラメリゼされたような香りがあって、紫玉ねぎのピクルス、大根の漬物の甘辛のバランスも、とても良かったです。

 

 

Phoenix Mountain Oolong

 

 

丁寧に取り出したフラワークラブの身に、フレッシュアーモンド、ランブータン、アーモンドとニンニクで作ったスペインの冷製スープ、Ajoblancoに、ほんの少しだけグリーンカレーペーストでアクセントをつけたスープを注いでいただきます。程よいコクがありながらも、ほのかな苦味と甘み、ひんやりとした、フレッシュ感のある一皿です。

 

ペアリングは、台湾のもち米から作った酒、米酒(Mi chu)を。

 

 

醸造酒ですが、麹由来なのか、焼酎を思わせるどこかフローラルな香り、粘土や木、ウールを思わせるような特徴のある香りです。ランブータンの甘みと、このフローラルな印象が合っているように思いました。

 

Osmanthus

 

 

金木犀の花のお茶のオイルがお茶の要素。

「台湾とシンガポール、離れていても、同じ作り方で海老の頭からソースを作っていることに気づいた」という、海老のソースがもう一つのテーマになっている皿。

 

 

スペイン産のカラビネロ海老に、馬告という台湾の山椒、金木犀茶のオイル、ディルのオイルなどと合わせて。「ヒカマ」と呼ばれるターニップは、梨のようなサクサクの食感を残しながら、水とはちみつで軽く煮てあります。

ワイルドスターフルーツとも呼ばれるビリンビは、酸味を加えるだけでなく、「MUME」店名の由来になった、梅の花の形に似ていると使っているのだとか。

同じく酸味のあるオキザリスの花を添えて。

キッチンで絞った搾りたてのココナッツミルクを加えて。チャイナタウンのマーケットにIvanシェフと出かけて感じた東南アジアらしさを表現した皿、とRichieシェフ。

 

 

 

ペアリングは、ランブータンの花のはちみつを入れて醸造したビール。フローラルな印象の奥にはちみつやミツロウの香りがあり、梨のようなターニップや金木犀の花のオイルと合っていました。

 

 

Matcha

 

 

Richieシェフが台湾から持って来た抹茶のパウダーで仕上げた一皿。

新鮮なイワシは塩をしてスモークをかけて。これを塩分に、フェンネルのベアルネーズソース、茹でたゴールデンビーツ、フェンネルの花、下にはフェンネルのオイルを敷いて。青魚とフェンネルの相性は良いもの。クリーミーなソースで、全体を優しく包む印象の一皿です。香ばしい香りは、抹茶パウダーに入っているという、ローストした大麦から。香ばしさが、ゴールデンビーツの大地の香りを一段引き上げます。

 

こちらに合わせたのは、中国のシャルドネ。フランスのブルゴーニュの古樽を使っているというだけあって、豊かな香り。ヨーグルトやバターのような乳酸系の香りは、クリーミーで濃厚なベアルネーズソースと良くあっていました。実は、ワイナリーは台湾系の家族の所有なのだとか。

 

 

 

ここで、コース外だったのですが、かんずりのリゾットを。

 

 

以前にIvanシェフに紹介したかんずりを気に入ってくれ、リゾットに使っています。確かに、かんずりには麹を使っているので、米と合わせるのは良いアイデア。25年もののバルサミコで酸味とコクを加え、唐辛子を追加して更にスパイシーに、ゆずがふんわり香り、クリーミーなリゾットに、ねっとりとしたカラビネロ海老がコクのレイヤーを加えます。同じ海老のソースでも、このIvanシェフのソースは、クリームなどを使ってコクを出していて、Richieシェフの料理は海老そのものの出汁をより濃厚に出していたのが、違った解釈で面白いなと思いました。

 

Alishan

 

 

阿里山烏龍茶を浸したバターで調理した、薄切りのイカ。「シンガポールで手に入るイカは、台湾や日本のイカよりも甘みが控えめ」というRichieシェフ、このシンガポールに合ったメニューをと考え出したのがこちら。烏龍茶でローストしたヒメジの卵、アミューズで使ったアワビの煮汁、乾燥させた紫の山芋に、はちみつの甘みと、アニスのような甘い清涼感のあるヒソップの花を散らして。

 

ペアリングは台湾のウィスキー。

 

 

ウィスキーのバニラの香りと、バターたっぷりのソース、そしてスモーキーな香りをスモークした魚卵に合わせるペアリング。

 

 

Raymond's Grouper

 

 

シンガポール産のハタの仲間、グルッパーは馬告やレモンタイムなどを入れた65度のオイルで20分ほどポーチしてから、フライパンで皮目を焼き上げてあります。

 

以前も、MUME の日本酒でとった出汁をいただいたことがあるのですが、今回は、グルッパーの骨、カツオと昆布でとった日本酒の出汁に、軽く出した金木犀のお茶を混ぜて。軽やかな味わいの中に、お茶の甘い香りが加わり、個人的にはこちらの方が好みでした。身の詰まった印象のグルッパーを、素揚げしたイタリアンパセリなどとともに、たっぷりの出汁でいただきます。出汁には、最後にフレッシュな馬告とレモンタイムを加えて。小さな角切りにした台湾の筍が、甘みとサクサクした食感を加えていました。

 

ペアリングはアルコール度59%という台湾の蒸留酒。

 

 

少しオードヴィのような香りがあり、香りを感じながら、アタックの強いアルコール度を薄めながら飲むと良いように思いました。

 

 

Lapsang Suchong

 

 

中国スタイルのロールキャベツやスコッチエッグのような一皿。スモークした中国茶、正山小種のソースをかけてあります。中心は、卵を冷凍してから卵黄を取り出し、醤油に40分ほど漬けたもの。独特のねっちりとした食感になるのが面白いです。

 

 

それを、五香粉を効かせた豚ひき肉で包み、キャベツで巻いて、三つ葉をかけて上にオシェトラキャビアをのせて。

 

毎回、イベントの際のペアリングを考えるヘッドソムリエのMattheewのリサーチには驚かされるのですが、今回は台湾にこだわったペアリング。ここで出て来たのは、スペインのテンプラニーリョのワイン。

 

 

どこが台湾かというと、ワインの名前の「Matsu」。この地名は台湾にもある地名なんだ!ということでのペアリング。

スモーキーな中国茶、五香粉の香りにテンプラニーリョが合っていました。

 

 

プレデザートは、

 

 

ブロンズフェンネルのグラニテ。ちょっと梅酒のような、甘酸っぱい味わいがベースになっています。色素はブロンズフェンネルの色のみ。お湯をそそぐと、このような鮮やかなピンクになるのだとか。

 

Chrysanthemum

 

 

 

デザートは、菊花茶。シロップで煮た仏手柑の薄切り、菊花茶と愛玉のゼリー、アペロールをスプレーしたクリーム、焼いたグーズベリーのソルベ。ほのかな苦みのある、菊の花びらを散らして。Langsatというロンガンのようなフルーツ、少しスモーキーさのあるグーズベリーのソルベに、スモークプラムのビールを合わせて。

 

 

このビールにキャラメリゼしたニュアンスを合わせたというのが、アールグレイティーをテーマにしたデザート、Lady Grey。

 

 

48時間かけて低温でじっくり焼き上げたオレンジの中身をくり抜き、自然なジャムのようになったものを一番下に、ベルガモットのパートドゥフリュイ、フレッシュなオレンジ、ヘーゼルナッツ、ヘーゼルナッツプラリネチョコ、アッサムティーアイスクリームを。

 

 

着想を得たのは、200年ほど前の、Antonin Carême(アントナン・カレーム)の古いレシピから。オレンジをくりぬいてジュースを取り出してゼリーを作って、アーモンドのゼリーと交互に皮の中に詰め込み、もう一度蓋をしてから木に吊るして、食事客が「オレンジを収穫して」楽しむ、というものから。

 

「分量などのレシピがあるわけではないので、ゼリーがどんな状態だったかわからないけれど、オレンジとアーモンドの組みあわせに、ナッツの濃厚さを加えるためにプラリネチョコレートやヘーゼルナッツを加えた」とIvanシェフ。

 

常に、過去の文献などもリサーチしては、世界を繋ぐ料理を研究しているIvanシェフ。よく口にするのは、「クリエイトしているのではなく、再発見しているに過ぎない」という考え方。

 

実際に、このカレームの考え方も、今流行の「体験型」の食事そのもの。私たちが「発見」だと思っているのは「再発見」に過ぎないということを、改めて感じさせられます。

 

 

 

今回はゲストシェフのRichieのレストラン、MUMEがある台湾をテーマに、アジアらしさを追求した印象。この後も、Nouriでは月に一度、世界のシェフとのコラボレーションを予定しているそうで、世界を繋ぐ料理の探求は、これからもまだまだ続きそうです。

 

 

<DATA>
■4 Hands- Richie Lin and Ivan Brehm
日時:2018年7月18日、19日

■ Nouri(ヌーリ) 
営業時間:ランチ 11:30~15:00(平日のみ)、ディナー 18:00~24:00(LO22:30、月曜〜土曜)、日曜休
住所: 72 Amoy Street, Singapore 069891
電話: +65 6221 4148
アクセス:MRTテロック・エア駅から徒歩4分ほど