長年イル・ギオットーネ本店のヘッドシェフを務めた坂本健シェフが2014年に京都にオープンしたレストラン、Cenci(チェンチ)。

 

 

以前はイル・ギオットーネ出身のシェフがヘッドシェフを務めていたことがあるなど、もともとイル・ギオットーネと縁の深いシンガポールのレストラン、Iggy’sでポップアップレストランを行いました。

 

現在Iggy’sのヘッドシェフを務めるAitor Jeronimo Oriveシェフとは初対面だったそうですが、Iggy’s に来るのはこれで5回目という坂本シェフ、Aitorシェフやチームとも息の合ったコンビネーションをみせていました。

 

 

アミューズはAitorシェフによるもの。

Kyoto Sling, Somen, Chirimen-jako Disk, Shovelnose Shark

 

 

梅酒を閉じ込めた球体を紫蘇の葉で包んでいただく一口カクテル、

 

 

 

そうめんにマヨネーズのようなソースを絡め、アブルーガキャビアを乗せたもの、シグネチャーのオブラートと小エビの変化形、オブラートとちりめんじゃこ。オブラート自体にも、小エビが練りこまれていて、海老の香ばしさとちりめんじゃこの味わいが重なります。小さな一口コロッケのようなものは、Shovelnose Sharkと呼ばれるエイの仲間の身が入り、パプリカを使ったアイオリソースを乗せて。

 

パンはグルテンフリーのチーズがたっぷり入ったポンデケージョ、サワードゥは酸味の強い香り、塩分やミネラルはやや穏やかなパンでした。

 

 

ハウスシャンパンのローラン・ペリエと。

 

 

ここからが坂本シェフの料理。

Corn Crepe

 

 

温かく、ふんわりとした厚みのあるコーンのクレープは、コーンの独特の味が生きています。甘いフレッシュコーンを散りばめ、もっちりとしたモッツァレラは、優しいミルクの味わいが感じられる、香川県の藤川牧場のもの。その上に、冷たいキャビアを乗せて、温度のグラデーションも楽しめる前菜です。

 

Chutoro

 

 

長崎産の蓄養のマグロの中トロに、オニオンパウダー入りの細かいパン粉をまぶして、表面だけ優しく火を入れ、鮎醤、芽ネギ、玉ねぎのピュレとピクルスを。カツオをマグロに変えて、たたきにしたようなイメージです。上からコクを加えるカラスミの粉を削りかけて。

 

 

 

 

パッションフルーツなどの南国のフルーツ、バニラが香る、シャサーニュ・モンラッシェ。オーナーのIggyさんは元々は数々の受賞歴を誇るソムリエで、ブルゴーニュ産を中心に2万5000本のワインを持っているというだけあって、ワインのクオリティも折り紙つきです。

 

Sakura Ebi

 

 

塩をして素揚げにした賀茂茄子に、京都産を中心とした、ズッキーニ、アスパラガス、芽キャベツ、スナップえんどうなどの季節の野菜をあっさりと蒸し、贅沢に今の時期ならではの生の白エビを乗せ、違った種類の甘みのレイヤーを加えます。上には、米と昆布出汁、桜エビを混ぜて乾燥させた生地を200度の油で揚げて作った、「エビせんべい」が。

下にはバジルとオリーブオイルで作ったソース。

シンプルですが、エビのような甲殻類と優しい甘みのあるアスパラガスやスナップエンドウなどの初夏の様々な野菜は相性が良いもの。シンプルに素材の持ち味を前面に押し出した料理です。

 

 

Ravioli

 

 

生地から手作りのラビオリの中は、豚のバラ肉。上から、椎茸と昆布、ハモンイベリコハムの出汁をかけ、木の芽を散らして。椎茸の出汁はシンガポールでも中華系プラナカン料理に使われるなど、馴染みのある味。甘い香りの木の芽とも合っていました。ここで味わいのボリュームを上げて、メインディッシュに繋げます。

 

続いては、Aitorシェフからのサプライズディッシュ。「バスクから帰ってきたばかりでしょう、名物のココチャ作ってみたから食べてみて。今回は日本から坂本シェフが来ているから、ソースは普通のニンニクの代わりに日本の黒にんにくにしたよ、スペインと日本の要素を取り入れたココチャをイメージした」とAitorシェフ。

 

 

塩漬け鱈ではなく、生のメルルーサの喉の部分の肉を使ったココチャは、ゼラチン質の食感と程よい歯ごたえがあり、火の入れ方、食感共に、シンプルながらとても気に入りました。干し鱈のソースも、しっかりと魚のゼラチンが生きた濃厚なもの。熱々でいただくと、黒にんにくの旨味がとても印象的な一皿に。

バスクで食べたのともまた違う味わい、こういったことなった地域の食材をさらりと取り入れても不自然にならず、人の好みの最大公約数的なところに投げ込むのは、さすがインターナショナルな味覚に磨かれたシンガポールで働くシェフ、という感じがします。

 

 

モレ・サン・ドニの赤ワインは、熟したカシスのジャム、やや重めのスミレや鉄分の香りを感じるもの。鳩にぴったりの組み合わせです。

 

Roast Pigeon

 

 

ロワール・アンジュー産の鳩は、首の皮で胸肉を包んで串で止め、優しく炭火で焼き上げて。炭火の香ばしさが生きたしっとりとした鳩、シンプルに蒸して甘みを引き出したキャベツ、発酵させてザワークラウトに仕上げた赤キャベツが酸味と奥行きを加えます。骨や端肉、玉ねぎや人参などの野菜ををローストして赤ワインを加えて煮込んだ出汁に、刻んだモモ肉を加えたラグーソースを添えて。

 

Spaghetti

 

 

とても気に入ったのがこちらのパスタ。鮎を塩焼きにして、頭と中骨を抜き、肝なども一緒に刻んだものを、程よくもっちりとした食感を残した乾麺のパスタと合わせて。昆布とあさりの出汁をオリーブオイルで乳化させて絡めたパスタは、和の食材である鮎やその肝とも、相性抜群でした。

 

 

Matcha Daifuku

柔らかい抹茶の餅の中に、リコッタチーズとチェリーを詰めて。

 

Cocoa Churros

甘さ控えめで、カカオ100%のチュロスは、カカオのフルーティーな味わいを生かしたもの。

 

 

Grapefruit

 

 

蜂蜜に漬け込んだピンクグレープフルーツに、ラベンダーを効かせたアイスクリーム、モッツァレラチーズのエスプーマを添えて。地中海風の明るい香りと味わいに仕上がっていました。

 

小菓子は、わかめを練りこんだサブレ、パッションフルーツのチョコレート、桜とラズベリーのパートドフリュイ。

 

 

日本の繊細な食材の味わいをきちんと引き出し、シンプルに表現する料理。旨味を重ねすぎず、程よい抜け感を作っているのがコースにメリハリを与えていましたし、油分も控えめで、和食のようなすっきりした食後感が印象的でした。

 

英語も堪能な坂本シェフ、Aitorシェフが京都にやって来るコラボレーションも今後実現するかも。




 

食材の味わいを引き出すメニューの数々を、堪能しました!

 





 

<DATA>

■Cenci x Iggy’s

日時:2018年6月28日〜30日(終了)

 

■Iggy’s (イギース)

営業時間:ランチ 12:00~13:30 (L.O.)、ディナー 19:00〜21:30 (L.O.)、日曜、月曜休

住所:581 Orchard Road Level 3 Hilton Hotel, Singapore 238883

電話:+65 6732 2234

http://www.iggys.com.sg/