シャングリラホテルの最上階にある、見晴らしの良い明るいレストラン、波心。秋葉重雄料理長は、横浜のなだ万、料理の鉄人、中村孝明さんの店で料理長を5年間勤め、右腕として働いてきました。さらには、なだ万時代に明仁天皇のための料理を作った上、横浜プリンスホテル時代には、秋篠宮殿下と紀子さまの結婚式の料理も手がけています。そんな31年のキャリアの中で、特にこだわりを持ってきたのが、出汁。

 

 

日本料理では、「出汁」と一口に言っても、料理ごとに色々な出汁があるもの。シンガポールの人たちにも、そんな奥深い出汁の世界を知ってもらいたいと、メディア向けの、出汁テイスティング付きのディナーが行われ、参加してきました!

 

 

まず行われた出汁のセミナーでは、それぞれの味のチャートをプリントした紙の特製マットが作られ、どの出汁か混乱しないようになっています。

 

 

チャートの内容は、左右が高級な出汁、上が植物系、下が魚介系になっています。利尻昆布と真昆布の違いを、まず昆布だけで取った2種類の出汁で比べます。1.8リットルの水に対して200グラムの昆布を一晩つけて、煮出す時に香り付け用に50グラムを追加で足す、という作り方や分量まで完全に同じなのだとか。びっしりとアミノ酸の粉が表面についた真昆布よりも、実は利尻昆布の方が、実は旨味が濃厚。旨味を内側に閉じ込めているため、出汁を取るときにしっかりと旨味が出るのだとか。

 

続いては、魚系の出汁。

 

 

じゃことあご、鯖節、ウルメイワシと続きます。

優しい味わいのじゃこに対して、あごはほのかな苦みのある濃厚な味わい、鯖節は蕎麦のつゆに使われるだけあって、少し酸味のある味わい、うどんのつゆに使われるウルメイワシはマイルドな味わいです。

 

 

ワイングラスに入れて供された、こだわりの本枯節を使った一番出汁は、濃厚な昆布の旨味を感じる上品な味わい。

 

比較のために、粉末和風だしを使ったものも提供されました。

一度にこれだけの分量の出汁を、同時に味わう機会はなかなかないもの。日本人であっても、とても勉強になりました。

 

続いては、出汁に焦点を当てたコース。

 

先附は、

山芋豆腐に、二番出汁と醤油のゼリーに蓴菜を混ぜたものをかけて、雲丹と山葵を乗せて。

 

表面だけを炙ったホタテに、菜種を混ぜたコチュジャンクリームをかけて。

 

二番出汁で湯がいた車海老に、うるい、二番出汁にじゃこの出汁を合わせた煮浸し。

 

 

吸い物は、ハマグリの酒蒸し、ジューシーな鶏ひき肉の団子、茄子の揚げ浸し、しめじと人参、レタスを巻いたものを添えて。

 

 

一番出しにみりんと薄口醤油、塩を加えたもの。比較用に一番出汁そのものも出してもらいました。

ハマグリ、鶏ひき肉、シメジなど、それぞれに特徴ある出汁の出やすい食材を集め、揚げた茄子の香ばしい油などが加わり、重層的な旨味のあるお椀に仕上がっていました。

 

刺身は、ヒラメとマグロ。

 

 

ヒラメは橙、白醤油、みりん、二番出汁を使った白ポン酢ですっきりと。

 

 

マグロは刺身を丸く整形し、間にアボカドを挟み、醤油とみりんを加えた二番出汁と共にいただきます。

 

 

蒸し物は、うどんを入れた茶碗蒸し、小田蒸し。

 

 

上には、蟹肉とミツバ、椎茸を乗せて。二番出汁にウルメイワシ、鯖出汁、濃口醤油で作った餡と共に。ほっとする味わいです。

 

肉料理は宮崎牛のすき焼き風。

 

 

宮崎牛のロースに、茄子の2秒だけ揚げで、二番だしとみりん、酒、醤油、砂糖と唐辛子を混ぜたものに浸し、針独活と木の芽を添えて。葛でとろみをつけた出汁は、二番出汁に、少しシンガポールらしい中華風のアレンジ、干し貝柱の出汁を混ぜて。

 

柔らかく脂ののった宮崎牛に、出汁の旨味を重ねる関東風のすき焼き、葛のとろみも上品です。

 

食事は季節のとうもろこしご飯。北海道産のとうもろこしを使い、ほんの少しバターを隠し味に使っています。自家製の漬物を添えて。

 

 

デザートはフルーツカクテルに、小豆餡、なんと梅と二番出汁のゼリー。

 

 

個人的は甘みと出汁は意外な組み合わせでしたが、どこか台湾の干し梅のような味で、同席したシンガポールの人たちには受け入れられているようでした。

 

出汁にこだわったこちらの7コースのメニューは180ドル、毎週土曜日の10:30〜は、出汁のテイスティングコース+4コースのランチも、118ドルで行なっているそうです(事前予約制)。

 

 

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■ 波心(なみ)
営業時間:ランチ 12:00~14:30(レストラン・テラス席とも)、ディナー 18:00~22:30(レストラン)〜24:00(テラス席)、無休
住所: 22 Orange Grove Rd, Singapore 258350 (24階)
電話: +65 6213 4398
アクセス:MRTオーチャード駅から徒歩15分ほど