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(新しいメニューは、こんな風に絵葉書風になっていて、最後にお土産でいただきました。ちなみに写真は幼い頃のLGシェフ)

 
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3週間前に新しいメニューをスタートさせた、ミシュラン一つ星のLG Han シェフのレストラン、Labyrinth に行ってきました!

 

以前使っていた日本食材の代わりに、シンガポール産やシンガポールにゆかりのある近隣の生産者によるローカル食材を80%使うようになったLGシェフ。

 

Tea egg with oolong tea

 

 

まずは、中国茶で煮た卵、茶葉蛋をアレンジした、烏龍茶でスモークしたうずらの卵。うずらの卵を沸騰した湯に1分20秒だけ入れてすぐ冷水で冷やし、殻を割ってから、氷で温度をコントロールしながら5分ほど烏龍茶でスモーク、その後スターアニス、シナモンやクローブを3時間ほど煮出した後に漉し、烏龍茶と醤油を加えたつけ汁を70〜80度に保ち、その中2〜3日漬け込みます。そのあと、二番煎じの烏龍茶を、液体になった卵黄に混ざるように注射器で入れ、サービスの前に三番煎じの烏龍茶を50度ほどに温めたものに入れてから提供するという、手の込んだもの。

とはいえ、食べるのは一瞬。スモークの香ばしい香り、卵黄にすっきりとした烏龍茶の味わいが混ざった一口のアミューズ。

 

 

 

"Nasi Lemak" Cheong Fun

 

 

腸粉でナシレマ(ココナッツミルクで炊いたご飯にフライドチキンなどを添えた定食)を再現したスナック。

米粉とタピオカ粉、レモングラスやパンダンリーフ、にんにくやシャロットを漬け込んだココナッツミルクで作った薄い腸粉を3分間蒸して、gula

jawaと呼ばれるパームシュガーで作った伝統的なチリソース、サンバル、72度で低温調理した放し飼いの卵の卵黄などの具を包み、パリパリの烏骨鶏の皮とイカンビリスと呼ばれる揚げた小魚を添えて。

「分厚い腸粉が好きじゃないから、薄さにこだわった」とLGシェフ。

 

 Brasied Baby Abalone

 

 

髪菜と呼ばれる海藻をタルト型にしてから乾燥させて、揚げたものに、小さな乾燥アワビを野菜の上湯で2日間じっくりと戻し、一度炭火で焼いたあと、自家製のオイスターソースを絡めて。

 

カリッとした磯の香りの髪菜に、やや甘めのオイスターソース、噛むと旨味が広がるアワビ。色々な海の旨味が重なります。

 

 

Heartland Waffle

 

 

シンガポールで人気の高いワッフル、スロージューサーで絞ったパンダンリーフのジュースをベースに作ったワッフル生地の間に、シンガポールのToh Thye Sanという農場産の鴨のレバーを使い、にんにくやシャロット、8年物の紹興酒、クリームと共に作ったフォワグラのような味わいの鴨のパテ、クコの実のジャムを挟んであります。サクッとしたワッフルにフォワグラとジャムという鉄板の組み合わせを、中国風にアレンジしたような印象のメニュー。紹興酒の香りが良いアクセントになっていました。

 

 

Ah Hua Kelong Lala Clams

 

 

シンガポールの魚の養殖場、Ah Huat Kelong産のハマグリを蒸して、身を取り出してセルクルの中に並べ、蒸し汁はタマリンドとカラギーナンに混ぜて、上からかけて、ゼリーのように固めます。サービス直前に70度にまで温め、タルト型に揚げたワンタンの皮、Nippon Koi 農場からやってきた中国種のほうれん草を炒めたものを敷いたところに乗せ、ドッグフェンネルを乗せます。

サイドには、こちらも自家製のXOソース。金華ハムを細かく刻んでオーブンで焼いて、粉にしたものに、Hae Beeと呼ばれる干しエビを100度で20分間蒸しあげ、細かい糸状になるまでフードプロセッサーにかけてから再度乾燥させ、もう一度ブレンダーにかけて粉末に。この、金華ハムと干しエビのパウダーをチリソースに混ぜて、スムースなXO醤を作ったものが添えてあります。

 

 

旨味たっぷりのハマグリにチリソースという組み合わせは、サンバル・ララと呼ばれるシンガポールのローカルフードですが、それを洗練させて提供しているような印象です。

 

Labyrinth Rojak

 

 

「ロジャック」と呼ばれるサラダのようなローカルフードには、中国風のものとインド風のものがありますが、こちらは中国風のものをアレンジしたメニュー。

ライチとバナナを混ぜたような味わいの、香り高いCempedak(コパラミツ)とジャックフルーツのソルベ、

様々なエディブルフラワーやハーブは、Edible Garden

Cityからのものが色々。ホワイトピーの花、インディアンボリジ、モリンガの花、沖縄種のほうれん草、トーチジンジャーの花などと共に。

 

ソースは、殺菌力が強いという、Stingless bee(オオハリナシミツバチ)という蜂のハチミツから。

 

 

蜂蜜そのものを試食させていただくと、発酵の酸味と、ダークソヤソースと呼ばれる甘口醤油を思わせるような複雑味があり、確かに、このままでもロジャックのソースにぴったり。

 

 

"Ang Moh" Chicken Rice

 

 

以前、LGシェフに日本米のイベントをお願いしたことがあったのですが、その時に作ってくれたメニューが定番に。唯一、今も日本産のものを使っているメニューです。石臼を使って挽いた米粉を使った皮に、72日育てた鶏肉、生姜とごま油のソースを入れたフィリングを詰めて、さらに鶏のの足や骨で作ったスープで煮たもの。下には、LGシェフの祖母のレシピだというチリソースが敷いてあります。サイドには、鶏の脂と米粉で作ったルーに、蒸してから炒めたマッシュルーム、confetti corianderと呼ばれるコリアンダーの葉が添えてあります。

 

 

Grandma's Fish Maw Soup

 

 

 

自家製のフィッシュケーキは、シンガポールのJurong Fisheryからのスズキの仲間のyellowtail snapperを使って石臼で挽き、小麦粉や卵白などの混ぜ物をしないで作った本格派。手でなんども叩きつけることで、しっかりとした粘りとテクスチャが出るそうです。ルーラードのように成形し、蒸してから冷凍し、薄くスライスして使います。

 

 

スープの部分は、皮を取り除いた烏骨鶏をニンニクやショウガ、ネギなどと共に4時間煮込んで一晩おき、脂の層を取り除いてから卵白で清澄し、そのスープの中でバラマンディとナマズの浮き袋を煮ます。ナマズの浮き袋は、そのままスープとともにブレンドし、バラマンディの浮き袋は細かく切って、花のように並べたフィッシュケーキの中央に隠します。浮き袋の一部は乾燥させて、クラッカーのように揚げて、パプリカと塩を混ぜたシーズニングをたっぷりかけて、スナックのようにいただきます。

 

Local Wild Caught Crab

 

 

ずっとLGシェフのシグネチャーだったチリクラブ、より繊細な表情になって再登場しました。

シンガポール産のフラワークラブは蒸してから殻から外し、下には定番のチリクラブアイスクリームが。低温で焼いた卵白を麺に見立てたもの、上にはikan kurau(Threadfin)と呼ばれる干し魚を揚げて粉にし、乾燥させたものをかけてあります。紹興酒と鶏の脂肪のエマルジョンを添えて。

 

 

Nippon Koi Farm Silver Perch

 

 

シンガポールのNippon Koi Farmからのスズキの仲間、シルバーパーチは切り身にしてから金華ハムで3時間マリネして、中国料理の手法で油をかけながら焼いてあります。黒にんにくのピュレを敷き、マリーゴールドのような独特の苦味と芳香のあるコスモスの仲間、ulam rajahの花、油条をイメージした揚げた生地を添えて。少し苦味のあるスープは、マレーシア風のバクテーをイメージしたもの。魚の骨からとったスープに、16年物の陳皮、醤油にイカンビリスとローカルの海ぶどうを漬け込んだ出汁醤油を加えて。Brazilian spinachという種類のローカルの青菜とアイスプラント、魚の脂を天かすのように仕上げたものを乗せて。

 

 

 

Uncle William's Quail

 

 

肉のメインディッシュはうずら。

昔ながらの石のすり鉢ですりつぶしたというサテ用のスパイスミックス(rempah)をうずらの足にのせ、胸肉にはスパイスミックスを皮の下に挟み込んで、どちらも1日マリネしてあります。足は炭火焼きに、胸肉は62度という低温のオーブンで30分ローストしてあります。

 

サテにはライスケーキが欠かせないですが、その代わりにシンガポールでは軽食やおやつとして食べられる、ピーナッツをまぶした柔らかい餅、muah cheeやキュウリのピクルス、マリーゴルドの葉とマスタードの芽を添え、小さな玉ねぎとエスプーマ仕立てのサテソースをかけて仕上げてあります。

 

 "Lost Grain" Fried Rice 

 

 

タイで長年忘れ去られていた、Hom Maliという品種の米を再度栽培し始めたといいう人から購入し、粘りを取るために11回洗ってから、自家製のチキンストックにイカンビリスと干しエビ、海ぶどうを入れて作ったスープで蒸しあげたものを、一晩冷蔵庫に入れて少し乾燥させ手から、放し飼いの鶏の卵と、干し貝柱、カリカリのじゃこを入れたチャーハンに。

 

ここからがデザート。Bean to Bar

 

シンガポールでも注目を集めている、シングルオリジンのチョコレート。Fossaというシンガポールのチョコレートブランドが、ハイチ産の豆で作っている70%ダークチョコレートを使い、廣和興のダークソヤソースと混ぜたソルベ、8年ものの紹興酒を、室温でも濃度をつけることができる、コーンスターチを改良したジェルを添えたもの。カカオニブと酸味のあるオキザリスの葉を散らして。

 

Oyster Plant Snow

 

 

ハイビスカスの実、ロゼラの抽出液に、粉末卵白を混ぜて一晩おき、あわ立ててからディハイドレーターに入れることでふんわりとしたメレンゲの下には、伝統的に飲み物として楽しまれてきた、赤紫色の尖った葉の植物、オイスタープラントをシロップで煮出したものを、液体窒素でグラニテに仕上げてあります。

 

 

ブドウのエスプーマと、ピンクのドラゴンフルーツ、ザクロの実とスライスしたブドウを下に忍ばせてあります。

 

Soy Bean Curd

 

 

シンガポールでは、豆花と呼ばれて親しまれているヘルシーなデザートを、洋の味わい、山羊のヨーグルトと共に仕上げて。シンガポールの友人に聞くと、子供の頃遠足で出かけた、という人も少なくない、山羊のファーム、HayDiariesから届いた山羊のミルクにケフィアを加えて一晩置いたヨーグルトと、水に漬けた大豆を石臼で挽くところから作った自家製豆花の上にブラウンシュガーをふりかけて表面をバーナーで焦がしてキャラメリゼさせます。

グラマラカのシロップを加えたタピオカ、シロップで煮たツバメの巣を飾って。

 

Cristal de chine Caviar

 

 

キャビアのコクを卵黄のコクと重ね合わせた料理はいくつかあるように思いますが、こちらはカヤトーストとアイスクリームサンドイッチの再解釈、グラジャワというパームシュガーと、フレッシュなココナッツクリーム、パンダンリーフ、放し飼い卵で作ったカヤアイスクリームをパンで挟んで、街角で今も売られているアイスクリームサンドイッチに。パンも、昔ながらのシンガポールのパン屋、Sin Hon Loongのパンに砂糖を振って、ココナッツの殻で作った炭で焼き上げてあります。今はだいぶ数が少なくなりましたが、カヤトーストは伝統的に炭火で焼いていたという伝統から。卵黄に、ライトソヤソースと呼ばれる甘くない中国醤油、青いバタフライピーの花とハイビスカスの葉を添えて。

 

 

「小さなレストランだからこそ、小規模な生産者と取引したい。供給は安定しないけれども、だからこそ、その時の季節にあった料理を作っていく」と語るLGシェフ、クリエイティビティ優先から、季節に従った味の表現へ、という変化は、多くの地域で今起きていることのように思います。

 

「今も一番大切なのは旨味の表現」というLGシェフですが、アジアの味に舵を切ったばかりの去年と比べて、旨味を重ねすぎず、上品な表現になった印象で、味わいのバランスや、テクニックの精密さ、完成度も上がったように思います。

 

小さなポーションに、シンガポール伝統の味わいと、たくさんの想いを詰め込んだ、そんなレストランです。

 

 

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Restaurant Labyrinth

営業時間:ランチ 12:00~14:30(火~金曜)、

     プレ・シアターメニュー 17:30~(18:20 L.O. 、木~土曜)

     ディナー 18:30~22:30(火~日曜)

住所:Esplanade Mall 8 Raffles Avenue #02-23 Singapore 039802

電話: +65 6223 4098

アクセス:MRTエスプラネード駅から徒歩10分ほど

 

(ジャンルはプラナカン料理に分類されていますが、厳密にいうとプラナカンというより、シンガポール料理です。)