Kirk Westawayシェフのレストラン、Jaanの春のメニューをいただきにお邪魔しました。Kirkシェフがここ2年ほどテーマにしているのが、Simple yet Complex、シンプルでありながら複雑な料理。主役の素材の良さを大切にしながらも、細かい要素構成を加えて作り上げてある料理。同じ食材を様々な調理法で料理する、同じ食材の部分ごとの違いを感じてもらう。今回再訪してみて、改めてそのテーマが明確になってきたように思います。

 

 

KrugAmbassadeでもあるKirkシェフ、Krugの163エディションのグランキュヴェと共に。しっかりとしたドライフルーツやナッツの香り、ほんのりスモーキーな印象も感じられます。

 

 

 

 

Devonshire cheddar cheese & buckwheat pancake

Kirkシェフの実家から5マイルほどしか離れていないという場所で作られているチェダーチーズが入っています。

 

 

Cod mouse, game chip

本来、イギリスで食べられているのは、狩猟で獲った肉(ゲームミート)を、ジャガイモのチップに乗せたゲームチップ。

 

 

それを、肉の代わりに鱈とジャガイモのピュレでアレンジ。鱈は塩水に漬けて、60度で20分加熱したあとマッシュポテトと混ぜて、なめらかなピュレにして。これまでフィッシュアンドチップスをテーマにしたアミューズを作ってきたKirkシェフ、このジャガイモと鱈の組み合わせもその辺りを狙っているよう。素揚げしたケイパーを乗せて。少しキャラメリゼしてビターな感じが出はじめるギリギリのところまで火が入っていたのもよかったです。

 

Tapioca chips, cumin humus

 

 

フラックスシードを入れたタピオカの軽いチップに、ヨーグルトとクミンのソース、フムス、オリーブオイルで作ったキャビア、レモンコンフィ。フムスの味わいを要素分解して再構築したような印象。

 

Foie gras & truffle macaron

 

 

トリュフとフォワグラのマカロン。以前のようにねっちりした感じではなく、少しサクッとした軽い感じに変わっていました。

 

 

Charlotte potato, truffle bouillon

 

 

定番になりつつある温かいスープ。Kirkシェフ自らデザインしたボウルは、ちょうど両手の掌にぴったり収まるサイズを考えて作ったのだとか。イギリスでよく食べられているCharlotteという品種のジャガイモのフォームに、トリュフのブイヨンを注いで。

 

 

マカデミアナッツを入れて。トリュフのブイヨンをより濃厚なものに変更したとのことですが、以前よりもクリームが控えめに、全体的に油分が軽やかになった印象でした。

 

自家製のサワードゥブレッドは、周りがカリッとして中がしっとり。有塩と海藻入りのボルディエのバターと合わせて。

 

 

ここからがコースのスタート。丁寧に、愛情を持って育てられた食材を、メニュー名もよりシンプルに、メインとなるヨーロッパの食材を主役にしているのがよくわかります。

 

コース最初の皿に合わせるのは、柔らかい乳酸発酵の香りがありますが、味わいはきりりとした酸味のある、オーストリア産のグリューナーのワイン。

 

 

Majestic Oyster

 

 

アイルランドの北西部産のオイスター。きゅうりのフォームとの組み合わせのせいか、海水の塩味はあまり強くなく、穏やかでクリーミーな印象。とはいえ、しっかり余韻が長く、楽しめます。瓶に入っているのは、酸味を加えるポメロとチャイブ。自分でフォークでフォームの上に乗せて。

 

 

フォームに隠れているのはポン酢のゼリーと日本の出汁のゼリー、そして、見えないところなのに、技ありの薄くスライスして巻き上げたきゅうりが隠れているのも、嬉しい驚き。

 

 

ファインダイニングらしいこういった所の手の掛け方も、個人的に、楽しめるポイントの一つ。

 

 

Pertuis Asparagus

 

 

フランス南西部で育てられている、上質なPertuisアスパラガス、中でも最も大きい26サイズのものと、ラングスティーヌという王道の組み合わせ。

その大ぶりのアスパラガスに、イクラ、明太子、赤いキャビアライム、低温調理した卵黄のピュレと、様々なドットを乗せて。プチプチ、クリーミー、大きさもテクスチャも味わいも異なるドットが楽しいです。トリムした皮などの部分も無駄なくピュレにして添えられていて、この部分にも水玉が。ほっくりとした穂先と根元のみずみずしさの対比も楽しめます。サワードゥのクランブルを添えて。

ラングスティーヌはフライパンでミディアムレアにふんわりと仕上げられ、ボルディエの海藻バターを塗ってから、上には細かくしたレモンのコンフィを散らして。

 

ペアリングは日本酒。確かに、明太子などとワインを合わせると、合わせ方によっては臭みや苦味が出てきてしまうところ。甘い香りの優しい日本酒は、魚卵系との相性が特に良いように思いました。

 

 

Eggs in an egg…

 

 

ニュージーランド産のオーガニックの卵を使った一皿は、卵の器に入って。下にはカリフラワーのピュレ、マッシュルームのピクルス、ローズマリーのスモークを閉じ込めて。65度で1時間加熱した卵黄の上には、KaviariのKristalキャビアが。動物性の濃厚なクリーミーさとスモーキーさを重ねるのは、シンガポールで人気の組み合わせ。マッシュルームがすっきりと、そしてサイドに添えられたパルメザンチーズを削りかけたブリオッシュと、ペアリングの、クリームやコンテチーズのようなニュアンスのある、ジュラの黄ワインがよく合います。

 

 

 

以前と違っているのは、茹でたカリフラワーのスライスを入れて、よりその香りが楽しめ、素材そのものの味わいを楽しめるように。「卵黄のデリケートでリッチな味わいを、ホッとする味わいで支える意味もある」とKirkシェフ。

 

 

 

Scottish scallop

 

 

特に気に入ったのは、52度で10分間だけ調理したスコットランド産の帆立貝。ベルベットのような優しい食感でありながらも、クタクタになっておらず、ちゃんと食感が残っているのが嬉しいところ。そこに、鶏のジュを塗ってから、上質なヘーゼルナッツとエイジングしたバルサミコ酢で作ったソースをかけて。ほんの少しのソースですが、しっかりと味わいのあるソース。

さらに、チェスナッツマッシュルームを自家製のパスタ生地で包み、上にパルメザンチーズとニンニクのクラストを乗せて、カリッと仕上げたカネロニ、セップ茸のオランデーズソースを添えて。

 

ソムリエのCelineさんが選んだペアリングは、「シャルドネを合わせるのが定番ですが、あえてすっきりした組み合わせをお勧めします」とルイナートのロゼ。

 

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鶏ののジュのコクやマッシュルームの大地の香り、そしてパルメザンの旨味などの要素と、軽やかなロゼのベリーのニュアンス、ほのかな乳酸の香りがあっていたように思います。

 

 

Iberico Pork

 

 

イベリコ豚のもも肉は60度で45分低温調理して、オーガニックのマスタードを使った端肉などを使ったソースをかけていただきます。黒にんにくのピュレ、少しラッキョウのような見た目の、甘みのあるグレーシャロット、日本のイカ、茶色になるまで炒めた玉ねぎの甘いペーストを添えて。下に敷かれたのは、salsify と呼ばれる、西洋ごぼう。菊芋のような少し甘い香りが印象的なピュレでした。

 

以前のラム肉と同じように、端肉を無駄なく使ったコロッケ、バラ肉と自家製のパンチェッタをキャベツ包みにするなど、同じ仲間の味わいの様々な表情を、丁寧に引き出します。

 

家族経営の小さな農場から届いたイベリコ豚を使っているのは、味はもちろん、これを使うことで小規模な生産者を支えたいという思いから。

 

そして、面白かったのは、昆布出汁とイベリコ豚の端肉や骨を使ったスープを、小さなグラスに入れて、ペアリングのようにサーブされたこと。

 

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スープの味わいと香りをを際立たせるために、縦長のウィスキーグラスを使うことも考えているとか。

グラスに入ることで、しっかりと香りが感じられ、海と山の旨味がしっかりと詰まったスープでした。

 

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ペアリングは、南アフリカ・ステレンボシュの赤ワイン。ピノ・ノワールに似た味わいですが、ややフルーツの凝縮感が強く、野生的な印象。ピノタージュという、ピノ・ノワールとサンソーの交配種だとか。

豚肉にあう、程よいボリューム感と、上品で奥行きのある香りでした。

 

 

 

Amalfi Lemon

 

カルダモンのエスプーマ、アマルフィレモンのソルベ、下にはオレンジの果肉が添えられています。

 

 

Conference Pear

 

 

シロップで煮たカンファレンスペアと呼ばれるヨーロッパの洋梨。煮込んでも煮崩れせず、程よいテクスチャーが残ることから選んだのだとか。

 

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ブラウンバターのアイスクリームにキャラメルクリームを飾ったものと、アールグレイミルクティーをキャラメリゼするまでゆっくりと4時間かけて煮詰めたもの。洋梨のジェルや少しキャラメリゼさせたコンポートなどを添えて。

 

洋梨の香りとシンクロする、セミヨンとソーヴィニョンブランで作った、ペトロールのような印象のあるソーテルヌ、Chateau Rieussecのセカンドワインを合わせて。

 

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小菓子も新しく。

 

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金柑のコンポートの入った、ややしっかりとしたシュー、

 

酸味のあるパイナップルのピュレの下に、パイナップルのチーズケーキ、そしてタルト生地。

 

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故郷Devonの味を小さな一口サイズで表現したクロテッドクリームを挟んだクッキー。

 

 

 

コーンフレーク入りのチョコレートでコーヒーのアイスクリームをコーティングしたものと、リキッド状のキャラメルを詰め込んだチョコレートのシェルにアーモンドをまとわせて。

 

 

 

以前よりも素材の食感を残した印象があり、食材そのものの味をより感じてもらいたいというKirkシェフの思いから。メイン食材の名前を冠し、それ以外は脇役、という構成は、よりシンプルに、明確になった印象。去年6月にコラボレーションを行った際、Umberto Bombanaシェフに感じたような、シンプルさをしっかりと伝える、というコンセプトに絞り込んで来たのは、Kirkシェフの自信の現れのようにも思います。

 

出身地のDevonのチーズを使ったり、地域の旗のデコレーションなど、よりKirkシェフの地元の味にフォーカスしたメニュー構成になったJaan。

 

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新しくスーシェフとしてチームに加わったのは、日本人でオーストラリア育ちの佐藤清シェフ(私の右隣)。これからのJaanがどんな風に進化していくのかも注目です。

 

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Jaan (ジャーン)
営業時間:ランチ 12:00~13:45(L.O)、ディナー 19:00~21:45(L.O)、無休
住所:Level 70, Equinox Complex Swissôtel The Stamford, 2 Stamford Road, Singapore 178882
電話: +65 6837 3322
アクセス:MRTシティーホール駅直結

https://www.jaan.com.sg/