香港の三つ星レストラン、Bo Innovation のAlvin Leung シェフが、5月3日に満を持してオープンしたシンガポール初のレストラン、Forbidden Duck。一号店が香港に4ヶ月前にオープンし、こちらはその支店という形。
90パーセントのメニューは香港と同じ、10%はシンガポールの料理や手に入る食材からインスピレーションを受けたもの、ということです。
この他にも、スペイン料理などの店も持っていますが、カナダ育ちの広東人であるAlvinシェフにとって「ソウルフード」とも言える唯一の中国料理の店、なぜ手頃な価格帯にしたかをお聞きすると、「Bo Innovationのような、ドレスアップして食べるレストランに来る人たちは人口の1%くらい。もっと多くの人に、気軽に親しんでもらえるレストランにしたかった。とは言っても、安かろう悪かろうではなく、自分の基準にのっとったもの。食材がよく、テクニックも正しくないといけないし、本物の味がしないといけない。食べる人の基準を上げていくような料理を作っていく」とのこと。
鴨がテーマで、食材にも鴨を多く使っています。
シグネチャーを北京ダックにした理由は、カナダに住んでいた子供の頃から北京ダックが大好きで、まさに故郷の味だと感じていたことから。
香港店のオープンと同時期に話があってオープンしたというシンガポール店、インテリアにもそこここに鴨がいるのですが、中国茶用のカップもこんなユニークな絵柄。世界に広くレストランを展開しているAlvinシェフですが、中国料理の店は、今のところ、この2店のみです。
シンガポールでも、北京ダックは人気の食べ物。そんなこともあり、鴨を主役に据えたこの「Forbidden Duck」のシンガポールでの勝算はあると考えているそう。
今回は、Alvinシェフと共に食卓を囲み、本来はランチタイムのみの提供の点心を含めたスペシャルコースでいただきました。
Crispy Taro Pastry Stuffed with Duck and Preserved Vegetable
点心はタロ芋を使ってカダイフで巻いたコロッケ。中に、塩漬けにした野菜が入っていて、シャキシャキした食感がねっちりとしたタロ芋のフィリングとの良いコントラスト。
Pesto Duck Spring Roll
鴨を使った春巻き。本来は豚肉と筍、というところを鴨に置き換え、ペストソースを使ったのは、さっぱりとした後味を出したい、ということから。
「広東料理のユニークな点は点心。海老の水晶餃子やシュウマイなど、香港のスタイルを押し出した形でやります。シンガポールにもたくさん中国料理はあるけれども、同じようにやっても仕方ない。差別化するためにも、香港のそのままの味を考えています」
Bo Innovationも、最近ではモレキュラーはやっていないそう。「クラッシックな味わいを一捻りした料理」を提供していて、いつもとは一味違う、美味しい料理がコンセプト。
ここからがアラカルトのメニュー、Alvinシェフが他のレストランに行くと必ずチェックするというチャーシュー。
Iberico Pork Char Siu
香港で使っている豚肉が入らないため、こちらではイベリコ豚を使っているそう。美味しいチャーチューを作るのには、豚肉の質とマリネの味がとても重要。甘くなりすぎないように、また汁をたっぷりかけなくてもしっとりしているのが美味しいチャーシュ、と語ります。
チャーシューは脂の入り具合がほどよく、脂身と赤身のバランスも良かったです。
Marinated Duck Tongue and Jellyfish with Sichuan Green Sauce
小皿は、中国のクラゲを緑のタマネギや緑の四川山椒で作ったグリーンのソースで和えて。緑の山椒の清涼感が見事。上には、アヒルの舌を。中に軟骨がありますが、それもそのままいただきます。
そして、シグネチャーのローストダック。
Signature Slow Roasted Duck
薄く切りすぎると、ジューシーさがなくなってしまうと、厚みを限定。西洋式のオーブンで低温から高温へと、4つの温度帯でじっくりと温度を上げて焼き上げています。
クリスピーな皮、そしてその下の脂肪のジューシーさ。そのまま砂糖をつけて食べてもいいし、カラマンシーを入れた黄色いパオで、千切りのネギやきゅうりと共に挟んで、カラマンシーの甘いソースでいただきます。
シンガポールのようにカラマンシーが手軽に入らないため、ソースに入れる柑橘は、香港ではオレンジで代用しているとか。カラマンシーは、オレンジのような果実感と共に、半分ポメロやレモンのような酸味があって、甘すぎずに気に入っているそう。
そして、北京ダックを頼むと、肉の部分で作ったレタス巻きやチャーハンなどを提供されることが多いもの。そんなレタス巻きを、シンガポールならではのラクサの味付けでアレンジしたもの。
Duck in Two Ways - Laksa Style
鴨肉を使いながらも、しっかりとココナッツミルクの効いたラクサの味。
上からラクサリーフのパウダーをかけて。
Golden Cereal Prawn
もう一つも、シンガポール料理からのアイデア。シリアルプラウンと呼ばれる、砕いたコーンフレークなどを衣にした海老の揚げ物なのですが、これを、ソルテッドエッグヨークと呼ばれる塩漬け卵黄を粉にしたものをまぶして揚げて、イチゴやマンゴーなどの果物を、わさびマヨネーズで和えたフルーツサラダを添えて。
Sweet & Sour Pork with Lychee, Rose and Hawthorn
中国料理の定番とも言える酢豚は、ライチを入れて、最後にサンザシとバラの香りのスプレーをかけて。このあたりの演出は、大皿にたっぷりと出てくる料理とはいえ、Bo Innovationでモダンな料理を提供しているAlvinシェフらしい料理。ライチの実の甘みに、バラの甘い香りがよく合います。肉は一度低温調理してあるのか、とても柔らか。
Sri Lanka Crab in White Pepper Broth
こちらもシンガポールオリジナルメニュー、シンガポールのローカルフード、肉骨茶と、ペッパークラブの味を融合させたような、スリランカ産のカニの鍋。かなりはっきりと効かせた白胡椒の辛味で、蟹の肉が余計に甘く感じられます。スープには、本来おかゆや豆乳などに入れる揚げパン、油条を入れて。
Steamed Chicken with Mui Choy in Lotus Leaf
Alvinシェフの奥様が客家の家系ということで、客家の定番料理、ハスの葉に包んだ鶏肉と、Mu Choyと呼ばれる高菜炒めのような漬物を、せいろで蒸しあげて。
Seafood Rice in Aromatic Duck Soup
そして、シグネチャーのローストダックと同じくらい私が気に入ったのが、この鴨の骨を煮出した出汁で作ったご飯の入ったスープに、カリカリに揚げたお米を入れて、まるでおこげのような味わいに仕上げてあります。
揚げ油の旨味と香ばしさ、貝柱などの魚介類と、ローストした鴨の肉が入っていて、「これを食べるためになんども店にやってくる」というリピーターのお客さんもいるほどだとか。
Giant Egg Tart
デザートは、エッグタルト。香港のエッグタルトは、マカオのものと違い、ココナッツミルクを使わない、英国発祥のものなのだとか。ラードを使った中華のパイ生地で、その下のところにとろりとしたゆずのジェルが隠れているのがさりげないひねり。
縦に長いので、甘さ控えめの卵のカスタードの味を思う存分楽しめます。
今の時代に合った、「シンプルで上質な味」、伝統的な味わいにひねりを加えて、気軽な価格で食べられる中国料理。それだけでなく、そこここに見える、味わいにアクセントを加えるアレンジも楽しめるのも魅力です。
オープンしたてとあって、今は平日のみの営業、母の日の13日はオープン、そして19日〜は無休で営業予定です。
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■Forbidden Duck
営業時間:ランチ 11:00~15:00、ディナー 18:00~22:00(無休、週末のオープンは2018年5月19日〜)
住所:8A Marina Boulevard, #02-02 Marina Bay Link Mall, Singapore 018984
電話: +65 6509 8767