シンガポール・オーチャードにある「鮨 来村」。ご主人の木村共男さんは、扱う食材全ての生産者の方に会うなど、素材からこだわった寿司を作っています。
店内はいたってシンプル、茶の湯にも興味があるというというだけあって、器にもシンプルな美しさが感じられます。
うるいと水菜にホタルイカを黄身醤油で和えて。
ホタルイカの濃厚な味噌のコクが、ちょうど黄身醤油のまろやかさと重なります。ほんのりとゆずを効かせて。
そして、最近木村さんが取引を始めたのが、神奈川県のこだわりの漁師、「さかな人」の長谷川大樹さん、こちらはそんな長谷川さん直送のたこ。
ほんのり温かく仕上げた佐島のタコは、筋肉質で、香ばしい海老のような香り、甲殻類の旨味が詰まっています。
香りを保つために、塩を使わずにじっくりと時間をかけてもんで、20分ほどゆでてあります。塩とわさびだけでいただきます。
続いては、
北海道産の1kg の毛蟹とホワイトアスパラガス。
みりんと薄口醤油を少し入れた茶碗蒸しに、生のホワイトアスパラガスを入れて、自然な甘みを引き出します。仕上げに蒸した毛蟹、三杯酢にすりおろした玉ねぎを入れた甘酸っぱいソースと共に。
柔らかい食感の穂先、シャキシャキしていてコーンのような甘みのある根元の対比も楽しめます。
刺身は、滑らかなボタンエビ、回遊しない根付きの鹿児島の5kgのカツオは、ほのかな酸味とすっきりとした味わい。キメの細かい油のキンメは6日間寝かせたあと、同じく長谷川さんから届いたクロモジの枝で炙って。クロモジは、どこか白檀を思わせるような懐かしい香り。
フルーツトマトで甘みと酸味をプラス、水ナスが口の中をさっぱりとさせてくれます。
皮目が香ばしく仕上がったキンメ。
同じく、長谷川さんの伊豆カサゴ。フグのようにすっきりとした味わいの白身、皮だけを巻きつけて同じくクロモジの枝を使って炙って。
ポン酢の酸味で、あっさりとした白身の中にあるほのかな甘みを引き立たせて。
皮目には、海老のような香ばしい味わいがあります。
ここで、鹿児島産の黒アワビと長谷川さんが山から採集してきた、天然の椎茸。アワビはたっぷりの酒で酒蒸しに。途中から椎茸を加えて。「アワビの旨味に勝てる椎茸というのはなかなかない」と木村さん。確かに、まるで椎茸の出汁でアワビを炊いて、アワビの出汁で椎茸を炊いているような。
サイドには肝のソース。肝の香りと、椎茸の森の香りがよく合います。
真ん中の貝柱の旨味がはっきりとしていて、まるで肉を食べているような、食べ応えのある食感。
水ダコの卵。
いくらより皮が薄くてぜラチン質で、プチプチのゼリーのように、中の液体がはじけます。ほんの少し生臭みがありますが、それはスダチでカバー。
続いては、アイナメの煮魚を花山椒で仕上げて。
ふわふわの淡白な肉質のアイナメは、あっさり目の醤油とみりんで上品に仕上げて。
甘い福岡の筍と、花山椒の相性は抜群。ほっくりと甘く、ほのかに苦味のあるそら豆を添えて。
少し口の中の水分が奪われたところに、白菜と京揚げの煮付けをスープがわりに。
名残のノレソレ。
酸が強めのポン酢につけて。高級なトコロテンのような、とろりとした食感とほのかな苦味、噛んでいるうちにほんのりとした旨味を感じます。
一週間寝かせたという鯛。筋肉質で、コリコリとした感じも少し残っています。乳酸の香りのあるオーガニックの寿司酢が、味のボリュームを一段あげてくれます。
続いては、長谷川さんが神経〆した黒ムツ。こちらも一週間寝かせたもので、魚のバターと言いたくなるくらいトロトロ。先ほどの鯛と、好対照の濃厚な味わいです。
金目鯛。刺身では背側でしたが、こちらは腹側。脂の乗りは黒ムツとさほど変わりませんが、香りが一段甘くなった印象。香ばしいブリオッシュやトースト、キャラメルのようなニュアンスを感じる脂です。
ニュージーランド産の中トロ。きめ細かくクリーミーな味わいで、香りはさほど強くありません。
「今の時期は、大間をすぎて、産卵を終えたくらいのマグロが、ちょうどニュージーランドにやってくるのです」と木村さん。
このあとは、沖縄、壱岐、そこからまた、日本海側、太平洋側に分かれて北上していくのだとか。
鹿児島、出水の釣りの鯵。しっとりと滑らかできめ細かく。鯵の脂と相性の良いネギを添えて。
大トロをの上を炭で炙ったもの。オーガニックの赤酢の、乳酸の香りがしっかりある木村さんの酢飯は、個人的には、こういったバターやクリームを思わせる脂の乗ったものと、特に相性が良いように感じます。
長谷川さんのえぼ鯛。コハダはシンガポールの人に好まれないため、代わりにえぼ鯛をコハダと同じように〆てから寝かせてあります。昆布締めの旨味、酸味と塩気であっさりといただきます。
季節の味、春子(かすご)鯛。すだちと塩で。桜の花にも例えられる色合いと繊細な柔らかい身は、上品な味わい。
そして、最後は塩屋の最高級の海苔と、ウニといくらの小さな丼。
北海道のバフンウニと、いくら、温泉卵を混ぜてあります。
卵は、芝海老ではなく、なんと贅沢に白えびを練りこんだもの。「だって、その方が美味しいから」と木村さん。
黄身と白えび、大和芋、みりんと醤油だけでできています。
砂糖を入れると簡単に、ふっくらと仕上がるものの、砂糖を入れないのもこだわりの一つ。
味噌汁は、鳥取産のヤマトシジミを使って。
デザートは、ミルクと桜の葉を煮込んで香りを移したミルクゼリーの最中。
香ばしい最中の皮の中に、柔らかいミルクゼリーを詰めて。
蓮の葉の下にあった柑橘は愛媛の美生柑、いちごは、こだわりの農家、北海道の斎藤さんという農家の方が作る「銀龍」という品種。果肉の一番外側のそうに、抗酸化作用のあるビタミン群が集まりやすいものを選んで掛け合わせたという貴重な品種。香りも、甘みと酸味のバランスもよかったです。
食材へのこだわりが生み出す、シンプルな上質さ、寿司は考えてみればシンプルな料理。季節を変えて、ぜひ訪れたいお店です。
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■鮨来村(すしきむら)
営業時間:ランチ 12:00~13:30(最終入店)、ディナー 19:00~20:30(最終入店)、月曜休
住所:390 Orchard Road, #01-07 Palais Renaissance Singapore 238871
電話: +65 67343520
アクセス:MRTオーチャード駅徒歩5分