兵庫県芦屋のミシュラン二つ星の「京料理たか木」。ご主人の髙木一雄さんは、流暢な英語を駆使して、世界各地でコラボレーションを行なっているほか、上海に支店を出し、台北のMandarin Oriental ホテルで料理の監修を行うなど、幅広く活躍しています。

 

今回はシンガポールのShangri-laホテルの日本料理、「波心」で、秋葉重雄料理長と共に一夜だけのスペシャルディナーを行いました。

 

シンガポールには、以前もポップアップイベントなどで何度も料理をしているものの、コラボレーションは初めてなのだとか。

 

 

Appetiser by Chefs Kazuo Takagi & Shigeo Akiba

 

 

前菜は、左側が髙木さん、右側が秋葉さんの手によるものです。

まずは髙木さん。

 

「京料理たか木」では、日本の節句に基づき、月ごとにメニューが変わるということで、もうすぐ迎える5月の節句から、丁寧に笹の葉で巻き上げたちまきを。やや甘めのもっちりとした酢飯に、ほぐした鰻が混ぜ込まれ、木の芽の甘い香りが効いています。

 

 

下には7種の味を盛り合わせた串が2本。

上の段は、出汁のゼリー寄せにした鯛の卵とグリーンアスパラガス、蒸したヤム芋には、赤味噌のような味わいの、シンガポールのブアクルアのピュレを乗せて。味噌に漬け込んだ卵黄、ねっちりとした百合根団子の中にはフォワグラ。

酸味のアクセントに、セミドライトマトを散らして。

 

低温調理した鮭に卵黄と醤油のフォーム、塩麹につけたきゅうり、蒸しアワビ。

 

右側の秋葉さんは、コチュジャンクリームに合わせたホタルイカに、甘く煮たソラマメ、ワカメのゼリー寄せ。味噌でマリネした鮭で、クリームチーズを包み、いくらを乗せたもの。

 

Soft Roe Tofu with Seaweed Sauce, Wasabi, Leek

 

 

クリーミーでふわふわの白子豆腐は揚げ出しにして、醤油を入れた生海苔の出汁は、ちょうど海苔の佃煮のような甘辛バランス。生姜をひとつまみ乗せて。

 

Soup by Chef Kazuo Takagi

 

SturiaのVintageキャビアを使ったスープ。日本でも、キャビアをよく使うという高木さん。「茶の湯と関わりの深い京懐石ですが、茶の湯は元々は楽しむためのものだった。あの時代の人たちが今生きていたら、どんな料理を作るか。今の時代に手に入るもので、料理を作るだろう。そう思って、私はキャビアやフォワグラも使います」キャビアは、まろやかな塩分の要素として使っているということです。

キャビアの味わいに負けない、濃厚な味わいのマグロ節と昆布でしっかりと煮出した出汁、空豆、筍に、ブルーオマールを。筍と相性の良い山椒の葉をたっぷり使い、香り高く仕上げています。

 

ペアリングは、麹の甘い香りがしっかりとある辛口の銀嶺月山の純米酒を。

 

 

Sashimi by Chef Shigeo Akiba

 

 

酢漬けの梅を使いかつおだしを効かせた梅酢のゼリーに、とり貝やホタテなどの貝類を入れて。

 

鯛とマグロの刺身は角切りに、醤油は濃口醤油に昆布や鰹、みりんを加えた土佐醤油を作り、桜のチップでスモークしたものを添えて。少しシンガポールの甘口醤油、ダークソヤソースを思わせる味わい。

 

 

日本酒は九平次。微発泡でグレープフルーツのようなスッキリとした酸味とほのかな苦味が後味に残ります。

 

Simmered by Chef Kazuo Takagi & Shigeo Akiba

 

 

コラボレーションの一皿は、金目鯛と筍の煮つけ。干し貝柱と春らしいあさりの出汁、苦味が旨味の後味になって帰ってくるコゴミを添えて。

 

Grilled by Chef Kazuo Takagi

 

宮崎和牛のテンダーロインは、58度で低温調理してからグリル、驚くほど柔らかく、噛むと優しい脂が染み出してきます。あとでお聞きしたら、実はシャトーブリアンの部分だったとか。フランスのワイルドアスパラガス、緑の味わいが重なるグリーンピース。その下には木の芽味噌を塗ったフォワグラに、水気を与えるかぶ、スッキリとした香気のたっぷりの木の芽を添えて。

 

穏やかながらも脂の乗った牛肉、そしてしっかりとした甘辛味のフォワグラには、シラーズを合わせて。

 

Last Course by Chef Shigeo Akiba

 

 

四万十川の天然ウナギとご飯。出汁には少しお茶が入っていて、ほのかな苦味でさっぱりといただけます。

 

Dessert by Chef Kazuo Takagi

 

 

フランス料理のような盛り付けと素材使いが印象的なデザート。酒粕のピュレとラズベリーのソルベ、生のラズベリーとさくらんぼ、ラズベリーのメレンゲを添えて。クレームダンジュのフレッシュチーズを酒粕に置き換えたようなコンビネーション。

 

 

茶の湯の精神に基づき、手間をかけた節句ごとの京料理の味わいを伝える高木さんは、自由で現代的な素材使いが印象的でした。秋葉さんは調味料にこだわり、刺身の醤油をシンガポールの好みに合わせて手作りするなど、それぞれのアプローチで、今の日本料理の表現を考えていらっしゃるのがとても興味深かったです。

 

 

ユネスコの無形文化遺産にも登録された和食。その特徴は、多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、健康的な食生活を支える栄養バランス、自然の美しさや季節の移ろいの表現、正月などの年中行事との密接な関わりの4つとされています。海外の日本料理店のみならず、今は世界から日本にお客様がいらっしゃる時代。それぞれの解釈で、どう日本料理を表現していくのか、それがさらに問われているような気がします。

 

<DATA>

■4-Hands Dinner Menu by Kazuo Takagi X Shigeo Akiba 

日時:2017年4月27日(金)19:00〜(終了)


波心(なみ)
営業時間:ランチ 12:00~14:30(レストラン・テラス席とも)、ディナー 18:00~22:30(レストラン)〜24:00(テラス席)、無休
住所: 22 Orange Grove Rd, Singapore 258350 (24階)
電話: +65 6213 4398
アクセス:MRTオーチャード駅から徒歩15分ほど